奥山沙織はアイドルになって声を届けたいようです 作:まきにゃん
「この案が346グループに最も利益をもたらす、という理解でよいのだろうか配信事業部長」
「はい、我が社もVtuberの発掘を手掛けておりますが、先行企業との差を考えますと協業といった方向に舵を切るのが適切であると考えます」
資料に目を遣ると、投入資本に対するリターンを予測したいくつかの事例が書き連ねられている。
市場規模が飽和するまでの残り時間は最長で10年。それまでに投入されるべき資本額の概算は事例ごとに振れがあるが、中央値で10桁に達すると見積もられている。
「この10年を半分に縮めてみせると?」
「単純な話です。成熟した市場に供給を飽和させ、先行企業の経営体力を削った後に資本参加する。我が社が過去行ってきた事を再現すればよいだけであります。Vtuberについて言えばまだ市場は成熟してはおらず、早期にシェアを獲得、その後の市場拡大よって速やかな資本回収が可能となるでしょう」
芸能の生産工場と呼ばれる346プロダクションである。一度シェアを獲得してしまえばあとは農作物を収穫するように安定した収益を得るのは想像に難くない。
「だが協業となると、346プロで現在抱えるVtuberの位置づけが曖昧になるが」
「彼らは配信事業部のビジネス広告塔として欠かせません。協業先に対する『サービス』の実現例としての重要性は高まりこそすれ低下することはないでしょう」
「…宜しい。この件は重役会で提議することにしよう」
「ありがとうございます」
説明を終えて配信事業部長が退出していく。
残されたのは分厚い資料。
「いやあ、角田さんはやる気に満ち溢れていますね」
同席していた今西部長は好々爺の笑みを浮かべて感想を述べた。
346グループにおいて長きにわたる社内政治を泳ぎきった彼は自分に累が及ばない限り温厚な姿勢から逸脱することはない。
「降って湧いた事業拡大策です。これで奮起しなければ腑抜けとして部長の座から追われるのも彼は理解しているでしょう。今西さん、この度は骨折り有り難うございました」
美城専務は軽く頭を下げた。
「下から持ち上がってきた提案をそのまま配信事業部に投げただけだから実質なにもしていないよ僕は」
「ご謙遜を」
これが野心家の人間であったら手柄を確保するべく自らが主導する案件として思うままに利用していただろう。でなければ、何か別の意図があるのか。専務として梃入れを図っている配信事業への助力など今西部長がするはずがない。
美城の疑問を察したのか、今西は言葉を重ねる。
「今回は、まあ、武内君にも他部署に顔を売ってもらいたくてね。顔は広いほうだが、アイドル事業という括りで小さく纏まっているきらいがある。彼の今後のためにもここは成長してもらわないと」
「そうですか」
「配信事業部のついでにアイドル事業部も少しだけ気にかけてもらえれば、僕としては言うことはないかな」
額面通りには受け止めかねるが、損得勘定としてはそう悪い要求でもない。
「アイドルといえば、今期のシンデレラガールズはいかがでしょう。夏フェスも終わって、報告の限りでは順調な業績と言えますが、今西さんの意見は?」
「専務の施策であるプロデュースアシスタント導入の効果は大きいよ。シンデレラ育成も速やかに進むし、制作現場との調整も細やかになった。ちょっと経費が増えたけれど概ね我慢できなくはないレベルさ」
「武内Pは明らかにキャパオーバーなのは明白ですから」
「だからシンデレラガールズの中核ユニット以外は手放させた。他のシンデレラは専属アシスタントを付けてコントロールに徹させている。これがなかなか面白い結果になっていてね」
「稟議の件ですか」
今西は頷いた。
瓢箪から駒というのはこういう事だろうと嬉しそうに言う。
「うちからデビューさせた奥山沙織さんの担当が彼女に惚れ込んでいてね、やりたい放題やってくれるものだから第2企画は妙なことになってるよ。アシスタントたちは誰もが角田さんみたいなことにね」
千川君と安曇君ぐらいしか冷静でいられる人間はいないんじゃないかなあと今西はぼやいた。
奥山沙織には何かあるのかと美城専務が問うと、にんまりと笑う。
「奥山さんは実に良い娘さんだよ。華やかさには欠けるけれども抜群の安定性がある。学生アイドルだとどうしても心的な問題でパフォーマンスが揺らぐことから逃げられないが、彼女にはそれがない。その1点で僕は評価しているよ。第2企画の安曇君といい勝負じゃないかな」
美城専務だってポエムバトルしないときだってありまぁす!
武内Pを批判する専務だってアイドルプロデュースを自分でしようとした黒歴史ありますよね。
経営陣としては実に有能な人だとは思いますが。
追記:目次に表紙絵追加しました
奥山沙織のデュオユニットの相方の属性は?
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キュート
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クール
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パッション