奥山沙織はアイドルになって声を届けたいようです 作:まきにゃん
『新しいアイドルのカタチ』を掲げて芸能界に大勢のアイドルを送り出す346プロダクションは芸能事務所としては戦前から続く老舗中の老舗、名前だけは知っているという一般人もいるだろう。
ただし、アイドル事業に関して言えば、業界においては若輩といってもいい。
元々は講談や新劇の興行から手掛け時代の移り変わりとともに歌謡や漫才など時々の流行りに手を伸ばし、徐々に事業の裾野を広げてきた346プロダクションだが、アイドル部門を立ち上げたのが5年前という驚くべき遅さである。
アイドルが流行しだしたのはバブル経済期からなので経営判断遅すぎるだろうと思わずにはいられないが、これは346プロダクションの癖でもある。
市場が充分に成熟した時点で参入し、入念なマーケティングを実施したうえで商品を大量供給する。
顧客を幸せという名の柵で囲い込みドミナントを形成するのだ。
手堅く商売をすると言い換えてもいいだろう。
数多いる同業他社と比べて圧倒的な資金力を有し経営体力は群を抜いて強く、ノウハウがない分野でも知恵は札束を使ってでも入手に躊躇しない。
傘下のスタジオやスタッフは数知れずコンテンツを内製し安価にかつ迅速に供給する。いわば芸能の生産工場だ。
赤煉瓦を贅沢に使った壁には彩光のための背の高い窓が設けられており、アン女王建築様式を近代風にアレンジしたアイドル事業部屋舎をして美しい城と訪れた者を感嘆させる、人とカネを注げばアイドルを生産し続ける資本主義の牙城。
今日もまたこの城で、魔法使いたちが灰被りを謁見する。
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「おはようございます。本日は当364プロダクションの開催するアイドルオーディションにご参加いただきありがとうございます」
蛍光緑の制服に身を包んだ女性が挨拶する。
「私はアイドル事業部でアシスタントを務めます千川ちひろと申します。オーディションで皆さんの案内役をさせて頂きます」
千川さんは深々と頭をさげた。
たくさんのアイドルの卵を前に彼女はとても上機嫌そうだ。目尻が下がりっぱなしである。
「皆さんは既に書類選考と歌唱とダンスの提出課題を経て選び抜かれています。アイドルまでもう少しですよ、自信を持ってオーディションに臨んでくださいね」
オーディションは実質的に面接であるという事を述べて、その前にリラックスのためにオーディション参加者で3人組になって自己紹介を兼ねたディスカッションの時間を取ってあると告げた。
いきなり難易度を上げてきたな。
ぼっちにはまず仲間を得るのが難しいし、コミュ症の子は自己主張がそもそもできないか、ハードルがベルリンの壁の如く高い。そもそもアイドル志望の子はコミュニケーション能力が高い傾向にはあるが、議論することに慣れていない日本人にとってこれまた手厳しい課題となるだろう。
見当通りなら監視カメラと隠しカメラでディスカッションをモニターして、何処か静かで空調の良く効いた部屋で審査員が難しい顔をしながら考査をつけているはずだ。
問題なのはこのディスカッションは配点はどこに重きを置いているのだろうというところ。
自己主張と議論の主導権を獲りにいく積極性なのか、調整と合意の形成を目指す調整能力か、あるいは何事にも揺るがないパーソナリティなのか。こればかりは採点者の好みにも左右されるため山を張るしかない。
私は同席になった2人に声を掛けた。
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「秋田県から来ますた。奥山沙織19歳だす」
凄い訛りだと思った。
奥山がおぐやまに聞こえるぐらいに濁った自己紹介を披露されると、薩摩訛りを気にして努めて標準語を喋ろうとしている自分って何だろうと思ってしまう。
「ちっちゃい頃からアイドルに憧れで、わだすオーディションさ応募しますた。どんぞ仲良ぐしてけれ」
綺麗なお姉さんが方言丸出しとかギャップ萌えで親しみやすい。
最強かな?
元気だけは負けないように張り切って自己紹介しよう!
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「若林智香です!鹿児島県出身、17歳です!!
チアリーディングやってます!バク転できるのが自慢です!」
ふーん、そうなんだ。
同じ卓に着いた2人の自己紹介を聞いて正直、勝ったな、と思った。
山出しの田舎者とお猿さんみたいに騒がしそうなのが相手なら蹴落すのも簡単だろう。
このディスカッションの時間すら無駄に思えてもどかしい。
若干苛つきを覚えながら私は口を開いた。
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「和泉静香、14歳です。神奈川県に住んでいます」
元気な智香ちゃんの挨拶のあとは、静香ちゃん。
つまらなそうな表情が垣間見えるがもう既にオーディションは始まっているのだ、魔法使いたちは水晶玉でこちらの様子を窺っているぞ。笑顔、笑顔だ。共に楽しく時間を過ごそう。
「智香ちゃんも静香ちゃんもしったげめんけえなあ。よろしぐな」
「はい!よろしくお願いします!」
智香ちゃんはパーソナルゾーンを詰めてくるタイプだろうか。声が大きくて、押し出しがよい。学校では勘違いする男子が続出するだろう。
実にアイドル向きの子だ。
「ディスカッションの題は『男の子に告白された時の上手な断りかた』とありますが、何でしょうこれ気持ち悪い」
静香ちゃんは手元にあるペーパーを汚物を見るように眉を顰めている。
うん、女の子からしたら異性は理解不能であるからには、まずは嫌悪感が先走る、それは仕方がない。
「お断りします、と強く拒否すればいいのではないですか?」
「どうしよう私急に告白されたら頭真っ白になっちゃってどうしたらいいかわからなくなっちゃう」
「若林さんはまず落ち着いてください」
設問が状況設定もなくただ投げられているのは一般論で切り返すという技も使えるが、ここはアイドルオーディションであからには状況に肉付けしても差し支えないのではなかろうか。
他の卓でもざわついているので、何やら似たような嫌らしいお題を与えられているのだろう。
「まんず、わだすらがアイドルだったら、そもそも断っていいんだべかね」
「どういうことですか」
静香ちゃんが睨みつけてくる。
そう怖い顔しないでくれたまえ。可愛い顔が台無しじゃないか。
これは単なるブレインストーミングだ。
「男の子さ告られたけど断ったら角が立つんで何とかあしらうしかねえ、ってな事かもしんねし、告白じゃなくて事務所から頼まれた仕事やりたくねって読み替えてもいいんでねか?」
さて、覗き見している審査員の諸君。
私たちは限られた時間のなかでより多くの案を出そう。
君たちはこれを全部受け止めてくれるだろうか。
オーディションのディスカッションで相席の子は
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2人ともオリジナルのモブ
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ゲーム登場のアイドルとオリジナルのモブ
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2人ともゲーム登場のアイドル