笑う猫はテラを楽しみたい   作:すっぴんのハイモア

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ダンジョン飯コラボまだ読めてないんですけど、なんかやりたいことを公式にやられてしまったような雰囲気がしますが私は元気です。


「大型跳獣の松枝燻製肉」

 「はぁ…」

 

 異様に冷え込む秋の日の朝、私はため息をついた。

やるせなさ60%恋しさ40%を組成とする吐息は白く変わり、遠くの赤くなった森の方へ溶けて行く。

 

 今、私が焦がれている方向へ。

 

 この感覚はきっと恋に似ている。

あるいはもっと情熱的で真摯かも知れないけど。

 

 「肉食べたいなぁ...」

 

 モチャモチャとオリジヌシジャーキーを食べながら、私は肉の旨みを夢想する。...飯食いながら飯のこと考えるのかって?勿論。

 

 だって食欲は荒野で満たせる唯一の三大欲求だよ?

寝心地が微妙な寝床とそもそも相手がいないからやりようもなくて満たせない二つの欲求と違ってね!

あーあ。私の人生計画返してよほんと!

 

...ま、だからこそ叶う欲望には素直にならなくちゃ。

私は味が無くなってきたジャーキーを飲み込み、狩りの支度を始めた。

 

 どうせ冬が近くなるから備蓄も用意しないといけないし、テントにずっと居たらロケットストーブの燃料が足りなくなりそうだからちょうど良い。

 

 地味な色のローブを羽織り、腰にはクロスボウとナイフ。サイケデリックなピンクと青紫色の上にはいつもの帽子を。

 

さあ、今日も一狩り行ってみよう!

 

 

 

 

 森に辿り着くと、紅葉真っ盛りの風景が目に入った。

 

 地面には赤い絨毯が敷かれ、これまた空を覆う赤い屋根からはひらひらと葉が舞い落ちる。

 

 冷え込む気温といい、本格的に季節の変化を感じる景色だ。

 

「おっドングリ落ちてるじゃん!拾って帰ってトトリムクでも作ろうかな?」

思わぬ発見にウキウキで秋の味覚を拾っていると、

 

パキリ

 

 前方から枝が折れる音がした。

 

 私はちょうど掴んだドングリをポケットに入れ、ゆっくり顔を上げる。

木と木の間に白い立ち姿。

 

 犬の様に垂れた耳と、クリクリとした目。

 

 ヤギより一回り大きいくらいの体躯は無駄なく引き締まり、頭には立派な一本の角。

 

 大型跳獣が、私を見つめていた。

 

 彼我の距離は5メートル。

 

 目線を外さず、静かにクロスボウに矢を番える。刺激しない様に、警戒されない様に。あくびをするより自然に、揺れる木の葉より穏やかに。

 

 跳獣はずっとこちらを見つめている。

 

 短く長い動作の末、やっと目の高さまでクロスボウが持ち上がった。

 

 そして、ゆっくりと引き金を『ピィィィィイーイ!!』

 

 背後から甲高い絶叫が響いた。

 

 びっくりした私が思わず聞こえてきた方を向くと、枝に止まった卑羽獣が気が狂った様に鳴き喚いていた。

 

「うるさっ...静かにしてくれな『ピィィィィイイイイイーイ!!!!!』

 

「この*ウルサススラング*鳥!!あっ」

 

 しまったと思って跳獣の方を振り返る。既に姿が無い。

 

 臆病なあの獣は驚くほどの健脚と逃げ足の速さで知られているのを思い出す。

 

「やばっ、追わなきゃ!」

 

 私はこの後に及んで喚き続ける手羽先を無視して森の中を走った。

 

 一旦冷静になろう。まだ逃げられたわけじゃない。

 

 熱を帯びた肉を逃すほど、私は甘くない。

 

「血追いの犬は全てを嗅ぎ分ける ブラッドハウンドの名の下に」

 

 口ずさんだ一節で私の鼻は一気に鋭くなった。何も感じなかった空間から、芳醇な土の香りや葉の匂い。

 

 そして、木の陰や岩の上に点々と残る獣の残滓を嗅ぎ取れるほどに。

 

 糸を手繰り寄せる様に匂いを辿り、私は赤い迷宮を駆け抜ける。

 

「壁に耳あり 鏡に我あり 兎時計の鳴る方へ」

 

 走るうちに五月蝿い鳥の声が消え、今度は耳を研ぎ澄ます。

 

