とある竜の恋の詩   作:桜寝子

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第19話 お待ちかね

 結局、時間が経っても考えは纏まらなかった。

 当然アリーシャに話すべきなんだけど、まずは自分の中でしっかり纏めないとまともに話せる気がしない。

 こんなの無駄に混乱させるだけだ。

 

 そもそも奴の言っていた事が全て真実だとも決まっていない。

 しかし嘘を付く必要があるのかと言うと、それも無さそうなのが困る。

 

 どっちにしろ、全く信用ならない上に何をしでかすかも分からない危険な奴ってのは確かだろう。

 

 

 そして、そんな事は関係無しに時間は進むものだ。

 明日はついに剣の受け取りになる。こんな気分じゃ、せっかくの楽しみが台無しだ。

 だから一旦、奴の事は置いておこう。

 早々に奴が動いたとしても対応は出来る。最低限アリーシャから離れなければ大丈夫だろう。

 

 そう考えてその日は早々に眠りに付いた。色々疲れたよ……

 

 しかし、剣を受け取るのが楽しみ過ぎてさっさと寝る、という風に見えたらしくアリーシャに笑われた。

 うん、もうそういう事にしておこう。

 

 やっぱりまだ話さなくて良かった。普段通りでいてくれるから癒される。

 

 

 

 

 

 そして翌日、オックスの爺さんを訊ねて鍛冶屋へ。

 

「来たぞー、出来てるかー?」

 

 中に入るなり声を張って呼び掛ける。

 とりあえず支払い用に持ってきた金貨の山はその辺にポイ。

 

「ふん……こっちにある。確認しろ」

 

 すると待っていたのか、オックスはすぐに顔を出した。

 そして私達を一瞥すると、そのまま奥へと歩いて行く。

 

 勿論それに続いて私達も歩く。

 さてさて……どんな剣かな。

 

 

「これだ。抜いてみろ」

 

 抜けと言いながら、2本の内短い方を私に。長い方をアリーシャへ渡す。

 受け取って柄を握った瞬間、思った。

 

 これはヤバイ。

 

 吸い付く様だ。まるで体の一部の様に感じる。

 いや、そういえば本当に身体の一部だったわ。

 

「「う……わぁ……」」

 

 そして同時に抜いた。感嘆の声も同時だった。

 

 私の剣は片刃。若干の湾曲があり、一般的な剣と同等のサイズ。

 つまり私の体格には少し大きいが、恐らく体の成長を見越したのだろう。

 ちゃんと考えてくれたのはありがたいけど……私の成長は遅いから、多分あまり意味は無い。残念。

 

 私の牙を混ぜて作られた真っ白に輝く剣身は、まるでそのまま削り出したかの様だ。

 全体的に簡素なデザインに見えるが、よく見てみれば装飾も入っているし綺麗に纏まっている。

 

 対しアリーシャの剣は両刃。真っ直ぐ伸びた剣身は鈍い黄金。こっちは爪だな。

 長さは今まで使っていたのとほぼ同じだろうが、一回り細くなった。

 流石に派手だと考えたのか、黄金に輝くのは剣身だけだ。

 

 

 どっちも一目見ただけで、とんでもない剣だと分かってしまう様な逸品。業物。

 全く、惚れ惚れするな。最高だ。

 

 しかし私達に合わせた剣とは言っていたけど、イメージまで合わせたのか。偶然かもしれないが。

 そのまま髪の色でもあるし、それ自体は全然良いんだけど……あの小っ恥ずかしい二つ名を思い出してしまう。ムズムズするなぁ、もう。

 

 

「どうだ、アリーシャ。感想は?」

 

「すごい」

 

 隣へと声を掛けてみれば、たった一言呆けた声が返ってきた。

 そこそこ良い程度の剣から、いきなりこんなとんでもない剣に変わればそうもなるか。

 なんなら凄さが分かるだけマシってくらいだ。

 

 後は使用感だけど……それは追々だな。

 というか、振るまでもなく良いと分かる。

 

「はっ……子供らしい顔も出来るじゃないか」

 

 オックスが私を見てそんな事を呟いた。

 え、どんな顔してたんだ私。

 

 そう思ってペタリと顔に触れるが分からない。

 いやまぁ、笑ってたんだろうけどな。仕方ないじゃん。

 

「説明する事は特に無い。そう簡単には壊れんだろうから、好きに使え」

 

 さいですか。

 まぁ精々が魔力に馴染んで使いやすくなるぞって事くらいか。

 それは既に聞いてるしな。

 

 というか多分私には関係無い。だってこれ私自身だし。

 

「さて、じゃあ金額だが……」

 

 早いな。もうちょっと浸らせてくれても良いのに。

 一応、ルークに50万投げただけで手付かずにしてある賞金700万コールをそのまま持ってきた。

 これだけあればまず足りないなんて事は――

 

「合計で800万コールだ」

 

「「ふぁっ!?」」

 

 足りねぇ!? そんな馬鹿な!?

