奥山沙織はアイドルになって声を届けたいようです 作:まきにゃん
解釈違いは反省しません。
田起こし。或いは信仰告白
とあるソーシャルゲームで190人のアイドルをプロデュースするというものがあり、私は随分とやり込んだものだった。
画面の向こうのプロデューサー(という名のゲームプレイヤー)からアイドルが着る衣装を奪ったり奪われたり、緑の服を着た悪魔に上納したりと、それはもう心血を注いだと言っていい。
そのなかで、出会ったのが奥山沙織というアイドルである。
東北の片田舎からアイドルを目指して上京してきた、少しばかり方言がきつい女の子。ちょっぴり歌唱が得意で、それだけを頼りに、アイドルになりたい、なるんだという大望を育ててきた。
どうみても芋い田舎娘。
アイドルになるには何か足りないというレベルではなく、熱意以外はいくつも足りないのではないかという残念な気持ちを持ったものだ。
しかし、特訓後の彼女の変貌ぶりを目の当たりにして、印象は変わった。変わらざるを得なかった。
中国の古典に曰く、北冥に鯤という魚がいて、時宜を得て鵬という鳥となる。鵬はひとたび飛べば大きな翼で高空まで羽ばたき、南の果てまで渡っていく。
それが奥山沙織というアイドルだった。
それからの私は彼女を担当としてプロデューサーを務めることになった。
費やすことのできる時間と所得を投じ、レベルを上げ、信頼度を高め、コミュを見ては一喜一憂し、苦手なリズムゲームでさえ苦労して練習し、ゲームアプリのサービス終了までお見送り、上手くもないイラストまで描いてみた。
そして年月が経ち、コンテンツのサービスが続く中で、
奥山沙織の声は実装されなかった。
どうしてこんなに可愛いアイドルに声がつかないのだろう。
いや、理解してはいる。
コンテンツを楽しむプロデューサーたちの大多数は、もっと好きな自分だけのアイドルが居るのでわざわざ奥山沙織を推す必要がないし、もしかしたら奥山沙織のことを知らない者もいるだろう。190人も育成できるソーシャルゲームなのだから、アラブの石油王でもない、有限のリソースしかない同僚たちにも担当できるアイドルの数にも限度というものがあるし、何なら担当は1人だけという一途なプロデューサーも多いだろう。
その中で、奥山沙織のプロデューサーは、彼女に声を与えられなかった。その力が他のプロデューサーよりも劣っていたからだ。人数も、資金力も、あらゆる面でだ。
そして、さらに年が降り、コンテンツとしての人気に翳りがでて、ゲーム運営会社がサービス縮小を公にしたとき、私はやはりそうなるかという諦観と共に目の前が真っ暗になった。