ポケットモンスター 始まりの合図   作:ウミガメ2号

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3話 ロイ

 カントー沖合の島。青空の太陽が照りつけ快晴の日、森の中をロイは元気よく歩いていた。太陽の下を駆け回ったことで褐色に焼けた手足を大きく振り、どんどん森の中を闊歩する。

 天気が良いことでいつもよりロイは機嫌が良かった。暫く歩くと座るのに丁度良さそうな切り株を見つける。今日はここにしようと決めた。

 

「よし、準備完了!」

 

 切り株に腰掛け、スマホロトムをバックから取り出し浮かべる。もうすぐ授業の時間だ。島に学校がないため、ロイはこうして通信教育を受けている。スマホには他の生徒の顔が映されている。先生はまだ来ていないらしい。

 

「おはよ! 今日もよろしくね!」

 

 朝の挨拶を交わすと、他の生徒たちが近況を教えてくれる。何でも親からポケモンをもらったことや、実際にゲットした生徒もいる。

 

「皆はもうポケモントレーナーか。早いなぁ。僕の島にはトレーナーはいないし、どうしようかな」

 

 これが最近の悩みどころ。島にはトレーナーがいない。ポケモンの捕まえ方はもちろん知っている。バトルで相手を弱らせたりしてボールで捕獲する。そんなことはわかっているがどうポケモンを持たないロイには出来ないことだ。

 焦っている訳ではないが、ロイには以前からやりたいことがあった。バックの中にいつも入れてある古いモンスターボールを手にし、いつか相棒のポケモンと出会える日を楽しみに待っていた。

 

「きっといつか会えるよ。それもそんなに遠くないって思ってる」

 

 熱い思いを抑えつつ話していると、先生の姿がスマホに映る。どうやら時間になったようだ。

 先生からの挨拶に元気よく答えると、行儀良く座り直し授業を聞き始めた。これもトレーナーになるために大事なことだからだ。

 

 

 

 

 まもなく正午だった。

 リコは船でポケモンたちの世話をしながらフリードとトキワの帰りを待っていたが、ポケモン達の中にホゲータの姿がない気づいた。

 船を探してもどこにもいない。ニャオハにも手伝ってもらった結果、匂いが船内にはないようだった。つまり船の外。デッキを見るとなんだか爪でひっかいたような跡が船外に続いているのを見つけ、落ちてしまったのかもしれないと思い、ニャオハと一緒に探しに行くことにしたのだ。

 

「どこ行っちゃったんだろう」

 

 ニャオハが匂いを辿ってくれているが未だ見つからない。暫く歩くとニャオハが足を止めて、木の幹の下に頭を突っ込んだ。

 見れば木の実を食べた跡がある。どうやら此処にホゲータはいたようだ。

 

「近いのかも、ニャオハまた匂いを……」

 

 口にした瞬間、リコの背後で物音がした。

 

「ホゲータ?」

 

 期待して振り返ったが、視界に入るのは複数の草ポケモンと虫ポケモンだった。

 甲高い鳴き声から怒っているように見えた。一瞬ひるんだリコだったが、すぐに声を無理矢理出して、ニャオハを言った。

 

「ニャオハ! 逃げるよ!」

 

 後ろに向かって走ると、背後から追いかけてくる音や糸を飛ばしてくる音が聞こえる。

 こんなことならトキワに連絡してから来れば良かったが、今はそんなこと考えている暇はなかった。

 

 ロイは授業を終えると探検するのが日課だった。探検といっても森の中に作った秘密基地や沖合に出て浜辺を回ってくるだけの探検だ。

 ほとんど毎日行っているが、毎日景色は変わらないし、見つける物も変わりない。

 探検と言うよりパトロールと言った方が正しいかも知れない。だが今日は普段見ない物が多く見つかる日だった。

 沖合では船を見つけた。飛行船だ。見たこともない物だった。おそらくあの船の物だが旗も見つけた。そしてなにより見たことがないポケモンも見つけたのだ。それが、今目の前にいた。

 

「お前、もしかしてあの船から来たのか?」

 ホゲ__。と間の抜けた声でポケモンは頷いた。

「だよな! お前みたいなポケモンみたことないし、なんかすごいな!」

 

 見たこともないのだからそう思っていた。つまりあの船のトレーナーのポケモンなのだろうか。それにしてはトレーナーの姿がないが。

 それにしても凄い。あのような大きな船で旅してるなんて考えただけでワクワクしてくる。

 

「なあ、それよりさっき歌ってたろ? 聞かせてくれよ、いいだろ?」

 ホ、ホゲ__。と困ったように、もしくは照れたように彼か彼女かわからないが、ポケモンは鳴いた。

 なんだか可愛いやつだな__。

 ロイの持ち前の人なつっこさはポケモンに対しても同様だった。こういった所はロイの魅力の一つだった。

 

「良い声じゃん!」

 

 笑顔で真っ直ぐな瞳はホゲータを安心させるには十分なものだった。

 気づけばロイとホゲータは一緒になって歌い出していた。

 まもなく、その歌の中に少女の悲鳴が紛れた。

 

「……これは、森のポケモン達が怒ってる」

 

