さて、時間はドーンと飛ばして……闘技大会の当日だ。
え、早い? だってこの数日間は特別語る事も無かったし。
強いて言うなら、やたらアリーシャが張り切ってたって事くらいか。
なんだか吹っ切れた様な感じだけど、わざわざ聞く事はしてない。
やる気があるならそれでいいだろう。
逆に私は全く気負う事も無く普段通りだが、それでも色々考えてはいる。
せっかくの催しを台無しにする気は無いんでね。
これは勝負であり見せ物でもあるのだから、圧倒的な力で全てを捻じ伏せるのは違う。
どう上手く戦って盛り上げてやろうか……
多分その場の勢いでどうにかする展開にしかならないけど。
今日も今日とて、なるようになーれ。
まぁともかく、初戦が始まったんだが……これは予想外だったな。
まさかのルーク対レイナードだ。
ここでルークが負けると私の目的が1つ果たせない。
レイナードには悪いが、ルークには頑張ってもらいたいものだ。
優勝候補が相手じゃ厳しいかもしれないが。
と、そんな事を考えながらのんびり観戦していた。
が――
「あっさり負けてるぅーっ!?」
ルーク、無惨。私の思惑、霧散。
おい! ちょっと情け無さ過ぎるぞ!?
最早試合になってなかったじゃないか。
圧倒的敗北だ。語り様が無い程に酷い試合だった。
こんな一方的な試合は大会としては歓迎されないのに。
どうした騎士団長。アンタだってそれくらいは分かってるだろう。
「どうだ、思い知ったか偽物め!」
って、アンタも同じ目的かい!?
「とっくに調べはついてんだ、いつまでもくだらねぇ真似してんじゃねぇ! 大体エルヴァンの子がそんな弱ぇ訳があるか!」
いや、特別弱くは無かったと思うぞ……
アンタが強いだけでしょーよ。
多分、同じ目的でも理由は違うだろうな。
私に憧れてくれてるらしいから、子を騙って調子に乗ってるのが我慢ならなかったのかもしれない。
それで丁度良くルークが参加するという話を聞きつけたあの日、思い立ってすぐに登録に来ていた訳だ。
そういえば受付で話し込んでたとも言ってた。受付と言うより運営のお偉いさんの事だったのかもしれないな。
その時にこの組み合わせを仕組んだんだろう。偶然とは思えない。
印象強く残り、且つ他の試合の流れを盛り下げない初戦でやりたかった……とか。
騎士団長って立場なら、何かしら適当な理由を付ければ通るだろう。
「これで誰もが分かっただろうよ! さぁ行くぞ、これで終わりじゃねぇからな! 虚偽は普通に犯罪だ馬鹿野郎!」
あ、引き摺ってった。
虚偽って程に周到じゃなかったが……まぁ自業自得だしどうでもいいか。
はぁ……しかしやられたな。楽しみを横取りされるとは思わなかった。
何してくれとんじゃ、あのおっさん。
*
若干やる気が下がったが、それでも私にはもう1つの目的がある。
その為にもちゃんと戦って勝ち抜けた。無駄に苦労したけどな。
どいつもこいつも、私の見た目で油断しまくりなのだ。
まずは認識を改めさせる所から始まり、それから良い感じに試合を運んで勝つ……という余計な手間が掛かってしまった。
そりゃあ子供相手に一切の油断をしない奴の方が少ない。むしろ居るのかってくらいだ。
けどそれは実力を知らない初見の場合だろう。
何故2回戦以降の奴らまで油断しているのか。
今までの試合で何を見てきたんだ。
参加者が少なくなったどころか、レベルもかなり下がってる様に感じる。
実力の話じゃなく意識的な面ではあるが……これじゃ廃れるのも当然かもしれない。
しかしそんな事は今はどうでもいい。
それくらいの楽しみがやってきた。
これから始まるのは準決勝、相手はレイナード。
少なくともこの場では頭抜けた実力の持ち主。良い戦いが出来そうだ。
それに……八つ当たりしたかった所だしな。
そして驚くべき事に、アリーシャもここまで勝ち進んでいる。
