とある竜の恋の詩   作:桜寝子

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アリーシャ視点です。


第8話 2人の距離

「ふぅ……思ったより早く終わったなぁ」

 

 今日の仕事は隣街に向かう商人達の護衛だった。

 

 隣って言っても結構距離があるから、ここまで早く帰ってこられたのは珍しい。

 襲撃が殆ど無くて、最低限の休憩だけで済んだお陰だ。

 

「まだ夕方にもなってないし……エルちゃんと何かしようかな」

 

 いや、何処かで遊んでるかもしれないから無理かな?

 そうじゃなかったとしても、多分勉強か鍛錬になりそうだけど……

 

 いつも子供達に紛れて遊んでる癖に、私とはあんまり遊んでくれないんだよね。

 気の向くまま買い物とか、美味しい物を食べに行ったりとか、もっとしたいんだけどな。

 

 

 

 気付けば一緒に暮らす様になってもう半年近くなる。

 だいぶ仲良くなれたと思うけど、まだ少しだけ壁がある気がする。

 

 まぁ、エルちゃんは人との関わりに慣れてないみたいだから仕方ないのかな。

 どこまで踏み込んでいいのやら……

 

 そもそもが彼女は謎だらけだ。

 エルヴァンの娘って事になってるけど、そうした理由は分からない。

 いくらなんでも勝手に娘を名乗って良い訳が無いのに……

 

 それだけ親しくしてた過去があるのかもしれないけど、そこもちぐはぐで誤魔化してばかり。

 というか、むしろまるでエルヴァン本人かの様に語る事もある。

 

 でも人間じゃない事は確かなんだ。

 あの姿と変身する瞬間を目の当たりにしたんだから疑い様が無い。

 

 しかも姿がドラゴンなだけで、本当はもっと凄い存在なんだとか。

 生物の頂点よりも上って……遠過ぎてもうよく分からない。

 

 変身――そう、実はエルヴァンは彼女が変身してた姿の1つだったのかも。

 

 今の所、私の予想はこれだ。

 色々と細かい部分がおかしな事になるけど、他に思いつかないんだよね。

 

 

 エルちゃん自身、殊更に過去を隠すつもりがある様には見えない。

 とは言えわざわざ語る気も無いって事も分かる。

 

 どうやって距離を詰めていくべきなのか……

 こんな風に考えてしまうくらい、私にとってエルちゃんは大きな存在になりつつある。

 

 妹の様で、友人の様で、人生の先輩の様で。

 本当の姿を見たって、厳しい価値観を知ったって。

 本人は化物だなんて言うけど……ただ1人の人間として。

 

 

 

 

 

「あれ、鍵開いてる」

 

 そうしてのんびり歩いている内に帰宅。

 どうやらエルちゃんも早めに帰ってきてるらしい。

 

 私よりも遅くに帰る事も多いのに、今日はお互い本当に珍しいな。

 というか遊びに行かず家で何してるんだろう。

 

「うわぁ……」

 

 そんな考えは彼女の姿を見て霧散した。

 

 リビングのソファ――つまり今や寝床にされてる場所。

 シーツも掛けず、何故かパンツ一丁のはしたない寝姿に思わず声まで出た。

 

 

 夏も終わってとっくに涼しくなってるのに……いや、今日は確かに少し暑かったけども。

 ていうかせっかくの可愛い見た目が台無しだ。

 

 何回も何回も言い聞かせて、身だしなみはもう大丈夫だと思ってたのになぁ……

 

「ていっ!」

 

「ふがっ」

 

 枕を引き抜いて、そのまま顔に叩きつける。

 ちょっと乱暴だけどお仕置きだ。

 

 距離がどうのってさっきも考えてたし、これくらい遠慮無くやってもいいかな……なんて。

 

「な、なんだ……? あれ……ん?」

 

 寝ぼけた様な顔で体を起こして、私を見て時計を見て首を傾げた。

 私がいつも帰ってくる時間じゃないと気付いたんだろう。

 

「早くに仕事が終わったから帰ってきたの。で、こんな時間に寝るなんてどうしたの?」

 

「そうか……いや、なんというか……」

 

