森の中をリコとロイは駆けていた。空は暗雲が覆い、あたりは薄暗い。思わず寒気がした。
一足先にフリードはリザードンに乗り、船の様子を見に行った。おそらくエクスプローラーズが来たのだ。リコは残るように言われたが、すぐに追いかけた。自分を狙ってきた相手に向かっていくのは賢くないかもしれないが、一人だけ安全な場所にいる気はなかった。
まして船にはトキワがいる。自分よりずっと強かろうと、心配しない理由にならない。
「こっちを通った方が近い!」
「うん!」
ロイも島に危険が迫っていることにいてもたってもいられないらしい。リコが走り出すと、すぐにロイも後を追い、あっという間に前方へ踊り出て言った。
「このまま向かっても役に立てないと思う。だからポケモン達の力を借りる」
「できるの?」
「島のポケモン達にとっては縄張り荒らしみたいなもんだ。きっと力になってくれる! そうだろ!」
走りながら周りに叫ぶようにロイが言うと、森のポケモン達が一匹、また一匹と集まってきた。ストライクやキャタピー、ビードルがロイの後ろについてきた。
横に並んだストライクが力強く鳴き声を上げる。呼応するように他のポケモンも鳴いた。
「ありがとう!」
「……すごい」
こんな事が出来るのか。野生のポケモンなのに、島でともに暮らしてきたと言ってもロイの一声で群れがついてきた。
ロイは自分はまだトレーナーではないと言っていたが普通のトレーナーではこんな事出来はしない。先導するため先を走るロイの小さな背中が頼もしく見えた。
「さあ、もう少しだ!」
「うん!」
船に近づくと、空に炎が迸るのがチラリと見える。既に戦いが始まっているらしい。ポケモン達の雄叫びと地響きが鳴り響いていた。肌寒さの中に熱気が奔った。
「見えた!」
「先輩!」
トキワとヘルガーが戦っている。相手は学園でみたエクスプローラーズの男女だった。男はサイドン、女はゴルダックに指示を出している。
対するトキワはヘルガーしか出していない。だが一匹で二匹を相手に拮抗している。
「サイドンに向けて”かえんほうしゃ”しながら少し下がれ。ゴルダックが狙ってる。”スモッグ”で視界を遮れ。トレーナーは巻き込むな」
指示が早い。攻撃、回避、牽制が全てエクスプローラーズの二人より早い。サイドンもゴルダックも指示が受けて動こうとするときにはトキワとヘルガーは既に技の間合いから逃れている。
元々トキワはヘルガーしかポケモンを持たなかった。だからキバたち古代ポケモンを仲間にするまでずっと多対一でやってきたのだ。それ故に、今の様な状況に慣れている。
それに加えて様々なポケモンに対応するため、わざマシンを使って豊富に技を覚えさせている。ヘルガーはどのポケモンにも対応する戦い方をずっとしてきた。
「”かみなりのキバ”で噛みつけ」
スモッグに紛れながらヘルガーはゴルダックの足に技を命中させる。牙が足に刺さったゴルダックは倒れ込んだ。水タイプに雷は効果は抜群だ。
倒れながら暴れてなんとか牙を逃れようとするがヘルガーは離さない。
「ポケモンを戻せ……でないと”かみくだく”ぞ」
「くそっ! その子を離せ!」
「……ったく。まともな奴なのかよ」
ヘルガーに向けて頷くと、ゴルダックの足から牙を抜いた。ゴルダックは足を引きずりながらも走って女性の元に戻った。
女性はゴルダックを抱きかかえながらも訝しそうな表情を向ける。
「嬲る気はない。大事な相棒なんだろ。退いてくれ」
「……できん! アメジオ様のためにもな!」
「本当に悪党かお前らは」
既に己より数段上のトレーナーだと感じている男だったが、退かなかった。その顔には忠誠心の様なものが含まれている。完全な悪意というより何か別の何かが見えた。
