国防委員会の三〇〇〇日_同盟軍事務総長の回想   作:ある軍務局長

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自由惑星同盟国防軍(以下同盟軍など)は七八九年に惑星エル・ファシルを奪回、七九〇年の第二次ワロム星域会戦、ヴラツグル星域会戦、七九一年のソクルオン星域会戦にいずれも勝利を収め、アルトゥム星域会戦においては同盟領深く侵入した帝国私兵艦隊約一万隻を、ぺテルセン大将率いる第九艦隊が殲滅した。
同盟軍中央は目下の優勢を維持して二年ほど戦略持久に徹し、帝国軍の疲弊とわが投入可能兵力増大を待ってイゼルローン要塞を攻略することを計画していたが、支持率が一〇%にまで低迷していたペンウッド政権は、起死回生を期して攻略作戦の早期発動を命じた。



第一章 軍官僚たちの戦争
第一話 第五次イゼルローン要塞攻略戦準備(前)


宇宙歴七九六年一月二〇日一〇時五分、冬期休暇が明けた同盟軍中央と宇宙艦隊の高官達は、統合作戦本部の地下一四階にある第一四三大会議室に集い、熾烈な論争の砲戦を開いた。

「艦隊総司令部作戦主任参謀のボロディン少将です、本作戦の概要をご説明します。

艦隊としては重畳戦法を採用し、部隊を第一・第二梯団に分け、切れ目ない攻撃で要塞に逃げ込まれる前に駐留艦隊を殲滅した後、増援到達前に五会戦相当の猛射を一二〇時間以内に加え、トール・ハンマーの射撃能力を奪った後陸戦隊を突入せしめ、要塞を占領する計画です。

これがため、三個艦隊を指揮し得る高級司令部一個、増強六個艦隊九万隻一〇〇〇万人、精鋭陸戦隊五〇〇〇隻五〇万人(定数では一隻五〇〇人だが分散し砲火の被害を軽減)、弾薬軍需品四〇会戦分(一会戦分は一個艦隊が一回の会戦で消費すると規定された量)、食糧医薬品一二〇日間分、及び艦隊最大速力に随伴し得る高速輸送船三万隻の動員を要望します。」

「国防委員会防衛部長のドーソン中将だ、その要求は受け入れられない、理由は主に三つある。

一つ、一五〇〇万人規模の動員は同盟軍の歴史上未だその例を見ず、軍の管理能力を越えている。

二つ、国内八四か所の補給廠と中央補給廠の弾薬軍需品を集めても、同盟軍が保有する総量は一個艦隊一〇〇会戦分に満たず、その要求では保有量の半数近くを使い果たしてしまう、補填には国内の弾薬工廠をフル稼働させて何年必要だと思っているのだ。

三つ、要求通りの兵力と物資を動員するには一〇〇〇憶ディナールが必要だが、これは今年度軍事予算の七%、予備費の五割に相当する。さらに作戦の当否に関わらず必要な損傷艦艇の補充や遺族年金を考えれば、そのような出費は政治が認めない。まして作戦企図を極限まで秘匿しての作戦となれば!」

不可能な理由を並べ立てた後で、ドーソン中将はこう付け加えた。

「もっとも、艦隊総司令部の良(・)識(・)派(・)である諸君に、財政や国力のことが分からんとは思えんがな。」

(基本的なことを確認しただけなのに、一々嫌味な..)

著者ことウィリアム・キーナン大佐は当時、国防委員会事務総局防衛部防衛課長代理として、全同盟軍の軍政に関して上官を補佐する立場にあった。特に政治の絡まない実務に関しては、(下剋上と言われても仕方ないだろうが)事実上私が統括していた。

(第一、今度の出兵は政治の決定なのだから、政治を理由に作戦を制限するのは筋違いだろう、それに部長も計画にない出兵を止めるどころか、委員長の提案を積極的に後押ししたではないか...)