 枕で叩き起こされた事には怒らなかった。ちょっと安心。

 けど、寝起きとは言えなんだかポヤポヤしてる。

 

「ちょっと不調……かも。上手く言えないけど」

 

「えっ? そんな恰好で寝てるから風邪ひいたんじゃ……」

 

「馬鹿言うな。病気なんて無縁な体だ。怪我だってすぐに治るだろ」

 

 それはまぁそうだろうけど……

 でも体調が悪いのは普通に心配だよ。

 

「多分、この姿を長く続けてる所為だ。なんか窮屈と言うか、こう……怠い」

 

「そう……なんだ?」

 

 始めて逢った時の1度しか見てないけど、あの大きな体がこんな小さな女の子になってるんだもんね。

 そりゃ窮屈……なのかな? 分からん。

 

「ちょっとでいいから体を戻して動けば大丈夫だと思う」

 

「なら寝てないで戻せばいいじゃん」

 

「それこそ馬鹿言うな、街から離れなきゃ大事件だ。でも、だからって勝手に遠出するのもな……説明してからにしようと思ってさ」

 

 そりゃ、いきなり街にドラゴンが現れたら大変とかいう話じゃないけどさ。

 勝手に街を出るのは控えて、私が帰るまで待ってたって事? そういうとこは律儀だ。

 ていうかたまたま早く帰れたから良かったけど、そうじゃなきゃ……

 

「寝込むくらい弱ってるのに……待たせちゃって――」

 

「勘違いするな。数日前から兆候はあったし、今朝にでも説明していれば良かったんだ。寝続けた私が悪い」

 

 確かに最近は起きるの遅いなと思ってた。

 むしろ傍に居る私は気付くべきだった……なんて。

 

 なんだか申し訳なく感じちゃったけど、そんな私の言葉は読まれてたらしい。

 

「ともかく、ちょっと街の外に行ってくるよ」

 

「えっ、ちょっ、待って待って! いくら実力を知られてるって言っても、エルちゃん1人じゃ門で止められるかもっ」

 

 言うが早いかさっさと服を着て家を出ようとするから、慌てて追いかけた。

 幼い見た目のエルちゃんを快く街の外へ見送る人ばかりじゃないんだ。

 

 無理とは思わないし結果的には出られるだろうけど……余計な手間が掛かるのは確かだ。

 体調が悪いならそのちょっとの手間さえ嫌だろう。

 

「あー……外壁をこっそり越えるつもりだったけど、そうか……じゃあ行こう」

 

 と思ったら全然違う方法で行くつもりだった!?

 

 多分彼女としては一番手っ取り早い方法なんだろうけど、仮にも街を護る外壁を気楽に越えようとしないで欲しい……

 というか誰かに見られてたらそれはそれで大事件だよ。

 見られないくらいに鮮やかに越えちゃう気がするけど、その辺を考えてない可能性もある。

 

 ともかく私が帰るまで待っててくれて本当に良かった……!

 

 

 

 

 

 

 その後。背負ってあげようとしたら普通に断られ、特に何事も無く街の外――離れた森まで来た。

 

 ていうか、あの……弱ってるんだよね?

 結構な速さで歩いてきたし、なんで私の方が汗をかいてるの……?

 

「この森も不思議と懐かしく感じるな」

 

「そうだね。半年……あっという間だったなぁ」

 

 エルちゃんが足を止めて呟いた。

 そう、ここは私達が初めて出逢った場所。具体的にはもっと奥だけど。

 

「もうこの辺りでいいか。ちょっと離れててくれ」

 

 言われた通りに私が離れると、すぐにエルちゃんが光に包まれる。

 どういう原理の魔法なんだろう……意味分かんない。

 

 そうして現れたのは、白銀のドラゴン。

 

「わぁ……改めて見ると……綺麗」

 

 出逢った時とは全く違う意識で見れたからか、そんな感想が自然と漏れた。

 ただただ綺麗だと思った。

 

 ドラゴンと一口に言っても姿は様々。

 エルちゃんは2足で、まるで腕と一体になった様な爪の付いた大きな翼だ。

 その翼を地面に付けて体を支えてる。

 

 そしてそんな体は逞しくて、尾は太く長い。

 お腹側は灰色っぽくて、目は変わらず綺麗な青。

 そして鋭い爪と頭から後ろに流れる様な角は、くすんだ黄金の様で目立つ。

 

 全長は大体10メートルくらい……もうちょっとかな?