 賞金は取っとけとか言ってたじゃん! 賞金以上じゃん!

 確かに以下とは言ってないけど!

 

「え、ちょっ、えっ? そんなに……?」

 

 そんな大金になるなら先に参考価格くらいさぁ……

 どうしよう。一応残りの金を出せば足りるけど、そうすると路銀が……

 また稼げば良い話ではあるけど、出来れば早急に出発したいんだ。

 

「そんなに、だ。この訳の分からん素材の加工がどれ程大変だったか。殆どの道具が壊れた」

 

 えぇ……?

 私の爪と牙、硬過ぎ……?

 

「とんでもない労力と、無駄に壊れた道具の補填。その分は請求させてもらう」

 

「うぅ……仕方ない。それだけの価値があるって事だ、払おう」

 

「ほへぇ……」

 

 アリーシャが呆けたまま帰って来ない。魂抜けてるか?

 でも分かるぞ。あれだけ必死に働いたんだもんな。

 その分まで一気に減るとなるとショックではある。

 

 追加であと1日、何かして稼ごう。

 何かしらの討伐依頼とかをサクッとやったらなんとかなるかもしれない。

 

 

「くくっ……冗談だ。流石に旅人相手にそこまで払わせない」

 

「え、冗談?」

 

 アリーシャはひとまず置いといて、私が覚悟を決めた所でオックスが笑った。

 おい。冗談なんて言う奴だったのかお前?

 分かりづらいんだよ。

 

「労力と道具の分は請求する。しかし見た事も無い素材を加工させてもらった事と、それで最高傑作を更新出来た事。そうして楽しませてもらった分を引いて600万コールだ」

 

 おぉ……結局最初の予想通りの金額になった。

 ありがたい。

 

「いいんですか? 200万コールも引いちゃって……」

 

 あ、アリーシャが帰ってきた。

 嬉しいけど申し訳無い、って思ってるのが顔に出てるな。

 

 大丈夫だよ、コイツはそういう奴だから。

 何よりも自分が満足出来る一振りを鍛え上げる。それが一番の目的で、販売はついでとか言う奴だ。

 勿論それに見合った価格を付けるからこそ、滅茶苦茶高い武器ばかりなんだけど。

 

「構わん。この歳でこんな剣を二振りも贈れたんだ、良い幕引きになった。礼を言いたいくらいだ」

 

「え、もう引退?」

 

「ああ。精々あと数年で終わりだ。まだまだやれるつもりではあるが、今の内に託していかなきゃならん」

 

 幕引きなんて言うから驚いてしまった。

 本当に、それだけの時間が経ったんだな……

 

 私はエルヴァンとして、誰かに何かを託せたんだろうか。

 ある意味アリーシャに託したと言えなくもない……か?

 

「そうか……こんな凄い剣を打てる人が引退ってのは、なんだか寂しいな」

 

「時代も職人も変わるもんだ。そんな事はいいから、さっさと600万置いてけ」

 

 なんにせよ寂しい話だ。もう世話になる事も無いんだろう。

 せっかくだからもう少し話を、と思ったけど打ち切られた。

 

 あのさ、もうちょっとこう会話しようとか無いのか?

 アンタの性格は変わらないな。

 

「はいはい……」

 

 苦笑しながら、お金を用意する為に店の入口へ戻る。

 そうして賞金から100万抜いて、600万コールを残した袋をそのまま机にドン。

 

 

「――よし、丁度だな」

 

 相変わらず世間話さえ無く、淡々と確認して終わり。

 

「さて、用が済んだらさっさと帰れ。俺は休む。この10日間、とんでもない大仕事だったんでな」

 

 客を追い出すどころか、嫌味を言うってどうなんだ……?

