『第35回、闘技大会の優勝は……英雄エルヴァンの娘!?』
大会から一夜明けた朝。号外だ、とそんな見出しの紙を王都中の人々が手に持ち眺める。
既に話は広まっており、今更何を号外なんて言ってるんだというツッコミは誰もしない。
同じ内容だろうと、人伝の話よりも情報として形になった物を欲しがるらしい。
そんな人々の反応を纏めていくなら――
「決勝の2人、可愛くて強いとかヤバイ」
「あのエルヴァンと同じくらい強い、ヤバイ」
「いくら娘だからって、子供なのに強過ぎて異常。ヤバイ」
「むしろ怖い。ヤバイ」
「もし犯罪に走ったら誰が止めるんだ、ヤバイ」
「でも久しぶりに大会も盛り上がったし、どの試合もワクワクした」
「一番可哀想なのって準決勝のもう1人だよな。あの2人と団長と……誰だっけ」
「さぁ? でも3位は団長だったな」
「試合なら覚えてる。あの子のギリギリの勝ち上がりっぷりは興奮した」
「俺はチラチラ見えてたのに興奮した」
「きめぇ」
「なんであんな普段着で戦ってたんだろう。可愛いから良いけど」
「可愛過ぎてファンになった。撫でたい」
「ロリコンきめぇ」
「そういえばエルヴァンの息子って言ってた奴はどうなった?」
「知らね」
という、なんともヤバイ物だらけだった。
一部表現を変えているが、大体そんな感じである。
好感を持つ者が多い中、嫌悪する程に否定的な者もやはり居るらしい。
しかし化物扱いで恐れられるのは当の本人達の予想通りだ。
そして彼女達はもう、それを恐れる事は無いだろう。
ただしエルヴァンは厳つい男だったが、今回は可愛らしい少女達。
その差なのか、現状では思ったよりも少ない。
本人が知ったら大層怒る事だろうが、残念ながら見た目という要素は中々に重大なのである。
なんにせよこの号外で王都中に広まった。
時間が経って他の街にも噂が届いた時どうなるのか……それによって何がどう変わっていくのかは、まだ分からない。
ちなみにその号外の内容はこうだ。
『長い歴史を持つ闘技大会。それが今回、過去に無い程の盛り上がりを見せた。
話題の中心は勿論、優勝に輝いた少女。
僅か11歳という若さ……いや幼さで、圧倒的な実力を示した彼女の名は、エルヴァーナ・ローグラント。
名前の通りあの英雄エルヴァンの娘であると言う。
現状、詳細な事実確認は不可能ではあるが……
かの英雄が消息を絶って同じく11年、共通する身体的特徴、3つの属性を戦闘に応用する魔法適性、並外れた戦闘能力、と最早疑い様が無いだろう。
これは我らが誇るアルカルド騎士団の長を務める、レイナード・ヘリングも認める所である。
そしてその騎士団長も準決勝で彼女に敗れている。それが一体どんな試合だったのか……という話は、ここでは語り切れない。
安全を考慮した手加減必須の試合である事を忘れそうな程に衝撃的な物だった、とだけ記しておく。
しかし更に衝撃的だったのは、もう1人の少女の登場である。
こちらも17歳と同じく若く、やはり類稀なる実力を見せた。
まるで戦いながら成長するかの様に辛勝を重ねて決勝戦へと進んだ彼女の名は、アリーシャ・マーガレット。
その決勝戦は、先の準決勝以上に筆舌に尽くし難い。
残念ながら攻撃の余波により決着の瞬間は見る事が叶わなかったが、それでも試合終了後いつまでも興奮冷めやらぬ歓声が続いた。
印象的だったのは、終盤で見せた煌めく黄金の焔だ。誰に聞いても見た事が無いと口を揃える。
あれが一体どういった物だったのかは、対峙した少女のみぞ知る事だろう。
聞けばこの2人は共に旅をしていると言う。
いくら実力があろうと彼女達だけで旅など、なんとも思い切った事をするものだ。
大会の数日前に王都に来たらしく、仲睦まじく歩いている姿が目撃されていた。
