奥山沙織はアイドルになって声を届けたいようです 作:まきにゃん
346の偉い人はSAN値直葬が極まってるからしかたないね。
「おはようございます!」
朝の日課であるランニングをしていると、若林智香ちゃんに声を掛けられた。
彼女は無事にオーディションを通過したのであるが、住まいが遠方であることと学業のために、こうして週末に顔を合わせるのが殆どだ。
「智香ちゃん、
「はい!」
何故か智香ちゃんも一緒に走りだす。
2人して東京の空気を糧にして、近況報告しながらのそぞろ走り。
視界の端で長いポニーテールがリズミカルに踊っている。
「沙織さん、今日がライブでしたよね」
「んだ」
お陰様で、私はアイドルになる。
「沙織さんのライブ中、姫川さんの始球式イベントでバックダンサー務めるなきゃなのでリアタイできませんが、ライブ成功祈ってますから」
智香ちゃんの元気頂きました。
高校野球秋大会をもってチア部を引退してからという本人の強い希望で未だアイドル候補生に留まっているが、姫川友紀とのデュオユニット結成が決まっている即戦力だ。
デビューすればたちどころに人気を博すだろう。
先にアイドルデビューして待っているよ。
「じゃあ私、こっちですから」
346新館にてお別れである。
両手でハイタッチすると、自分がまた高校生に戻ったような気がした。
***
アイドル事業部は口がさない人間からはお城と呼ばれることはままあるが、自分がその城の主人であるかと問われれば違うと即答する。
良くて執事長ぐらいではないか、と今西はいつも思う。
346プロダクションに入社して演歌歌手のマネージャー、今で言うアシスタントとして働き出してから、本社管理部門を含めて様々な部署を渡り歩き、職位を積み重ねると共に、上司にも恵まれ、会社の規模拡大に伴い図らずしも管理職となった。
総務部に在籍していた折に、組織掌握力を買われて新規立ち上げとなったアイドル事業部を預かり、芸能担当統括重役を迎えて346プロの刷新が続く今、その思いは強くなるばかりである。
「武内君、稟議の件なんだけれども、配信事業部長とちょっと話してね。あちらさんは中々乗り気だったよ」
「それは良かったです」
武内Pは若手筆頭の仕事人である。
シンデレラガールズと銘打ったアイドル達を幾人も世に送り出し、今期もまたシンデレラにカボチャの馬車とガラスの靴を与えている。
いずれはこの男を上に引き上げるべく事業部内で地ならしをすべきだろう。
ならばこの案件は推し進めるに越したことはないと今西は思考を巡らす。
「発案者の真名子アシスタントについては…その…部長はあまり評価していないと思っていましたが」
「アハハ、真名子君は人前にはあまり出せないねえ。あの性格だ。だが、仕事が出来る人間が須く人格者だなんて私は思っちゃいないさ」
「はあ、それはそうです」
「君のインターンに付いていた増毛君だってそうじゃないか。彼は実に合理主義の権化だ。しかし、その存在は組織に不協和音をもたらす。誰もが合理主義者ではないからね」
武内Pは数々の経験を思い出したのか、なんとも言い難い顔になった。
「むしろ今回は君がよく真名子君にフリーハンドを与えたと感心しているよ」
「…自分には経験値のないプロデュース手法であったので、全て任せるのが良いかと判断しました」
餅は餅屋とはよく言ったものだ。
「真名子君は制作スタッフからの評判が良い。職人肌なんだろうね。現場に欲しいとおねだりされてしまったよ。彼女のように、事務屋を知り、職人の仕事も分かっている人間は、どこで何をやっても小気味良い仕事をする」
今西部長の意表を突かれる高い評価。
「武内君、何もアイドルの素質を見抜いて自らプロデュースするだけが我々の仕事じゃないんだ。君を慕ってくる仕事仲間は多いだろう。しかし、真名子君のように中立もしくは敵対的な人間は少なくはない。そういう人間の能力を見極め、チームとしてどう貢献させるか、今回は君も勉強になったんじゃないかな」
武内Pは無言で頷いた。
アイドル育成の強化を名目として導入したプロデュースアシスタント制は、部内に緊張をもたらしつつも、デビューまでのアイドル育成期間の短縮や収益増加といった数字を伴った成果が顕れはじめている。
「難しい話はここまでとして、今日がデビューの奥山沙織さん、そろそろライブ開始の時間じゃないかな。彼女がアイドルになるところを見届けようじゃないか」
***
涙の後には また笑って スマートにね
でも可愛く 進もう
───短いアウトロが急速にフェードアウトする。
涙が溢れて担当の姿が視界で滲む。
ここが編集用の小部屋で良かった。感極まって泣くだなんて醜態は見せられない。
小窓からは撮影スタジオ中央にいる奥山沙織がただひとりいるが、トークが始まろうとする今、配信映像を映し出すモニターにはマイフィアーストスターと銘打たれた衣装を身に纏った奥山沙織と、白いワンピース姿の奥山沙織の二人がいる。
後者は映像の中にしか存在していない。
「めんけえ衣装で歌ってくれておーぎにな、おぐやまさん」
「皆さん、はじめまして。346プロダクション、シンデレラガールズプロジェクト4期生、奥山沙織です」
訛丸出しの奥山沙織、ここではおぐやまさんとしよう。
おぐやまさんのMCで奥山沙織が挨拶する。
「おぐやまさんはアイドルさなる為に秋田から出てきたんだって?」
「はい。出身は秋田県です。小さな頃からアイドルに憧れていて、私どうしてもアイドルになるんだって夢を叶えにきました」
「はえー。すんげえなあ。わたす、こんな間近でアイドルさ見るの始めてだ───ちょっとクルッと回ってみて」
「いきますよ」
その場でくるりと一回りする沙織。
ふわりと舞うスカートにおぐやまさんはしゃいで喜んだ。
「奥山さん、プロフィール紹介、お願いできますか?」
「んだな。ちょっと訛って聞き辛いかもしれんけど、皆んなよく聞いてぐれ。おぐやまさおり、19歳。秋田県出身。趣味は読書──」
読み上げられたデータが画面上に表示されていく。
身長体重スリーサイズも明示されるが、そもそもWebで公開されている情報なのでコンプライアンスの問題はない。
おぐやまさんが奥山沙織とトークを続ける。
上京して驚いたこと、カフェでのアルバイト経験談、レッスンでのあれこれ。
奥山沙織を知ってもらうためのいくつかのことを笑いを交えて語る。
「まんずまんず、もっと喋っていたいけんど、そろそろ歌のほうさいぐか」
「そうだね沙織ちゃん」
おぐやまさんと奥山沙織は頷きあって、正面に向かい一礼する。
二人は重なり合ってひとつになる。
「視聴している皆さんに届けたい曲があります」
「「聴いてください」」
───ああ、完璧な演出だった。
目頭が熱をもってしまって、新曲が終わるまで5分で治りそうにもない。
ならば、せめて涙はここで出し切ってしまおう。
本能の赴くまに南目指して飛び立て
朝焼けに染まる里を捨てて
つむじ風乗って舞い上がれあの高い空の極みへ
息する暇もないほど羽ばたいて南へ
Bメロが終わりサビに移るなか、真名子八重はただ涙を流し続けた。
ここまでをもって第一章とします。
続きはぼちぼち考えていきます。
つべのアイマス公式で『お願いシンデレラ』MVの配信始まったので観ろください(ダイマ
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