とある竜の恋の詩   作:桜寝子

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第11話 自重する気は無い

 そして翌日。美味い朝食を済ませて受付へ。

 すると建物の前に人だかりが出来ているのが見えた。

 

 どうやら掲示されている参加者一覧を眺めているようだ。

 話題になる名前があるのかもしれない。

 

 しかし私としては一覧そのものが気になった。

 

「おいおい、開催は来週だろう? なんだこの数は……昔の半分も居ないじゃないか」

 

「そうなの?」

 

 私が王都に居た頃はもっと参加者が多かったんだけど。開催間近でこれとはな。

 あ、ルークって名前が……アイツ行動早いな。

 

「ん。まぁ30年以上も続けばこうもなるか。いっそもう終わればいいのに」

 

 初回で優勝しといてなんだが、正直私はこの大会に良い印象は無い。

 力を誇示する場を作っておいて、結局私の力を恐れていたからな。

 それとこれとは別の話なのは分かってるんだけど。

 

 

「手厳しいな、お嬢ちゃん。まぁ俺も今日まで参加するつもりが無かった身なんだが」

 

「ん?」

 

 横で聞いていたんだろうおっさんが話し掛けてきた。

 

 初老だが体は鍛えられてるし、魔力もかなりのものだ。

 どう見ても実力者……恐らく相応の立場に居る人間だろう。

 

「その口振りだと今回は出るんだ?」

 

「ああ、唐突だがさっき決めて登録してきた」

 

 どうやらこのおっさんは参加者のようだ。

 今まで参加する気が無かったのに、今更になって……?

 何か目的があるんだろうか。

 

「……あの、どなたですか? エルちゃんの知ってる人?」

 

「知らん。強くて相応の立場に居る人だろうって事だけは分かるが」

 

 残念ながら全く覚えが無い。

 この歳ならもしかしたら昔に会ってるかもしれないが……覚える程の関わりを持った相手が少な過ぎる。

 

「分かるのか……良い目をしてるな。じゃあ自己紹介といこうか。俺はセルフィアス王国、王都アルカルドの騎士団長――レイナード・ヘリングだ」

 

「き、騎士団長っ!? し、失礼しました!」

 

 アリーシャが驚いて畏まる。別に失礼してないと思うけど……?

 しかしなるほどね。このおっさんの参加が話題になって人だかりが出来たんだろう。

 

 騎士――ハンターが街の外、広範囲で戦う役目ならその逆。

 街の中、もしくは極近辺で治安を維持するのが役目だ。

 

 騎士は対人戦闘に長けてるから、団長ともなると優勝候補だろう。

 ルークとやらの参加もあるかもしれないけど、そりゃ話題になるわな。

 

 現に今も直接視線を向けられてる。騎士特有の恰好をしていないのにも関わらず、だ。

 それだけ認知されている人物という事か。

 

「エルヴァーナ・ローグラントだ。ほら、はよ名乗れ」

 

「アリーシャ・マーガレットです……」

 

 畏まったままのアリーシャの背を叩いて促す。

 さて、私の名を聞いて騎士団長はどう反応するかな?

 

「おう、まぁ知ってたんだけどな」

 

 知ってたんかい。

 となると警戒しておくべき……か?

 

 エルヴァンの子なんて分かりやすい情報、騎士団長なら調べるのも簡単だろう。

 そもそも街に入って早々に噂が広がっただろうしな。

 

 知った上で話し掛けてきたって事は、何かしら思惑がある筈。

 どうするか……いいや、直接聞くか。

 

「何の目的で私達に近づいた?」

 

 とりあえず睨みつけてみよう。

 あからさまに警戒されれば対応を変えるだろうし、そこで見極めればいい。

 

「そう警戒するな、ただ見て話したかっただけだ。エルヴァンの子とな」

 

「裏は……無さそうだな」

 

 睨み付けたのに笑顔で返された。

 ふむ、本心で言ってるっぽいな。

 散々人を疑って生きてきたからこそ、裏がある奴は大体分かる。

 

「無い無い。そういうの面倒だしな」

 

 面倒とは言いつつ、やる時は強かにやるんだろう。

 じゃなきゃ団長なんて立場で居られない。

 

 

「それにしても、口調や雰囲気がエルヴァンそのものだ……良く似てるよ」

 

 話したいと言っていた通り、普通に会話を続けてきた。

 

 そりゃあそのものだろうよ。

 子供らしい演技は出来る様になったが、結局素が楽だからな。

 

「まるで友人だった様な口振りだな」

 

「いや? 会話をしたのも数える程度だ」

 

 私の記憶には無いが、やはり知り合い程度には関わりが……

 と思ったが、そんな事は無かった。

 なんでそれで知ってる風に言えるんだ。

 