大会終了後急いでこれを書いているのだが、そんな関係からか既に英雄の再来として【白銀の月】【黄金の太陽】などと呼ばれているようだ。
今後彼女達が何処でどんな活躍をしていくのだろうと期待してしまう……が、未だ年若い少女達だ。過度に持ち上げず、配慮を忘れない様にしていきたい所である。
そして、今回を機に大会の再燃が予見される。
騎士団長が3位で、その上に少女達。その結果に対する反応は様々ではあるが、年々勢いを失くしていたとは思えない程に燃え上がっている者達が見受けられる。
言葉は悪いが、子供達に負けていられないと言った所か。
エルヴァンの活躍を機に始まった大会が、エルヴァンの娘の活躍によって復活を遂げるのなら、それは中々に趣のある事ではないだろうか。
それから余談ではあるが、先日から広まっていた英雄の息子の噂は嘘であると騎士団から発表があった。
団長直々に制裁を下した後である為、こちらに関しても過度に騒ぎ立てる必要は無い、との事。』
そしてそんな話題の少女達はと言うと……
アリーシャは極度の疲労で寝込んでおり、エルヴァーナは彼女の様子を見つつ暇を潰していた。
昼前だがとりあえず簡単な食事でも部屋に持っていこう、と出歩いたエルヴァーナは食堂であっという間に囲まれた。
賑わう食堂で話題の少女が現れたのだから、さもありなん。
ただ彼女は慣れた物なのかサラリと受け流していた。エルヴァンの時から嫌と言う程に囲まれてきたからだろう。
特に気にする事も無く、面白そうだなと件の号外とやらも食事と共に貰うくらいだった。
そうして部屋に戻り、それを読み切った彼女の反応がこちら。
「なんっじゃこりゃー!?」
若干顔を赤くして叫んだ。
長いだけで中身は薄く、小っ恥ずかしい呼び名まで付けられているのだ。
自分も同じ様な事を考えていたじゃないか、という事は置いておいて、レベルの低い記事にただ怒った。
なにより、理由がもう1つある。
「写真を載せるのはまだ良い! けどっ……なんでこれなんだ!?」
何枚か試合の写真が載せられているのだが、物が悪かった。
いや、どれも写りは良く迫力もあって中々悪くない。しかしある意味、全く持ってよろしくなかった。
「なんか見えちゃいけない物が写ってるぞ、馬鹿かっ!? 子供だから良いとでも思ってるのか!」
なにやらチラリと見えている。
誰かさんが拘って作ったらしい、可愛らしい物が。
「くっ……大会が終わってからこんな辱めを受けるとはっ……何人に見られてるんだこれ……」
会場で見られ、翌日は写真として広まる。
そりゃあ彼女でも顔を赤くして怒るだろう。
結局、好んで自ら選んだ格好だ。短パンを履くとか色々対策があったのにそれを嫌った。
そうして戦いに臨んだ自分が悪いと分かっているのだが、怒りと羞恥をぶつけたくて仕方ない。
「大体、何が配慮を忘れない様に、だ。言いながら無視してるじゃないか、配慮しろボケ」
それはそう。
「はぁ……まだ色々やる事があるのに。外に出るのが憂鬱だ……」
ただ騒がれるだけならどうでもいいが、その内容で辱められるとなれば話は別だ。
しかし宿に引き籠っていても仕方ない。
ぺっ、と紙切れを放って出かける準備を始める。
優勝したので賞金が貰えるのだ。
まずはそれを受け取り、ついでに記憶から薄れ始めたルークを1発殴りに行く予定である。
「まぁ、賞金でパーっと贅沢して忘れよう」
勿体無く感じるが、どうせ旅では多くを持ち歩けない。
逆にある程度は消費しておかなければならないくらいだ。
何かしらの仕事を請けて路銀を稼ぐ必要が無くなった分、滞在中は遊び呆ける事が出来る。
それはそれで楽しいものだ、と彼女は無理矢理に気分を変えて部屋を出た。