今度の出兵は昨年一〇月策定の七九二年作戦計画にも同総合動員計画にも盛り込まれておらず、政権支持率の回復と政権存続の賭け_膨大な軍事費と数百万の将兵をチップにした_であり、政略出兵どころか政局出兵とでも呼ぶべき代物だった。

(確かに軍は文民統制に従うべきであるが、それは政治業者の利益のために動くべきという意味では決してない。一部隊長ならいざ知らず、軍中央で文官を補佐する立場ともなれば、無茶な出兵ならばできない理由を率直に説明すべきではないのか)

などと、脳内で軍人哲学論争を繰り広げつつも、あくまで一軍官僚として作戦当局と軍政当局の調整に邁進した。

「防衛課長代理のキーナン大佐であります、先程部長閣下がご説明なさった通り、現在の予算及び軍需動員体制では、作戦発動期限として指定された本年五月末には所要の兵力と物資を満たすことは著しく困難であります。

そのため艦隊総司令部におかれましては、現在動員可能な四個艦隊五万隻規模で実施すべく訓練と研究をより一層深化するか、作戦計画それ自体を抜本的に変更するよう要望します。」

すると論争の砲火が私に集中した、曰く

「研究は連日連夜行っているが、訓練計画は既に日程表いっぱいで、これ以上増やせない。そもそも準備に使える期間が短すぎる」

「作戦計画の変更などと言われても、先の第三・第四次イゼルローン攻略戦で、少数の兵力をもってしては要塞攻略どころか前段階の艦隊撃滅すらできないことが明らかとなったではないか!敵艦隊に対し停止なき連続攻撃を行い、回廊同盟側宙域で殲滅する為には最低五個艦隊は必要である!」

私は予算的、物資的事情を具体的な数字を挙げて説明したが、彼方も大兵力の集中運用という用兵の原則は断じて曲げず、苦慮していたところ、出席していた第九艦隊司令官のウランフ中将が

「うむ、我々としては大兵力は望むところだが、六個艦隊九万隻も動員したところで有効な指揮統制は可能なのかね?イゼルローン要塞は高い通信妨害能力を有しているし、回廊内では超光速通信(F・T・L)の不具合が昔から多いだろう。悲観主義に陥るのは良くないが、撤退時のことも考えねばならん、艦が多すぎると狭い回廊では混乱を招く」

「いたずらに大兵力投入に固執することなく、回廊内で有効に運用できる限界を研究し、その上限兵力を最大限活用し得る作戦を研究してはどうかな」

と提言された。

(私は、七九一年のアルトゥム星域会戦の事後処理にあたり、ウランフ提督の知己を得たが、当時指揮していた分艦隊が帝国軍の強力な通信妨害のため、本隊と連絡が取れず苦労したことを後年話されていた。この経験から、従来劣っていた帝国軍の通信妨害能力が侮れない水準に高まっていると知っておられたが故の提言であろう。)

そこで、会議を主催されていた宇宙艦隊司令長官のシトレ大将は、こう結論された。

「国防委員会として、予算と動員の問題がネックと考えていることは承知した。艦隊としても今一度回廊内の兵要地誌と作戦を検討し、再度所要兵力と作戦計画を提示する。」

「この際、軍政側としても一個艦隊あたりの戦力を最大化する編制や、通常の艦隊や揚陸部隊とは異なる、言わばクセのある部隊の編成も含め研究してもらいたい。」

会議は終わった。会議は部課長級以上の出席に限られていたため、会議室の外では防衛班長チンディッツ中佐、編制動員班長コネリー中佐、政策班長ベルカ中佐、防衛課長付副官メッサ―スミス大尉ら、軍事課の主要職員が待機していた。

「ご苦労様です、課長代理。ずいぶん揉めたようですね、あちらさん(艦隊幕僚)の怒号が防音壁越しにも聞こえてきましたよ」

そう言ったのはチンディッツ中佐だった。

「艦隊側の要求兵力を動かすのは難しいと思いますけど、計画にない出兵を政局のため急に命じておきながら、最低限必要な予算を求めたら下方修正を命じるペンウッド議長もひどいですよ、『必勝の信念』で軍艦が動かせるとでも思っているんですかね」

メッサ―スミス大尉が愚痴をこぼした。

「議長閣下に失礼ですよ、そういうことを言うのは軍事課の身内だけに留めておきなさい。

ただ、部長閣下も情けない人ですねぇ、今事務総長は長老のシャノン大将で次長は欠員だから、ドーソン中将が事実上国防委員会内局の制服組トップなのに、碌に説得もできなかったじゃないですか」

