とある竜の恋の詩   作:桜寝子

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第4話 新しく知るという事

「さて――当然ながら、旅には知識と技術が必要だ」

 

 という訳でお勉強スタート。

 問答無用で話し始めた私に合わせて、アリーシャも渋々ながら椅子に座って姿勢を正した。

 

「例えば……そうだな。用意するべき物の中で、ある意味一番大事なのはなんだと思う?」

 

「えーと……野宿用の色んな道具とか……」

 

「はいダメー! そんな物要りませーん!」

 

「えぇ!?」

 

 手で×を作ってダメ出し。

 そう答えると思ったからあえて確認したんだ。

 

「1人2人じゃ道具なんて多くは運べないだろ。殆どの事は魔法で片付けるんだ」

 

 荷物ってのは人数が居なければ物理的に運べない。

 少人数だと出来ない事ってのは多いんだ。しかし魔法の使い方次第でカバー出来る事も多い。

 

「例えば地属性の魔法。岩で囲えば敵や風雨から守れる……勿論過信は出来ないけど」

 

 岩宿とでも言うか。壁と天井を作ればそれで良い。横になれるだけの広さでもだいぶ快適になる。

 テントを持ち運ぶ手間が消え、より安全だ。

 

「形を整えて火を置けば調理も出来るぞ。あと風呂とかも作れる」

 

 そして形次第で色々と応用が利く。

 強度のある物を自在に生み出せるってのは本当に便利だ。

 

「なるほど……私、適性は火だけど地属性も少しは使えるよ」

 

「ほう、なら丁度良いな」

 

 魔法は火水風地雷氷と治癒の7属性だ。

 誰でも最低限は一通り使えて、適性のあるいずれか1つが伸びるのが普通だ。

 彼女の様に2つ目もそれなりに使える人は割と珍しい。まぁ戦いの道を選ぶ奴の中では珍しくないが。

 

 そして規模や威力なんかと違って、技術……つまり単純な扱いの上手さは適性とは関係無い。

 だから先の話も、努力すれば誰でも出来得る事だろう。

 

 

 ちなみに私は雷を筆頭に風と水が使える。

 そんな異常な力でもって、英雄と持て囃された訳だ。

 

 もっと言うなら、生まれ変わった今は全てが底上げされてる。

 が、それでもやはり適性に縛られるのは同じだ。彼女が使う火は私の火よりも上だろう。

 

「適性が火なら、周囲の温度調節も当たり前に出来る様になっておけ」

 

「それはもう出来るし! ちょっとは自信あるんだから」

 

 自分の周りだけとはいえ少しでも快適な状態にするのは大切だ。

 と、ついでの助言を与えたが、どうやら思った以上に扱いは上手いらしい。

 

「そういえば実力はそれなりにあるんだったな……ん?」

 

 いや、ちょっと待て。

 

「お前……まさかオーガ3体を焼き払うだけの炎を森の中でぶっ放したのか?」

 

「あ……いや、えっとぉ……」

 

 出会った時に魔力がすっからかんだった事、オーガ達を倒したという事。

 それらを思い出して問い詰めると、アリーシャは目を逸らした。

 

 おいコラ。下手したら大火事だぞ。

 私だって雷で延焼しない様に気を遣ったくらいだ。

 

「も、燃え広がらない様になんとか制御したら魔力が尽きちゃって……」

 

「良かった、分かってはいたのか。そこから教えなきゃならないかと焦ったぞ」

 

 しょんぼりとした答えを聞いて、私は一応の安堵の息を吐いた。

 

 魔法に依る副次的な現象まで制御するのはかなり難しいからな。

 制御が出来るのなら良いさ。むしろ自信があると言うだけ納得だ。

 

 戦闘における周囲の環境についてはハンターとしての経験で学んでもらおう。

 

「まぁそれはともかく、その辺りは実際に見た方が早いか。外でやろう」

 

「あ、うん」

 

 ひとまず見せて自分でやらせてみよう。

 家の裏とかなら構わないだろう。言うが早いか、私は外へ出た。

 

 

「こういう事以外に、実戦経験もしっかり積めよ」

 

「それは勿論!」

 

 外へ出て歩きながらも会話。

 意気込んでるけど、どうなる事やら。

 

「頑張ってくれ。お前が居ない間、私はのんびりさせてもらうけどな」

 

「えー……なんか理不尽」

 

「逆に何をしろと言うんだ」

 

 アリーシャが仕事に行ってる間は暇になる。

 精々家事をするくらいか?

