最後の攻撃は彼の真似だ。
剣を防がれた時、左腕に極僅かな魔力で雷を維持していた。
後はそれを起点に雷を落としてやるだけだ。まぁ落とす必要も無かったが、やはり演出は大事だからな。
隠す様に最小限の魔法を維持するのは私だって出来る。
むしろ相当に上手いと自負している。
彼でさえギリギリまで気づかなかったくらいだからな。自分の腕だというのに。
まぁ、これ程までに精密なのは実戦じゃまず使えないけど。
その間殆ど動けなくなる程に極限の集中が必要になるのだ。というかそこまでするくらいならデカイ一撃をぶっ放した方が早い。少なくとも私の場合は。
「起きてるー?」
「あー……ちくしょう。俺の負けだ」
倒れたレイナードの元へ歩いて行くと、そんな呟きが返ってきた。
うん、ちゃんと威力は抑えたから意識もしっかりしてる。
というかまだまだ戦えるくらいだろうが、あっさり敗北を受け入れてくれたみたいだ。
「散々辱めてくれた罰だよ。思い知ったか」
「不可抗力だ……」
クスクス笑ってやれば、げんなりした顔で体を起こした。
そう。あの竜巻が出てきた辺りから、そりゃもう服が大変な事になっていたのだ。
必死に押さえてはいたが、多くの人に見られていただろう。全く恥ずかしい目に遭った。
流石に理不尽だから責める気は無いけど。
彼も言っていたが、こんな恰好をしている私が悪い。
「さて、とりあえず今は退場すっか」
「ん、そうだね」
そのまま立ち上がり歩き出す。
思った以上にピンピンしてるな、このおっさん。
まぁ確かに、いつまでも居たら邪魔になるからな。
そう同意しながら私も隣に並んだ。
「それにしても、アレを相殺されるとはねぇ……ほんっとに末恐ろしい子だよ」
驚くのも無理は無い。
それくらい適性じゃない属性を戦闘で扱うというのは難しい。威力を高めるなら尚更に。
アレは今の私が制御を放棄してぶっ放した物。
生前使っていた風の魔法はあそこまでの威力は無かった。
本当にやり過ぎたな……熱くなるとこれだ。反省しかない。
「ちょっと申し訳無かったかな。手加減してくれてたのを全力で返した訳だし……」
「いや、構わねぇよ。俺がお前さんの力を読み違えただけだ」
何より気にしてしまうのはそこだったのだが、あっさり許された。
なんとも気持ちの良い男だ。
「そんな事より……良いのか? こんなに目立っちまったら、お前さんはエルヴァンみたいに……」
更に私を心配する言葉まで。全く、本当に。
生前で友になれなかった事が悔やまれる。
「あぁ、大丈夫だよ。私には隣に理解者が居てくれるからね」
けどその心配は無用だ。そもそもの目的が目立つ事だし。
何より、昔と違って理解してくれる人が居る。
だからもう大丈夫だ。
「そうか……良い友人を得たな。大切にしろよ?」
「当たり前だ」
言われずとも。
ようやく得た大切な存在だ、出来る限りの事はするさ。
ただ、ほんの少しだけ不安もある。
今まで知らなかった心地良過ぎる存在だからこそ、依存してしまいそうだ。
何処からがそうなのか、そうならない様にどうすれば良いのか、私には全く分からないんだがな……
*
そこからアリーシャの試合を挟み、多少の休憩の後……ついに決勝戦となる。
彼女の試合はまぁ、やはりギリギリの戦い。辛うじてもぎ取った勝利だった。
トーナメントの運の良さも勿論あるんだろうが……
ハッキリ言おう、まさかここまで必死に食らい付くとは全く思っていなかった。
やる気を下げない様に言わなかったが、過度の注目がされない所で負けると予想したからこそ参加させたのだ。
なのに今や決勝戦。
ここまでの勝利は勿論喜ばしい事だが……この活躍が何を齎すのか、彼女自身は分かっているのだろうか。
結果を出せば当然、良くも悪くも様々な感情と言葉を向けられる。
それがまだまだ若い少女なら尚更に。というか、既に……だ。
当然私もエルヴァンの再来だなんだと騒がれている。娘だし。
私はそれで構わない。だけどアリーシャは……
あぁ、全く。出場させておいて何を考えているんだか……滅茶苦茶だな、私は。
予想外だったから、なんて言い訳は通らない。
出来る限り支えて護らなければな。
「なんにせよ、今はただ楽しもう」
だがしかし、それはそれとして。
これから最高の楽しみが始まるのだ。
ここまで来たらアリーシャの注目は変わらない。
だったらもう、楽しむしかないじゃないか。
高鳴る胸に触れ、喜びと共に入場する。
と、盛大な歓声が沸き起こった。すごくうるさい。