 静寂な森に響く土を蹴る音と荒い呼吸音。

 

 林の先で流れる水の音。

 

 疲れた獣が行く場所なんて、決まってるようなものだね。

 

 ちょうど林が開ける場所で木陰に回り、私は顔だけを出して音の出所を見定めた。岩がちな地形を横切るようにして川が流れ、舞い散る紅葉がそっと降り立ち流れていく美しい渓流。

 

 同じくらいに美しい白い獣は、よく映えた。

 

 一見無警戒に見えるが少し耳が立っている。

 

 あれは周囲の音をよく聴くための動作だ。

 

 クロスボウは使えない。消音機能の無い私のクロスボウでは、発射音と同時に躱される可能性があるから。

 

 そしたらあの獣は切り立った崖を数秒も経たずに駆け上がって追えなくなるだろう。

 

 私はクロスボウをそっと足元へ置き、ナイフを抜いた。

 

 足音を殺す、息を殺す、気配を殺す、私を主張する全てを順番にこの世界から殺していく。

 

 今の私は自然の一部だ。

 

 一匹の動物だ。

 

 砂利を踏む音すら響かせないように爪先を立て、ゆっくり、ゆっくりと獲物に近付く。

 

 その毛並みのきめ細やかさ、美しさを余さず目に焼き付けられる距離まで近づいた時、獣が振り向き目が合った。

 

 刹那。

 

 私が跳ぶ。

 

 健脚が跳ねる。

 

 私は空中で獲物に飛びつき、そのまま渓流へ転がり込んだ。

 

 冷たい水が私達を濡らし、命の張り合いが幕を開ける。

 

 死に物狂いの獣は全霊で踠いた。

 

 その脚が私を打ち、その角が私の頬を裂いた。

 

 でも、怯まない。

 

 片手で獣を押さえ付け、逆手に持ったナイフを喉元に突き立てる。

 

『-----ッ!!』

 

 獣は一層暴れるが私は力を込めて押さえつけ、ナイフを更に深く押し込んだ。

 

 やがて白く立つ飛沫が止み、紅葉よりも赤い色が川を流れ始めた時、獣は生き絶えた。

 

 私は獣を抱えて川から上がり、紅葉の上に仰向けにした。

 

「うぅ、寒い」

 

 この季節に冷水に飛び込んだせいで体が震えるけど、ひとまず解体だ。

 

 私は悴む指の震えを抑え込みながらナイフの刃を鳩尾に当て、下腹部へと浅く切り込んだ。

 

 ぬめりと暖かい血で指を濡らしながら、慎重に腹膜を切り開いていく。

 

 臓腑が露わになった途端、暖かい湯気が立った。

 

 瞬間。

 

「ゴホッゴホッ!!!...うぇぇ」

 

 何十倍にも濃密になった鉄と獣臭が鼻腔を蹂躙し、猛烈な吐き気を催す。

 

 私は慌てて強化していた嗅覚を元に戻した。

 

「アーツに慣れたからって油断しちゃいけないねホント...」

 

 涙を拭い、喉まで上がって来た口の奥の酸味に耐えながら腕を跳獣の体内へ入れ込み、ぶよりとした手触りの腸を掴んだ。

 

 ここからは慎重にならないといけない。

 

 不用意に傷をつければ内容物をぶち撒け、肉がダメになる。

 

 私は息を止めて丁寧にナイフの先端を使って腸の入り口付近を切り離し、引き出した。

 

「ふぅ....」

 

 もっとも気を使う工程を終えた私は引き出した腸を脇に置いて一息つく。

 

 あとは諸々の内臓を取り出して、皮を剥ぐ....前に、厄介なお客さんの相手をしなきゃ。

 

「よお嬢ちゃん。良い日だな?」

 

 低い声と共に屈強なウルサス人の男達が木陰から姿を現した。

 

 錆びついた武器を手に持ち、ボロボロのローブを身につけている。

 

 武器に統一性がないし、略奪を生業にしてる野盗かな。

 

「挨拶が遅いんじゃない?私が捌き始める前から見てたくせに」

 

「おお?何でバレてんだ?」

 

 最初に出てきた元締めらしき男は不思議そうに首を傾げた。

 

「全部聞こえてたよ。コソコソ話も息遣いも。面倒臭い捌く工程は人に任せておいて横取りする魂胆だったんでしょ?美味しいからね、この時期の跳獣は」

 

「へぇ〜耳良いんだな?でも誤解だぜ。俺が惚れたのは肉じゃなくて嬢ちゃんだからな」

 

「は?」

 

 思わぬ返答に、私は呆気に取られた。

 

 何を言ってるこの浮浪者は?