 

「それに……子供に紛れたりしてさ、普通に遊んでみたい」

 

 見た目がこれだから遊び回るのも良いかもしれない。

 生前はそんな事さえ出来なかったからな……

 

「……そっか」

 

 遠目に子供達を眺めながら過去を思い返していると、そんな優し気な声が聞こえた。

 本当に寂しがり屋だと思われてそうだ。

 

 まぁ、間違ってないんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 その後。地属性の魔法を一通りやらせてみたが、予想以上にしっかり使えていて驚いた。

 戦闘にはまだまだ使えないらしいが……それは仕方ない。

 

 動き回りながら一瞬の判断で操るには、どうしたって一番慣れた魔法じゃなきゃ難しいからな。

 私だって基本は雷ばかり使ってるし。補助で使えれば充分だ。

 

 

「ところで、ある意味一番大事な物って結局何?」

 

 色々やって荒れた地面を綺麗に均した後、アリーシャが改めて質問してきた。

 そういえば答えずに魔法の話に移ったんだったな。

 

「移動手段だよ。まさか荷物を背負って歩く訳にもいかないだろう」

 

「え、馬車で良いんじゃ?」

 

 またしても予想通りの反応。残念ながらそれは使えないんだ。

 

「街から街の旅行じゃないぞ。馬車なんて大きな物……街道を外れたら大変だ」

 

 一般的に旅と言えば、とにかく様々な場所へ向かう。

 沢山の物を見て経験する事が旅の意義だからな。

 山を登ったり森を進んだり……道なき道を行く場面は多い。

 

 馬車はかなり便利だけど、そういう険しい道を行くには少し厳しい。

 通る為に道を整えて行く場合もあるが……そんなのをずっと繰り返すのは面倒なんてもんじゃない。

 

「それに、物資を積んだ馬車から離れるなんて出来やしない。常に誰かは見てないとな」

 

 馬車が使えるのは人数が居る場合だけと言っていい。

 その場合は馬車を拠点として守りつつ、数人が別の馬で動き回るのが一般的だ。

 

 少人数の旅なら、基本的には其々が荷物と共に馬に乗るだけで済む。

 逆に言うとその程度の荷物に抑えろと言う事だ。最悪、馬を失った時に担げる程度にな。

 

「なんでドラゴンのエルちゃんがそんなに詳しいの……」

 

「……全部エルヴァンの受け売りだ」

 

 諸々の説明をすると納得してくれたが、余計な疑問を持たせてしまった。

 もう困ったら全部この誤魔化ししかないな。

 そのうち私とエルヴァンの関係が滅茶苦茶になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、初回のお勉強は終わり。

 最初から詰め込んでも仕方ないから、後は適当に時間を潰すだけ。

 

 そうして夕食を済ませて風呂となった。

 

 正直昨日の様にさっさと寝て、風呂は後に引き延ばしたい。

 まだまだ他人にしか感じられないこの体を直視したくないんだ。

 

 でも流石に入らないのはどうかと思うし、逃げてたって仕方ない。

 ちゃんと自覚を持たないとな。

 

 

「はぁ……随分な体になっちゃって……」

 

 という訳で、風呂場の鏡に映る自分の体をじっくりと見る。

 見た目が見た目だから、なんだかとてもよろしくない気がする。

 こんなに眺めてしまって良いのか? いや自分だから良い筈なんだが……

 

 尻にまで届きそうな長い白銀の髪。そして青い瞳。

 背は140センチくらいで、しっかり健康的な少女だ。

 

 華奢で細い手足、小さな尻。そして見事なまでにツルペタ。いや、ちょっとは膨らんでるか。

 どうせならもっと大人の……それもそれでなんか嫌だな。

 

 しかしまぁ……

 

「冗談で美少女とか言ったけど、本当に可愛いな」

 

 改めて自分の顔をしっかりと見てみると驚きだ。

 つるつるぷにぷにすべすべ……しかもまるで人形の様に整ってる。綺麗で可愛くて最強か?

 とは言え、逆に人間味が薄い気がするな。

 

 でも人じゃないんだから、ある意味作り物だ。

 らしいと言えばらしいか。

 

「こんなんで生前より強くなってるんだもんな」

 

 どう見たって幼い少女なのに。

 力を隠せば誰も警戒しないだろうし、活用出来そうだ。

 となるとやはり演技力を磨くべきか……

 

 

 そのまま色々とポーズを取ってみる。

 これは自分なんだと言い聞かせながら、とにかく全身の確認。

 変な意味は全く無く、目に焼き付かせろ。自覚だ、自覚を持て。

 

 うん、やっぱり背と胸くらいはもう少し欲しいかもしれない。

 ほんのり有るか無いかの胸を揉もうとしてみたり……

 

「エルちゃーん」

 

「うわぁおおっ!? な、なんだ!?」

 

 なんて事をしていたら急に扉が開いてアリーシャが出てきた。

 何してんだ風呂だぞ!? 開ける前に声掛けろ!