今更だが、よくもまぁこんな子供が活躍してて熱狂出来るな。
廃れてきたと思ったが、観客はそうでもないのか……騒げれば何でも良いのかね。
「随分とボロボロだけど、やれるか?」
向かいから歩いてきたアリーシャの様子を伺う。
ここまで全ての試合で辛勝だったのだから、休憩を挟んでも疲労は相当だろう。
服だって汚れ擦り切れ、戦いの厳しさを物語っている。
「勿論。今私に出せる力全てをぶつけるからね」
だと言うのに、彼女の魔力は燃え滾っている。
なんだかな、見違えたよ。
言わずもがな、実力ならレイナードの方が上だ。経験が違い過ぎる。
それでも先の試合では感じなかった歓喜が身体を駆け巡った。
始めて力を見せてくれた時と同じだ……ゾクゾクする。
「一気に成長したな。今日だけでそれ程の経験が積めたのか……もしくはこの数日で何かあったのか。どっちだ?」
聞いてみるか。一体何が彼女を変えたのか、その理由を。
出場を決めてからの短期間、一緒に居たのにさっぱり分からない。
「どっちもかな。何が何でも、この場でエルちゃんに見せなきゃならないから」
「ほう……?」
見せるとな。それこそ一体何を……
「エルちゃんは言ってたよね。エルヴァンと同じ道を辿るな、って」
「ああ。でも結局どんな道だったとしても私は隣に居る、とも言ったな」
何故今その話を……既にその道の前まで来てしまっている事に気付いたのか?
しかしどうするべきか悩んでいる、って感じでも無い。
「うん、凄く嬉しい言葉だった。だから――」
直前で、もしかして……と思った。
「私は、彼と同じ道を往くよ」
「……そう、か」
だけど思わず目を見開いて驚いてしまう。
それを言い切る事がどれ程の事なのか……
「その上で、その先に往く。エルヴァンが辿り着けなかった道の先へ」
私が……辿り着けなかった……?
なんだ、何を言ってる?
「1人じゃなくて、一緒に行ってくれる人が居るなら。きっと先へ進めるよね」
「道の……先」
そんな事……考えもしなかった。行き止まりだと思った。
これ以上は何も無い、進めない、だから新しい道を探して旅に出た。
自分探しと称して、自分でも分からない何かを探して……そのつもりだった。
「エルちゃんに見せたいんだ。私が一緒に見たいんだ。途切れちゃった道の先にあるモノを」
目の前のアリーシャが眩しくて、私は目を伏せた。
私はただ、歩く事を諦めていただけなのか。
私が探し求めた『何か』は、そこにあるのか……?
「大したモノじゃないかもしれないぞ?」
「かもしれない。でも絶対に意味はある」
直視出来なくて、何故か否定したくて。
意地の悪い言葉を吐いてしまった。
なのに軽く受け止められる。
「……絶望するモノかもしれないぞ」
「かもしれない。でも1人じゃないから、きっと立ち上がれる」
尚も食い下がる様に、くだらない口が勝手に開く。
言えば言う程自分が惨めになりそうだ。
どうしてそんなに眩しく在れるんだ。
それがどんな道なのか、何も知らないからじゃないのか。
違う、彼女は……
「この試合は、私の覚悟の戦い。この道を往くと決めた最初の1歩。だからまずエルちゃんに見せるんだ。見せなきゃ、進めないんだ」
知らないから、知ろうとして、覚悟した。
自分が分岐路に居る事なんてとっくに分かった上で、踏み込むつもりで前を見据えた。
支えるだの護るだの、何様なんだ私は。
嫌な汗が背中を流れる。これは焦りだ。
思わず手を伸ばしたくなる。
待ってくれ。
置いていかないでくれ。
私はただ道を戻って、立ち止まっていただけ。
前を歩いて導いてるつもりだったのに、気付けばアリーシャの方が前に……
「一緒に進もう」
あぁ……そうか。
彼女は全部分かってたんだ。
私が立ち止まっている事も、手を引いてくれる誰かを待ってた事も。
私が自分でも気付けなかった事を。
だから手を差し伸べる為に、私に見せるんだ。自分の覚悟を。
なんて眩しいんだろう。
「誰かさんが途中まで道を作ってくれてるんだからさ。きっとすぐだよ」
「そう……だな」
眩しいけど、温かいな。
まるで太陽みたいだ。
それなら私は、それに見合う月にでもなってやろう。
いや、そうなりたいんだ。彼女に並ぶ存在に。
あぁ……なんだか目が覚めた。
覚悟と夢を突き付けられた。そうだよな……夢は起きて見るもんだ。
私もその夢を見たい。
「なら、見せてくれ。お前の覚悟……全て受け止めよう」
これはもう、見世物の試合じゃない。
私は決闘に臨むかの様に、かつてない程真剣に構えた。
