俺、黒井夕哉はバイト人間として高校生を過ごして…いたかったんだけど謎の影が夢に出るわ謎の箱を拾うわデュエマオタク系社長令嬢に出会うわで散々。そのまま社長令嬢こと、光屋御白に連れられて…
「この街にこんな所があったなんて…」
俺、黒井夕哉(くろいゆうや)は光屋御白(ひかるやみしろ)というお嬢様に連れられて皇龍市(こうりゅうし)に15年生きてて初めての場所に連れられた。彼女の足が止まらない辺り、その地図は完全に頭に入っているらしい。
「着きました!DM Station! デュエマプレイヤーの聖地です!」
「えっと、何でここを…?」
「私昔から新しい街に着いたらカードショップの場所をあらかた調べるんです!このお店は口コミ見る限り最高らしいですし!他にも…」
「分かった!分かったから!うん、早くお店入りましょう!」
「別に丁寧語じゃなくて良いんですよ、同い年ですし!」
「え、なんで同い年って…」
「…?入学式に居ましたよね?」
全然見てなかった。同じ高校の同じ学年かい。確かになんかクラスメイトがザワザワしてたのを覚えている。容姿端麗な金髪の社長令嬢、目立つ要素しかない。
「いらっしゃいませー」
「失礼します…ヒッ!」
カードショップという未知の空間に入るだけでも中々緊張するが、店に入った瞬間顔を見せた店長らしい人物の威圧感に俺は怯む。
店の中はとても綺麗で、並んだカード達は綺麗に整頓されている。カードショップの良し悪しは自分には分からないが、お店として質が高いのは何となくでも分かった。
「よーし、デュエルスペース開いてますよ!貸切状態です!行きましょう!」
光屋さんが長い金髪を揺らしてスキップしながら「デュエルスペース」という、何だこれ?大きめのプリクラ?に入って行った。
「あ、黒井くんはそっち側から入ってくださいね!」
「あ、分かりました、ハイ」
「硬いですよー黒井くん、デュエマするんですし、もっとリラックスしましょう!」
社長令嬢相手にリラックスできるかい。俺はそそくさと「デュエルスペース」に入った。
『システム起動、2人対戦、レギュレーション、オリジナル』
『プレイヤーはデッキを置いてください』
デュエルスペースに入ると女声のシステム音声が流れてきた。
「デッキを取り出して、山札に置くんですよー!」
あちらから光屋さんの声が聞こえてくる。大人しくデッキを置く。
『未知のカードを確認、エラー、エラー、error、err…』
『デッキを確認しました、ゲーム準備を始めてください』
いや今エラーとか聞こえたけど!?本当に大丈夫なやつ!?拾ったカードをそのままデッキとして置いたからエラーを吐くのまでは分かるけど、まるで書き換えられたかのようにエラーが消えたのが一番怖い。
デッキが認証されると、前が開いて光屋さんの姿が、デッキを置いた下の液晶からは映像が流れ出した。
「このマシンは光屋コーポレーションが作ったんですよー。ほら、シールドと手札を展開してください!」
サラッととんでもない情報が出てきた。流石世界的大企業とその社長令嬢。でも、「てふだ」と「しーるど」ってなんなんだ?
そう思うと何となく山札のカードが光って見えた。もうこの「でっき」ずっと怖い。でもやるしかないか。どうせバイトの面接もお流れだ。もうどうにでもなれ。
光ったカードの指示通りカードを5枚取って並べる。
「そうですそうです、それがシールドです!もしかして最近やってなかったりしたんですか?」
「うんまぁ、そんなところかな」
その後同じく光ったカードを5枚手に持った。いつの間にやらカードの黒は消えており、絵が描かれた光屋さんの持っているのと同じ「カード」になっていた。
「準備完了ですね!デュエマ、スタートです!」
「…ほら、黒井くんも!」
「あ、デュエマ、スタート」
かくして俺の初めてのデュエマが始まった。
「マナチャージ、ターンエンドです!」
えっと、今何起きた?
「…?黒井くんのターンですよ?後攻だからドローですよ?」
「俺のターン…」
例によってデッキの一番上のカードが光って見えた。あー最近のゲームはすごいなぁ、利用者が初心者であることを見抜いて初心者用のガイドを作ってくるのか!
