まざわさんの研究所がボクの家。人間の世界に帰ってきてから、ずっとまざわさんの研究のお手伝いをして、一緒にご飯を食べて。
最近は色々な仲間が増えて。にじむらさんが来た時はもっと楽しくなる気がして。最高に楽しかった。彼がいたらもっと楽しくなる気がして。
『そういうことかよ…!お前が誰を恨んでようが、家族も友達も変わんねぇよ!お前は!この後その「彼」に本当に胸張って生きられるのか!?』
ひすいくんから言われたことが未だに頭を覆う。ボクは生きることを考えて、ボクのことを考えて…ボクのことが胸を張れるのかを考えたことなんてなかった。
研究所の寝室で眠れなかったボクは体を起こす。時計は3時。多分、まざわさんに自分が正しいって言われて欲しかったんだと思う。
まざわさんの研究室には殆ど入ったことがない。興味がなかったから。彼のことなんて知らなくていいと思っていたから。でも…。
「虹村くんどうだい?たぁ今は返事できる状態じゃないか。これで僕の研究は完遂する。クリーチャーと戦える人間の完成!これさえあれば、他にもう何もいらないよ」
「結局システムは彼がいなければ完成しなかった。最後の日に緑くんにいっておかないとね。ありがとう」
ボクはなんとなく「彼」の名前を口にする。あの日以来どこにいるのかわからなかった彼の名前。
「《首領竜 ゴルファンタジスタ》」
急いでボクは立ち去る。バレちゃいけない、とてつもない危機感に体中から汗が噴き出す。ボクは急いで研究室の出入り口に向かう。開かない、体当たりして無理やり開ける…?そうすればまだ…。
「緑くん、何してるんだい?」
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「できた、俺の唐揚げ!」
スーパーからお徳用のお肉を買い込み料理を作りジャシン用のものも用意した俺は婆ちゃんに見つからないようにジャシンのカードを出そうとする。そうしたところに…
「夕哉、どうしたの?料理の音が聞こえたけど」
「あ…お婆ちゃん」
しまった、怒られる…
「それ、何に使うんだい?」
「友達と一緒にパーティする予定なんだ、その為に折角だから俺の料理が食べたいって言われて…」
嘘は言ってない、はず…
「そうかい、じゃあ行ってらっしゃい」
「え、いいの…?」
「流石に先に言って欲しかったけど、お友達が待っているんだろう?いってらっしゃい」
「…ありがとう、お婆ちゃん!」
「待って、夕哉!」
「なに、お婆ちゃん?」
「夕哉、前に比べて余裕が出てる。きっといい友達なんでしょうね」
「…うん!」
今度やることがあったら御白や飛水も呼ぼう、そう思った。
「というわけでジャシン!お弁当作ってきた!」
「なんだそれは」
「人間界のご飯、相手の好きなものを詰め込んだ夢の箱だよ!」
「ほぅ、余は人間と違い食事などいらない、闇からエネルギーを取ってくれば…」
「まぁまぁ、俺はジャブラッドのところ行ってくるから、後でね!」
「こいつ偶に致命的に話聞かないな…」
ジャブラッドの檻の元についた。みんな疲労困憊だ。
「黒井様…助けてください、ジャブラッドはやはり手がつけられません…」
「夕哉が言った途端に暴れ出してな、お前なんかあいつを落ち着かせるなんかとか持ってるのか?」
特に身体を張ったであろうフォックとマーダンが声をかけてくる。修羅場だったことが伝わってくる。
「ねぇジャブラッド、君は力が強くて、手を動かすだけで俺は吹っ飛んじゃうけど…同じ生き物だと思ってるんだ」
「ジャバァ?」
「俺、昔夕花と料理を作って一緒に食べた時、すごく美味しかったし、とっても楽しかったんだ。邪龍って君は言われてるけど、間違いなく虹村に危ない目に遭わされた時助けてくれたのは君だ。だから、なんで助けてくれたのか、どうすれば君が喜ぶのか知りたいんだ」
「ジャブラァ…」
ジャブラッドの動きが止まる。俺は袋からとっておきを取り出し…
「はい、これが黒井家印、婆ちゃん直伝の唐揚げ!是非一度ご賞味を!」
俺が投げ上げた唐揚げをジャブラッドは見事にキャッチ。
「ジャブラァァァァァアアア!!」
「うわぁ過去1の鳴き声、これマズいのでは…!」
「やっぱり食事の必要がなくなった私たちにそんなものは!」
プルーフやトートロットが口々に言う、今はジャブラッドを信じるしかない…。
「ジャバァ!ジャブラァ♪」
「えっと…」
ジャブラッドは手をバンバン叩いて俺を何度も浮かせる、そして唐揚げの袋目掛けて…
「待って!1個ずつ!そうじゃなきゃ食べさせない!」
ジャブラッドは手を止めて急におとなしくなる。そして首を一度大きく縦に振った。分かったみたい。
「ジャブラッド、唐揚げ好き?」
「ジャブラァ♪」
「当たりだ!よーし!」
唐揚げを投げるとジャブラッドは食べてモグモグと頬張る。
表情が見えづらいため感情がわからなかったが唐揚げを食べている間喜んでいると分かったのなら後は一歩一歩詰めていくだけだ。
「その、黒井様、僭越ながら私も食べてよろしいでしょうか」
ジェンゲガーが俺に声をかける。
「いいよ、いっぱい作ってきたし」
「…こんなものが人間界にあるとは…!是非記録しなければ!!」
レターは感動しながら何処かへ行ってしまった。
ジェンゲガーが唐揚げを食べて行った後、ジャブラッドがとてつもない圧をこちらにかけてくる。あ、本当に好きなんですね。
「その、私達も食べて…ヒイッ!」