練り上げた魔力が雷として周囲に散る。
アリーシャからの返事は無かった。
代わりに魔力が噴出し、彼女の周囲に焔が立ち昇っていく。
まるで気迫をそのまま表しているかの様だ。
「っ……はぁぁあああっ!」
周囲の焔と共に……いや、剣にまで纏わせて一気に飛び込んで来た。
見たまま、彼女に爆発力があるのは分かっている。
生半可な防御で受けるべきじゃないだろうが、私なら問題無い。
彼女もそれを分かっているからこそ、全力をぶつけると言ってるんだ。
だから避ける選択肢なんて無い。ただ受け止めるだけだ。
焔の剣が振り下ろされた瞬間、まるで爆発したかの様な音と衝撃が響く。
手加減していたレイナードよりも更に……っ。
「くっ……重っ……本当に成長したな。最高だよ」
剣と同時に襲い掛かる爆炎は障壁でやり過ごし、心からの言葉を贈る。
大会用に支給された武器はいくつもあるが、私達は同じ規格の剣だ。それでも重い。
人並み以上の魔力による身体強化の賜物だな。そしてそれでも剣が壊れない様に保護出来る障壁。
更に言うなら、その力を扱うに足る丈夫な肉体……根本的に違うと言うのはこういう事だ。
先の試合同様、今の私はエルヴァンより少し劣る程度の力にしているが……もうちょっと出力を上げてもいいかもしれないな。
もう少し様子を見て――
「まだまだっ!」
「何っ!?」
そんな一瞬の逡巡の間を狙い、更に強く押されバランスを崩された。
勿論、膂力では負けていない。押し合う中で地面を……私の足元を岩で突き上げたのだ。
いつの間にそんな器用な真似が出来る様になったのやら!
どうやら先の私の試合を見てしっかり学んでいるらしい。
流石に姿勢を大きく崩されたらどうしようもない。続く強烈な薙ぎ払いを抵抗無く受けて離れた。
吹き飛ばされてでも距離を取った方がマシだからな。
しかしそれでも油断無く魔法で追撃を飛ばしてきた。
拳大の焔の弾が多数……しかも軌道と着弾をしっかりズラしてくる。
「多いな。狙いも正確だ……っとぉ!?」
あえて避ける事はせず、全てを切り払っていく。
が、予想外の手応えに驚いた。
焔の中に石を隠した弾がいくつかあるみたいだ。
軽い弾と重い弾……触れるまでどっちなのか分からないのが厄介だ。こっちまで少しずつタイミングがズレていく。
このまま受け続けるのは難しいな。
焔が弾け火の粉が舞う中、次を考える。
地属性の魔法を織り交ぜられる様になったのなら、他にも何かしてくるだろう。
ならここは分かりやすく動いてみるか。
思考を終えると同時、私は駆け出した。
さぁどう来る。
「……なるほど、罠か」
私の正面、駆ける先の地面に魔力を感じ取った。
岩を突き出すなりすれば、自分から突っ込む羽目になる位置だ。
それに加え、左右から挟み込む形に大きめの炎弾も飛んで来る。
こうなると足を止めるか、退くか、身動きの取れない空中に跳ぶしかない。
当然追撃も考えているだろうから、悪くない選択だ。
だが残念、それじゃ間に合わないな。
「遅いっ!」
「あっ……嘘!?」
より一層強く踏み込むと同時、風の魔法で後ろから吹き飛ばす様に急加速。
小柄且つ並外れた身体能力の私だ、彼女からすればまるで瞬間移動の様に感じるだろう。
待ち構える場合の弱点はこれだ。
読みを外されると逆に崩されかねない。
発動直前だった魔法を止め、咄嗟に剣を構えるアリーシャへと飛び込む。
またスカートが捲れた気がするが、もう気にしていられるか。
「ぐっ、うぁっ!?」
そのまま剣を振り下ろした。
加速しての突進、全体重を乗せた一撃だ。
いくら私が軽いとは言え、防いでもかなりの衝撃になる。
堪らずアリーシャは転がり、私は彼女を越えて着地した。
本来ならここですぐさま追撃と行きたい所だが……わざと遅らせて雷を放つ。
私は全てを受け止めたいんだ。叩きのめしたい訳じゃない。
すると慌てて更に転がって避け、スムーズに立ち上がり2度3度と雷を避けていく。
へぇ……魔法を避ける訓練は毎回泣きべそかいて無様に転がってたのに。
しっかり避ける様になったじゃないか。
「はぁっ、はぁ……ここだっ!」
しかも避けるだけじゃなく、雷の合間を縫って飛び込んでくる。
けどそれは直線的過ぎるな。対処は簡単に――
「っ!? そう来たか!」
カウンターを狙ったが、まんまとズラされた。
彼女の踏み込んだ地面が小さく爆発していた……先の私がやったのと同じ、急加速をしてきたのだ。
全く、よく学んでるじゃないか!
