とある竜の恋の詩   作:桜寝子

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第3話 成り行き任せ、それも人生

「ちょっとぉー! いつまで寝てんですか!? もう昼なんですけ……どぉおええ!?」

 

 気持ち良く眠ってたら叫び声で目が覚めた。安眠妨害だ。

 

「なんだ……うるさいな……」

 

「うるさいじゃなくて! なんで裸なんですか!?」

 

「いや……服着てシーツまで被るのがなんか邪魔で……」

 

 朝までは普通に寝てたんだけどね……服もシーツもなんだか邪魔に感じて脱いでしまった。

 すっかりドラゴンの感覚が染みついちゃってるみたいだ。

 

「だからって人のベッドに裸で寝ます? て、そういう常識も通用しないのか……」

 

「一応常識はあるよ……ごめん」

 

 頭を抱える彼女を見て自分の行動のおかしさに気づいた。

 初対面の奴が自分のベッドを裸で占領してたら嫌だよな……

 自由気ままに生きるって言っても、ちょっと好き放題が過ぎた。反省しよう。

 

「本当ですか? 信じますよ?」

 

「ん、大丈夫だ。今後は気を付ける」

 

 とりあえずいつまでもベッドに居ても悪いから降りようかね。

 

「既に隠さず歩いてますけど? はぁ……これどうぞ」

 

「服か。ありが……え、こんなの穿くの……」

 

 そうしてアリーシャに近づくと溜息と共に服を渡された。

 勿論下着もあるんだけど……こんな可愛らしい物を穿く事になるとは。

 すっごい微妙な気分だ。

 

「見た目に合わせました。とりあえずで何着か揃えただけなので、後は好みで買ってください」

 

「むぅ……まぁいいか」

 

 態々買って貰って文句も言えないし、突き返す事も出来ない。

 そう思って大人しく受け取る事にした。

 言語化出来ない複雑な感情が湧いてくるが、多分すぐ慣れるだろう。 

 

 受け取るままさっさと着替えようと、まずはパンツを穿くが……

 

「……窮屈」

 

「そういうもんです。我慢してください」

 

 やっぱりすぐには慣れないかもしれない。

 

 

 

 

 

 その後……とりあえず身だしなみを整えて、改めて向き直る。

 

「どうだ? これで何処から見てもただの美少女だろう?」

 

 用意されたのは、袖やスカート部分が軽く広がったワンピース。

 ちょっと丈が短い気がするけど、装飾も控えめな普通の子供服だ。

 

「見た目だけは。10歳って設定にしては雰囲気とか喋り方がちょっと気になりますけど……」

 

「んー……善処しよう」

 

 おっさんだった俺じゃなく、少女になった私。

 そういう意識はちゃんと持っておこう。

 喋り方はともかく、雰囲気は難しいかもしれないが。

 

「というか、エルヴァンの娘なんて勝手に言って良かったんですか?」

 

 アリーシャは今更ながら、私が使った言い訳について言及した。

 これでも有名な英雄様だ。勝手に娘を名乗るなんて普通に考えて良くないからな。

 ただまぁ、そこは本人故にどうでもいい。周囲が納得してくれればそれで良いのさ。

 

「私は明確な事は何も言ってないぞ。肯定も否定もしてないしな」

 

「えぇー……狡いなぁ……」

 

「冗談だよ。まぁ大丈夫、アイツとは知らない仲じゃないから」

 

 本人だとは明かしたくないから、とりあえずはそういう設定で行こう。

 男だった私が彼女と生活を……という事に思う所はあるが、気軽に明かせる内容じゃないしな。

 

「それはともかく、これからどうしようか?」

 

 ひとまずこの話は切り上げよう。

 今重要なのはこの先何をするかだ。

 

「知らないですよ。考えてなかったんですか?」

 

「とりあえず人に紛れて生きたかっただけだしな」

 

 考えてなかったと言うか、ここまで駆け足過ぎただけだ。多分私は悪くない。

 まさかこんなに簡単に保護されるとは思わなかったんだよ。

 