まだまだ眠った力は目覚めていないというのに……正直予想外だ。
とは言えどの試合も辛勝。かなりギリギリの戦いだった。
それでも、つい先程わざわざ私に宣言してきたのだ。
『次も勝ってみせる。そうして決勝でエルちゃんと戦う。全身全霊で挑むから、受け止めて』
今までに見せた事の無い、何処か覚悟を決めた様な顔でそう言い切った。
最初は及び腰だった癖に、一体何があったのやら。
あの様子ならきっと勝つだろう。
なんなら戦いながら成長してるまであるからな。
あぁ……本当に楽しみだ。
「ん? 何を笑ってる?」
おっと、今はレイナードに集中しようか。
試合開始は秒読み……まぁルール上は入場した時点で開始だから、後は私達のタイミングなんだが。まずは挨拶ってね。
「いや、これで八つ当たりが出来るなーって。ルークを見せしめにぶっ飛ばすつもりだったのに、何処かの誰かが横取りしていったからな」
「そりゃ……すまなかったな」
とりあえず文句の1つくらいは言わせてもらおう。横取りされたのは事実だしな。
するとレイナードは苦笑して謝ってきた。
後でルークがどうなったのか聞いて……いや見に行ってみようか。ついでに1発ぶん殴ろう。
「アイツの事、分かってたならさっさと訂正すれば良かったのに」
それはそれとして、手を打たずに今日まで泳がせていた理由はなんなのか。
気になっていたからこれも聞いておこうか。
「彼の故郷と歳、逆算して当時のエルヴァンの足取りを調べてたんだよ。万が一本当だったら大変だからな」
「そこまでするの?」
なんだ、ただ慎重だっただけか。
予想以上にしっかり調べ上げてから動いていたらしい。
そこまでしなくても良さそうなもんだけど……
「確かに、先んじて流れてた噂だってよくよく調べれば小さな女の子の事だった。けどエルヴァンが居ない以上、ある程度の確証が無きゃあな……」
「迷惑掛けるねぇ……」
あぁ……まぁ、結局そこだよな。
なんにしろエルヴァンが居ないから面倒になってしまってる訳だ。
いやー、悪いね。お疲れさん。
「なに、そんなもんはこの試合が吹き飛ばしてくれるだろ。ふふ……アイツをぶっ倒すだけのつもりだったのに、君を見ていたら珍しく滾って勝ち進んじまった」
どうやら彼も戦う事が楽しみらしい。
強い奴ってのはどうしてこうなんだろうな。
いや、逆か。こうだから強くなれる……のかもしれない。
私だって昔から戦う事そのものは好きだったしな。
「全く末恐ろしい子だ……さぞ楽しませてくれるだろうな」
喋りながらもレイナードが剣を構えた。
挨拶は終わりだな。
緩かった空気が一気に張り詰めていくのが分かる。
「誰の子だと思ってる。というかアンタも言ってたじゃないか……エルヴァンの子が弱い訳が無い、ってさ」
合わせて私も剣を構えた事で、張り詰めた空気は観客にまで伝搬する。
勿論お互いの剣は刃の無い物。
なのに今にも切り裂かれそうな程の闘気がぶつかり合う。
彼は昔の私と同じ大振りな剣。憧れているからなのか?
対し私は極一般的なサイズだ。それでもやはり私の体だと大きく感じる。
「それもそうだな――けど俺は子供だからって油断しねぇ……征くぞ」
レイナードの気迫に満ちた低い声が、音の消えた会場で静かに響く。
ああ、こっちこそ……征くぞ。
そして何を合図にする事も無く、お互いに力強く1歩を踏み込んだ。
踏み込みは同時。そのままお互い隙だらけの大振りな1撃を振るう。
瞬間、今日1番の音と衝撃が響いた。
そして鍔迫り合いの形で押し合う。
これは半分以上が様子見だ。相手がどれだけの力で戦えるのかという線引きの為の物。
少なくとも身体強化に関してはこれで判断出来る。
そしてそれに充分耐え得る魔力障壁もだ。
しかし……おい、限りなく本気に近くないか……?
ていうか良い笑顔だなぁっ!?
