とある竜の恋の詩   作:桜寝子

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第24話 海戦

 エルちゃんが海に飛び込んでしばらくすると、船に魔物が乗り込んできた。

 船を動かして群れから離れた方が良いんじゃないかとも思ったけど……素人ですらない私が考える事じゃないか。

 

 乗り込んできたのは殆どがサハギン……魚と蜥蜴が混ざった様な、二腕二脚の魔物。

 大きな船に乗り込んでくるとなると、種類は限られるもんね。

 

 船での戦いが初めての私に出来る事は甲板で戦うだけ。お客さんの護衛とかは任せよう。

 ていうか船は護衛の人を雇ったりしてないのかな……商隊の護衛とかは当たり前に居るけど。

 

 まぁいいや、とにかく出来る事を精一杯やろう。

 

「てぇい!」

 

 とりあえず近場の魔物へ駆け出し斬り裂く。

 船の揺れもあって、踏み込む感覚が若干違う。これはすぐに慣れるものじゃないかな……

 動きづらいからってついつい魔法を放ちたくなっちゃうけど……魔法は出来るだけ使わず、武器で戦え。

 忠告された通り、船を護る事を考えなきゃ。

 

「おらぁ!」

 

 ルーク……さん? 呼び捨てでいいかな、ルークも気合充分に斬り込んだ。

 試合の時と違って二刀流なんだな。珍しい……って程じゃないけど多くはない。

 もしかしたら状況に合わせて切り替えてるのかも。

 結局どれくらい強い人なのか分かんないけど、信頼して良さそうかな。

 

 船員さん達もちょっと小振りな剣を抜いて戦い始めた。

 意外って言ったら申し訳ないけど……普通に強い。

 

「あっ、後ろ! って……」

 

 船の縁で戦っていた船員のおじさんの背後から、気持ち悪い触手がいくつも迫っていた。

 それに気付いて声を上げたけど、なんてこと無く全て切り捨ててしまった。

 今後ろ見てなかった様な……本当に強い。

 

「そう不覚は取らねぇよ。こちとら危険な海を渡る船乗りだぜ?」

 

 そのまま触手の本体を処理して、ニヤリと笑うおじさん。

 そうか……彼らはハンターと同じなんだ。それも海上専門と言っていい程の。

 戦えなきゃ務まらない。だからわざわざ護衛も雇わないんだ。

 

「坊主、グリンデローの触手は1本2本斬ったってどうしようもねぇ。根本……本体を斬れ!」

 

「お、おう!」

 

 離れた所ではルークが別の船員さんに助言を貰っていた。

 グリンデロー……さっきの気持ち悪い触手の魔物か。海の魔物だから私も見るのは初めてだ、ちゃんと聞いて学んでおこう。

 

 ソイツも少しずつ数が増えてきて、マストにも纏わりついてる。さっさと始末しちゃおう。

 まず伸びて来る触手を落としながら近づいて、聞いた通り本体を深く斬り付ける。

 げっ、マストに傷が……ごめんなさい……

 

 でも申し訳ないけど、今そこに気を回していられない。

 すぐに他の敵に向かわなきゃ。

 

 

 

 しばらく戦い続けたけど……船の揺れってこんなに厄介だったんだな。

 何度か姿勢を崩されてしまった。もっと強い敵が居たら危なかった。

 

 なにより、大きな船でも戦うとなると結構狭いんだと実感した。

 この甲板だけでも10人近い。それが固まって動いてちゃ、全方位から囲まれるだけ。

 多少の距離を取って、息を合わせて各個撃破する。それは分かるけど、魔法を使わずに武器だけでとなると中々大変だ。

 私はこの新しい剣のお陰で随分マシなんだろうけど。

 

 思わず炎を飛ばそうとした瞬間がこの短時間で何回あったか。

 遠慮なくぶっ放せたら楽なのに……

 でも船を傷付けるどころか、味方を巻き込んだら最悪なんてもんじゃない。

 

 私の炎は結構な威力になる、と流石に理解してる。

 もし本気だったら色々終わりだ。

 

 まぁあの本気の金色の炎は……なんか使えなくなってるから大丈夫だけど。

 エルちゃん曰く、まだ目覚めただけ。私自身の感覚としても、また全力を絞り出すくらいじゃないと無理そうだ。

 そこから少しずつ慣れていかなきゃ駄目だそうで。なんにせよ時間が掛かるだろうな。

 

 

 まぁそれはともかく。

 敵はもう増えてない……むしろ片付くくらいだ。

 思ったより少なかったかも。

 

「しっ、これで終わりだ!」

 

 ルークが斬り飛ばした最後の敵が私の方に転がってきた。

 て、まだ生きてるじゃん!