 本人曰くまだまだ子供らしい。

 確かに、本で見る普通のドラゴンはもっと大きかったと思う。実際には見た事無いけど。

 

 でも、とんでもない存在なんだって肌で感じられる。

 いつもの緩い子供の姿を知っていても気圧される程だ。

 

 

「んぁああー……」

 

 そんな威厳たっぷりなドラゴンが啼いた。

 何その気の抜ける声……

 

「凄くスッキリした!」

 

 そういう事らしい。

 大きな体でどうにか伸びをする様に動いて満足気。

 

「それは良かった。でも――」

 

 珍しく弱っていたのが、たったこれだけで解決した事は喜べる。

 ただ……1つだけ良くない事が起きた。

 

「――服、どうすんの?」

 

「あっ……」

 

 私はちゃんと見てたよ。服も靴も全部弾け飛んだのを。

 細切れになった布がそこらに散っている。

 後でここを見た人は、どんな凄惨な事件があったのかと疑う事だろう。

 

「一応服だけは作れるんだっけ? でもまたノーパン裸足で帰るの?」

 

「いや、あの……」

 

「せっかく用意してあげたのを細切れにするなんて……」

 

 別にお金に困る様な大胆な生活はしてないし、団長から多少の支援はあった。

 でもだからって無駄にして良い訳じゃない。

 

 一応怒っておくべきかなと私はエルちゃんを睨み付けてみる。

 

「ちょ、ちょっと気晴らしに飛んでくるっ」

 

「あ、コラッ! 待っ……」

 

 当の本人は狼狽えて大きな翼を広げた。

 せっかくの姿なのに威厳が無い……

 

 一旦逃げるつもりだと察して、私は思わずエルちゃんの首に抱き着いた。

 なんでそんな事をしちゃったのか……考える間も無く突風と共に飛び上がり、私の悲鳴が空に昇っていく。

 

「ひぇぇぇえええっ!? 落ちる落ちる落ちるぅぅう!?」

 

「馬鹿馬鹿っ! なんでしがみ付くんだ!?」

 

 なんかもう、お互いに大慌て。

 私は必死によじ登ってなんとか首の上に跨った。

 

「はぁぁあ……し、死ぬかと思った……」

 

 跨るって言うか、全身でどうにか抱き着いてるだけ。

 落ちない様に大人しくしてるしかない。とりあえず深呼吸を繰り返しておこう。

 

「何してるんだ、全く……どうせならこのまま一緒に飛ぶか」

 

「それは良いかもだけどっ、すっごく怖い!」

 

 少しだけ落ち着くと何やら提案が。

 空を飛ぶなんてまず経験出来ないし、丁度夕陽が綺麗でなんだか良い感じ。

 

 でもとにかく怖い。楽しむ余裕があるのやら……

 

「頼むから私の上で漏らすなよ?」

 

「漏らすかっ!?」

 

 多分。急降下とかされなければ大丈夫だと思う……

 

 

 

 

 

 そのまま少しだけ、気ままに飛び続ける。

 出来るだけ揺れない様に飛んでくれてるのか、なんだかんだ怖さはかなりマシになってた。

 

 まるで何処までも行けそうな感覚だ。いや、実際行けちゃうんだろうな。

 

「空から見ると……世界って広いね」

 

 夕陽に目を細めて呟く。

 こんな景色を見られるなんて……

 

 今日仕事で行った隣街があんな所に。そのずっと先にも街が見える。

 うわー……この森ってこんなに広かったんだ。あの山ってあんなデカかったっけ? 

 あ、海! ていうか船ちっちゃ!? 遠い!