「大した関わりは無かったが、よく知ってるさ。俺の目標だからな」

 

 その歳でも目標と来たか。……そうか。

 

 このおっさんはアイツらとは違うのかもしれない。

 勝手に目標やら憧れやらと担ぎ上げておいて、勝手に絶望して消えて行った奴らとは……

 

 

 私の力を恐れ化物と呼んだのは奴らが始まりだった。

 アイツは化物だから仕方ない、並べる筈が無い。そうやって諦める理由に使われた。

 

 奴らも決して弱かった訳じゃない。むしろ強い方だった。

 けど……なまじ実力があるからこそ気付けてしまうんだ。

 どうしようもなく大き過ぎる差がある、という事に。

 

 彼はそんな中で、絶望せず未だに……何故……

 

 

「どうした? 急に黙っちまって……」

 

 私が呆けていると、心配そうに覗き込んでくる。

 本当に裏も何も感じない、真っ直ぐな目だ。

 

 この人になら……聞いてみてもいいかもな。

 

「ん……なぁ、アンタにとって……父は……化物だったか?」

 

 とは言え、どう聞けば良いのか分からない。

 悩んだ結果は分かり切った質問だった。

 

「はぁ? チッ……俺をあんな馬鹿共と一緒にするな」

 

 やっぱりそうだ。彼はそんな事思ってもいない。

 呆れた様な、怒った様な声が返ってきた。それどころか、事情を知った上で違うと言い切る。

 

「俺が憧れたのは力だけじゃねぇ。あの人の在り方だ」

 

「在り方?」

 

 きっと私を通してエルヴァンでも見てるんだろう。

 遠い目を私に向けて語る。

 

「とんでもなく重いもん背負わされてよ、周りからとにかく色んな感情向けられてよ。それでも折れず曲がらず、自分を貫いてた。そこに憧れたんだ」

 

 違う。背負ったのは私の意思だ。

 自分に唯一出来る事をただしていたんだ。

 

 全てを失っても戦える力があったから、同じ様に悲しむ人を減らしたかった……違う。

 人の為なんてのは建前で、ただの自己満足の為だった。

 

 まるで復讐を果たすかの様に戦う事で、自分を慰めていただけだ。

 誰かを救う事で達成感と充足感を得ていただけだ。

 

 周りなんて見ようともしなかった。

 弱みなんて見せようともしなかった。

 

 エルヴァンの本質なんて、そんな程度の物だったんだ。

 

 

「とんだ見当違いだ。結局憧れなんて外面しか――」

 

「だろうな。本当はそんな素晴らしい人間じゃなかった……君はやはり知っているんだな?」

 

 結局彼も勝手な理想を押し付けているだけだったのか。

 そう落胆してしまったが、言い切る前に否定……いや肯定されてしまった。

 あれ、これはどっちだ? まぁいいか、そこはどうでもいい。

 

「だろうなって……」

 

 素晴らしい人間じゃなかった、なんて言われて何処か嬉しく感じる自分が面白い。

 それに彼のアッサリした言い方もあって、思わず笑ってしまう。

 

「理想を押し付けるだけで誰も分かろうともしなかった。俺が気付けたのは彼が旅に出てからだ。老いて立場も出来た今なら、多少は理解出来た……と思う」

 

 アリーシャといい、なんで今更になって理解してくれる人が……

 

「彼も彼なりに苦しんでいたんだろうに……それでも英雄として在らんと戦い続け、沢山の人を救ってきた。そんな表も裏も含めて、俺はエルヴァンに憧れ続けてる」

 

 こんな人が当時近くに居てくれたなら……どう変わっていたんだろうか。

 いや、今の私が居なくなるのは困るな。

 

 なんにせよ、今更だろうが純粋に嬉しく思う。

 

 

「なぁ、エルヴァンは今……その……」

 

 語り終えると、次は恐る恐る訊ねてきた。

 そりゃあ気になるよな。

 

 多分、死んでしまったのかと考えているんだろう。

 だからこそ幼い私が親元を離れている、と。実際死んでるんだが。

 

「……知らない。でも、生きてるよ。アンタの様に理解してくれる人と一緒に」

 

 まぁそれはアリーシャ以外に伝えてないし、その必要も無い。

 それにそんな事を彼に言いたくなかった。

 

「そうか……そうか。なら、良かった」

 

 すると彼は感慨を込めた声で、そう言った。

 本当に良い人……なんだろうな。

 

 大丈夫。エルヴァンは今、最高に楽しんでるから。心配するな。

 むしろ子供を放置する悪い印象を与えそうだが……突っ込まれなかったから良いか。

 

「あー……っと、すまんな。初対面で急にこんな話して」

 

「いや、聞けて良かったよ。ありがとう」

 

 謝る事でもないが……当初はそんなつもりも無かったんだろう。

 聞かれて思わず語ってしまった、って感じだな。

 

 私としては聞けて良かったとしか言えない。

 どうせならエルヴァンとして礼を伝えたい所だけどな。

 

「それは何より――やべ、もう戻らないとだ。仕事抜け出して登録に来たのに、受付の方でも長々と話し込んじまってな」

 

 今度はそう言って慌て始める。

 この短時間で人となりが良く分かるおっさんだ。忙しない。

 

 しかしそれで良いのか騎士団長。さぞ慕われてるんだろうなとは思うが。

 というか、そうまでして今登録に来たのは何故なんだ?