ベルカ中佐が釘を刺したが、彼女もやはり政治に対し軍の主張を貫徹できない今の部長には不満があった。

「おい諸君、上官の悪口は身内だけにしておけ。政治家連中の言うことにも一応理はあるのだから、同盟軍人らしく文民統制に従うとしよう。」

翌二一日、国防委員会第二(防衛部)棟の地下五階にある防衛課長室には、課長代理以下一三名の将校課員が揃っていた。

「先日の会議で、艦隊側は一度作戦案を取り下げ再検討するとしたが、こちらに対しても一個艦隊あたり戦力の最大化と、特色ある部隊を研究するよう要望が出た。戦力最大化は兎も角、部隊研究は本来あちらの所管だろうが、手伝ってやろう。」

「私としては・・・現在最小混成単位としている戦隊の各艦種群を分割編合し、艦隊ないし分艦隊司令官の直轄部隊として戦艦集団、巡航艦集団、駆逐艦集団などを設置、要塞への火力打撃で肝心な前進後退の統制を容易ならしめることを具申します。」

そう発言したのは防衛班員のカリア少佐だった。彼は士官学校七八八年年度一四位卒業の秀才で、煩雑な法規整理などに高い能力を発揮していたが、実戦に関することとなると過度に高(・)級(・)司(・)令(・)部(・)的(・)発(・)想(・)に偏るクセがあった。

「カリア君、それは通常の星系要塞攻略には向いているだろうが、要塞回廊は狭い。それに後方警備や偵察などで数個戦隊を引き抜くことも多いのだから、独立最小単位としての戦隊は必要だ。」

そう指摘したのはコネリー中佐だった。だが彼としても部隊統制問題は悩ましく、大規模な編制改編が必要という認識では一致していた。

「それでは、このような案はどうでしょうか?」

編制動員班のシャノン少佐がそう言って資料を配り始めた、先日官舎に帰ってから準備していたようで、彼の勤勉さを賞賛すべきか機密保持の意識を叱責すべきか悩ましかった。

「本案は以前第六艦隊の戦訓報告であった、支隊編成のための中間戦術司令部設置案をもとに作成しました。現在の宇宙艦隊は一般に司令官直率含む五個分艦隊・二五個戦隊の一二五〇〇隻編制ですが、これを改め司令官直率の一個戦隊及び四個分艦隊・一二個機動集団(仮称)・二四個戦隊編制とし、二~三個戦隊程度の支隊を編成するのに必要な司令部を確保します。同時に直率部隊の規模を分艦隊から戦隊規模に縮小することで、司令部が艦隊大局の指揮に専念できると考えます。」

課員達は説明を聞きながら全六頁の資料をめくっていた。話が終わると政策班員のビチェン少佐が発言した。

「支隊司令部編成のため中間司令部を設置すること自体は良いと思いますが、司令部設置には当然人事的措置が必要です。消耗の激しい少将から大佐級の指揮官は不足気味で、准将が司令官を務める分艦隊も珍しくありません。人事規定で『准将及び大佐」となっている戦隊司令の階級をこれ以上下げることは不可能ですし、分艦隊司令官・機動集団司令官・戦隊司令官がみな准将ともなれば軍の統制に大きな悪影響が出ると考えます。また参謀将校も不足気味で、正規艦隊だけでも一四四個の集団司令部が編成されると考えたらその負担は計り知れません。」

つい先日人事部から異動してきた彼の指摘は鋭かった。シャノン少佐も反論した。

「人事的問題を考慮し、全艦隊で同時に実施するのではなく、隔年で編成しようと考えています。ですがその場合、総司令部の指揮下にある分艦隊でも所属艦隊によって編制が異なるような事態が発生し、編制秩序上の問題が生じかねず・・・これについては八頁に・・・持ち帰って再検討します。」

論争は一応決した。このような具合で週例会議では活発に議論し、日常業務では関係部署との調整や稟議に奔走しつつ、各々自己の業務を行っていた。

「防衛班長として提言があります。過去の要塞攻略戦では、補給船団の護衛や後方連絡線警備のため各艦隊のおおよそ分艦隊や戦隊が引き抜かれて総司令部直轄となることが多く、これがため各艦隊の突進力や予備戦力の采配に悪影響が出ています。これを改善し、艦隊の全戦力を艦隊戦に専念させるべく、星域警備司令部の巡視戦隊や各方面軍の独立辺境分艦隊・・・今回は一個分艦隊と五個巡視戦隊を・・・艦隊総司令官の指揮下に一時復帰し、そのような第二線任務にあてるべきです。」

一同異論なかった。むろん私もそうであった。

「よし、今度の合同会議で提言しよう。今会議はこれにて終了とする。各々業務に戻ってくれ。」

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