 

 空の上からの景色を見ていると、なんとも言えない不思議な感情が胸の奥で渦巻いた。

 私1人なんて、本当にちっぽけな存在なんだな。

 

「当然だ。人が住んでるのだってほんの一部さ」

 

「こんな世界を旅するんだ……ワクワクする」

 

 だけど同時に、この広い世界を旅する事が楽しみで仕方なくなった。

 今すぐにでも駆け出したいくらい。

 

「正直、こうして飛べば何処へだってあっという間に行ける……でもそれじゃ違うんだ。道無き道を歩き、沢山の物を見て経験してこそ――それが旅だ」

 

「そう……だね」

 

 表情は見えない。見ても今の顔じゃ分かんないけど。

 でも、色んな想いが籠った言葉だって分かった。

 

「ねぇ……エルちゃんは……どんな物を見てきたの?」

 

 こんな状況だからかな……少しだけ、踏み込んでみたくなった。

 ちぐはぐで誤魔化してばかりの、エルちゃんの過去を知りたかった。

 

 

「…………本当に色々だ。そうだな……今はまだ話す時じゃないと思ってたけど……でも、まぁ……いいか」

 

 長い間があったけど、そうしてゆっくりと語り始めてくれた。

 

「簡単に言えば、私は人間だった」

 

「……え?」

 

 それもいきなり衝撃的な事から。

 人間だったって一体どういう……?

 まさか――

 

「孤独に生きて、そして終わった。なのに気付けばこんな姿だ」

 

 私が予想してた事と合わせてみれば……つまり、そういう事?

 

「異常な力を持った人間はこうして生まれ変わる、らしい。私を殺してくれやがった同類が教えてくれた」

 

「同類……え? 待って、じゃあ……私って……」

 

「まぁ……そうだろうな」

 

 エルちゃんが『彼』だとしたら、その彼と同類と呼ばれた私も?

 そう考えて思わず口を挟んじゃったけど、否定はされなかった。

 

「私が誰かはともかく、生まれ変わるだなんて……1人の人間として生きるには余計な情報だ」

 

 確かにとんでもない話だ。

 そんなの、価値観が大きく変わってしまいそうだもの。

 

 でもそっか……隠したかった訳じゃなくて、私が変に受け止めかねないから言えなかったんだ。

 過去を語るにはまず説明しなきゃならないから……

 

 正直、話がぶっ飛び過ぎてて逆に冷静に聞けてるくらい。

 でも話してくれた事自体は純粋に嬉しいと思う。

 

「驚くどころじゃないけど……でも、話してくれてありがとう」

 

「いや、いつ話すべきか悩んでたから丁度良かったよ。騙し続けるみたいでちょっと嫌だったしな」

 

 別に騙されてるとは感じないけどなぁ。

 当たり前だけど、エルちゃんだって色んな事を考えてるんだよね。

 いや、考えてくれてる……か。本当に有難いな。

 

 

「何度も言った事だけど、この話をした上で改めて伝えておく。私はただ独り戦い続けただけの人生だったけど……お前はそうなるな」

 

 一呼吸置いて、エルちゃんは至極真面目な声で続けた。

 

 いつか垣間見た彼女の苦しみと寂しさは、彼の過去だった。

 だから同じ道を辿るなと私を導いてくれてるんだ。

 

 そんなにも優しいのに……何が化け物だよ……馬鹿。

 

「人もドラゴンも、独りじゃ生きられない。孤独は心を壊してしまう……だから私はここに来たんだ」

 

 孤独。一体どれ程の苦しみなのか……

 幸いにも私はそれを知らない。

 

「いいか、お前はお前らしく生きろ。どんな道だとしても、私が隣に居てやるから――生きてくれ」

 

「うん……」

 

 そしてなにより、そうはさせまいと隣に居ようとしてくれる。

 それはきっと、凄く幸せな事なんだろうな。

 

「そしていつか死んで、生まれ変われた時は……同じ存在として、共に生きよう」

 

 同じ存在……か。死んだ後の事を考えるのはまだちょっと難しい。

 ちゃんと話を飲み込めたかどうかも怪しいし。

 

 なら、曖昧なまま軽く答えて良い事じゃない。

 だからせめて、精一杯抱き締める力を強くした。

 

 決して嫌なんかじゃないって気持ちだけは伝わってほしい。

 

 

 

 

 

 

 その後はお互い無言で、でも不思議と安らかな時間だった。

 