「ドロー、マナチャージ!ターンエンド!」
「そうそう、その調子です!」
「マナチャージ、《Re:奪取 アクロアイト》を召喚!ターンエンドです!」
下の液晶画面に「アクロアイト」というクリーチャーが出現する。なるほど、こんな風にすれば良いのか。何となく分かってきた。
「ドロー、マナチャージ、《ベル=ゲルエール》を召喚!」
「このクリーチャーが出た時、山札の上から2枚を墓地に送る!」
そういうと自動でアームが出てきて「ぼち」を2枚増やしてくれた。何でも自動化する時代なんだなぁ。光屋コーポレーションの技術力の高さを見せつけられる。
「へぇ…知らないカードですね、最近新弾も発売されましたしそれでしょうか?さてさて、ここから加速していきますよ!」
光屋さんの3ターン目は他にアストマープルとブルトゥーラというクリーチャーを呼び出した。俺は《フォーク=フォック》というクリーチャーを呼び出して墓地を増やしてその墓地から1枚アビスを手札に加えた。アビスというのがこのデッキに入っているカード達の呼び名みたいだ。
「さぁ、行きます!《シェケダン・ドメチアーレ》を召喚!」
一際大きな黄緑の車体が、画面に映し出される。
「登場時能力で、場にある光のクリーチャーかタマシードの数、つまり4枚ドローします!」
「このクリーチャーは光のカードが5枚集まったらさらにパワーアップしますよ、どうしますか黒井くん?」
いやどうするも何も、俺は初めてこのゲームを触って、望んでもないのに戦わされてて…正直今すぐにでも帰りたい…遊びなんだし、別に負けても何も失うわけでもないし…
「お前は本当にそれで良いのか?お前のその力、無駄にするのか?」
今朝の声だ。まだ幻聴がするのか。もういい加減にしてくれ。
「お前が諦めるのは自由だ、だがそれで本当に良いのかと聞いている」
「お前がこの状況を変えたいのなら、お前の全力を見せてみろ、そうでなければ、そうしようと思わなければ、お前には『何の価値もない』」
何の価値もない…知ってるよ。「あの日」以来、俺は何度も、何度もそう思った。何の価値もない人間になんてなりたくないって、「あの日」以来ずっと努力してきた。でも俺は父さんや母さんみたいに大人になれてないし、妹を助けることだってできやしない。
「分かってる、分かってるけど、俺は、まだ!」
このゲームに勝って何になる、でも俺はプレイの手を止めず、声の主を手繰り寄せるようにプレイを進める。
「《フォーク=フォック》を召喚!墓地を増やして、《ベル=ゲルエール》を手札に加えてターンエンド!」
声の主は少しずつ近づいてきているように感じる。
声の主は、山札にいる。
「私のターン!《赤翼の精霊 エルラ・ルージュ》を召喚!」
「《ブルトゥーラ-D1》で攻撃!シールドブレイクです!」
俺の元に飛んできたシールドは。黒く、暗く、そして鮮やかに輝いていた。
「シビルカウント2。このカードはシールドトリガーを得る!」
カードの情報がなだれ込んでくる。初めて使うのに初めて使った感じがしない。
「シールドトリガーですか!でもどんなカードが来ようとも、シビルカウントを達成したドメチアーレでシールド送りです!」
「シールドトリガー、《邪侵入(ジャスト・イン・ユー)!》山札の上から4枚を墓地に送って、来い!《アビスベル=ジャシン帝》!!」
墓地から現れたのは夢で見たあの姿。おぞましく、全てを包んでしまいそうなオーラを感じるあの背中。
「ようやく余を呼び出したか。待ちくたびれたぞ」
「えっと君は…夢で会ったよね」
「フン、やはりその程度しか覚えていないか、我の名はジャシン帝、アビスベル=ジャシン帝であるぞ!!」
「なんかとんでもないカードが出てきましたけど、まだ負けてません!《シェケダン・ドメチアーレ》で攻撃!その時効果で《アビスベル=ジャシン帝》をシールドに送ります!」
「それは無理だよ」
「え、黒井くん…?」
「ジャシンはあらゆるバトルゾーンから離そうとする行動を、手札2枚を捨てることによって生き残る!」
正直自分でも初めて知ったことだが、口が勝手に動いている。おそらくジャシン帝に口を動かされているのだろう。
「ジャシン帝でブロック!再度手札を2枚捨てて生き残る!」
「ぐぬぬ、どうしようもありませんね。ターンエンドです!」
「さあ夕哉よ、我の力を見せてやれ!」
「うん、ジャシン帝の能力で墓地のアビスクリーチャーに『アビスラッシュ』を与える!アビスラッシュはターン終了時山札の下に帰る代わりに出たターンプレイヤーを攻撃できる!さらに墓地から召喚するクリーチャーのコストを2下げて、連続アビスラッシュだ!」
大量のアビス達が墓地から湧いて出てくる。なんていうか、楽しい。
「《ハンマ=ダンマ》の能力で、俺の墓地の枚数以下のコストを持つエルラ=ルージュを破壊!」
「嘘、私のブロッカーが簡単に…!」
「総攻撃だ、フォーク=フォックでシールドを攻撃!」
