奥山沙織はアイドルになって声を届けたいようです   作:まきにゃん

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週末まで更新ないと言ったな。
あれは嘘だ。




耕運機。

「冬フェスはクラリスさんとのユニットとで、『Love∞Destiny』を歌ってもらいます」

 

真名子アシスタントのオーダーが入る。

ラブデスはキュート曲なのに重い歌詞の連なる歌だ。これをデュオで演じるのはともかくとして、恥ずかしながら私は恋愛の経験がないのだがどうなのだろう。

 

「そんなもの私だってありません」

 

アッハイ。

 

「ラブデスは恋愛の歌ですけれど、恋愛に限らず、何かに執着するものがあればそれに通づるものもあるんじゃないでしょうか。差し当たって奥山さんアイドルになる、アイドルであるのが執着の対象だと思いますけど」

 

分かり易い分析だ。

奥山沙織が皆のアイドルであり続けるのは私の存在理由とでも言って良いだろう。

執着そのものである私がラブデスを歌うのは必然ということか。

 

「奥山さんとクラリスさんのユニット名は『ヘゲモニア』に決めました」

「ハーモニーじゃねえんだな」

 

お判りになりましたかと真名子八重は笑う。

日本人では僅かな音の違いでしかないが、ハーモニー(調和)ヘゲモニア(支配)では意味するものは全く違う。

 

「私だけ見てと歌詞にあるように観客を支配してください。その上でクラリスさんとのユニットを成立させる。これが私からの宿題です」

「真名子さん厳しい」

 

そもそも一晩だけの限定ユニットだからと言ったのはあなたでしょう。

ここで課題を出されるとは思わなかった。

 

「歌ウマなアイドルがリストに残っている時点で地雷なのは明白じゃないですか。育成途上の子と能力差あり過ぎて誰とも組めない、そう考えるのが適切です。実際、クラリスさんの歌唱力に並ぶのは難しいと思いますよぉ」

 

つまり私にカマをかけようとしたと?

担当との意思疎通がまだまだ足りていなかったようだ。

 

「担当アイドルの成長を願うのは当然のことです。舞踏会、楽しんでくださいね」

 

 

***

 

 

クラリスに並ぶと簡単に要求されても、歌唱力というものは短期間で養われるものではない。

今までにボイストレーニングに合わせて理論も平行して学んできたが物理によるものは普段の積み重ねに依存する。クラリスは15年ほどの歌唱キャリアを誇るスペシャリストだ。付け焼き刃の剣を持つ私が今から鍛えても並び立つことすらできないだろう。

幸いなことにトレーナーという知恵袋がいるのだ。素直に助けを請う。

 

「正直なところを言えば、奥山さんはリアルライブの歌い手としては調律前の楽器みたいなもので、クラリスさんの相方を務めるのは困難ではないか、というのが私の感想です」

 

ぐうの音もでない評価であるが、自覚はしているので頷く。

 

「歌唱についてはともかく声を大きくステージに響かせる。感情表現を乗せるなどの、できることをやるしかないでしょう。その上で、今からでもできる視線誘導の技術を学んで、冬フェスに間に合わせるしかないですね」

 

明トレーナーはホワイトボードにマーカーで書き込む。

視線誘導。ステージで演者ができることと、できないこと。

 

「まずは出来ないことから。ステージはとても広いですが、実はアイドルにとって利用できる範囲というのはとても狭いのです。全体曲などをイメージしてください、アイドルがたくさんいて、動ける範囲は安全間隔をとってせいぜい半径3メートル。腕を伸ばすことも考慮にいれると、起点から1メートルしかありません」

 

マイクを持った棒人間から隣の棒人間の3メートルと1メートルの線が書き足される。

 

「直径2メートルの円のなかでできる動きといえば、歩いて往復8歩。身振り手振り。それ以外はできません。『Love∞Destiny』はそもそもダンスが激しい曲ではありませんから、ステージを走ったり跳ねたりすることはなしですね」

 

走るな跳ぶなと棒人間が鎖で地面に繋がれる。

 

「おそらくは照明を暗くしたステージ中央で2人並んで固定スポットライトを上から当てられた状態での演技となるでしょう。動ける範囲はスポットライトで明るくなった床の広さだけ、というのはある意味解りやすくて簡単です」

 

頭上にダウンライトが描かれ、円錐が棒人間を包む。

失敗するとキャートルミューティーションされそうだ。

 

「次はできることにいってみましょう。しゃがんだりががむ。立つ。前に進む。後ろへ下がる。演者の体を大きく見せたり縮ませる効果があります。右に歩く、左に歩く。円を描いて歩く。この3つの位置移動。身振り手振り。顔の向きを変える。足踏み。これらは感情表現も兼ねます」

 

とりあえずこんなところでしょうかとトレーナはマーカーを動かす手をとめる。

 

「できることできないことを守って、その上で観客の視線誘導をします。自分に注目してもらいたいときは客席に顔を向ける。クラリスさんに注目してもらいたいときはクラリスさんを見る。感情をアピールしたいときには身振り手振りを添えて強調」

 

過去のライブ映像を参考に見ながらダンス演出を仕上げていきましょうねとトレーナは笑顔になった。

これは大仕事になりそうな予感がする。

 




候補4人の中から、クラリスさんの得票が多い状態で投票行動が止まっていたので、限定ユニットは奥山沙織クラリス組の『hegemonia(ギリシャ語)』となります。

ちなみにこれが詩織さんだと『織姫』で流星浪漫、翠さんだと『高山流水』でさよならアンドロメダ、智香ちゃんだと『Equal(156の語呂合わせ)』でSnowLoveの計画でした。

投票ありがとうございました。
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