 結局具体的な過去は語ってくれなかったけど、彼の逸話はいくらでも調べられる。

 そのうち機会もあるだろうし別に良いか。

 

 それにもう日が沈んでしまう。心惜しいけど帰らなきゃ。

 夜になっても戻らなかったら捜索されかねない。

 

 

「そうだ、良い事を思いついたぞ」

 

 そうしてさっきの森に降り立つと、エルちゃんが口を開いた。

 

「何を?」

 

「旅の目的さ。どうせ大した事は考えてないんだろう?」

 

「いきなり失礼……」

 

 仰る通り、なんとなくで決めたから明確な目的なんて無い。

 さっきエルちゃんが言ってた様に、色んな経験が出来たら良いなぁ……って。

 

「旅そのものは手段だ。そして色々な経験が出来るってのは過程と言っていい」

 

「ぅぐっ……か、過程……」

 

「はっ……やっぱりな」

 

 そんな薄い目的も見透かされてたらしく、馬鹿にする様に笑われた。

 なんか恥ずかしい……

 

 そして私が数秒俯いていた間にエルちゃんは変身を済ませて――

 

「あれっ!? え、なんで?」

 

 細切れに弾け飛んだ筈なのに、来た時そのままの格好になってる。

 服はともかく、靴まで……?

 

 もしかして、前回は単純に小さな女の子の恰好が分からなくて作れなかったのかな。

 半年経って慣れたとか……生前を考えるとなんかそれっぽい。

 

「なんか作れた」

 

「なんかってそんな曖昧な……ちゃんと出来てるの?」

 

 軽く答えるエルちゃんに、一応の確認として訊ねてみる。

 これで実はノーパンとかだったら困る。いや見えなきゃ良いんだろうけど、普通に考えてよろしくない。

 

「確認するか? ほれ――」

 

「捲るなっ!?」

 

 いきなり躊躇無くワンピースをたくし上げるものだから慌てて押さえた。

 他人が居ないからってやめなさい。見せろとまでは言ってないし!

 

 ていうかちゃんと可愛らしいパンツだった……

 実は見えない所も拘るタイプ? 見せてるけど。

 

 

 いや、そんな事はどうでもよくて。

 

「で、目的って何?」

 

 とりあえず話を進めようと、揃って歩きながら聞き直した。

 のんびりしてたら本当に夜になっちゃう。

 

「何処かに居るだろう私の同類達を探すってのはどうだ? 個人的にも色々話してみたいし」

 

「達……? 実は結構多かったり?」

 

 どうやらエルちゃんを導いたっていうドラゴン以外にも居るらしい。

 正直興味はあるし、悪くないかも。

 

「複数居るってのは聞いてるけど、それだけだ。一体どう生きてるのやら……私みたいに人に紛れてる奴も居るかもな」

 

「へぇ~……うん、良いね。賛成!」

 

 自分もそうなるかもしれないのなら、私だって話してみたい。

 

「どんな人達なんだろう。あ、人になってるかは分かんないのか……いや、それでも人か」

 

 人と呼ぶべきなのかドラゴンと呼ぶべきなのか、よく分からなくなってくる。

 まぁ人で良いか。生前は確かに人間だったんだし、エルちゃんの事だって……

 

「ふふっ……そうやって自然と人扱いするお前だから……」

 

「え、何?」

 

 私の呟きに何か返してくれたみたいだけど、小声でよく聞こえなかった。

 でもなんか笑ってるから悪い事じゃないかも。

 

「なんでもない。――どんな奴らか、ねぇ。癖は強いだろうなと思うよ」

 

「エルちゃんみたいに?」

 

「……まぁな」

 

 冗談めかした返事にこっちも冗談で返すと、すっごく微妙そうな顔をした。

 自覚はあるらしい。

 

 

「けど、危険な奴もいるかもしれないってのは覚えておけ」

 

 今度は一転、真面目な言葉を続ける。

 まぁ、良い人ばかりとは限らないのも当然か。

 

「えっと……強いとか言う話じゃないんだよね? 気を付けてどうにかなるの?」

 

「ならない。生前の私でさえ、寝呆けた奴に殺されたくらいだ」

 

