デュエル・マスターズOver(オーバー)   作:シグレサメ

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伝説の邪神編
深淵(アビス)からの始まり


「余を、召喚せよ…余を、召喚せよ…」

目を覚ますと周りは黒い闇で覆われていた。どこにも出口らしき場所はない。前にも上にも下にも、どこを見ても無限の闇が深く、また深くへと続いていた。

 

声が聞こえる方に手を伸ばすと、その黒が塊となって人の形となった。人と言っても優に2〜3mはありそうな大男。なんなら男と言っていいのかも怪しい。その大男は尻尾が生えており、羽も生えていた。男ですらない。何だこの影は。

 

「余を召喚すれば…お前は無限に近しい闇の力を得るだろう…」

 

突然後頭部を思いきり打ったような感覚を受けて、俺はベッドから飛び起きた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

俺の名前は黒井夕哉。都心に電車1本で迎えるベッドタウン、「皇龍市(こうりゅうし)」に住んでいる高校生。父さん達は海外で働いてて、黒井ヨル、婆ちゃんを日本に1人にさせないのと…妹のために俺は日本に残ってこの街の学校に通っている。

 

『学校での成績は上から数えた方が早いけど運動は普通くらい、好きな食べ物は婆ちゃんの唐揚げ、嫌いなものはグリーンピース。昔食べたグリーンピースがすごく不味かったからそれ以来苦手意識が取れない。』

 

自己紹介を手早く終わらせるためのメモ用紙を握りしめて、俺のこれから3年通う高校、皇龍高校へと向かっていく。そこまでの道は長くないしそれまでの間、ようやく出来るバイトの為に家で求人情報を眺めていた。

 

「夕哉、折角の高校生なのよ?夕花ちゃんのこともあるけど、あなたにはあなたの人生があるんだから」

 

婆ちゃんが俺に優しく声をかけてくれる。それでも俺の考えは変わらない。自分は少しでも早く自立して、俺の妹、夕花を助けてあげられるようにならなきゃいけない。

 

「婆ちゃん、もう時間だ。大丈夫、ぼちぼちやるよ」

婆ちゃんの言葉を少しも気に留めず俺は玄関から出ていく。

「行ってきます」

 

今思い返してみれば、俺は自分と妹以外の全てが、見えてなかったんだと思う。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

学校での入学式は何事もなく終わり、帰り道へと着いた。立地条件が良いスーパーのバイト、それの面接に向かって自転車を走らせる。

 

気持ちいい風が吹いていく中で、突然なんとなく風が、空気が重くなったのを感じる。俺は衝動的に自転車を止めて、何となくスーパーと真逆の裏道の方に歩を進めていく。

 

普段裏道なんて入らないから、変なものを踏まないようにゆっくりと歩いていく。視線は下を見続けていたためか、「あれ」を見つけるのにそう時間はかからなかった。

 

黒い、箱?漆黒といって差し支えないこの色は何となく不安を煽り、そしてどうしようもなく抗えない好奇心を感じる。箱を開けると、いくつかの紙が纏まっているのが見えた。紙を取り出してみると、それも暗く黒く塗られているのを見て、またも不安に駆られた。

 

「気味が悪いな、とっとと捨てて…」

「はぁ、何で捨てる気になれないかなぁ」

 

誰に言うでもなく、俺は愚痴をこぼした。朝の夢といい変なものを見たり、見つけたりし過ぎている。面接に行く前にお祓いにでも行った方がいいんじゃなかろうか。まぁ面接を優先するが。

 

「大変です、大変です、助けてくださーい!」

10代くらいの女子の声がして、声の方を見ると帽子を深く被った、悪い意味で何処にでもいそうな男が俺の横を駆け抜けていった。それを見送るや否や声の主が走ってきた。

 

「すいません、先ほどの方、何処の方向に行ったか知りませんか?」

「えっと、ここの道を左に…」

「左ですね、ありがとうございます!」

 

盗んだ男を先ほどの方と呼んだり、この短い時間の立ち居振る舞いで、彼女が、少なくとも彼女の家が裕福であることは分かった。

 

「もう、今日は何でこういうのにばっかり会うかなぁ!」

 