 少女の声は遠くない。この少女の声も聞いたことがない。島民のことは皆知っている。そのどれとも違う声。目の前にいる慌てだした赤いポケモン。

 

「はは、本当にいつもと違うことだらけだ」

 

 ワクワクしている自分がいる。駄目かもしれないが、日常から非日常に近づいたような感覚がロイにとってはたまらなく刺激的だった。

 ロイはすぐさま駆け出す。ポケモンを倒したりすることはできないが、ずっとこの島でポケモンとともに暮らしてきたロイにはしっかりと対応の仕方が身についている。

 

「お前も来なよ!」

 

 後ろから赤いポケモンが着いてくる。ロイは悲鳴の主の元へと急いだ。バッグの中で古いモンスターボールが何かに呼応するかのように光っていたが、駆け出していたロイは気づかなかった。

 ポケモン達の鳴き声が近づいたのを感じたロイはすぐさま木に登る。見つからないようにするためだ。器用に枝から枝に飛び乗っていくと、走る少女が見えた。

 

「こっち!」

「えっ!?」

 

 急な呼びかけに少女は戸惑った様に周りを見回す。すぐにロイを見つけ、決断したようにロイの元へと走った。

 

「それ! これでも追っていきな!」

 

 ポケモン達が聞こえるように石ころを木に向かって投げつける。リズム良くぶつけ続けると、足音と勘違いして音の鳴る方へとポケモン達は走り去っていった。

 

「早く、今のうちに!」

「誰って言ってる場合じゃない。ニャオハ、行くよ!」

 

 少女と彼女のポケモンは木に登ると、先導するロイと赤いポケモンの後を追った。

 

「あっ、っていうかホゲータ見付けた!」

 ほげ?__。

 はは、面白いなぁ__。

 

 ロイは胸の中の退屈が消え去っていく気がした。

 

 

 

 

 日が照りつける中、森を抜けたリコとニャオハは

息を切らして地面へと座り込んだ。

 ホゲータを探すため船外へ出てみたものの、まさか野生ポケモンの群れに追われる羽目になるとは思っていなかった。

 途中でこの島に住む少年、ロイに助けてもらわなかったらどうなっていたことか分からない。

 

「ありがとう、助けてくれて」

「いいって。無事でよかった! それより、なるほど。やっぱりあの飛行船で来たんだね!」

 

 ロイは楽しそうに笑いながら言った。あのポケモンの群れをやり過ごしてすぐの状況で笑っていられるとは、随分豪胆な性格らしい。

 

「じゃあこの子も知ってる?」

「ホゲータって言うの。その子を探しに来たの」

「そうだったんだ。へえ、ホゲータって言うのか。はは、確かにホゲータって顔してるな」

「ロイはこの島でずっと住んでるの?」

「うん、じいちゃんたちとね」

 

 ロイは喋りながら手元でボールを弄くった。見たことがないボールだ。

 

「これ? 古のモンスターボールって呼んでる。僕のお宝。じいちゃんがずっと前に拾った物で、中は多分空っぽなんだけどね」

 

 ロマンがあるでしょ、と楽しそうにボールを見せてくる。リコもそういったロマンがある話は好きな方だった。

 

「じいちゃんが話してくれた古の冒険者みたいなトレーナーになるのが夢なんだ。伝説のポケモンに挑んで、世界を旅を続ける。そんなトレーナーなんだけどね」

 

 堂々と胸を張って答える。照れくさそうな感じもなく、本気で夢見てるのがわかる様な振る舞いだった。

 

「そっか、凄い夢だね」

「ありがとう! それじゃあ、とりあえず船の人たちに連絡して……逃げるよ!」

 

 今までの穏やかな雰囲気を一気に振り払い、ロイが叫んだ。リコも急いで周りを見回す。

 

「囲まれてる」

 

 先ほどリコとニャオハを追ってきたポケモン達だ。その中でも群れのリーダーだろうか、ストライクが逃げられると思ったかとでも言うように威圧してくる。

 

「このは!」

 

 逃げるための目眩ましの”このは”をニャオハに指示すると、意図を理解しているニャオハが大量のこのはを巻き上げる。

 しかしストライクは素早くこのはの嵐を切り裂くと、その隙をついて虫ポケモン達は糸を飛ばした。

 

「やっばい!」

「これ無理!」

 

 ロイとリコが同時に声を上げる。

 次の瞬間には二人の目の前は真っ暗になった。

 

 

 リコの目の前が開けたのは、ストライク達に捕まって少し経ってからだった。ズリズリと引きずられていたことは何となくわかった。

 ようやく周りが見えるようになってくる。わかったのは森の中でも見覚えのある場所。おそらくホゲータが木の実を食べた場所だった。

 

「ここは、ポケモン達の食料庫だ」

 

 同じく目を覚ましたロイが言うと、ホゲータはびっくりした顔をする。

 

「食べちゃったんだね……」

「なるほど、それであんなに怒ってたのか」

 

 それはまずい。完全にこちらが悪い。野生ポケモン達にとって食料は重要に決まっている。そこを荒らしたのだ。リコは身の危険を感じたが糸で拘束されている以上、出来ることがなかった。