 どうしたいのか、っていうのも具体的な事は自分でも分からない。

 人に紛れるという根本的な目的だけは伝えておくが……我ながら曖昧過ぎる。

 

「えっと……寂しかったんですか?」

 

「んなっ!? ぅぐ……まぁ……」

 

 私の何処から何を察したのか知らんが、やたらと優しい声色で突き刺さしてきた。

 

 孤独だから寂しかった、楽しくなかった。

 確かにその通りだけど、ハッキリ言われると物凄く恥ずかしい。

 

「そっか。じゃあ街にずっと居たい?」

 

「いや、一つ所に長く留まるのは避けたいかな。どうしたって私は人間とは違うから」

 

 保護してもらっておいて申し訳無さはあるが、やはり長く居るべきではないだろう。精々1年程で違う街に移るつもりだ。

 まだ確証は無いが、この姿が人間と同じ様に成長するとは思えないしな。

 それが早いのか遅いのかはともかく、怪しまれるのは面倒だ。

 

「じゃあ……私と旅に出ない?」

 

 長くは居ない、と答える私へアリーシャが予想外の言葉を返してきた。

 

「旅?」

 

「昔から考えてたんだ。だから実力を付ける為にハンターとして鍛えてもらってたの」

 

 若いのに随分な目標があったんだな。

 旅なんて気軽に決意出来る様な物じゃないのに……お馬鹿だけど少し見直した。

 果たしてそれだけの実力が身に付いているのかはかなり不安だが。

 

 というか、出会ったばかりの私を誘う意味が分からん。

 信頼どころか碌に私の事を知らんだろうに。

 

「へぇ……悪くないね。乗った」

 

 しかし私はその誘いを快諾した。

 少なくとも彼女に裏は無い……というか、好意的な感情で言ってる事だけは分かる。

 

 なによりそれは私にとっても意義がある。結局生前の旅では何も見つけられなかったからな……

 

 改めてやり直す……それも誰かと一緒に。

 生前の旅とは全く違う物になるだろう。

 

 問題は彼女の実力もそうだが、やはりお互いの信頼を築けるかどうかだな。これが一番重要だろう。

 ずっと独りだった私に上手くやれるのだろうか……

 

「ていうか急に敬語が外れたな?」

 

 しかし誘いはともかく、昨日からちぐはぐな距離感なのが気になる。

 姿を変えたから混乱してるのかもしれないけど。

 

「あー……その、恥ずかしそうに顔赤くしてたのが子供らしくて……なんか」

 

「なるほど。まぁ、そのままで良いよ。私を身近に感じてくれるのは……正直、嬉しい」

 

 明確な言葉には出来ないみたいだけど、言わんとしてる事は伝わった。

 

 なのでこっちもボソボソと気持ちを伝えてやる。

 たった今、信頼を築くだのなんだのと考えていた所だしな……

 

 全く……他人に心を開こうとするなんて、一体何十年振りだろうか。

 

「やっぱり普通に可愛いかも」

 

 何故か頭を撫でようとしてきたからサラリと払いのける。

 子供だけど子供扱いはしないでくれ。この姿には困ったもんだな。

 

「見た目のお陰でそう思うだけだ。あんまり言うな、恥ずかしい」

 

 だけど……生前なら絶対に身近になんて感じてもらえなかった。

 それに、全く違う存在になったからこそ曝け出せる物もあるだろう。

 現にこんなにも簡単に心を開いてみようとしているんだから。

 

 そう考えるとこの姿もそんなに悪い物じゃない……かもしれない。

 

 

「こほんっ……じゃあ、とりあえず旅に出るのは決まりだ。いつになる?」

 

 ただまぁ、慣れないからとにかく恥ずかしい。

 誤魔化す様に1つ咳払いをして話を戻した。

 

「え、いや……思わず誘っちゃっただけで、具体的な予定はまだまだ……」

 