 

 いや私も浮浪者だけど。

 

「そのすばしこい獣を狩る腕前に、大の男達を相手に物怖じしない胆力もある。いかにもウルサスらしい豪胆な女だ!俺は気に入った!」

 

「そうだぜ!仲間になれよ!」

 

「俺たちといりゃあ女一人でこんな危険なことしなくて済むぜ?」

 

 男達は口々にくだらない口説き文句を吐き散らし始めた。

 

 はあ、傭兵も野盗もなんでこんな粗野な口説き文句しか知らないんだろうね?

 

「悪いけどお断りかな。住所不定無職の上に手が荒れる作業してる女の子を手伝わないとか論外だし、先約いるしね?」

 

 私が翳した手の指に、まるで指輪の様に浮き出た源石の欠片を見て男の表情が固まる。

 

「へぇ、立派なリングだな。どこで手に入れたんだ?友達にプレゼントされたのか?」

 

 男はすぐにヘラヘラ顔に戻ったが、その目は蔑みを帯びていた。

 

 害虫を見る様でありながら、恐怖を帯びた目。

 

 鉱石病患者が向けられる平均的な視線だ。

 

「さあね。あなた達みたいなのに教えるほど安っぽい話じゃないから」

 

「ああ結構だ。俺だって化け物の自分語りなんざ聞きたくもないんでね。

悪いがさっきの話は忘れてもらうとして...肉置いてくか奪われるか選べよ。感染者」

 

「お前が触ってねぇ部分なら、まだ食えるだろ」

 

 男はドスの効いた声で私を脅す。

 

「ふぅん?」

 

 私はわざとらしく肉に触れた。

 

「てめぇっ....舐めやがって!!」

 

 男がナイフを抜いた。

 

 私もクロスボウを取り出そうとしたが、腰に感触がない。

 

...ああ林に置いてきたんだった。

 

 ナイフを使おうか?

 

 いや、殺しちゃいそうだからやめておこう。

 

 幸い良い方法があるし。

 

「野兎みてぇに引き裂いてやる!」

 

 男がナイフを突き出す。

 

 それなりに速いけど、単調だ。

 

 私は一歩前に踏み込み、撫でる様に手の甲で相手の握り拳に触れた。

 

 ただそれだけで、ナイフの軌道がズレる。

 

 刃先が空を切り、相手の体が流れる。

 

「ストライク」

 

 そして遠ざかったナイフの代わりにぐっと近づいたその顔に、私は肘を叩き込んだ。

 

「ぐぼぉっ」

 

 男は鼻から血を噴き出し、その場に崩れ落ちた。

 

「な、なんだあっ!?」

 

「アーツか!?」

 

 突然崩れ落ちた仲間に慌てた残りの連中が騒ぎ出す。

 

 分かるよその気持ち。私も最初に見た時は魔法に見えたから。

 

「接近戦は何かマズい!蜂の巣にしてやれ!」

 

 数人がクロスボウを構え、私に向ける。

 

「撃て!」

 

 二番目に偉そうな奴の号令で一斉に矢が放たれた。

 

「視覚強化」

 

 同時に私は詠唱を省いてアーツを使用した。

 

 時の歯車が錆びつき、目に映る全てが凍えた様に鈍くなっていく。

 

 こうなると舞う木の葉も空を行く羽獣も、さながらピンで止められた剥製の様だ。

 

 ほとんど停止する様に宙に浮いた矢の軌道の一つ一つを目に焼き付け、私はアーツを解除した。

 

 時間が弾け、まるで氷が溶けた様に動き出した矢の雨が動き出す。

 

 風を切る音が耳元で鳴り、鋭い輝きが頬を掠める。

 

 しかし、一本も私に当たることはない。

 

 気象予報は完璧に済ませたからね。

 

「本日は矢の雨のち血の雨が降るでしょう♪」

 

「ば、化け物かよぉ!!」

 

 一瞬で弾幕を潜り抜けて肉薄した私に怯えるクロスボウ持ちの顔面に、拳を叩き込む。

 

「女の子に化け物って言うな!」

 