 私以上に常識がぶっ飛んでるのかお前は。

 

「あ、ごめん。昔を思い出して普通に開けちゃった」

 

 どんな昔だ。あぁ、孤児院育ちと言っていたからその頃の話か。

 私の姿がこれだから、一緒に暮らしていた子供達相手の様にしてしまったんだろうか。

 

「えっと、体とか髪の洗い方分かる?」

 

 本当に子供扱いだ……なんという屈辱。

 

 しかし実際の所、ぶっちゃけ分からない。

 こんな繊細そうな体もこんな長い髪も、どうしたら良いかサッパリだ。

 

 けど私はドラゴン。そんな事はどうでもいい。

 

「人間と一緒にするな。適当にやっとけば充分だよ」

 

 繰り返すが、あくまでこの姿は変身してる物だ。

 肌が荒れたり髪が痛んだりなんて多分無いだろう。

 

「そういうもの? まぁシャンプーとかは使っていいからね」

 

「ああ、分かったからさっさと閉めろ。ばか」

 

「はいはい。――可愛いとこ見ちゃったっ」

 

「……っ早く忘れろ!」

 

 くっ……完全に油断してた。変な事してるのを見られるなんて……

 今後は気を付けよう。本当に。

 

 ていうか今咄嗟に体を隠そうとしたな。

 言い聞かせたお陰で早くも自覚を持てたかもしれない。私は単純か……

 

 良いのか悪いのか……良いという事にしておこう。うん。

 

 

 

 そうしてサッと洗った後、まるで溶けそうになりながら結構な時間のんびりした。

 風呂も久々だからとにかく気持ちいいんだ。

 

 それはもう、のぼせたんじゃないかとアリーシャが呼びに来てようやく出たくらいだった。

 多分そんな事にはならないけどな。風呂でのぼせるドラゴンとか居て堪るか。

 

 

「ふぃー……いやー良いお湯だった」

 

「はぁ……裸だし。なんで隠さないの……?」

 

 ホクホクとリビングに戻った瞬間に呆れられた。

 いやだって着替え持ってくの忘れたから……ごめんて。

 

「あ、あった。全くもう……ほら!」

 

 アリーシャは私がソファに忘れていった着替えに気付き、早く着ろと言わんばかりに押し付けてきた。

 はいはい着ますよ。

 

「て、あれ? もう完全に乾いてる」

 

「ああ、これか。繊細な制御になるけど、水そのものを操作すれば良いんだ」

 

 近づいた事で私の髪が全く濡れてない事に気付いたらしい。

 この程度なら頑張れば誰でも出来るし、これも教えておくか。

 ついでに怒られないで話をズラせるだろう。

 

「あー、なるほど! 乾かすって言うより、水自体を無くしちゃうのか」

 

 正確には移動させる、が正しいな。

 蒸発させるとかならまだしも、そこに在る物を消すなんて誰にも出来やしない。

 

 それが出来るのは自ら生成して操作し続けた物だけだ。

 そして一旦制御から離せばもう自然の物になる。

 

 まぁそんな難しい話、今は置いておこう。

 

「私いつも温風作ってやってたけど、もうちょっと時間掛かるよ」

 

「それでも良いけど、こっちも出来る様になっておけ。便利だから」

 

 火に適性がある彼女からすれば、そっちの方が楽だろうけどな。

 出来る事が増えて損は無い。

 

「うー……知らない事ばっかりだ……頑張ろう」

 

 しょんぼりするな。これから知っていけばいい。

 学ぼうとしない事が悪いだけで、知らない事は悪くない。

 

「ま、少しずつやっていこう。焦る事は無い。たった1年でも充分な程に鍛えてやるさ」

 

 そしてアリーシャは学ぼうとはしてる。

 今までがどうだったかは私の知る所じゃないが、少なくとも私が教える事は真面目に聞いてるしな。

 

 ハンターとしては初対面のアレしか知らんけど……ポンコツなだけで芯はありそうだから大丈夫だろう。多分。

 

「お手柔らかにお願いします……」

 

「ふふっ……」

 

 それはどうかな。

 人に何かを教えるなんてのもした事無かったけど……それも含めて楽しみだ。

 何もかもが新鮮で、自然と笑みが零れる。

 

「ていうかいい加減服を着て」

 

「あ、はい」

 

 笑ってたら怒られた。

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