奥山沙織はアイドルになって声を届けたいようです   作:まきにゃん

7 / 31
メンタル弱弱社会人が脳を焼かれるってのは尊いことだと思います。



●除草。農薬は用法容量を守って使用すべき。

アイドルは標準偏差から外れているかと問わればそれは否である。

人が人である限り、容姿も声も運動能力も、分布曲線の中に収まるべくして収まる。

勿論のこと346プロダクションで開催されている今次オーディションでも各種数値はデータ化され、概ね+1σから-1σの範疇に留まっている。身長2mを超える巨人もいなければ1mに満たない小人もいない。容姿も10人並みが粒揃いだ。缶コーヒーを握り潰せるような子も、箸も持てないような非力な子も1次考査で排除されている。

 

この普通の女の子たちの中からデビューさせるべきアイドルを選べ、となるとこれが難しい。

同じ第2企画の上役となる2人のプロデューサーときたら「笑顔です」だの曰ったり、総合職で346プロに入った社員をアイドルにしやがりました。なんぞそれふざけてんのかお前ら全然参考にならないんですけど!

 

「どうです、有望そうな子いますか?」

 

大先輩の千川さんが私が睨めっこしているパソコンを覗き込む。

とても良い香りがする。しゅき。

 

 

【挿絵表示】

 

「うーん、わかりません」

「即答ですか」

「だって選抜何度もパスしてきてる子たちですもん、誰がアイドルになってもおかしくないですよお。ひと通りデータシート洗ってみましたけど、この中からお前1人選んでマネージメントしてみろって言われても無理ですって。それに───」

 

「それに?」

 

千川さん綺麗だな。

何でこの人アシスタントなんかやってるんだろアイドルがお似合いでしょ。

 

「面接でお話しなんかしたらみんながみんな大好きになって1人だけなんて決められるわけないじゃないですか!」

「八重ちゃん」

 

そう残念なモノを見るような目で私を見ないでください。

心が死んでしまいます。

 

「私の人を見る目は機能しませんけれど、今やってるディスカッション、全ての組をリアルタイムでAlに数値化させてます。大学の時に作ったやつなんですけど割りかし精度良いんで、徹夜で考えたプログラム載せてみました」

 

いわゆる現代版どれにしようかな。

人工知能の言う通りってやつだ。

 

「口や目の動き表情変化を評価させてるんで10分ぐらいすれば私が面接すべき子を公平に選んでくれるはず」

「もしかして、AIが選んだ候補者しか面接しないつもりですか?」

「もしかしなくてもそのつもりです」

 

私は眠気覚しのスタミナドリンクを一気飲みした。

 

「私はこんな性格ですから選べません。だから機械に選んでもらった子を選びます。それ以外の子は運が良ければプロデューサーが拾うか、他のアシスタントが選ぶでしょうから無問題ですよお」

 

 

***

 

 

通された応接室には千川ちひろともう1人のアシスタントの女性が待ち構えていた。

冷房は強めに稼働しており、ミーティングで暖まった体を冷ますのにちょうと良い塩梅だ。

 

「改めてまして、アイドル事業部の千川ちひろです。よろしくお願いします。そしてこちらがマネージメントアシスタントの真名子八重です」

 

真名子と呼ばれた女性が無言で頭を下げる。

寝不足だろうか目の隈が不健康そうな印象を受ける。

大丈夫だろうか?

 

「真名子からいくつか質問がありますので答えられる範囲内で結構です、話して頂ければと思います」

「わかりますた」

 

真名子八重は手元のノートパソコンに視線を落としたまま口を開いた。

 

「奥山さん、ディスカッションではあなたの組はだいぶ議論が盛り上がっていたようですが、何故でしょう?」

 

初対面同士、緊張をほぐして意見を出しやすいように、少しばかりスキンシップを交えたのだ。

 

「智香ちゃんが、ひとつ案を出したらおめでとのハイタッチすんべって、やってみたらどんどん口が回るようになって楽しかったな」

「良いですね」

 

真名子アシスタントは言葉とは裏腹に苦虫を噛み潰したような表情だ。体調が悪いのだろうか。幸いなことに私は月のものは比較的軽いので共感しづらいところがある。

 

「何度か手を握っていましたが」

「考えがまとまんねときには手さ握って告白の真似事しますた」

 

数秒、彼女の動きが止まった。

もしかしてやり過ぎてしまったのだろうか、若林さんにあてられて自分もはしゃいでしまった感がある。

 

「───、最後にもうひとつ質問です」

 

 

***

 

 

「お疲れさまでした。本日のオーディションの結果については後日、おそらく今週中には結果をメールアドレスにてご連絡させていただきます」

 

奥山さんにカフェテリアの利用チケットを粗品として持たせて応接室から送り出すと、そっと扉を閉めた。

 

「八重ちゃーん、生きてますかー?」

 

後輩アシスタントは惚けている。

目の前で手を振っても反応も示さない。

 

これは死んでますね。

 

医務室からAEDを借りてくるべきか考え込んでいたら、どうやら息を吹き返したようだ。ひきつけを起こしてはいるが、意識は戻っている。

 

「戻ってきて良かった。ゆっくり息を吸って吐いて、落ち着きましょうか」

 

背中をさすり、お茶を咽せないように少しずつ飲ませると、ようやく人心地ついたのか、後輩は喋りはじめた。

 

「なんですかあの訛りの酷い可愛い生き物は。いきなりブレインストーミングはじめたと思いきや全てのミーティング組をぶっちぎっての盛り上がり」

「周りは引き気味でしたね」

「オーディションなんていう極度の緊張下、知らない人と喋れってだけで難しいのに、どんだけコミュ能力高いんですか。採取したデータも軒並み異常値でしたよ」

 

ノートパソコンに表示されたグラフを見せられると、そこには平均的な分布から離れた高いところに星が輝いているのが分かる。

 

「思考速度、パーソナルゾーンコントロール、意識誘導、美少女の中身は熟達した詐欺師か心理学者じゃないかって思うほど、奥山沙織はアイドルになれる素質を備えています」

「表現がアレですけど、要は合格ということですか」

 

真名子アシスタントは頷いた。

 

「奥山沙織は私がマネージメントすべきアイドルです。いや、私のアイドルです!おぐやまさんだいしゅき!!」

 




当作においての346プロアイドル事業部はかがたにつよし氏作『アイドルは労働者(仮』を参考にしつつ、プロデューサーの下にアシスタント(マネージャー)が配置されるように設定しました。

第2企画においては、フラッグシッププロジェクトの太陽を背負いし覇王には安曇玲奈がアイドル兼務で、シンデレラプロジェクトの黒き森の魔王に千川ちひろがアシスタント(エクゼクティブアシスタント)として補佐し、更にその下に複数のアシスタント(マネージャー)が付随している感じです。

4/15追記
真名子八重のイメージを追加しました

登場させたいアイドル

  • 奥山沙織とユニットを組んだアイドル
  • コミュやデレ劇で接点があったアイドル
  • オリジナルキャラのアイドルや候補生
  • 千川ちひろをアイドルに
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。