 すると彼女は苦笑いをしながら答えた。

 裏が無いどころか、特に深く考えずに言っただけだったのか……

 

 しかし具体的な予定が無いというのも当然か。まだ見習いを卒業したばかりと言ってたもんな。

 ちゃんと実力不足を自覚してるだけ上等だろう。してると思いたい。

 

「ふむ……じゃあ1年だ。それまでに充分な力を付けろ。私も手を貸してやる」

 

 正直私が居れば旅なんてどうにでもなるけど、せっかくだしガッツリ鍛えてやるか。

 期間は元々考えていた1年でいいだろう。見習いを卒業したなら、基礎は出来てる筈だしな。

 

「たったそれだけ!? 流石に無理があるような……」

 

「いや、お前の伸びしろは凄いぞ。経験が浅いからまだ分かってないだけだよ」

 

 そんな突貫の提案に彼女は驚きたじろいだ。

 普通ならまず無理だから当然の反応だ。しかし彼女なら1年でも充分育つと見てる。

 

 ドラゴンに生まれ変わったからか、私はより明確に魔力を感じ取れる様になった。

 昨日出会った時にも薄っすらと感じたが、今はもうハッキリ分かる。彼女の秘めた魔力はかなりの物だ。

 

 これは人間に察せられる様な物でもないから、分からないのも仕方の無い話だが。

 なんにせよこれは伸びしろどころの話じゃない。才能と言うよりももっと……

 

「色々と学ばなきゃならないけど、叩き込めば一気に伸びる筈だ」

 

「な、ならお願いしますっ!」

 

 なんだか滅茶苦茶凄いらしいドラゴン、と思ってる相手にここまで言われたら納得出来たのだろう。

 理解出来たかは知らんが……やる気があるなら良い。

 

 という訳で、今後の予定は決まった。

 

 

 

 しかし不思議だ。

 出逢ってまだ1日。たったそれだけなのに、何故か彼女に惹かれる。

 面白い奴だとは思うけど……人としての魅力じゃなく、もっと根本的な物だ。

 こんなのは感じた事が無い。

 

 あの秘められた力……きっと彼女は、生前の私と同じ……

 なら私みたいにならないよう、見てあげるのも良いかもしれないな。

 

 孤独じゃなければきっと……

 

 

 

 

 

 

 今更説明されたが、どうやらアリーシャは朝から説教の続きを聞かされて今帰ってきたらしい。ご苦労な事だ。

 そんな話をしながら、ひとまずは一緒に食事だ。

 

 周囲のマナだけで生きられる様になった私に食事は必要無い。

 だけど人の姿をしてる時くらいは、出来るだけ人らしく生きようと思う。

 ぶっちゃけ食料を無駄にしてる様なもんだが……許せ。せめて美味しく頂いてやる。

 

 ていうか普通に美味い。まともな食事も久々だな……

 生まれ変わってからは色々と試しに食ってみた程度だ。

 旅をしていた時だって、街に寄らなければ極簡単な料理しか食ってない。

 

 食事ってのはこんなに温かい物だっただろうか。

 誰かと食べるという事さえ何時ぶりなのか……

 

 ともあれ。肉体の糧にはならんが、心の糧になるなら充分意味はあるだろう。

 一応、量は控えめにしておくがな。

 

 

 

 そうしてのんびりと食事を終えた私達は、もう一度団長と話をする為にギルドへ向かった。

 

 彼も彼なりに考えがあって私を保護したのは間違い無い。

 じゃなきゃあんなにあっさり話が進むものか。

 

 だからこそ明確な意思表示をしておくべきだろう。

 

 

「――という訳で、私達は1年後に旅立つけど……良いかな?」

 

「むぅ……まさかこうなるとは」

 

 掻い摘んで事情を伝えると、団長は渋い顔で受け入れてくれた。

 

「私を囲い込めなくて残念だったね」

 

「流石にバレてたか。上手くいかないもんだ」

 