ひとまず剣で防ぐが、今度も焔を纏っていた所為で1歩退いてしまった。
その一瞬は、彼女が姿勢を整えて追撃するには充分だろう。
「やぁぁあああっ!」
案の定、これでもかと言う程に連撃を叩き込んでくる。
その全てを受けて見せるが、焔の剣というのは侮れない。
同時に襲い来る焔も防ごうとジリジリ後退していく。
オマケに舞い踊る焔が視界を妨げるのだ。どうしても距離を取りたくなる。
実戦だったらどうにでも出来る。
が、私は受け止めると決めたのだ。一撃たりとも漏らして堪るか。
「っ……随分と、荒々しい、じゃないか!」
ひたすらに受け続け、感じた事を返す。
まるで暴れるかの様に、滅茶苦茶に振り回している。
焦りか何か知らないが、少し冷静じゃないな。
これじゃお前の望む戦いにはならないぞ。
「そんなんでっ! 本気で戦えると、思ってるのか!? それともそれが、本気かっ!?」
剣戟を続けながら声を掛けるがまるで反応が無い。苦しそうな表情だ。
全く、このままだとお互いに後悔するだけだろう。
「一旦、落ち着け!」
「ぐっ……ぶへぁ!?」
彼女の剣を大きく弾き、その隙を突いて水流を叩きつける。
久々に戦闘で水の魔法を使ったな……まぁ良い、頭を冷やせ。
「ちょっとは冷静になれたか?」
「はぁ……はぁ……っうん。ごめん、ありがとう」
ずぶ濡れで転がっていたアリーシャが立ち上がる。
かなり息が上がってるみたいだな。
「もう、体力が限界でさ。とにかく出来る限りの事を……って焦っちゃった」
ここまでギリギリの試合を勝ち進んできたんだ。仕方ない。
体力どころか、魔力だってかなり減っている。これじゃまともに戦えないだろう。
だけどそれで妥協したり諦めたりする奴じゃない。
「もう終わりにするか?」
「はぁ……っ……ううん。ここからは……限界を越えてみせる」
一応の確認をしてみれば、やっぱりだ。
限界だから終わるんじゃない。限界だから越える。
本当に、最高だよアリーシャ。
荒い呼吸を繰り返す彼女の周囲に、試合開始の時と同じく焔が吹き荒れる。
今まで以上の魔力で生み出しているのか、熱量が全く違う。
だけどまだ動かない。
ずっと感知していた彼女の魔力が変わっていく。
急激に増加し、まるで別物の様に質が上がっていく。
……そうか。
ついに蓋を開けたのか。
私と鍛錬する中で、少しずつ漏れ出てきていた魔力。
それが全て解き放たれていく。
彼女が秘めていた、人外へ至る力。
エルヴァンと同じ、孤独へ至る力。
でも、そうだよな。
人の枠を超えたって、もう孤独にはならないんだ。
孤独に至る力は、共に歩く力になったんだ。
この道を往く覚悟って言うなら……これ以上に見せる物は無い。
変わっていく。魔力が、焔が。
だけどアリーシャ自身は変わらないんだろうな。
温かいまま、眩しいまま……
ていうか本当に眩しい……焔が光ってる。なんで?
「なんだ……これは」
思わず呆けてしまう。
はは……アリーシャらしいじゃないか。
キラキラと輝く、黄金の焔……だなんて。
あぁ……なんて眩しい。
焦がれる程に熱いのに、何故か優しくて暖かい。
「これが、お前の本当の力か……良いぞ、来いっ!!」
アリーシャが跳ぶ。
あの焔を纏った剣を叩きつける気か。
受けて立とうじゃないか!
