私の用事は終わった、という事で買い物の時間。
既にアリーシャの服の注文を済ませ、今は武器を見ようという流れだ。
何かしら新しく買い替えるってのは、いつだってワクワクするもの。
今回は自分の物じゃないけど、それでも楽しみがある。
「どのお店が良いかな?」
「んー……良い鍛冶屋を知ってるから、まずはそこに行こう」
そこらの店でも良い物は並んでるだろうけど、直接鍛冶屋に頼むのが一番だ。
個人の注文に合わせて作ってくれるから店売りとはまるで違う。
その分の金は掛かるけども、今は賞金があるから問題無い。
「お世話になってた、とか?」
「まぁな。別に仲が良かったとかでは無いけど、何度か仕事を頼んでた。エルヴァンの剣を打ったのも奴だ」
私以上に偏屈で、仕事としてしか人と関わろうとしないおっさんだった。
最後に会ったのはもう20年くらい前になるのか。
生きてりゃもう爺さんだが……未だに仕事を続けてるのかも分からない。
とにかく行ってみるしかないな。
「へぇー……あれ? そういえばエルヴァンの装備ってどうなったの?」
「知らん。跡形も無く消し飛んだんじゃないか?」
今更な質問だな。
確認した訳じゃないけど、死体と一緒に装備は全て燃え尽きた筈だ。
エルヴァンの全力の障壁をぶち抜いて、一瞬で焼き殺した炎だからな。
剣だって融解して形も残らず、今は大地に還っただろう。
というか、分かる様な何かが残ってたならエルヴァン死亡の噂が流れてる。
「えぇ……勿体無い……」
本当にな。渾身の一振りが出来たって託されたんだが……
恨むなら名前も分からんアイツを恨んでくれ。
「ここだ。やってる……みたいだな。音がする」
随分と寂びれた佇まいになってるが、仕事はしてるらしい。
そういえば店の外観なんて気にする奴じゃなかったな。
「おーい、居るー?」
とりあえず中へ入り声を掛ける。
が、反応無し。
まぁこれは予想通りだ。鍛冶屋のお約束だからな。
店番なんてわざわざ立てないし、奥で作業してて聞こえちゃいないんだ。
「客だぞー! おーい!」
だから叫ぶ。呼び鈴かなんか置けば良いのに。
「ハイハイ、今行きますよー!」
そうして出てきたのは30代くらいの男。
彼に息子なんて居なかったし、弟子か?
「……って、君達が客? いや、今朝写真で見たな……揃ってお越しとは光栄です」
まぁ子供が居たら疑問だろうな。
すぐ誰なのか気付いたみたいだが。
しかし写真を見たのか……あの写真を……クソ、忘れろ。
「剣が欲しい。私達2人分な」
まぁそんな事はどうでもいい、仕事の依頼だ。
彼がどれ程の腕かは分からないが……あの偏屈な男が弟子にしたのなら期待外れにはならないだろう。
「あれ、エルちゃんも?」
「ああ。そろそろちゃんとした物を持とうかと思ってね」
実は私は今まで剣なんて持っていなかった。
旅だって精々ナイフがあれば良い。
最早武器さえ必要が無いと言えばそうなんだが、どうにもしっくりくる物が無かったのだ。
元々が大振りな剣を使っていた上、体は小さくなったのに力は昔以上に出せる状況だ。
色々試しはしたが、どれもこれも合わなかった。
「ふむ……どういった物がお望みで? 形状は勿論、素材から厳選して注文出来ますよ」
「えー……どうしよう。エルちゃん、オススメとかある?」
男はそう言って、大まかな形状と素材の一覧を載せた紙を置いた。
それをアリーシャと覗き込み考える。いや考えてるの私だけだな。
なに一瞬で放棄してるんだお前。
「自分で考えろ。自分の剣だぞ」
「うぅ……だって分かんない……」
突き放したらしょんぼりした。
でもまぁ、分からない物をいくら考えても仕方ないと言えばそうだな。
アリーシャに合った剣……うーん……?