私の力だって、この場では一応エルヴァンよりは劣る程度のレベルで抑えたいのだ。
実力のアピールとは言え、あまり過剰にする必要も無い。
ここら辺が限度だろう。
もう無理だと言わんばかりに剣を逸らして後退。
ついでに飛び退きながら2回、左右に切り払うが……危なげなく軽く防がれた。
「全く、なんて膂力だ。こんな力をそんな小さい体で使ったら壊れちまうぞ」
「心配ご無用。体は丈夫なんでね!」
使わせといて何を言ってるんだか。
すぐさま切り込み、今度は息をも付かせぬ連続の打ち合いが始まる。
避ける事はせず、さりとて決して当たりはしない。
剣と剣で激しく打ち合い続けるなんて実戦ではまずやらない事だ。
これもまた見せ物としての演出って奴だな。
だけどやってる側も中々楽しいからそれで構わない。
何より、先程の様に押し合うのは不利になりかねないのだ。
膂力だけなら負けはしない。
だけど武器と体格の差が大き過ぎる。
身体強化でも魔力障壁でも、重さまでは変えられない。
重さはそのまま威力に繋がるのだから、力を抑えたままではほんのちょっぴり厳しいだろう。
「ちょっと強めにいくぞっ!」
「っ……わっ!?」
言うが早いか、一際強く私の剣が弾かれた。
その隙を狙う様に更に強烈な横薙ぎが襲い来る。
ただの攻撃じゃない。魔法で剣に暴風を纏った、防いでも吹き飛ばされる様な攻撃だ。
案の定、私は宙を舞った。いきなり私の弱点を突いてきたな。
私の弱点……それは軽い事。
さっき言った様に重さだけはどうしようもない。
軽い故に押され易く、受ける方向を考えて上手く踏ん張らないとならない。
だからこそ足元を崩されたり、浮かせるもしくは吹き飛ばす様な攻撃に弱い。
普通ならば致命的な弱点になり得るだろう。
「っと……びっくりしたじゃないか。というか、スカートが捲れた。とんだ辱めを受けてしまったな」
宙で体を捻り綺麗に着地。
きっちり防いだからダメージは無いが、別のダメージを受けた。
こんな大勢の前でスカートを捲られるとはな。流石にちょっと恥ずかしい。
「そりゃあ悪かっ……いやそんな恰好してる方が悪いだろう! なんで戦いに来てそんな服を着てんだ!?」
怒られてしまった。まぁ当然か。
私の恰好はまるで戦いに向かない、普段着のワンピースだからだ。
特別動きづらいとも感じないから旅でもこの恰好だったりする。ベルトやらポーチは追加されるが。
なにせ私の障壁ならいくらでも護れる上、怪我を気にする体でさえないのだ。
なんなら全裸だって何の問題も無い。ある意味問題だから流石にやらないけど。
「良いじゃないか。可愛いだろ?」
見せつける様にひらひらと揺らす。
髪に合わせて真っ白な、そしてさりげない装飾を取り入れたお洒落な一品。
靴や下着も同様、どれもきっちり拘って作った物だ。
しかも体の一部と認識して作ったお陰で、異常に丈夫な上に再生するオマケ付きだ。
逆にその認識の所為で、しばらく身に纏っていないとマナに還ってしまうが……
それに気付く前は、知らない内に脱いだ服が消えてて首を捻ったものだ。
「少なくとも戦う恰好ではないな」
「まぁそれはそう。でも――」
レイナードは理解出来ないと言わんばかりに眉間に皺を寄せた。
生前の私もそうだが、おっさんには女の子のお洒落を理解するのは難しいだろう。
今の私はもう着飾る事に抵抗は無いし、むしろ楽しんでる。
一時期アリーシャに着せ替え人形にされてたお陰だな。
「可憐に美しく、そして力強く。それが私だ」
とりあえず今はそんな感じで行こう。せっかくの美少女なんだからな。
おっさんだって変わるものなのだ。
さて……くだらない会話を挟んで、向こうも息を整えられた筈だ。
適当に雷を放ちながら駆け出す。今度は魔法戦と行こうか!
先の打ち合いを続けるのは彼にとっては消耗が激しかった。
そもそもが大きな剣だし、歳もあるからな。
だから仕切り直したくて私を吹き飛ばしたんだろう。
「くっ……速いな」
彼もまた駆けて雷を避け、魔法をいくつか放つ。
今度は圧縮した空気を弾にした物だ。
風の魔法は基本的に見えないのが厄介な所で、魔力で察知するしかない。
それでも私はひょいひょいと避けて反撃していく。
私は小さいからな。姿勢を低くして素早く動けば狙いづらいだろうよ。
「私相手に点で攻撃してちゃ、当たる訳無いだろ」
「素早い相手には面で……だろう? 分かってるさ」
おっと、じゃあ何か仕掛けてくるか?
