ポケットモンスター 始まりの合図   作:ウミガメ2号

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間話 前日

 仕事終わり、帰宅した女性はさっさとシャワーを浴びる事にした。最近出張に出ていたおかげで、帰ってきたら仕事が山になっていた。

 元々忙しい役職だが、今回の様に色々と重なると一気に仕事が溜まってしまう。いつもより疲労感を感じながらも、明日も仕事の山に向かわなければならないことにため息が出た。

 

 シャワーを頭から浴びる。白い肌に滑らかな長い緑の髪が滴った。ゆっくり湯船に浸かるよりも、早く寝たい。

 今日はシャワーで済ませることにした女性は、手早く頭と身体を洗った。

 下着だけ身につけ、まだ湿った髪をそのままに冷蔵庫から炭酸水を取り出し口を付ける。ビールがいいが、明日も仕事だと思うと自然と控えようと思った。

 シュワシュワとした炭酸が喉を刺激する感覚が心地よい。喉を潤しながら、髪を乾かそうとした時にロトムが鳴った。

 仕事終わりに誰だ、と億劫になりながらも画面を見る。画面に出た名前を見て億劫な気分がすぐに消え、コールが鳴り止む前に画面をタップした。

 

「夜遅く悪いな」

「いや丁度ゆっくりしとったとこや。そっちも今は朝やろ? 朝早くにどないした?」

「いや、知らせたい事があって」

「おお、何やねん? あ、あの話か?卒業したらウチで働く」

 

 出張で会った際に話した事を口に出してみるが、何となく違うだろうなと思っていた。彼はそんな奴じゃない。

 勿論一緒の環境で働く事が出来たら喜ばしいことだ。彼は有能だし、仕事もすぐ覚えるだろう。組織の中で頼りになる存在になる事が出来ると確信している。

 だが、それよりも個人的そうなったら嬉しい。そう思えるからこそ、彼はこの話を蹴るだろうと思っている。

 

「ポケモン博士を目指すことにした」

「……はは、そうなんやな」

「ああ……心配かけた」

「心配しとった。けど、もう大丈夫なんやな?」

「今度、パルデアに行く時必ず顔を見せる」

「なら良い」

「悪いな、わざわざ用意してくれた席を」

「いや、そんな気がしとったわ」

 

 嬉しい。一緒に働けないのは寂しい。けど、嬉しいが勝る。彼の答えが彼らしかったから。

 それだけで充分だった。彼が苦しんでいたのは知ってる。彼らしさが失われていくのを見ているのは辛かったし、彼がそのままパルデアを離れてしまうのが悲しかった。

 だが、それも終わりらしい。まさしく、彼女の言った通り。

 

「ほな、会えるの楽しみにしとるわ。来る時は連絡して。必ず空けるわ」

「ああ、必ず連絡する。ずっと心配かけてすまなかった」

「トキワがええなら、それだけでええ」

「ありがとう、チリ」

 

 名残惜しさが募ったが、最後はあっさりと通話を切る。長話になると切りたくなくなるから、努めていつも通話はあっさりと切る。

 通話が終わった後の画面を暫く見つめる。指はつい写真のフォルダを開いた。開くと彼と二人で撮った写真がずらっと並ぶ。

 彼は自分がこの仕事に就く前に一時共に旅をした間柄だった。自分の方が歳上なもので、いち早く社会人として生活する様になってから、一緒に過ごす時間はかなり少なくなった。

 それに、彼はその間に良い出会いもあった様だし色々諦めていたのだ。

 

「立ち直るってアオイは信じとったんやなぁ」

 

 彼が心奪われた女性は信じていた。きっと立ち直ると。随分男らしい女性だ。あれでまだ学生の歳なのが信じられない。

 

「にしても、また良い出会いしてもうたか」

 

 彼が立ち直るキッカケを作ったのは、あちらの地方の誰かだろう。親では恐らくない。

 どんな人物か、わからないが何となく確信を持ちながら思った。

 

「女……かなぁ」

 

 良い女を自称している彼女は思う。良い女の勘は当たるものだと。

 急にアルコールが欲しくなった彼女は冷蔵庫からビールを取り出すと、勢いよく喉に流し込んだ。

 

 

 *

 

 

「ここがトキワの森かぁ、はじめてきました!」

 

 学校が休みの日を利用して、リコとトキワはこの森に来ていた。

 トキワの森。トキワシティとニビシティの間に位置する、カントー地方では中々有名な大きな森である。

 特訓にこじつけて、リコは一度来てみたかった。中は迷路上になっているらしいが、空を飛ぶポケモンがいれば迷っても抜ける事が可能だ。

 トキワもいるし、安全面は大丈夫だろう。安心してバトルの練習ができる。野生のポケモンと戦うのは特訓にうってつけだ。

 それに単純に彼の名前にもなった場所に興味もあった。

 