ジャブラッドの眼光が鋭くなる。こんなにわかりやすくなるのか。好物の力ってすごい。
「ジャブラッド。俺がこれを持ってかれたのはみんなが時間を稼いでくれたからだよ。だからみんなも食べさせてあげなきゃ、そのあとで良いよね?」
ジャブラッドはフォックに向かって手を振り下ろす。嘘、物理的に数を減らすつもり!?俺はフォックの前に反射的に立ち塞がり、ジャブラッドに向き合う。
「さっきも言ったようにフォック達がいなかったら君は待てなかったでしょ?つまりフォックがいないとダメだったの!分かんなかったらこのあとずっと唐揚げあげないから!」
ジャブラッドは分かりやすくショックを受け、項垂れた。
「ねぇジャブラッド。前に俺を助けてくれたのはなんで?俺に生きてて欲しかったから?だったら俺の大事なものも守ってほしいんだ。あの時言った言葉の続きを言うね」
ジャブラッドは首を垂れる。肯定の意味のはずだ。
『誰も…犠牲にしない力を…優しい人を守り、そうでない人を止められる力を…!』
ジャブラッドから光が流れ出し、カードを形作る。
「ジャブラッド、よろしくね…!」
「ジャブラァ」
横からノートを携えたジェンゲガーが現れる。
「そのノート何?」
「アビスで起こった事をまとめたノートです。貴方はそろそろジャブラッドと契約すると思い取ってきました。推測になりますがジャブラッドはジャシンの契約者が死亡することによる自身の存在消失を防ぐ為に現世に出現しました。早い話死にたくなかったんですね。
しかしここで黒井様の人となりを知り、自分に対して邪龍ということ抜きにいい意味で特別扱いせずに接したこと、自分の前に立ち塞がることができる勇気を元に、契約することに決めたのでしょう。今まで牢屋生活だったのもあったのでしょうが」
「あ、ありがとうレター=ジェンゲガー…そこまで言われるとちょっと照れる…」
「あ、そうだ唐揚げちゃんと分けなきゃ!みんな均等になるようにね!ジャブラッド、他のアビス襲っちゃダメだよ?」
「ジャブラ…?」
もう唐揚げを食べ始めているジャブラッドに俺は笑い混じりにため息をつきながら手元のカードを見る。ジャブラッドはもう同胞を襲わないだろう。カードの効果を読んで、俺は思わずもう一度笑ってしまった。
「なんだ、すごく優しいドラゴンじゃん」
妹の事件の真相のためだけじゃない、自分が大事なもの全部を失わないために…ジャブラッド、アビスのカード達の力を使おう。
「夕哉よ、なんなんだこれは…!」
ジャシンが急に現れ唐揚げに群がっていたアビス達が整列する。ジャブラッドだけモゴモゴしてる。ちょっと可愛い。
「えっと、どれのこと?苦手な野菜とか…?」
「これはなんだ!余によく似てカッコいいではないか…!」
ジャシンが指したのは正直お弁当を埋めるために入れたタコさんウィンナー。ジャシン、まさかそっちを気にいるとは…
「えっと…また食べたい?」
「今すぐにだ、他のものも食わせろ」
「うーん…じゃあ虹村に勝ったらかな?」
「よし今すぐに倒しにいくぞ!アビスどもよ準備を始めろ!」
「待って待って待ってやることあるし虹村達の居場所わかんないでしょ!?」
「フン、ドルファディロムとかいう強力なクリーチャーと契約状態なら、戦った我なら追うことができるぞ」
「…本当に!!?じゃあ早く追っかけて…」
そこに席を外していたバウワウジャが駆け込んでくる。
「アオーン!バウ…ワウバウ!」
「ほう…クリーチャーの力を使って暴れ回る人間が現世に現れただと?」
「待って、先にそっちを詳しく聞かせて…!」
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夕哉くんと連絡が取れなくて1日…。黒井くんのおばあちゃん曰く夕哉くんは一度家に帰ってきたそうなんです。
青海くんは真のデュエルに巻き込まれて怪我で来てないみたいで…火奈ちゃんと一緒に登校したんですけど、やっぱり気持ちは重くて…
なんとなく授業に身が入らない中…急に大きな音が鳴りました。
「え、なになに!?」
「と、とりあえず机の下だ!」
嫌な予感がして火奈ちゃんと目を合わせます、外から声が聞こえてきました。
「クリーチャーと契約したデュエリスト達よ、出てこい!さもなくばここを私、獅馬(しば)の相棒、ミカドレオで破壊する!」
何言ってるんですかあの人!?クリーチャーの力はバレたら面倒が多すぎて皆秘密にしているのに…とにかくこれ以上喋られる前に…
「待ってください!そんなことをする前に私、光屋御白が相手になります!」
「御白ちゃん…!また、震えてる…!」
どうしても考えてしまう、自分がドランさんのような凄い人と釣り合うのか、真のデュエルで傷つけられても大丈夫なのか、そして何より、相手に立ち向かえるのか…
「どうした!私の勝負を受けるというならもっと強く…!」
「ねぇ御白ちゃん!ここはあたしが…!」
「御白、連絡もつかずごめん!大丈夫、俺があいつをどうにかするから。…行くよ、ジャブラッド!」
私はまた、夕哉くんの強さに頼りきってしまいました。
次回予告。今回は俺、飛水の担当だ。
夕哉と獅馬(しば)の真のデュエルが始まる。でも妹のため以外にもちゃんと振り切った夕哉が、あの程度に負けるわけねぇだろうな。その頃真沢の研究所では緑の相棒を使って虹村を完全体にする最後の実験が始まっちまう。
次回、「守るもの、守りたかったもの」
虹村って何のためにあのシステム手術を受けたんだろうな。