 

「トドメ! ――あっ」

 

 思わず剣を突き立て……やっちゃった。

 甲板に思いっきり刺さった。

 

「あーあ、やってくれたな」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 近くに居た船員さんに笑われた。怒られなかっただけマシか。

 

「わりぃ、浅かったみたいだ」

 

 ルークが剣の血を振り落としながら苦笑い。

 全くもう、最後だからって気を抜いたんじゃないの……?

 それは私か……

 

「ふぬっ」

 

 ズコッと引き抜く。剣が凄いからか、思った以上に深く突き刺さってた。

 あちゃー……

 

「気をつけろよ。船の被害はまぁ、仕方ない事もあるが……刺さった剣を抜く間に敵に迫られたら面倒だぞ」

 

「こういう船とかだと、倒れた奴も床に当たらない程度の深さで斬る方が良い。それはそれで揺れもあって難しいけどな」

 

 他の船員さんからも助言を頂いた。反省だ……

 でもそうか、だから彼らの剣は少し小振りなのかもしれない。

 お互いの邪魔にならない様に、船に当たらない様に。

 

「ありがとうございます……色々学べました」

 

 私も剣を綺麗にして収め、礼を言う。

 障壁をしっかり使えるなら血を払うのも一瞬だ。拭うまでも無い。

 

 さて、綺麗にするのは甲板も同じ。これから戦いの後始末だ。

 船の被害の確認もあるだろうし、まだまだやる事はある。

 

「あのドラゴンは早々に飛んで行ったから良いが、まだまだ警戒を緩めるなよ」

 

「船内の方は何の問題も無い。こっちはどうだ」

 

 あちこちで指示が飛び交ってる。邪魔になるかもしれないし、勝手に動かない方が良さそうだ。

 

 それにしても、ドラゴンはすぐに離れてたのか。

 やっぱり普段から船に乗り続けてる人達は視野が広い。

 私なんて船の外に意識を向けるのも難しかったのに。

 

「しっかし……アイツは無事なんだろうな」

 

 ルークが心配そうに遠い目で海を眺める。

 まぁ普通は心配するよね。私は色々知ってるから呑気でいられるけど。

 

「大丈夫だよ。エルちゃんはそう簡単に――」

 

 そう私が口を開いた瞬間。

 物凄い揺れが船を襲った。

 

「ぉおわああ!?」

 

「なっ何!?」

 

 ルークは転がり、私はギリギリで耐えた。

 船員さん達も其々掴まってる。

 放り出された人は居ない……良し。

 

「落ち着け! 多分あの子が何か派手にやったんだろう。船への襲撃自体は止まってるんだ、俺達は俺達の仕事をしろ!」

 

 そんな中でも船員さん達は動き出した。

 エルちゃんじゃないと思うけどなぁ……流石に船に影響が出る事はしない筈。

 じゃあなんだって話だけど。

 

 ともかく襲撃が途切れてるのは事実。

 警戒は怠らず、被害状況の確認と後始末が始まった。

 

 

 だけどそれも束の間、今度は爆発音が響いた。

 船からは遠いけど……揃ってそっちを見ると黒いドラゴン。

 

「おい、戻ってきてるじゃないか! マズイぞ!?」

 

 誰が見てもヤバいドラゴンが戻ってきた。

 それはもう皆が騒ぎ出すのも当たり前。

 

 ていうかさっきの揺れってもしかして……

 

「離れてはいるが……というかあんな所で何やってんだ、アイツ」

 

「さぁな。こっちに来ないだけマシだろう」

 

「船はいつでも動けるが……どうする、もう動き出すか?」

 

「いつ襲われるかも分からないし、さっさと引き返したいところだがな……」

 

 船員さん達は不安そうに話し合ってる。

 あんなのが見える範囲に居たら逃げるのは当然だ。

 だけどエルちゃんの事を考えて、逃げるか待つかを決めかねてるらしい。

 

 子供を海に置き去りにして逃げるなんてしたくないんだろう。

 それでも危険が見えてる以上、すぐに判断しなきゃならない。

 

「エルちゃんなら大丈夫ですから、まずは逃げるべきだと思います。あんなのに船が襲われたら……」

 

「しかし……」

 

 彼女だったら、間違い無く構わず逃げろと言うだろう。

 代わりに私が伝えるけど、彼らはまだ揺らいでる。

 それだけ良い人達なんだろうな。

 