「師匠だったら人を見ただけで、その人に合った物を作るんですけどね……僕はまだまだ……」
そうだな……彼はそうだった。
私の時も、お前はこれだ、と勝手に決めていた。
結果的にそれがピッタリ合ってたんだから驚きだ。
職人の中でも特に優れた奴ってのは、一体どんな目をしてるんだか不思議でならない。
「あ、ドラゴンの牙なんてのも素材なんだ」
「ええ。ドラゴンに限らず、魔法生物の素材を混ぜて武器にすると中々面白いんですよ」
言われてちゃんと自分で考え始めたのか、一覧を見て首を傾げていたアリーシャが呟く。
それを聞いて男は説明を始めた。彼女が何も知らないと判断して助けてくれてるらしい。
「持ち主の魔力に馴染んでいくんです。すると一般的な武器よりも扱いやすく感じる上、纏う障壁も若干質が上がりますね。まぁ、それが最強とまでは言えないんですけど……」
「はぇ~……」
好んで選ぶ奴が居るくらいには実用的だが、高く付く癖に大した差は無い。
なにせ素材にした魔法生物によって、出来上がる武器の強さも変わってしまうから――
「あ……そうか。その手があったか!」
「わっ!? え、何?」
思い至った瞬間、つい大声を出してしまった。
全く、何故気付かなかったのか。
「なぁ、ここは素材の持ち込みも良かったよな?」
「え? ええ、勿論。何かお持ちで?」
「ちょっと時間をくれ、急いで持ってくる」
「え、ちょ……何処行くの!?」
「アリーシャはここで待ってろ」
驚くアリーシャも、ポカンとする男も置き去りにして私は歩き出した。
そして店を出るや否や、全速力で駆け出す。途中からは跳んだ。
人を避け、屋根を飛び越え、大急ぎで街の外へ向かう。
外壁なんて知った事か。
私の本気の速度なら、警備の隙を突いて越える事は造作も無い。
街を出てもしばらく走り続ける。
そろそろ良いかと止まれば、広範囲で魔力を感知し誰も居ない事を確認。
そうして私は変身、本来の姿へと戻る。
更に一切の躊躇いも無く、爪と牙を根本から砕き折った。
どうやってかって? 頑張ってだ。
ふむ……今思い付いたけど、金に困ったら体を売って稼いでも良いかもしれないな。
あっちの意味じゃなくて、文字通りの意味で。
いつも着ている服なんかは、体の一部と認識して変身した仮の物。
だから着ていなければそのうち消えてしまう。
しかしこれは本当の意味で体の一部だ。切り離しても消える事は無い。
生物の頂点であるドラゴンより更に格上の、生物の枠を超えた存在である私の爪と牙。
果たして加工が出来るのかという懸念はあるが……これで武器を作れたなら、それ即ち最強の武器となり得るだろう。
そう考えると気軽に流通させられないな。
体を売るのはやっぱり無しで。
「うぉらー! ただいま!」
ズバーンと扉を開けて戻ってきた。
ビクーンとアリーシャが跳ねたのが見えた。
流石に全速力で往復ってのは疲れるな。
結局30分は掛かったか……距離を考えたら常識外の早さだけど、待たせたのは変わらない。
「どんな戻り方……」
アリーシャが批難の目で見てくる。驚かせてすまんな。
急いでたから、その勢いのまま入ってきてしまった。
しかし私が持っている物を見て今度は目を丸くした。
何も言うなよ? 話がややこしくなるから。
「待たせたな。これを使ってくれ」
「こ……これはっ!?」
そして男へ爪と牙を差し出す。
ふふふっ……これ程の物は見た事が無いだろう。驚け驚け。
「これは……なんだ……?」
おい。
「――エルヴァンの娘子よ。随分ととんでもない物を持ってきたな……これは高く付くぞ」
無駄にボケてくれた男に突っ込んでやろうかと思ったが、もう1人の声で止められた。
奥からのそのそと爺さんが歩いて来る。
「あんたは……オックス、か?」
「そうとも。父親から聞いていたか? まぁ、だからここに来たんだろうが……」
一応確認はしてみれば、やはり本人。
あぁ……アンタも変わったな。
片や老いて、片や子供になっている。
別に大して仲良くしてた訳じゃないのに、何故か寂しさを感じた。
「こんな物、俺でも見た事が無い。何処でどうやって手に入れたのかは聞かんが……父親に似て厄介な物を持ち込みおって」
彼にはこれが普通の素材じゃないと分かるようだ。流石の経験だな。
しかし、そんな厄介と思われる事したか?
というかアンタもアンタで楽しんでただろう。
「ウード、こいつはお前にはまだ早い。俺がやろう」
「は、はい。言われずとも、僕の手に負えないって事くらいは分かります」
老いて尚現役……けど、それでも世代が変わろうとしている。
それだけの時間が経ったんだな……
さっき感じた寂しさはこれか。
置いていかれる様な感覚……いや、違うか。
むしろ私が遠くに行った様なものだな。
「ふん……何処までもそっくりだ。まるで本人だな」
オックスがじっと見つめてきたと思ったら、中々に鋭い事を呟いた。
やはり彼の目は不思議だ。本当に、一体何が見えてるんだろうな。
けど、この目は好きだった。
団長やルークの様に、私を理解しようとする目じゃない。
英雄とか肩書なんてどうでもよくて、なんなら大した興味さえ無くて、ただ一個人を見る目だ。
お互い人付き合いが壊滅的に苦手だったけど、そうじゃなければ友人になれたのかもしれない。
「お前達にピッタリの剣をくれてやる。時間は掛かるが、待てるな?」
そしてアリーシャもその目で見つめ、やはり何かを見抜いた。
その証拠に、私達に合わせた剣を作ると宣言している。
前言撤回だ。アンタは変わってない。
いつまでも職人のままだ。
「勿論。宿を教えておいた方が良いか? 完成したら連絡とか……」
「要らん。そうだな……10日後にまた来い」
昔依頼した時の事を考えると10日は長い……いや2本分ならそんなもんか。
むしろ訳分からん素材を使う事を考えたら早いくらいか?
ともかく突貫の大仕事なのは間違いないだろう。。
うん……厄介な物持ち込んですみませんねぇ……
まぁ、加工出来ないと突き返されるよりはよっぽどマシだ。
むしろ完成が楽しみで、不満なんて感じる訳が無い。
エルヴァンが信頼した腕を、今度は私達に振るってくれる。
時の流れは寂しい物だが、なんとも面白い物でもあるな。