転生したら秋庭怜子のマネージャーになった件   作:幽玄の鬼

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少し短めですが、投稿します


12:秋庭怜子のマネージャーは、最後の最後で恩師を止める【上】

 推理ショーを終えた――小さくなった名探偵と連続爆破事件の犯人が対峙する緊迫した調整室の室内。

 

 コナンは必死に譜和匠を止める方法について思考を張り巡らせ、そして爆弾のリモコンを所持している譜和匠が、堂本一揮を見下ろしている。

 

 そんな中、

 リズムを付けた独特なノックが室内に響いた。

 

 すわ何事かと、身構える譜和匠。

 

 だが続けて聞こえてきた声に、匠はやんわりと笑ってしまった。

 

「先生、宏一です。失礼します」

 

 許可の出る前に宏一は扉を開けてズケズケと中に入る。

 

「相変わらず君は私の意表を突くのが好きだね、宏一くん。変わらないようで何よりだ」

「ご無沙汰しています、先生。先生の方こそ、ご壮健そうで何よりです」

 

 先生、中に入っても? そう聞いてくる宏一に、匠は苦い顔だ。すでに中に入っているのに、そこから入って良いか聞く図々しさ。

 

 生徒の時代からそうだった。宏一は、いつも匠のことを笑わせてくれた。

 あぁ、入り給え。匠がそう返事すると、宏一は何ら躊躇なく距離を詰めた。

 

「君も私を止めに来たのかい? 拳銃を持ってきて」

「まさか。今日は秋庭さんの大切なコンサートですよ? そんな物騒な物は持ってきていません。それに……今更止めたって何になるんですか」

「それもそうだね」

 

 しかし君には驚かされたよ、と匠は言った。

 

「まさか君が銃を持っているなんてね、流石に驚いたよ。しかも中々の腕前じゃないか」

「昔取った杵柄です。お褒め頂き光栄の至り」

「君は私が教えてきた中でピカイチだった。今も変わらず調律はしているのかい?」

「はい。研鑽は常に……怠ることなく継続しています、先生の教えの通りに」

 

 社交辞令を交わしているかのように、気楽に話す2人。

 会話の内容は物騒だが、長い間疎遠だったとは思えないほど穏やかに話している。

 

 

「いつか君とは話がしたいとは思っていたが、まさかこんな形になるとはね」

 

 皮肉混じりに笑う匠。匠としても再会を夢見ていたが、こんな最悪な形での再会になるとは、何と皮肉なことだろう。

 だが、それは宏一も同じこと。

 待ち望んだ再会なのに、ちっとも嬉しくない状況を、宏一は純粋に悔やむ。

 

「それはこちらのセリフです先生。先生とは……出来ればまたお酒を交えて語らいたかった」

 

 そう言いながら、宏一は窓辺に座る匠の隣に並び立った。右から順に匠、宏一、コナンが横一列になっている。

 

 

 怜子や光を交えて酒を飲みながら音楽を語った日。

 

 怜子抜きで、男同士で馬鹿話をし夜を明かした日。

 

 とても楽しくて充実していた日々の匠との思い出。

 

 それが今や心底懐かしい。手が届かないからこそ、輝く思い出が宏一の脳を焼き焦がす。

 宏一は胸を込み上げてくる熱を飲み干して、匠に話しかけた。

 ところで、と前置きをして宏一はしゃべる。

 

「先生、名探偵の推理はお聞きになりましたか?」

 

 匠は鼻で笑い、そして答えた。

 

「大したものだったよ宏一君。君も手を貸したのかな?」

「いいえ、まったく。全て……そこにいる小さな名探偵が自力でたどり着きました。僕が手を貸したのは最後の最後、センサーを外す時だけですから」

 

 嘘つきの宏一とて、尊敬する恩師を相手に嘘をつくような恩知らずではない。

 2人は顔を合わせることなく、ただひたすら視線をステージに向けながら話を続ける。

 

「何ともはや……本当に大したものだ。末恐ろしい」

「同感です」

 

 最後にですが先生。

 そう言いながら宏一は、匠とは逆の方向を向いた。

 

 宏一にとって、何より重要なことを問うから。どんなに無様に取り乱したとしても、誰にも自分の顔を見られないようにするために。

 

 宏一は口を開いては閉じるを繰り返す。

 

 宏一の思っていることを口にしてしまうと、もう取り返しのつかないことになってしまう。そう危惧してしまって、中々言葉を発せれない。

 唇を濡らして、そして口を開くが声は出なかった。

 

 空気を読んで、匠もコナンも口を挟まない。

 

 宏一は再度、唇を濡らして、唾を飲み込んで覚悟を決めると、

 

「先生。僕じゃ足りませんでしたか?」

 

 問いかけとして、あまりに言葉が不足した問いかけが紡がれる。

 だが、宏一は止まらない。言葉を一生懸命考えて、言葉に出来ない思考を必死にまとめながら、宏一は懸命に言葉足りぬ問いを綴る。

 

「……僕じゃ、先生の穴埋めになれなかったですか? 僕じゃっ、いけなかったんですか……先生」

 

 平然を装おうとして平坦になるように努めてしゃべる宏一であったが、語尾は確かに微かに揺れて不動になり切れてない。

 

 さて、どう説明したものか。譜和匠は答えに迷い押し黙る。もう完全に終わってしまった生徒と先生の関係。

 あの日々を、どう言い表せるのか。匠は逡巡して、

 

「君が今、こうして無事に立っている……。これが答えじゃ、君は不服かな?」

 

 そう答えた。

 

 短いが、これ以上ない的確な答え。

 

 

 

 

 匠の想いを受け取った宏一は、肩を震わせながら

 

 

「いえっ、充分ですっ! 本当、充分すぎます……ッ!!」

 

 

 

 と、そう答えた。




次回で、フルスコア本編は終わる予定です
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