大袈裟な程に雷を散らし、身体と剣に纏い構える。
防御としては殆ど意味は無いが……こんな派手な焔を見せられたら、私も派手に行きたくなるってもんだ。
「「っぁぁああああ!!」」
お互いに叫んでぶつかり合う。
最早剣と剣の音とは思えない、ただの爆音が会場を揺らした。
そして同時に弾かれ距離が開くが、やはり同時に踏み出し……
後はただただ轟音を打ち鳴らし続けた。
「……あっ!?」
何十秒と経った頃、遂にアリーシャの剣が砕けた。
跳ね上がった力に、武器の保護が追い付かず耐え切れなかったんだ。
むしろ覚醒直後で慣れない力をなんとか制御する負担だってあるだろう。
これだけやれていた時点で充分過ぎる程だ。
そして私の振るった剣は、彼女の剣を砕いた勢いのまま迫る。
武器を守れなかったのなら……万が一を考えた私は咄嗟に力を緩め、剣の腹で彼女を殴り飛ばす形にした。
「くっ……まだっ……まだ私はっ!!」
良かった……体の障壁はしっかりしていた様だ。
大きく飛ばされても怪我はしていない。
そして武器を失ったからと言って彼女は諦めない。
立ち上がり、何処までも立ち向かう。
いくら限界を超えようと、消耗した体力はどうしようもない筈なのに……
絞り出す様な叫びと共に、巨大な焔が放たれた。
これ程の焔は滅多に見れるもんじゃない。
それに対し私は大量の水を放った。
雷では防げず、風では火を煽る故に悪手。ならば水を……という判断だったが、これは失敗だった。
この程度の水では彼女の煌めく焔には敵わず、一瞬で掻き消された。
水蒸気が爆発する様に広がり、焔が突き抜けてくる。
咄嗟に避けようとするが思い直した。受け止めると決めただろう。
限界を超えた全力をぶつけてくれるのなら、こっちも全力で受け止める。ただそれだけだ。
「ぐぁっ……つぅ……これ程とはっ……」
障壁越しだと言うのに焼けそうだ。
体の前で腕を交差して受けているが、ゴリゴリと削られて行くのが分かる。
今の出力でも耐えられなくは無い。それでも気を抜けばもしかしたら突破されるかもしれないな。
まぁされたとて、私なら大丈夫だ。
しかし、エルヴァンの最期を思い出してしまう。
またしてもこんな焔に包まれるとは。色んな意味で笑えて来る。
「くっ……はぁ……はぁ」
ひとまず耐えたが、これほどの焔を受けて無傷なのは流石に傍から見ておかし過ぎる。
そう考えて障壁を弱め、軽い火傷を負う程度にわざと焼かれた。
予想以上に服が燃えてちょっと危ない恰好になってるが……大丈夫だ。
そして次はどう来るか、とアリーシャを感知してみる。
しかしどうやら、もう立っている事も出来ないようだ。
本当に全てを出し尽くしたのだろう。これ以上は命に係わる。
「全く、無理をする」
膝を着いて呼吸もままならない彼女に近づき、抱きしめる。
そのまま治癒魔法を使い、少しでも回復をしてやる。
傷を癒すと言うよりは、ただ疲労を回復する程度だ。
そもそも試合で相手を回復するなんて良くないが、水蒸気で何も見えないんだから構わないだろう。
「頑張ったな……最高の物を見せて貰った。ありがとう」
「……うん」
今にも眠りに落ちそうな彼女の、微かな返事が聞こえた。
本当に……感謝だけじゃ伝えきれない程の感情が湧いて来る。
そうしてすぐ、彼女は目を閉じた。
お疲れ様……今は休め。
「さて、じゃあ退場といくか」
完全に意識の外だったが、これは一応試合だったな。とりあえず霧を払ってやるか。
知ったこっちゃ無いが、どうやって決着が付いたのか見えなくて観客はさぞ不満だろうな。
風を起こして晴らしてやると、ざわついていた会場がシンと静まる。
そして一拍置いて、歓声が響いた。
「うるさいな……アリーシャが起きるだろうが」
そう言って担ぎ上げ……ようとした。
くっ……重さはどうでもいいが、私の方がずっと小さいから上手く担げん……
どう運ぶか一瞬悩み、結局横抱きにして歩き出した。
所謂お姫様抱っこ……って言ったか。なんだか恥ずかしいな。
うるさい程の歓声の中、ゆっくりと歩きながら私は笑う。
勢い任せで、なんとなくの軽いノリで出場したが……
結果的に最高の結末になったな。