「冗談だろ、もしかしたらアイツが襲われてるのかもしれないのに――」

 

 ルークも酷く心配そうに会話に混ざり……言葉が途切れた。

 

 ドラゴン『達』が空へ飛びあがったからだ。

 エルちゃんも変身したらしい。彼の言う通り、本当に襲われてたんだ。

 

「なっ……ドラゴンが増えたぞ!」

 

「一体何処から!?」

 

「まさかアイツらがやりあってたから群れが……!」

 

 当然と言うか、皆は驚愕。大騒ぎ。

 流石にドラゴン2匹が近くで暴れ始めたなら、もう逃げるしかない。

 彼らがどれだけエルちゃんを置き去りにしたくなくても、そうしなきゃ終わってしまう。

 

「急げ! 巻き込まれない内に引き返すんだ!」

 

 それは考えるまでもなく分かったんだろう。苦渋の決断で皆が動き始めた。

 表情からして、エルちゃんの犠牲を覚悟してるのかもしれない。

 なんなら、既に巻き込まれた後だと考えてるかも。

 

 正直、私もこれには心配してしまう。

 だって空の戦いはとんでもない事になってるから。

 

 

 巨大な黒いドラゴンと、それに比べれば小さな白いドラゴン。

 それらが物凄い速度で飛び回り、膨大過ぎる魔力がぶつかり合う。

 

 赤黒い炎が吹き荒れ、青白い雷が奔る。規模がおかしい……あんな魔法は人の域じゃ無理だ。

 お互い避けた攻撃が海を穿ち、海面が爆発する様に弾ける。

 魔法を放ちながら飛び、爪や牙で襲い掛かった。お互いが切り裂かれ、尾を叩き付けて大きく吹き飛ぶ。

 

 速度はエルちゃんが勝ってるようだけど、体格差の所為か若干力負けしてるっぽい。

 

 組み合う様に落ち、海を抉って舞い戻る。

 恐ろしい咆哮が何度も響いた。エルちゃんでもあんな風にドラゴンらしく叫ぶ事があるのか。

 

 炎と同じ様な赤黒い雷も奔った。あのドラゴン、火と雷に優れてるらしい。どっちも桁外れだ。

 エルちゃんはそれに対し、風と水をも操ってさながら嵐そのもの。

 

 もう戦いの余波で海も大荒れだ。強風と土砂降り。私達も嵐に直撃したみたいになってる。

 というかもう自然現象にまでなってる様な……いつの間にか真っ黒な雲が空を覆っていた。

 

 

 巻き込まれない様に逃げる、なんて遅かった。

 こんなの天変地異と言われても納得してしまう。

 私達はもう、海に放り出されない様にしがみ付いてるだけだった。

 

 なんとか少しずつ離れてはいるけど、荒れた海の所為で思う様に動けてないみたいだ。

 

「なんなんだアイツら!? あんなの見た事無いぞ!」

 

「どっちもそこらのドラゴンじゃねぇ! とんでもなくヤベェのが出てきやがった!」

 

 正体を知らなければ恐ろしいなんてものじゃないだろう。

 むしろ知ってる私からしても恐ろしい。本当に、戦いの次元が違う。

 あんなの街の1つや2つは簡単に滅ぼすだろう。

 

 そりゃあ化物だなんて自嘲する訳だ。

 だけど私だけは……そんな事思っちゃダメだ。どれだけ恐ろしくても、拒絶だけはしない。

 

 というかあのエルちゃんが本気で戦ってるんだ。

 純粋に心配しかない。綺麗だった白い身体があちこち赤く染まってる。

 

 

「こっちに来たぞ!!」

 

 そのエルちゃんが船の方へ大きく吹き飛ばされてきた。

 しかも巨大な赤黒い炎まで追撃として飛んでくる。

 あまりにも恐ろしい炎だ。絶望そのものの様に感じた。

 

 そんな炎を、エルちゃんは無理矢理に体制を変えて受けた。

 業火が爆発……その衝撃と熱風、音は凄まじい。船が大きく揺れた。

 

 避ける事も出来た筈なのに、あえて受ける。それはきっと、私達を護る為だ。

 避けたら船に直撃、私達は死んでいただろうから。

 もしかしたら、そうさせる為に最初から船を狙った攻撃だったのかもしれない。

 

 私達は思わず悲鳴を上げて死を覚悟したけれど……受けた彼女も悲鳴を上げた。

 ドラゴンの絶叫だ。揺れる船がビリビリと震えた様に感じた。

 