 

「ごめんよ! 皆、コイツも悪気があってしたことじゃないんだ! 食べ物は僕たちが集め直すから、許してくれないか!」

 

 島にずっと住んでおり、ポケモン達と暮らしてきたロイがなんとか説得しようとするが、怒っているポケモン達にはその声は響いていなかった。

 

「くっそ、何とか落ち着かせないと話にならないぞ」

 

 ゆっくりとストライクが近づいてくる。何となくこらしめてやろうといった表情に見えた。

 旅をすればこんな危険な目に遭うこともある。トキワから聞かされた旅の話の中でも危険な出来事が沢山あり、そういうこともあると頭ではわかっていた。だが、実際にその場面になると恐怖が大きかった。

 先輩__。目を瞑り、トキワのことを思わず胸の中で呟いた。

 耳が捉えたのは、空を切るような音。きっとストライクの鋭利な鎌であろうと身を強ばらせた。

 

「本当にお前は、いつも危ない目にあってないか」

「先輩!」

 

 聞こえた瞬間目を開く。トキワの背中があった。その奥でヘルガーが牙でストライクの鎌を止めているのが見えた。”きりさく”を技ではなく器用にも、ただ牙で受け止めている。ヘルガーの目は鋭く光り、それ以上動けば”かみくだく”ぞと言っているようだった。

 他のポケモン達はハバタクカミがねんりきで動きもピタリと止めている。レベルが違った。ねんりき一つで群れ一つ抑えるなど、簡単なことではないはずだ。

 

「フリード」

「はいよっと、出番はなかったな。流石だぜ」

 

 フリードも駆けつけるとポケモン達の口に木の実を入れていく。すると、落ち着きを取り戻したようにポケモン達は大人しくなっていった。

 

「腹が減ってたんだろうな。怒りの原因がシンプルで助かった」

 

 全てのポケモンに木の実を与えたフリードはトキワに合図を送った。トキワが頷くとヘルガーはストライクの鎌を放し、ハバタクカミはねんりきを解いた。

 

「すごい、こんなこと出来ちゃうなんて」

 

 ロイは感激したというように目を輝かせている。流石というか、トキワ程強いトレーナをリコは見たことがなかった。旅をしている人が全員彼ほど強いトレーナーだとは思えない。

 彼はポケモンが強いだけだと言うだろうが。

 

「勝手に船から飛び出たあげく、こんな心配させやがって」

「ごめんなさい」

 

 いつもより顔が怖いので、しっかりと怒っているらしい。

 

「次やったらお仕置きしてやる」

 

 それは少し興味があったが、素直に口にしたら本気で怒られそうなのでやめておいた。

 

「めっちゃ焦ってたぞ、あいつ」

「え?」

「大事にされてるな」

 

 トキワの目を盗んでフリードが口にする。

 思わず頬を手で覆った。見られたらまた怒られるかもしれない程には顔がにやけるのが抑えられなかった。

 

 

 大人しくなったポケモン達には改めて謝罪として食べてしまった分以上の木の実を集めて渡した。こんな事くらいしかできないが、彼らはそれで納得してくれたようで、森の中へと去って行った。

 

「ありがとうございました! あの、とても強いんですね! もしかしてポケモン博士だったりしますか」

「俺か? ポケモン達が強いだけだ。博士になるのが目標だがな。博士はあっち」

「いやぁ、何にもしていないからな俺は」

「そうなんですね! それでもすごいです!」

 

 リコが予想したとおりの事をトキワが言うので、つい笑ってしまう。やはり他の人から見ても彼は強く見える様だ。

 

「さて、それじゃあ一度帰るか。リコも大変だったみたいだし、ホゲータもいるしな」

「そうだな、仕切り直そう」

 

 フリードとトキワが方針を決める。リコとしても疲れたし、これ以上は迷惑をかけると思ったので、決定には素直に頷いた。

 

「それじゃあ、ロイ君……だったな。リコを助けてくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ! あの、お名前聞いても良いですか」

「トキワだ。また島には邪魔するから、会うかもな……じゃあ行くぞ」

 

 船に戻るためにトドロクツキを出したいが、この場にはロイがいるため離れた場所まで歩いていく様だ。歩き出す前にロイがリコに近づいてくる。

 

「あのさ、リコ」

「なに、どうかしたの?」

「今度島に来るとき、あの人と引き合わせてくれない?」

「先輩と?」

 

 どうやら先ほどの出来事がロイにとって鮮烈に焼き付いているようだった。こうして話している時にもロイの目はキラキラと光らせ、頬を赤らめながら興奮した様子でトキワを見ていた。

 

「なんか……こんなドキドキするの初めてなんだ」

「……え?」

「もっとあの人と話してみたいし、なんていうか仲良くなりたいんだ」

 

 言葉が悪い。もっと普通の言葉で話して欲しかった。しかしロイは今回の件で助けてもらった恩がある。邪険には出来なかった。だから……。

 

「……できたら」

 誤魔化すことにした。

 

「うん、ありがとう!」

 

 ロイは疑うことなく笑顔で喜んだ。

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