 彼が私の保護を即決した理由は単純。

 今と言わず、将来的な戦力として置いておきたかったんだろう。いくら強くても子供だしな。

 英雄の子としての価値も見出したのかもしれないが……

 

 だからこそ私が気を許してそうなアリーシャの下で暮らさせた。

 ちゃんとした生活を提供し、街に居つかせようとしたって所か。

 

 けど、まぁ……

 

「失敗だったな。旅に出たがってるアリーシャに私を任せるなんて」

 

 預けた彼女自身が街を離れようとしてたなんてな。

 鍛えてもらう為にハンターになったと言っていたから、事情は彼も知っていそうなもんだが。

 

「いや……本気で言ってたなんて思わなかった。ずっと先の曖昧な目標なのかと……」

 

「曖昧ではあるけど本気ですよ!?」

 

 どっちだよ。本気ならハッキリさせとけ。

 団長の選択ミスじゃなくてそもそも認識がズレてたのか。

 

「それにしては旅に関する事を学んでない様子だったが……?」

 

「そ、それは……その……仕事だけで精一杯だったというか……ゆっくりやっていこうかなって……」

 

 彼はアリーシャへ呆れた目を向けた。

 しどろもどろになった彼女はなにやらモゴモゴと答える。

 あぁ、本当に曖昧だったんだな……思ったより道は険しそうだ。

 

 まぁいい、やってやろうじゃないか。

 

「ならその辺りも私が叩き込もう」

 

 これは厳しくしてやらなきゃな。

 元より優しく鍛えるなんて器用な真似が出来る自覚も無いが。

 

「お前は本当に子供なのか? いくら実力があろうと10歳でそんな……」

 

「気にするな」

 

 疑念を抱くのも仕方ないが、そこはもう突っ込みを許さない。

 悪いけど話は終わりだ。

 

 

 

 

 その後は真っすぐ家まで戻ってきた。

 彼女は今日も休日にされたらしいけど、何か予定はあるんだろうか。

 むしろ謹慎なんじゃないか? どうでもいいけど。

 

「よし、買い物行こうか!」

 

 リビングのソファに寝転がってまったりしていると、アリーシャがそう言ってこっちを見てきた。

 なんだ、謹慎じゃなさそうだ。

 ていうかなんでそれを帰り道で言わないんだ。そもそも何を買うんだ?

 

「え、まだ他に買う物ある?」

 

「いや、ベッド……」

 

 服やらの最低限の生活用品は買ってくれたじゃないか、と訊ねると困った様に返された。

 あー……ベッドね。確かに忘れてた。

 確かに有れば嬉しいが……それはもう大丈夫だ。

 

「なんだ、じゃあいいよ。もう占領しないし、このソファで寝るから」

 

 多分アリーシャは昨日ここで寝たんだろう。

 これからは逆になればいい。小さい私には充分な大きさだ。

 

「でも――」

 

「いいって。何処で寝たって私は問題無い」

 

 それならなんで昨日はベッドを占領したんだと言われそうだ。

 あれは仕方ないんだ……久々に見たふかふかのベッドに吸い込まれたんだ。

 

「むぅ……」

 

 なにやら納得いかないみたいだけど、キッパリ言い切ったからか受け入れてくれた。

 ていうか、そもそも狭い家だから置き場に困るだろう。

 

「じゃあこの後はどうする?」

 

 買い物は無し、という事でアリーシャは悩まし気にそう言った。

 私に聞かれてもな……気の利いた答えが出て来ない。

 

「んー……なら軽く勉強でもしよう」

 

「え、早速? もうちょっとゆっくりでも……」

 

 予定が無いのなら彼女を鍛えよう。

 そう思ってまずは知識面を……と提案。

 

 しかし若干嫌そうな反応を返された。やる気があるんだか無いんだか……

 叩き込むと言ったからビビッてるのかもしれない。

 

「日々少しずつ、だよ」

 

 まぁいい。自分から旅に誘ったんだ、嫌とは言わせん。

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