 堪らず墜落しかけた彼女は、なんとか持ち直して加速。雄叫びを上げて空に戻っていった。

 その飛び出す勢いだけでまたしても船が大きく揺れる程だった。

 

「俺達を護ったのか……!?」

 

「一体どういう……何が起きてるんだ!?」

 

 恐怖と絶望、混乱。訳の分からない状態でも、あえて炎を受けたという事は理解出来たらしい。

 ただしそのお陰で余計に何がなんだか分からなくなってるみたいだけど。

 

 

 エルちゃんと奴の戦いは続いてる。

 黒い翼が轟雷に貫かれ、巨体が叩き落される。だけどエルちゃんも炎に巻かれて落ちていった。

 

 荒れる海に水柱が2つ。

 間を置いて海が弾け、2人は飛び上がっていく。

 この短時間でもう傷が消えてるのか……

 

 舞う様に飛び、何度も食い付き、切り裂き、吠える。

 そんな戦いを眺めながら、私達は少しずつ離れていった。

 

 きっと大丈夫という思いはあるけど……それでもやっぱり心配だ。

 どうか無事で戻ってきて……

 

 

 

 

 

 

 

 出来得る限りの全速力で船を動かし、港に辿り着いた。

 ここまで誰1人として無駄口を叩く事は無かった。

 

 だけど誰もが悲痛な表情をしていた。

 なにせ子供を1人、天変地異の如く荒れる海に置き去りにしてきたのだから。

 皆の為に危険な中に飛び込んでくれた女の子を。

 

「クソッ……ちくしょう!」

 

 隣でルークが泣きそうになりながら船を殴り付けている。

 船員さん達も揃って似た様なものだった。

 

 私は大丈夫だと信じてるけど……こんな皆を見ていると揺らいでしまう。

 本当に……早く戻ってきてエルちゃん――

 

 

「あー……酷い目に遭った……」

 

 なんか隣に居た。

 

 いつの間に……全然気付かなかった。ていうかびっくりした。

 傷はもう無いけど、物凄く疲れてる。なんなら顔が死んでる。

 ビッショリ濡れて裸足で、なんか幽霊みたいになってるな……

 

「うぉおお!? お、お前……無事だったか!」

 

 更に隣のルークが叫ぶ。

 釣られて船員さん達も気付いて喜び出した。

 

 うん、まぁ……びっくりしたけど安心した。良かった……

 

「騒ぐな騒ぐな……本当に疲れたんだ……」

 

 当の本人は鬱陶しがってる。

 そりゃあんな戦いしてきたんだからね……疲れたなんてもんじゃないだろう。

 

 皆は謝罪から始まり、後はとにかく労って喜ぶばかりだ。

 純粋に心配されて、無事を喜んでくれてるのが分かってるんだろう。

 鬱陶しそうにしても邪険にはしてない。

 

「ていうかなんで、何時から船に!? めっちゃ心配したんだぞ!」

 

「必死に船にへばり付いてたんだよ、もういいだろ……寝たい」

 

 とりあえずそれっぽい事を言って誤魔化すだけにするようだ。

 実際は飛んできたか、途中から泳いできたんだろうな。

 それはそれで大変だ……本当にお疲れ様だよ。

 

 寝たいという言葉通り、エルちゃんはぐったりしてる。

 言いながら剣を差し出してきた。はいはい、仕舞っとけって事ね。

 

「アリーシャ……私はもう限界だ。荷物と一緒に私も運んでくれ」

 

 むしろ剣どころか全部任せるつもりだった。

 まぁいいか。こんなに弱った彼女を見るのも初めてだし。

 

 もう座り込んでしまった彼女を抱き上げる。

 げっ、ノーパンだ……気を付けて運ばないと。

 

 全くもう、何時になったら……いや元々脱いでたんだから穿いてたらおかしいか。

 なによりそんな事に気が回らないくらいヘトヘトなんだろう。

 ていうか軽……ちっちゃ。あんな戦いをしてたドラゴンだなんてとても思えないや。

 

 あぁいや、感傷に浸るのは後にしよう。

 皆には申し訳ないけど、諸々の作業は任せて私達は宿に行かせてもらおうかな。

 

 

 そう伝えて、私達は荷物を取りに戻る。勿論、不満を言う人は居なかった。

 むしろ快く見送られながら船を降りて歩き出す。

 

 戦いがどうなったのかとか、色々聞きたい事はあるけど全部後回しだ。

 こないだとは逆で今度はエルちゃんがダウン。しっかり看病してあげなきゃ!

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