避けた先の地面が爆ぜてるのを見るに、威力重視で牽制してただけか。
いや待て、そこら中に空いた穴……まだ微かに魔力が残ってる?
つむじ風とも言えない程度の風で、砂煙が小さな渦を巻いているのが見える。
つまりまだ魔法を維持している状態。て事はまさか――
「っ! 本命はこっちか!」
私がそれに気付いた瞬間、辺りに竜巻が吹き荒れた。
堪らず足を止めて踏ん張って耐える。
複数の竜巻で囲まれた以上、下手に動けなくなった。厄介な……
着弾地点で魔法を最小限に維持して、後の起点にしたのか。
終わった攻撃にいつまでも意識を向けている暇はまず無い。気付かれづらい手段だ。
流石に扱いが上手いな……ここまで繊細な操作が出来る奴は少ないだろう。
流石に威力を抑えているようだが、こんなの実戦なら大抵の相手が詰みの状態だ。
なんせこのまま周囲の竜巻をより強く、そして囲んだまま狭めれば終わりなのだから。少なくとも、抵抗出来る手段が無い限りは。
「まだまだ! これで終わるとでも!?」
恐らくあえてその手段は取らず、追加で正面から壁の様に巨大な風圧が飛ぶ。
アレを何処に避けても、その先で最も近い竜巻を操作して吹き飛ばされる。
これが彼の切り札の1つなんだろう。
早々に見せてくれるとは、高く買ってくれたものだ。
なら……私も見せてやろうじゃないか。
「いいや、終わりだ!」
周囲の竜巻も、正面の風の壁も、全てを相殺する程の爆風を今度は私が巻き起こす。
私は雷だけじゃなく風も……ついでに水もそこそこの練度で扱えるのだ。
「なっ……はぁっ!?」
急激に凪いで砂煙が舞うだけの会場を見て、レイナードは大きな口を開けて呆けた。
こんなのは魔力に物を言わせたゴリ押し。
繊細さも制御も放棄した、ただの爆発の様な物。
私の風は彼と比べれば数段は劣る。
試合だからと抑えてくれていたから相殺出来ただけだ。
というか驚いて制御まで乱れただけで、気を取り直されたらすぐにまた竜巻が起こるだろう。
手加減してくれてるのを全力で潰したのだから、ある意味反則だな……悪い事をしたかもしれない。
けど――
「呆けてる場合じゃないぞ!」
「おわっ!?」
雷を放つと同時、一気に飛び込んで距離を詰める。
間一髪、雷を切り払って見せたが……既に私は懐に潜り込んだ。
「くっ……やべぇっ」
宣言通り終わりにしようじゃないか。
そのまま掬い上げる様に切り上げる。
大きな剣を振り切った状態で、体格差のある相手に詰められたなら取れる行動は限られる。
そして退くにはもう遅い。
「ぐっ、ぬぅっ!」
予想通り、左腕の籠手で防御された。
魔力障壁がぶつかり合う光が散り、一瞬だけ拮抗する。
その一瞬でお互いに雷と風を放ち吹き飛んだ。
「ふぅ……危ねぇ危ねぇ……」
大きく退がり膝を着き、安堵した様に溜息を吐く。
いいのかな? そんな油断しちゃって……
早く気付いた方が良いんじゃないかな。
「いや、言っただろう……終わりだって。お返しだ」
私は手を空へ向ける。
そこでようやく気付いたらしく、先程剣を防いだ左腕を見て驚愕の表情を浮かべた。
パチリと小さく火花の様な雷が散っている。
ふふっ……少し遅かったな。
「――落ちろ」
そして手を振り下ろす。
意味は無いが、これも演出って奴だ。
瞬間、雷が落ちた。
「がっ……ぐぁぁあああっ!?」
障壁で護ってはいても直撃だ。
数秒耐えはしたものの、崩れる様に倒れた。
「良い戦いが出来た。楽しかったよ、レイナード」
彼が倒れた事で決着が付いたと判断したのか、大きな歓声が上がる。
先の相殺は正直やり過ぎ、反省するべき事だ。
だけど良い感じに実力を示す事が出来たのも事実。
ともかく礼を言うよ、ありがとう。