俺は半ば自棄になって、あの泥棒の後を追いかけることにした。流石に目の前の犯罪を見逃すほど良心が腐ったわけではない。そう信じたい。

 

先ほどの彼女は道を知らないのか正直に後を追いかけたが、俺は皇龍市に生まれてからずっとお世話になっている。裏道を通って追いかけるくらいなら…柵の裏口を通ってショートカットしようとしたところ、さっきの黒い箱が光り、俺の意思とは裏腹に俺は柵をロッククライミングのようによじ登り、柵の向こう側に着地していた。

 

いつの間にこんなことができるようになったのか、もうさっきから訳のわからないことまみれだ。その後も曲芸のような身体能力を発揮して、俺は泥棒の元に辿り着いた。

 

「あれ、先ほどの人!?なんで!?」

「自分も分かんないですけど、この人を捕まえればいいんですよね!」

「あぁ!?何だお前!!」

 

掴みかかってきた泥棒の手を掴み返して、俺はその勢いそのままに投げ飛ばした。泥棒は自分の勢いを利用されて思いっきり身体を打ち、そのまま警察の御用となる…はずだったんだけど。

 

あの女の子の後ろから5人程の大人が出てきて、泥棒を抱えてそのまま何処かへ行ってしまった。何が起きたのか怖過ぎて聞けない。

 

「あぁ良かった、私の宝物が盗まれてしまうところでした。本当にありがとうございます!」

「いえいえ、俺もいっぱいいっぱいで…」

「本当に!ありがとうございます!私の命より大事なものだったんです!あ、私は光屋御白(ひかるやみしろ)と言います。自己紹介が遅れてしまいすいません」

「丁寧にありがとうございます。俺、自分は黒井夕哉と言います。えっと…光屋ってもしかして、社長令嬢さん?」

「そうです!よくご存知ですね!」

 

よくご存知も何も。多角的に様々な事業を行い、主にIT分野で功績を残す『光屋コーポレーション』。今年度から本社の社屋を皇龍市に移して、どうしてこの場所にと話題になっていたけれど、まさか社長令嬢さんに会うことになるとは。

 

それにしても命より大事なって。社長令嬢が大切にしているものって何なんだろう。何億もする宝石?なんか貴重なデータとか?国を揺るがすような金額が動いてもおかしくない会社のレベルだ。一体どんな…。

 

「良かったー!ブルトゥーラもアストマープルもシェケダン・ドメチアーレも!全部揃ってます!良かった、本当に良かったです…!」

 

何だろうそれ、何かの隠語?そう思いながら何となく彼女の持っているものを覗き込む。

 

「え、カード!?」

「??? えぇ、デュエル・マスターズのカードですよ?」

 

デュエル・マスターズ。確か近所の公園で子供達が遊んでいたのを見た覚えがある。カードを出し合うゲームなのは知ってるけどなんか遊んでる時やたらとやかましかった記憶だけがある。あんなに盛り上がるものなのか?しかもそれを社長令嬢が大切に持ってるって…。

 

「えっと、なんかこのカード、めちゃくちゃ高かったり…?」

「??? いいえ、パックで自引きしました!私6パック開けにハマっているんですけど、そこからこのシェケダン・ドメチアーレを引いたんですよ!」

「へ、へぇ…」

 

何だこの人。さっきまでのお嬢様感何処いった。なんていうか正直関わりたくないタイプの人間だ。自分の話に夢中になっている間にとっとと立ち去った方が良さそうだ。

 

「あ、黒井くんもデッキ持ってるじゃないですか!」

「??? デッキ?」

「カード達の束で、私たちの相棒ですよ!黒井くんもデュエマやってたんですね!」

 

彼女、光屋さんはおれの黒い箱を指さしてそう叫んだ。俺いつの間にデュエマやってたんだ。いやこの箱余りにも面倒ごとを巻き起こし過ぎている!もう遠くに投げ捨ててやろうか!!

 

「良かったー、クラスでデュエマをやっている人1人もいなくて、黒井くん、デュエマやりましょう!デュエマ!」

 

俺の面接は完全にお流れになった。そして俺の長い冒険が、ここから始まる。

 

 

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