だが、だからといってやられるわけにもいかない。トキワとヘルガーは警戒を解かなかった。敵をにらみつけるように見つめると、真後ろにいたリコ達へと視線をほんの一瞬やった。
「いま!」
その緊張の隙間を縫うようにニャオハがサイドンに飛び乗った。
「なっ!」
「ねむりごな!」
「ま、またか!」
リコとニャオハが隙を突いた。警戒は眼前のトキワだけに集中していたため、真後ろからの奇襲には全くの無警戒だった。
「よくやった」
「はい!」
二対一で戦いながらリコ達を視界に収めたのだろう。自分に意識を集中させていたのだ。もっとも、そんなことをしなくてもトキワとヘルガーは勝っていただろう。それ程に差はあったはずだ。
「だが戦いは俺に任せてろ」
「いやです。私たちも皆を守りたい」
「ったく聞き分けの悪い」
ヘルガーに警戒を任せ、まだ戦っているフリードの方へと目を向ける。あちらのアーマーガアに乗っているのが先ほど男から出たアメジオだろう。
戦いを見て直ぐにわかる。あれは強い。決して油断できる相手ではないがフリードならば何とかするだろう。
「さて、あっちも諦めてくれるといいんだが。人質なんざ俺はやりたくない」
アメジオもどうにか押し切ろうとしているが、力押しだけでどうにかできるフリードとリザードンではない。
次第にアーマーガアの方が焦れてきてしまったのか、アメジオが指示するよりも先に自身で攻撃を繰り出している。
「まずい! リコ離れろ!」
「はい! ロイ、どうしたの!」
「浜辺のポケモン達が危ない! 守らないと!」
アーマーガアの翼は風をおこした。”風おこし”というより竜巻を発生させるが如く荒々しい風を巻き起こしている。それは周囲を巻き込み浜のポケモン達を切り刻もうと迫っていた。
ロイに付いてきたポケモン達もロイを守ろうと後を追うが、彼らは虫・草タイプのポケモンだ。あの風を食らえばただでは済まないだろう。
「ロイ!」
「ちっ! くそが!」
リコとトキワも一瞬遅れて駆ける。近かったリコがほんのわずか早く追いつくが竜巻はもう目前に迫る所まで来ていた。
「リコ! ロイ!」
トキワが手を伸ばすがどうにも出来ない距離だ。ロイやポケモン達がかばおうとしているが、これでは無駄になってしまう。
どうすればいいいか、思い浮かばずただ竜巻の前に来て立ち尽くすだけだったリコを竜巻が引き裂こうとした瞬間だった。リコの首元が光り、目をくらます程の光があたりを包んだ。
「……なに、これ?」
光は淡い緑の壁となって竜巻を防いだ。いともたやすく、まったくの無傷だった。
何が何だかわからず困惑していたが、その光の発生源が自分の首元だということが分かる。ペンダントだった。
「これが……狙われてた理由?」
このペンダントはどうやら普通の物ではない。だが、今は助かったのであれこれ考えるべきではないと判断する。
「ロイ! はやくその子達を逃がし……」
「……な、なんだこれ? 古のモンスターボールが光って」
焦った様にロイは光の原因を取り出すと、大切にしていた古いモンスターボールが光り輝いていた。まるでリコのペンダントに共鳴するように、同じ光を放っていた。
「どうなってんだこれは!」
「先輩も!?」
トキワのペンダントも同じように光っている。どういう状況になっているのか、リコやトキワの他、誰にも分からなかった。
ただ嫌な予感がした。胸のうちがざわざわと騒がしい。
「うわああ!」
ロイが思わず叫んだ。ロイの持つモンスターボールがうなり声をあげた。
勢いよくボールが開き、天に向かって光の柱が立つ。
暗い空を一気に引き裂き、空高くから一匹の大きなポケモンが現れた。
「……嘘だろ」
「黒い……レックウザだ」
黒い龍だ。伝説上の東洋の龍の姿に似た、その姿はまさに伝説の龍そのものだった。
龍は眼下にいるリコ達を一瞥すると、吠えた。
「……いけない」
”りゅうせいぐん”
光がリコ達に降り注いだ。