 

「んじゃあな。次会えた時は、嬢ちゃん達の話を聞かせてくれや」

 

 そうして手をひらひら振って歩いて行く。

 

 片や旅人、片や騎士団長だ。

 そんな機会があるかは知らんが、あったならそれも悪くないかもな。

 

 

「……語るだけ語って、さっさと帰るのか」

 

 それはともかく、あっさり終わった濃い時間には苦笑が漏れる。

 なかなか奔放なおっさんだ。

 

「はぁ……ああいう人も居たんだな。もしかしたら、私が知らなかっただけで……」

 

 それとは別に溜息も漏れてしまう。

 本当に今更だけど、気付いてしまえば胸中にモヤモヤが渦巻く。

 

 目を逸らして、気付かなかった物がどれだけ……

 

「エルちゃん……」

 

 自己紹介だけしてずっと黙っていたアリーシャがようやく口を開いた。

 私が何を考えたのか察してるんだろうな。心配そうな声だ。

 

「今は何も言うな。分かってる……分かってるから」

 

 深く考えてしまえば、正直平静ではいられないかもしれない。

 私がそう言うと、アリーシャは続く言葉を飲み込んで頷いてくれた。

 

 これが私の弱さなんだろう。

 気付いたのに尚も目を逸らそうとして……

 

 

「そんな事より! 今やるべきは受付だ、行くぞ!」

 

「あ、うん!」

 

 ともかく、ここに来た本来の目的に移るとしよう。

 モヤモヤを振り切る様に、わざと張り切って歩き出す。

 

 結局子供の私がどうやって参加するのか考えてないが……まぁなるようになれ。

 そうしてアリーシャと共に、受付のある建物の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

「たのもー!!」

 

「それはなんか違うと思う……」

 

 なるようになれ、で勢いのまま扉を開き叫ぶ。

 隣からボソッとツッコミが入った。確かにそうか。

 

 すると中の人達から一斉に視線を向けられる。

 おぉう……思ったより人が居た。なんか恥ずかしいな。

 

 

 そもそも受付は臨時に設けているだけで、ここは役所の1つだ。人が多いのは当然だった。

 

 主にハンターへの依頼になるが、ギルドを選ばずとりあえずで依頼したい仕事をここに持ち込む。

 そうして各ギルドへ割り振ったり、暇な奴が仕事を取ろうと直接交渉したりする訳だ。

 それには細かい仕組みがあるが、それは置いておこう。

 

 

 注目されたまま、とりあえず受付の方に歩いて行く。

 ザワザワと聞こえてくる声で、予想通り既に私の噂が知られている事が分かった。

 

「えっと……こちらに用で……?」

 

 受付の女性が困惑している。

 まぁそうなるわな。

 

「ああ、闘技大会に参加したい。随分と廃れてきたみたいだし、私達が盛り上げてやろう」

 

「いや、何様……? 私達の印象悪くなっちゃうじゃん……」

 

 無い胸を張って自信たっぷりに宣言。

 及び腰じゃ何にもならないからな。

 

 あとアリーシャ、今は何も言うな。

 これはさっきとは違う意味だからな。

 

「い、いやー……えー……その、流石にまだ小さな子は……ちょっと……」

 

「何故だ? 別に年齢制限なんて無いじゃないか」

 

「それはその……言うまでも無く、と言うか……」

 

 常識的に考えれば、私の様な幼い子供は断るのが当然。

 しかし若くても才覚とやる気がある奴は参加していたし、珍しくもなかった。

 ちょっと若過ぎるだけだ。年齢という明確な規定を作っていない運営が悪い。

 

「おいおい、本当に廃れちまったみたいだな。あのエルヴァンの子だかなんだか知らねぇが、こんなガキが参加かよ」

 

 すると横からなにやらおっさんが。

 またおっさんか……今度はそこまで強くは見えない。決して弱くは無いだろうけど。

 

 しかし私を知った上でこんな荒い絡み方をしてくるのは新鮮だな。

 

「ふむ。アンタは参加者の1人か?」

 

「あ? だったら何だよ」

 