「シールドトリガー、なし…」
「他のクリーチャーでも攻撃!」
「嘘、トリガーなし…!」
「ラスト1枚…来ました!シールドトリガー!《監獄呪文「ピカビム」》!ジャシン帝をシールドに…いやまさか…!」
「ジャシン帝は手札を2枚捨てることで生き残る!ジャシン帝でダイレクトアタック!!」
「ふん、小娘よ、これで最後だ!!!」
そうジャシンが言った次の瞬間、ジャシンの攻撃が光屋さんの身体を貫いていた。
「え…ちょっと嘘でしょ!ダイレクトアタックしたら…そんな…!」
「フン、我はジャシン。我に敗北した者は我の糧になるのだ、この上ない光栄だろう?」
「…そんなわけないだろう…!光屋さんを助けろ!元に戻せ!」
「フン…お前は余の現世復活のための依代、お前のいうことを聞く理由など…なに?身体が、勝手に…」
ジャシンがそういうと、光屋さんの身体はみるみる元に戻っていって、ジャシンもカードに戻っていってしまった。
「なんだこれは!?小娘のアビスに関する記憶など、一つたりとも要らんぞ!我が欲しいのは現世完全復活のための糧で…クソ、カードに戻るのを抑えられん!何をした黒井夕哉!」
「知らないよ、でも、『もう二度と関係ない人の命を奪おうとしないで!』」
「その程度の口約束で…!なぜ抗えん!我の復活は!そんなにも不完全だと言うのか…!」
どうやらジャシンというカードはこのまま封じ込まれてしまったようだ。
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「光屋さん、光屋さん?あ、目を開けた、大丈夫?」
「あれ、私デュエマに負けて…えぇ、大丈夫ですよ。あ、お水ありがとうございます。」
「その、夕哉くんの使ったあのカードって一体…普通のカードじゃなかったですよね?」
「それが俺にもわからなくて…ただジャシンっていうのは暫く悪さできないと…思う、直感ですけど」
「あ、言葉遣い…デュエマ中ずっと言葉遣いが普段通りになっちゃってて…ごめんなさい」
「丁寧語じゃなくていいですよ、私達もう友達じゃないですか!」
「え、でもそんな簡単に友達って…」
「大丈夫ですよ、デュエマができて、お互い楽しかったならもう友達です!」
なんだそのデュエマ原理主義。めちゃくちゃだ。でも一つだけ確実に言えることがある。
「確かに、楽しかった!」
「良かったです、それじゃあもう一戦…」
「お嬢様、探しましたよ!」
老人…と言ってもかなり元気な老人の大きな声が響いて、光屋さんが俺の影に隠れる。
「すいません、金髪で白い服の高校生くらいの女性を見ませんでしたか…御白様!何隠れていらっしゃるのですか!!」
「うぅ…じいや、もう少しだけ…」
「ダメですお嬢様、もうすぐお勉強の時間でしょう!!」
「嫌ですー!お勉強嫌ですー!」
「ワガママ言わないでください!お兄様ほどではないとはいえ、御白様の成績などは光屋家の風評にひびくのですぞ!」
「だってあの家庭教師厳しすぎるんですものー!」
ワガママお嬢様と使用人の醜い争いをまさか生きているうちに見ることになろうとは。社長令嬢もファンタジーだが何かの作品に出そうな使用人もファンタジーだ。
「…そうだ!この人、黒井くんが新しい家庭教師です!新しい家庭教師を迎えに行っていたんです!」
「え、…えーー!!?」
まさか俺が巻き込まれることになることも含めて。
御白が耳打ちしてくる。
「夕哉くん勉強何いけます?確かなんか賞もらってましたよね」
確かに奨学金の為に頑張って入学試験でギリギリ奨学金ラインを超えていた程度だけど。というか詳しすぎる、いやこの感じだと記憶力が良すぎるのか?
「えっと…得意教科は英数かな、あと理科も行ける」
「合格です、じゃあ二次方程式教えられますね、そこで困ってて…」
「それ中学数学だよね!?よく高校受かったね!?」
「国語と社会には自信があります、というかそれだけで合格しました。暗記なら任せてください!」
「いや頼らないよ!?」
「まぁまぁ日給こんな感じでどうでしょうか…」
光屋さんがポケットからお金を取り出してくる。怪しいバイトかよって言うくらいの金額を提示されたが、俺も光屋さんも焦っていてまともな思考回路はとっくのとうに切れていたのかもしれない。
「分かりました、家庭教師、今日から頑張ります!」
自分の自立と妹の為に…いや言い訳するのも烏滸がましいな。お金に目が眩んだ子供と、お金で全てを解決できると思っていた子供の契約が成立してしまった瞬間だった。
次回予告です!今回は私、光屋御白(ひかるやみしろ)が担当です!
私の家で夕哉くんが家庭教師に!それにしてもあのジャシンってカード、何なんでしょうね?そして夕哉くんが公園で黄昏ていると謎のデュエマプレイヤーがデュエマを挑んできます!?しかも彼の使うカードは…えぇ!?あのドギラゴン!?
次回「デュエマの心得」、お楽しみに、です!