奥山沙織はアイドルになって声を届けたいようです 作:まきにゃん
私がライブのためのレッスンで七転八倒していると同時に、撮影スタジオでは準備が進められていた。
女性ADをダミーとして立たせてカメラ連携を確認しつつARを取り入れた特殊効果の組み込み、興が乗った監督がワイヤーアクションも取り入れるべきと主張してディレクター以下スタッフ総発狂する一場面もあったが、着々とスケジュールに則り技術的課題を解決していった。
なお、女性ADは実際に宙を飛んだが、あまり見栄えがしないことと画像合成で実現可能なのと、そして何よりも安全管理に追加の人員と予算が付けられないとの無慈悲な現実に、ワイヤーアクションは見送りとなって撮影監督は涙を流したそうだ。
勿論、女性ADも涙を流した。
誠にご苦労様である。
こうして、デビューライブを週末に控えて、スタジオでのリハーサルを通しで行う事となった。
「タイムスケジュール通りに歌って踊ってトークすればライブ配信は成功するように設計しました」
今日はその確認のためのリハーサルなのでリラックスして臨むようにと真名子アシスタントは言う。
緊張するも何も、レッスンウエアにダミーマイクといった姿ではどうにも締まらない。
靴だけは本番までに慣れておくようにとシンデレラが履くべきガラスの靴を指定されている。
途中でアドリブが入っても問題はないか?
「その心配をするぐらいなら大丈夫そうですね。では始めましょう」
まずは全体曲『お願いシンデレラ』をフルバージョンで歌いきり、ダンスで弾んだ息が余分な熱を逃しきるまで周囲に向かって手を振り続ける。
そして自己紹介を兼ねたトーク。
この部分のミソは、アイドル奥山沙織がMCを務め、新人の奥山沙織と対面してトークを行うというセルフサービスである。
アイドルではない方の奥山沙織は私服姿で別撮りしたものを合成して、さも会話しているように仕上げる。
向けるべき目線は誘導灯でガイドされ、会話もどきのタイミングはインカムで確認できる。
まてよ?
画像処理ができるのだから、2曲目に入る前に、2人が重なり合ってひとつになるという演出は可能ではないか。
エモくないだろうか真名子さんどうよ。
「…別撮りもそのように修正しましょう。あとリハーサル追加で」
頭を抱えて幽鬼のように悶えるアシスタント。
お仕事を増やしてしまって申し訳ない。そのぶんリアルライブでは絶対に不可能な、より良いモノを創り上げようじゃないか。
そして、最後はソロ曲。
渡り鳥が巣立って新天地を目指すという内容の歌だ。
ダンス要素はとってつけた程度で『アイドルソング』のような強さはない。
最後にカーテンコール。
満面の笑みで視聴者たちへのライブ終了のご挨拶。
「オッケーです」
撮影監督からも合格を頂いた。
「僕としては奥山さんにも飛んで貰いたかったですが、いやあ、これは良いライブになりますよ」
他のスタッフ達も満足そうで私も嬉しい。
深々と頭を垂れて感謝の意を示す。
しかしだな監督、まだワイヤーアクション諦めてなかったのか。
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