 本当に変わらないジジイだな。

 

 ていうか本当に丸々10日掛かったのか。そりゃまぁ……お疲れ。

 

 

「分かったよ……あ、そうだ」

 

 言われるがまま店を出ようとしたが、大切な事を忘れていた。

 これだけは言っておかないとな。

 

「エルヴァンから伝言だ。アンタの剣は役目を終えた。長く助けてくれた最高の剣だった。ありがとう」

 

「……ふん」

 

 本気で申し訳無く思う。あれほどの剣を失ったのは惜しい。

 だけど伝えるのは礼だけで良いだろう。

 

 言葉は返ってこず、ただ鼻を鳴らしただけだった。

 けど私には見えた。

 

「あと、私達からも。ありがとう。コイツも本当に最高の剣だ」

 

 ついでで言うべき軽い言葉ではないけど、これも言わないとな。

 本当にありがとう。

 

「当然だ。精々大事にする事だな」

 

「それこそ、当然」

 

 やっぱり余計な言葉が返ってきた。

 でもやっぱり、その口元は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 ひとまず受け取った剣を置きに宿へと戻ってきた。

 別に持ち歩いても良いんだけど、推奨はされてないからな。

 必要が無いなら武器を持ち歩くな、というのが何処も暗黙の了解になっている。

 

 まぁ武器を引っ提げて歩いている奴がそこら中に居たら嫌だろう。

 犯罪者を咎めるのも難しくなるし、喧嘩なんかで武器を使い出すし、人が多ければ単純に邪魔で危ない。

 

 それに厳密に取り締まるまではせずとも、騎士個人の裁量次第で取り調べは可能だ。

 そんなのはお互いに余計な手間になる。

 

 だから一旦戻る必要があったし、ついでに昨日の件をアリーシャに話すつもりだ。

 一晩経てば私も落ち着いて考えられたからな。

 

「うへへ……」

 

 うん。剣を眺めてる場合じゃないんだけど……もうちょっと堪能させてくれ。

 今ここにはアリーシャしか居ない。つまりさっきより顔を緩ませても気にしなくていいのだ。

 

 あぁ……本当に素晴らしい剣だな……

 

「……恍惚としてる」

 

 呆れと言うか困惑に近いツッコミを頂いた。

 逆になんでお前は普段通りなんだ。充分使い慣れた頃ならともかく、手に入れた直後だぞ。

 そんな黄金に輝く剣を持っていて、どうして眺めないでいられるんだ。

 

 って、そうじゃない。気分を切り替えなければ。

 いつまでもうっとりしてたって駄目なのは分かってる。

 

 

「コホンッ……さて、じゃあちょっと話したい事があるから聞いてくれ。真面目な話だ」

 

「温度差」

 

 咳払いをして、キリッと真剣な顔に変えて向き直った。

 真面目な話と言っただろう、もうツッコミは要らないぞ。

 

 という事で、昨日の奴に関する話を伝える。

 

 

 唐突に現れた私の同類。とにかく意味不明で、何をしてくるか読めない危険な奴。

 どうやらこの国の王家、もしくはそれに近い所に潜んでいるらしい。それは建国当時からかもしれない。

 

 何故か私達を敵視しているっぽいが、同時に見ていたくもあり、手を出すのを我慢している。

 それでも気分で襲ってきそうな程に不安定。

 

 曰く、さっさと国を出て行け。国に執着があって離れる気が無いのか、他国までは手が届かないらしい。

 遥か昔の御伽噺の勇者かもしれない。私を殺したドラゴンはその魔王。

 

 羅列するならこんな感じか。

 

 

 

「――私が居ない間に、そんな事があったんだね」

 

 これはあくまで私なりに纏めた事。

 結局の所は推測が多いけど、それでもこれで情報の共有は出来ただろう。

 ともかく急な出発に納得してもらわなければ。

 

「あぁ。今日これから準備を済ませれば、明日には出発出来る。それで良いか?」

 

「うん、流石にエルちゃんが本気で警戒する程の人じゃ仕方ないよ」

 

 若干の申し訳無さがあったけど、アリーシャは快諾してくれた。

 良かった、それならこのまま話を進めよう。

 

 

「よし。じゃあ今後の予定だけど、隣のウィンダム王国へ渡ろうと思う。元から次の目的地はクローゼ港だったから船を変えるだけで良い」

 

 本来は王都の更に北へ向かう筈だった。

 陸路が大きな山脈で阻まれている為、東の港から海に出てグルリと迂回するという予定だったのだ。

 

 あそこは相当な準備が必要になる険しい山で、整備も進んでいないから敵も多い。

 アリーシャの実力じゃ越えるのはかなり厳しいと考えていたからな。

 一気に成長した今の彼女なら多分大丈夫かもしれないけど。

 

「うんうん。私はそれで全然構わないよ。何か特別な準備って必要?」

 

