米花町の某所にあるタワーマンションの1室。ある男はベランダの手すりに身を預けて酒を飲んでいたところーー独特な着メロが鳴り響いた。
それはとある国の有名な童謡。誰もが聞いて歌ったことのある世界的な童謡のメロディー。
仕事やプライベートで使っているのとは別の秘密の携帯。
ある男は、秘密の携帯を取り出すと、電話に出る。
誰からの電話かは分かっている。今のところ、秘密の携帯に電話を掛けられるのは1人しかいないからだ。
「もしもし、ボス。何か御用でしょうか?」
「お前、組織の衛星追跡システムを勝手に使ったな?」
機械音声に加工された性別不明の声が、秘密の携帯から聞こえてくる。
機械音声の人物は、ある男が応答するや否や厳しい声音である男を問い質した。
機械音声の人物の追及を、ある男はのらりくらりと惚ける。
「何のことでしょう?」
「すっとぼけても無駄だ。お前の飼い主から、垂れ込みがあった。私がお前に対していつまでも寛容だと思ったら大間違いだぞ」
流石にそうまで言われては、言い逃れは不可能だと察しざる得ない。
ある男は素直に自分の非を認めて謝罪する。
「カッとなってしまい……気が付いたら無我夢中でした。申し訳ありません」
「無申請の発砲ーー無断での組織のシステムへのアクセス。私の甘い対応が、お前の数々の問題行動を増長させているのだとしたら……私にも考えがある」
今回の一件だけで、ある男の犯した問題行動の数々。それを羅列されてしまうと、どうしようも出来ない。
ある男に出来るのは、首輪の着いた己が首を差し出して忠犬アピールをするのみ。
ある男は殊勝に非を詫びてから、とある情報を献上する。
「申し開きのしようがありません、ボス。処分は如何にも。ただしその前にご報告したいことが」
「……なに?」
機械音声の人物は、興味を示す。
「……例の組織。本国の追っている
ある男の言う情報。
そのあらましを聞いて、機械音声の人物は黙った。一切の無音。数秒ほど音という音が消えて、沈黙の最中――機械音声の人物は口を開いた。
「ーーなる程。組織が喉から手が出る程欲しい情報をぶら下げて、私の許しを得ようという魂胆だな」
「そんな! 滅相もない! 貴方の子飼いとして、ボスに有益な情報を提供しよう、と……そう考えただけです」
と、ある男は
機械音声の人物は、機械音声に加工されて尚、電話越しに伝わる程の超低音、威圧を込めてある男に釘を刺す。
「ーー今回は見逃してやる。だが、小僧。今度は減俸だけじゃ済まないと思え」
「了解しました」
ある男がそう言った途端、電話はブツリときられてしまった。
「あら? もう誰かさんとの電話は良いの?」
「えぇ。ちょっとした業務連絡でした。それより、お待たせしてしまい申し訳ありません。さ、飲みますか!」
物騒な会話の雰囲気は、和やかなムードにかき消されて跡形もなく消え去った…………。