「う、うあああぁぁ!」

 

 隣の野盗は大変失礼なことに私を見て半狂乱になり、クロスボウを横薙ぎに振り翳して来た。

 

 私は深く息を吸い、体の力を抜き切って衝撃に身を委ねる。

 

グニュン まるでゴムボールを打った様な奇妙な音。

 

 脱力しきった私の体が加えられた衝撃を分散し、外に逃した音だ。

 

「ストライク」

 

 そして体に残った慣性に任せて回転し、カウンターパンチを放つ。

 

 力みを捨て、軽く握った拳を相手へ投げる様なイメージで。

 

「ぐおっ…」

 

 一見軽く見えても、当たる瞬間に破壊力が生まれるのがこの技術の妙だ。

 

 十分な脱力と遠心力が乗った一撃は少しの漏れもなく男の中に流し込まれ、その膝を折らせた。

 

 私は続け様に恐怖の伝播した野盗達を打ちのめす。

 

 関節を打つ、足を払って投げる、腕をへし折る。

 

 構えも力みも無く、ただ流れに任せて相手を破壊していく。

 

 散々使ってきたが、相変わらず氷の様に無慈悲な武術だと思う。

 

「終わり?」

 

 すっかり少なくなった野盗は声が裏返りそうになりながら叫んだ。

 

「いぃ、一体なんだよ!?なんなんだよお前のアーツは!?」

 

「アーツは使ってないよ?マーシャル・アーツは使ってるけど」

 

「こ、これが武術だと!?」

 

「ウルサス軍式特殊近接格闘術...通称はシステマ。広めないことをオススメするよ?一応軍事機密だから」

 

 私の言葉を聞いた野盗達の顔がますます青くなっていく。

 

「お前は、一体誰なんだ...!?」

 

「さあ?料理好きのただのフェリーンかもしれないし、そこそこ名を馳せた傭兵かもしれない。あるいは...二代前に辺境に飛ばされた貴族階級だったりして?」

 

「て、撤退!!撤退だぁ!!」

 

 ビックリするくらい一貫性の無い情報だったけど、ろくに世俗も知らなそうな野盗への脅しには十分だったらしい。

 

 野盗達は倒れた仲間を叩き起こしたり担いだりしてそそくさと逃げ去っていった。

 

「はぁ、私が何者かなんて私が一番聞きたいんだけどね」

 

 私は一つため息を吐いて戻り、跳獣を担いだ。

 

「とりあえずは、今は料理好きのただのフェリーンでありたいね」

 

 

 冷え込む夜の下、手製の簡易スモーク機の下で揺れる炎がパチパチと鳴いた。

 

 香り高いマツの煙が焼ける肉を通り抜けて天井にぶつかり、降る。

 

 その度、うっとりするような香りがテントの下を満たす。

 

 至高の時間だ。

 

 まるで満天の星を見ながら流れ星を待つかのような贅沢。

 

 荒野で生きる誰もが憧れる景色を前にするとつい考えることを忘れてしまいそうになるけど、きっとそれで良い。

 

 この幸福な惚けが狩人に許された特権なのだ。

 

 幾度目かの火花が散った時、更に深く変化した匂いが頃合いを知らせた。

 

 私はそれに従ってゆっくりと串に手を伸ばし、一息に喰らいつく。

 

 つやりとした表面の食感のすぐ内側から肉汁とまろやかな味わい。

 

 それをすっきりとした松の香りが整える。

 

 たまらない。

 

 次から次へと手を伸ばしてかぶり付き、一欠片も残さずに食べ尽くした。

 

「ご馳走様でした!」

 

 私は手を合わせた後、その場に寝転んであくびした。

 

 人目を気にせず食っちゃ寝ができるのは、荒野の数少ない良い所だね。

 

 ふと横を見ると、食べた骨と剥いだ毛皮の間に私。

 

 さて、私の明日はどっちかな?

 

「石ころか」

 

 私は一人で笑った。




・チェシャのアーツ
主な効果は感覚の強化。
索敵、戦闘、探索を無理なくこなせる便利なアーツ。
全力で使えば大抵の動きを見切ることができ、白兵戦性能はかなり高い。
上位勢とも戦闘が成立する程度には強化されるが、飽くまで土俵に立つ程度のものであるため、タルラのような広範囲高火力アーツやアビサルを始めとした超スペック相手には普通に勝てない。
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