「いや、無いかな。半日もあれば海を渡れるし、ウィンダムはこっちと環境は大して変わらないから」

 

 港までは街道を進むだけだし、本当に大した準備は要らない。

 船旅と言う程の距離でも無いし、食料だって買える。

 

「りょーかい。じゃあ最低限の買い出しで大丈夫なんだね」

 

「そういう事だ」

 

 行こうと思えばすぐにでも出発出来る。

 万が一何かが起きたとしても逃げられたからこそ、奴の事を一旦忘れてしまえたのだ。

 剣が楽しみだっただけじゃないんだからな。

 

 

 

 

 

 明日出発すると宿に伝え、そのまま買い出しに。

 そして、それが終わっても時間が余ったので騎士団本部に来てみた。

 

「だーんーちょー!」

 

 そして叫んだ。

 すると何時ぞやの様にゾロゾロと騎士が出てくる。

 なんか面白いなこれ。

 

 そしてやっぱり中へ通され、レイナードが迎えてくれた。

 

「普通に訪ねろ……」

 

 ただし今度は苦笑ではなく、頭を抱えていた。

 いやぁ、悪いね。

 

 前回同様、彼は仕事中だったらしい。

 ここに居てくれるだけ良かった。何処かに出ていたら会えず仕舞いで出発していただろう。

 

 

「全く……で、急にどうした?」

 

「挨拶しておこうかと思って。明日出発するんだ」

 

 とりあえず理由の説明を。

 あれだけの試合をした仲だし、時間があるなら挨拶くらいはな。

 

「なんだ、そうだったのか。残念だな、お前達とはゆっくり話したかったんだが……」

 

「それはまぁ……またいつか機会があったらね」

 

 社交辞令とかじゃなく、本当にそうしたくて言ってたんだな。

 私も彼を気に入ってるし、そんな機会があるなら全然構わないんだけど……

 

 いつこの国に戻って来れるのかも分からないのが残念だ。

 まぁもしその時が来たなら、それまでの旅の話も交えて楽しめるだろう。

 

「次は何処に行くんだ?」

 

「ウィンダムに渡ろうと思ってる」

 

「ほう、良いじゃないか。確かに近いもんな。楽しんでこいよ」

 

 ――と、そんな当たり障りのない会話を少しだけして、私達は本部を後にした。

 向こうは仕事中だからな。ただの挨拶で時間を取らせるのも悪いだろう。

 

 

 そして会話をしていてふと思った。

 彼はあの男――恐らくエリウスだろうあのクソ野郎を知っているのか?

 どちらにせよ治安維持という点で見れば、あんな危険な奴については警告しておくべきなのでは?

 

 しかし思っただけで、伝える事はしなかった。

 やはり余計な混乱を招くだけで終わるだろうからな。

 そもそも対処出来る相手じゃないし。

 

 なにより、私個人としては敵だけど国としては守護者の様な物……という可能性がある。

 なんせ推測通りなら、奴が居た事で結果的に今の長い平和があるって事になるんだ。

 下手に騒ぎ立てるのは良くないかもしれない。

 全く持って厄介な奴だ。

 

 

 しかし……本部を出る時になんか見覚えのある赤い頭が見えたんだけど……

 アイツは一体何をしているんだ……?

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、そうして1日が終わり翌日。出発の朝。

 何故か宿の人達に見送られ、王都の東門へ。

 

 さてさて、私達の馬は何処だ?

 来た時に馬を預けたのは南門だったから、先んじてこの東門に移動してもらっている。

 

 門から門への移動だって、個人が勝手に街中を走らせていい訳じゃないのだ。

 同じ門から出るか、もしくはこうして移動してもらう必要がある。

 

 

「お、居た居た。よし、さっさと荷物を載せようか」

 

「うん」

 

 揃って馬に荷物を載せ始めるが……なんか随分増えたな。

 何をそんなに買ったんだっけ。覚えが無い。

 

「アリーシャ、私の荷物が増えてるぞ」

 

「えー知らなーい」

 

 こっそり何を増やしたんだ。

 元が最低限過ぎる荷物だったから増えた所で問題は無いけども。

 載せてようやく気付いた私が間抜けだったな。

 

 

「まぁいい、行こうか」

 

「うんっ」

 

 増えた荷物はとりあえず後にしよう。出発だ。

 と、王都を背に私達は揃って駆け出した。

 

 そこまで長期間じゃなかったんだけど、流石王都ってくらいに色々あったな。

 でも街だけじゃない。山も森も海も、行けば何かがある。

 それが旅だ。

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