 良い事を思いついたので、一応の確認として聞いてみる。

 そうか、参加者か。ならコイツを――

 

「エルちゃん? 駄目だからね?」

 

「……そうか」

 

 ――軽くぶっ飛ばせば、参加者の1人より強いんだから良いだろうって言えたんだけどなぁ。

 それはアリーシャ的によろしくないらしい。昨日の様に肩を強めに掴まれた。

 おかしいな。彼女の家にあった本でよく見た展開なんだが……

 

「何言ってんだか分からねぇが、参加したいってんなら力を見せてみろよ。さぞ自信があんだろうな」

 

 なんと。そっちからそう言ってくれるなんて。

 助かるわー、良いおっさんだな。

 

「ほー……そりゃあ良い、望む所だ。なぁ?」

 

 さっきは止められたが、これはおっさんの提案なんだから構わないだろう。

 

 そんな確認も含め、アリーシャを振り返る。

 ……何故頭を抱えているんだ。

 

「どうせ見た目通り、可愛らしい実力で――んなぁっ!?」

 

 おっさんがまだ何か言っていたが、軽く魔力を解放して見せる。

 いつもの事だが、全く本気じゃなくともかなりの重圧になる。根本的に魔力の質が違うからな。

 

「な、なんだその魔力っ……」

 

 おっさんは腰を抜かしている。

 いや、おっさん以外もびっくり仰天中だ。

 

「どうだ、可愛らしいだろう?」

 

 ちょっと楽しくなってきたから煽ってみよう。

 

 結局、こうやって力を誇示して愉悦してきたんだから、私も大概クソ野郎だよな。

 英雄の中身なんてこんなもんなのさ。

 

「クソッ……けどなぁ! 魔力が凄いからって強いとは限らねぇんだ! てめぇに殴られたって俺はビクと――もぉぉおおうっ!?」

 

 言うが早いか腹を殴らせてもらった。

 すまんな。普段はこんな滅茶苦茶なんてやらないんだけど、このおっさんなんか面白いんだ。

 

「ぐほっ……ぉぉああ……ちくしょう、やるじゃねぇか……」

 

 今度は認めるんかい。

 初対面でぶん殴って来る子供とか、普通はブチギレるだろうに。

 

 もしかして私を手伝ってくれてるのか?

 なんて良い奴なんだ。

 

「だがしかぁし! いくら腕っぷしが強くたって、結局は魔法よ! どれだけ魔法を扱えるかが――はいっ分かりました! 降参です!」

 

 長いセリフの間に、最速でおっさんへと雷を飛ばす。勿論当てない様に逸らしてだ。

 私の周囲にもバチバチと派手に散っているが、何1つ傷は付けない。

 

 扱いの難しい雷をこれだけ上手く操ってるんだ。誰が見ても分かるだろうよ。

 

 

「……ふんっ、いいだろう! てめぇはただのガキじゃねぇ、10年連続出場しているこの俺が認めてやろう!」

 

 おい、今更取り繕うな。

 別にアンタが認めようが意味は無いし。

 

 あと、その10年連続ってのも凄いんだかなんだか分からん。

 

「ちなみにその方は10年連続1回戦負けです」

 

 何故か受付から補足が飛んできた。

 そしておっさんはガックリと膝を着く。

 

 そうか……頑張れよ。ほんのちょっぴりだけ応援してやる。

 

 

「なぁ、もういいか? 子供でも戦えるって事は分かっただろう?」

 

 口を挟んできた事だし、受付に向き直って聞いてみる。

 

「ええ、はい。もういいです。登録しますからもう騒がないでください」

 

 あんなに困惑してたのにあっさりだな。一体何があった。

 いや目の前で騒ぎがあったんだが。

 

 うん、これは全てを諦めた顔だ。

 いやまぁ……すまなかった。悪ノリし過ぎたな。

 

「もういいって何……? 別に実力を証明したらとか無かったよね。勝手にやっただけだよね。え、いいの?」

 

 呆れるアリーシャのツッコミを聞き流しながら、ササッと書類に記入をしていく。勿論2人分だ。

 

「ああ、もういいんだ。ほら行こう」

 

 なにやら色々言いたい事があるらしいアリーシャの背を押して扉へ向かう。

 終わった事にグダグダ言うな。認めてくれたんだから良いじゃないか。

 

「結局勢い任せに荒らしただけじゃん!? あーもうっ、やっぱり自重しなかった!」

 

 半分くらいあのおっさんの所為だ。

 それに、出来るだけ安全に面白く……って注文通りじゃないか。な?

 

 ついでに言うなら、これで大会の前に噂が追加されるだろう。

 目的としては良い流れだ。多分。

 

 

 という訳で、アリーシャの叫びを残して役所を後にした。

 ……なるようになったな。

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