「寝呆け……え?」

 

 酷い……ていうか、そんなんで人類の英雄を殺されたら堪ったもんじゃない。

 英雄エルヴァンの最期がそれかぁ……なんだかなぁ。

 

 まぁ確かにそれじゃ気を付けるも何も無いけど、じゃあどうしろと。

 

「ある程度は護ってやる。生まれたてとは言え今は同等の存在だし、まだまだ戦いの勘も残ってるからな。長年呑気してる奴に負けてやるもんか」

 

「呑気、してるのかなぁ……?」

 

「ただの予想だ。けど、私ですらそんな存在は全く知らなかった……つまり極力目立たない様にしてる筈なんだ。まともな戦闘なんてずっとしてない……かも」

 

 確かに、そんな強いドラゴンや人が居れば遠くまで話が広まる。

 というか強過ぎて戦いにならないって時点で勘が鈍ってもおかしくない。

 同じだけの力があれば充分戦いになる……のかな?

 

「私を導いた奴も寝てばかりだったよ。最低限の事だけ教えて、さっさと何処かに行ってしまった」

 

「そうなんだ……」

 

 なんとなく悲しげな声に顔を覗き見ると、空へ遠い目を向けていた。

 寝呆けて殺されたのにそんな目が出来るなんて……不思議だ。

 

「千年くらい生きてたみたいだし……たった数年なんてアイツにとっては一瞬で、気にも留めないんだろう。名前も教えてくれなかった」

 

 せ、千年? なんかもう桁違い過ぎて意味分かんない。

 でも、なんだろう。それは――

 

「なんか……寂しいね」

 

「ああ……アイツは全てを諦めてた。だけど……こうはなるな、人に紛れろ。そう導いてくれたんだ」

 

 答えが分かっていて尚、行動する気になれないなんて。

 一体どんな感情なんだろう……

 

「だから私は同類達と話してみたい。何をして、何を思って生きてきたのか聞いてみたい。そして、もしアイツの様に孤独に生きているのなら……独りなんかじゃないって伝えたい」

 

 それが、エルちゃんなりに考えて見つけた目的。

 今は小さな女の子なのに、凄く大きく見えた。

 

 色々タイミングが合っただけかもしれないけど……今日こうして話せて本当に良かったな。

 一気に沢山の事を知って、混乱してないと言えば嘘になるけど。

 

 

「お前のお陰で思いついたんだ。お前が寄り添ってくれたから、私も寄り添えるんだと気付けた。ありがとう」

 

「エルちゃん……」

 

 そしてそんな事を照れながら言うものだから。

 気付いたらその小さな頭を撫でていた。

 

 決して子供扱いした訳じゃない。

 ただ、なんだか……触れたくなったんだ。

 

 今まで何回か撫でようとしても、その度に躱されてきたのに。

 あと少しの心の壁を、やっと越えた気がした。

 

 

「っ……」

 

 小さな頭。サラサラな髪。そして恥ずかしそうな顔。

 何かを耐える様にどんどん顔が真っ赤になっていく。

 なんだこれ可愛い。

 

「くっ……うぅ……ぬぁああーっ! もう離せっ!」 

 

「あ……」

 

 限界だったのか、叫んで抜け出すとそのまま走っていった。

 

「急いで帰るんだろ!? ほら、走るぞ!」

 

「え、ちょっ……待っ」

 

 暗くなってきた中でも真っ赤だと分かる顔のまま、振り返って大声で私を呼ぶ。

 

 確かにさっさと帰るに越したことは無いけども。

 誤魔化し方が本当に下手だ。

 

 ともかく私も慌てて追いかけ……無理。速過ぎて全然追い付けない。

 

「待ってってばー! もー!」

 

 もう全力疾走だ。

 帰ったらまずお風呂かな……

 

 

 

 あれ? お風呂……ん?

 今更だけど、私って男の人と一緒に生活して……

 

 騙してるみたいで嫌だった、ってそういう意味!?

 

 あ、ダメだ。考えちゃいけない事だこれ。

 過去がどうだろうと、今はエルちゃんだ。もうそういう事にしておこう。

 していられるかな……?

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