「なんで、この森の名前を付けたんだろ」

「ああ……一度聞いたことあるが。何と言ったら良いかわからん理由だったな」

「どんなです?」

「……お互い、初恋の人と出会った場所なんだと」

「わぁ!」

 

 なんだかロマンチックに感じる。トキワの両親はこの場所ではじめて恋心を持ったということらしい。

 息子の名前につけるくらいだから、リコが思っていたよりも思い出深い場所なのかもしれない。

 

「お互いの初恋が実る事はなかったがな」

「そうなんだ……それでも二人にとっては大事な場所なんですね」

「二人が惹かれあった理由も、初恋の人に似てたからってよ……なんて言ったら良いか困ったもんだ」

「あはは……」

 

 そこまで初恋が強烈に焼き付いていたのなら、どんな人に恋したのだろうとリコは気になった。

 

「初恋の人はどんな? 聞いたことあります?」

「母さんは情熱的で真っ赤な炎みたいな人に。親父は明るく優しく太陽とか向日葵みたいな人に……らしいが」

 

 抽象的過ぎんだろ、と呆れたようにトキワは言った。

 

「どっちもまだトレーナーとしては駆け出しの頃で、この辺りのポケモンにも苦戦するレベルだった。そんな時に助けてもらったんだとさ」

 

 まさかシチュエーションまで一緒とは。なるほど、そこまで似ていると話も合ったのが想像できる。お互いが初恋の人に似ているなら、親密になるのに時間もそう掛からなかったのかもしれない。

 もう一度トキワのペンダントを見る。やはり何度見ても綺麗な緋色だ。そういえば緋色という色は黄色味がかった赤色のことらしい。

 まるでトキワが先ほど話した、両親の初恋の人たちの印象が混ざったみたいで、なんだかロマンチックだなと思った。

 

「俺のことも守ってくれる様にってな。詳しくは知らないが、どっかの遺跡だがから発掘されたものみたいなんだが」

 

 そう言って、トキワがバックに付けている緋色のペンダントを手に取って語った。

 思わずリコも首に掛けていたペンダントに触れる。何だか暖かい気分になっていた。

 

「お前のペンダント……今まであまりちゃんと見たことはなかったが」

「そうでしたっけ? そういえば、服の下にいつも入れてるからかな」

「……綺麗な色だな」

「そ、そうですか?」

 

 何故か自分が褒められた様な気分になる。大切な物を褒められるのは素直に嬉しい。このお守りをくれた祖母の事さえ認められている様だった。

 

「先輩のも、綺麗です」

「やめろ、俺には似合わん」

「そんなことないのに……」

 

 似合ってる。黒い髪と瞳が揺れる様は綺麗だし、その中に緋色が入るとより際立って輝いてみえる。

 彼の相棒のヘルガーが炎を吹いたとき、炎に照らされるトキワは妖しい色気が漂っていたのを覚えている。

 何で男性なのに色っぽいんだろ――。

 子供ながらに思う。クラスの男子達とは違う。何なら上級生の男子にもこんな人はいなかった。

 特別だから、そう感じるだけかもしれないが。それを抜きにしてもトキワにはそう感じさせる雰囲気があった。

 

「……なんだ、急にジロジロみて」

「え、いや何でもないです!」

 

 ほら、こうしてつい見つめてしまうのだ。こんな事、他の男性にはならない。なったことがない。

 そう思うと気恥ずかしくなった。誤魔化すように、リコは違う話題を口にした。

 

「先輩の旅のお話し聞かせて下さい」

「旅の話?」

「はい、ずっと聞いてみたかったんです! 私は旅なんてした事ないし」

 

 ここに来てトキワに合わなかったら、旅をしてみたいとも思わなかった。

 だがリコは旅をしたくなった。祖母の血がそうさせるのか、リコの祖母は冒険家だった。幾つになっても、いつも明るく元気に笑いながら世界各地を回っている。

 リコには間違いなく冒険家の血が流れている。この地方に来たのも、その影響が少なからずあったのだろう。でなければ、わざわざパルデアを出る必要もなかったはずだ。

 

「話しても良いが、どこから話すか……」

「旅の最初からでもいいですし、印象深いところからでも良いです」

「印象深い、か。いつも濃い内容だった気がするな」

 

 トキワは適当に座ることが出来そうな切り株を見つけるとゆっくり腰を下ろした。

 リコもトキワの隣に座る。横顔を見ながら、トキワが語るのを静かに聞いた。御伽話を聞くように、リコは目を輝かせて耳を澄ませた。

 もうすぐ自分も旅に出ることになるとは、この時はまだ思っていなかった。




ここまで読んで頂きありがとうございました。
アニメを見始めた時は既に60話ほど放送されていたので、全部書くのは無理だなと思いアニメの1話だけ書こうして、このストーリーを考えました。
1クールアニメ仕立ての12話構成にしてみようと思い、どうにかまとまったのか? やっぱり畳むのは難しいですね。
取り敢えずはここまで書けたので満足しました。改めて読んで下さった方、ありがとうございました!
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