奥山沙織はアイドルになって声を届けたいようです 作:まきにゃん
でも駅から自動車で1時間とかこれまた判断に難しいテキストあるんですよね。
実家が稲作農家だと山間部というのは流石に難しいんで、三関駅の4km圏内を想定しました。
設定ガバすぎんだろちひろ。
アイドルとは過酷な職業である。
歌って踊って笑顔をみせて、野外ロケともなれば炎天下や極寒のなかでも長時間の待機を強いられる、まるで日雇い土木労働者ではないかという身体の酷使が当たり前の、とても因果なお仕事。
華やかな芸能界のなかでも特に競争の激しい職種であり、憧れでこの道を選ぶ少女は多い。容姿が優れているのは当たり前で、オーディションで篩にかけられ、数多のなかから掬い上げられた上澄みでさえ、アイドルとしてデビューしたのちに芸歴を重ねられるのはごく僅かというのは冷徹な事実である。
そこでまず必要となるのが体力。
24時間は戦えないけれど(そもそも未成年者の就業には制限があると法が定めているが)長時間労働でのパフォーマンスを可能にする持久力は最低限でも備えておくべきであるし、不意の怪我のリスクを低減するには柔軟な身体も作らねばならない。
奥山沙織となった私は高校進学を機に基礎体力をつけるべくトレーニングを習慣づけた。
中学校在学時から始めればよいのではないかという意見もあるが、アスリートになるわけでもなし、身体が成熟する前に負荷の強い運動を重ねるのはむしろアイドルとしての成長が歪むのではないかというのが私の持論だ。
よく食べ、善く体を動かす。
正道に勝るものはないのだ。
「おぐやまさー、もう帰りけ?」
クラスメイトが声を掛けてくる。
「家さ遠いのに自転車使わねで通学とかすげえな」
「んなことねえよ。へばな」
「うん、けっぱれ」
制服からジャージに着替えて、軽くストレッチで筋を念入りに伸ばす。
女子の関節の可動域はそもそも広い。無意識のうちに割座、いわゆる女の子座りを自分がしていたときなどは驚いたものだ。
ゲームのなかでは沙織はアイドルとして求められる最低限のトレーニングを行っている節しかなかったが、せっかく転生したのだ、関節と体幹を強化してパフォーマンスを上げていこう。股割りなどの高度な施術はオーディションを通ったあとのために敢えて残しておく。筋断裂の痛みにはトレーナーの介添なしに独りだけで耐えられる気がしない。
充分に身体をほぐしてから鞄を背負う。
教科書ノートそして制服程度の荷重なら苦にもならない。
教室から昇降口へ、そして下駄箱から運動用のシューズを取り出して上履きから履き替える。
校舎から出るとすっかり春めいた湯沢の町並みが広がっていた。
町並みとはいっても商店や住宅が緩やかに寄り集まっている典型的な田舎の風景。
ともすれば緑に浸食され、冬になれば白に塗り潰される。
友達とちょっとした遊びに行くにも電車に揺られて駅を幾つか乗り越していかねばならないのは如何なものだろうか考えてしまうし、クラスメイトもそう思っている子が多いのだろう。田舎から出たい、都会で暮らしたいと考える進学志望の子は圧倒的に多い。
私は走りながら思う。
周りの子からは自分はどのように見られているのだろう。
真面目に授業を受けているが進学を目指すでもなし、かといって就職あるいは家業を継ぐようなそぶりもなし、運動はそこそできるようだが部活動に所属せず、雑談などにも応じるが特に親しい友人もいない、掴みどころのない垢抜けない女の子、といったところか。
地縁に連なった学校生活で君達と人生が交差しているが、どこか記憶の片隅にでも留めておいてくれ。
高校卒業と共に離ればなれになるだろう。
だが、いつかまた何処かで出会うはずだ。
それはテレビやラジオか、ソーシャルメディアかもしれない、人によっては面と向かって言葉を交わすこともあるだろう。その時、その瞬間に、この奥山沙織を思い出して、盛大に驚いてもらいたい。
お前、アイドルになったんだって!?とね。
雄物川に突き当たると南に折れ、川の土手をひたすらに走る。
川面で冷やされた風と、私の額に浮かんでは雫となって流れ落ちる汗。
人通りも疎らで音楽でも大音量で撒き散らしても左程迷惑でもないだろうと思い立ち、スマートフォンを操作する。
選んだ曲は、お願いシンデレラ。
基礎体力の強化に努めたおぐやまさんのステータスが変更となりました。
体重 47kg→53kg(NEW
B-W-H 83-57-81 → 85-58-83(NEW