転生したら秋庭怜子のマネージャーになった件   作:幽玄の鬼

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2:秋庭怜子のマネージャー冬森宏一は、秋庭怜子と2人揃って怪しい【下】

 

 座席の影で、1人戦慄するコナン。

 そんな様子は露知らずに、宏一と怜子は密談を続ける。

 

「亡くなられた方のメンツといい、今回のフルートといい、もしかして彼の……」

「やっぱりそう思う?」

「状況証拠は十分です。僕の方で手を打ちましょうか? このままでは貴方に疑いが……」

「却下。そういうのは要らないって何度も言ってるでしょう」

「……しかし、それでは」

「くどい。それよりも、ほら」

 

 しつこく言い募る宏一を、素気なく断ると怜子は顎である方向を示す。彼女の耳が誰か近付く足音を拾ったのだ。

 宏一は諦めて、無言になる。近付いてきたのは高木刑事だった。高木刑事は、玲子の近くで立ち止まり

 

「すみません、秋庭さん。そろそろお話しを」

「たくっ、すぐに終わるんでしょうね」

 

 ぶつくさ言いながら立ち上がる怜子に対し、あははは、と力なく笑うのであった。

 その2人の後ろ姿をじっと見る宏一。

 そして、聞き耳を立てていたコナンが、2人の後を椅子に隠れながら追いかけていく様子を、ほほぅ? と、ニヤリと笑い宏一はしっかり目に焼き付けた。

 そして、堂々と高木刑事と玲子の後ろを歩いて付いていく。

 その堂々っぷりに、目暮警部は困惑してしまう。

 

「なぜ? その、冬森さんまで一緒に?」

 

「僕は秋庭さんのマネージャーですから」

「はぁ……?」

「補足しますと、秋庭さんは天才肌ですから。感性が一般人と少しズレている所がありまして……その補足役だと思ってください」

「ちょっと。私がまるで『変わってる』みたいな言い方止めてくれる? 努力が足りない人が嫌いなだけなの」

「ほらね?」

 

 な、なるほど。目暮警部は、苦笑いだ。

 まぁ良いでしょう。そう言って、目暮警部は気を取り直して、玲子への事情聴取を再開する。

 

「もう一度爆発直前に、河辺(かわべ)奏子(そうこ)さんが貴方に送ったメールについてお伺いしたいんですが?」

 

 目暮警部がそう言うと、高木刑事が手帳を見ながら、そのメールについて音読した。

 

音の違いの分からない素人さんたちとは、一緒にはやれないわ このメールの意味なんですが」

「意味って……そのままの意味じゃないの? 前にも私と河辺さんはーー」

 

 今回の公演の記者会見で初めて会った、そう言った佐藤刑事の言葉を玲子は肯定する。

 

「えぇ。その時、亡くなった2人の演奏を聞きに行くから、感想をメールするって言われたのよ」

「つまり……2人の出す音と、河辺さんの出す音。音楽家として表現したい音の違いが分からない彼らとは共演出来ない、という意味ですか?」

 

 白鳥警部は、怜子の話を聞いて、そう言ったのだが、宏一が口を挟む。

 どうしてもそうだとは思えないからだ。というのも。

 

「それは違うと思います。実は、秋庭さんと河辺さんは絶対音感。音程が完璧に分かるんです。だから音の違いというのは、そのままの意味……文字通りの、音程が分からないということを示すのだと思いますよ? 彼女も中々の女王様気質ですから」

 

 なるほど、と目暮警部は頷いた。 

 

「なるほど……そうでしたか。どうなんですか? 秋庭さん」

「宏一がそう言うならそうかも知れないけど、なんでそれを本人に聞かないのよ? 意識は戻ったって」

「戻ったには戻ったんですが、爆発のショックからか……事件の前後の記憶がないんです」

 

 佐藤刑事のその言葉に、怜子は驚いた顔になる。

 そして、白鳥警部はもう一つ。と言いながら懐を漁る。そして取り出したのは、

 

「こんな物が現場に落ちてたんですが」

「あ! フルートの胴部管」

 

 事前に宏一が口の動きだけで伝えた、フルートの胴部管そのものだった。

 怜子は、その品のある眉を一瞬だけピクリと動かしてしまったが、反応はそれだけで、ポーカーフェイスを貫くことに成功した。

 白鳥警部は、自分に聞かせるように解説する。

 

「そうです。頭部管、胴部管、足部管と、3つに分けられるフルートの胴の部分です」

「誰か生徒の置き忘れかもしれないのですが……」

「それにしちゃあ、胴部管だけ、ってのが引っかかるなぁ」

「何か……心当たりなどは?」

 

 高木刑事と小五郎は言う。

 小五郎の言葉を引き継ぎ、目暮警部は問いかけるのだ。心当たりはないのか、と。

 しかし、あらかじめ情報を知らされていた怜子は、さして動揺した様子を見せず、普段と変わらない棘のある口調で質問を否定した。

 

「いいえ、ないわ! もう良いでしょう」

 

 そう言って歩き去る怜子を、高木刑事が呼び止めるのだが、それを宏一が宥める。

 

「まあまぁ刑事さん。秋庭は大切なコンサート前で気が立ってるんです。どうか、落ち着いて」

 

 不機嫌に去る怜子と、刑事を宥めるマネージャーの宏一。宏一は、ぺこりと会釈して、怜子を小走りで追う。

 そんな2人の様子に、小五郎は眉を顰め、そして目暮警部と白鳥警部は顔を見合わせ、首を横に振った。

 

 玲子は、ふんっと鼻を鳴らして席にどがっと座る。

 それに宏一は苦笑いしながらも、怜子の水筒の蓋を開け中にお茶を淹れて差し出した。

 

「秋庭さん、顔に出てますよ」

「うるさい」

 

 憂い気な顔をしていた怜子は、宏一に指摘されて目を閉じると、すぐにいつもの澄ました顔に戻し、宏一の淹れたお茶に口をつけた。

 

「なんだ、それ」

「え?」

 

 玲子が顔を上げると目の前には元太がいた。

 

「何飲んでんだ?」 

「お茶」

「俺にも一口飲ませてくれよ」

「だめに決まってるでしょ」

 

 怜子はそう言って、蓋を宏一に突き返した。これには宏一も思わず苦笑いして、しかし文句を言うことなく怜子に突き返された蓋を受け取り、きゅっきゅっと閉めた。

 それを見て元太が口を尖らせる。見るからに拗ねている。

 

「……ケチ」

「もしかして、喉に良い成分とか入ってるんですか?」

 

「そうだよ少年たち。秋庭さん厳選のこだわり抜いたレシピ通りに僕が配合した特製のお茶なんだ」

「何勝手に言ってるのよ?」

「良いじゃないですか。別に減るものじゃないですし。事実でしょう」

 

 言い合う怜子と宏一を他所に、子供たちはわいわいと盛り上がる。

 

「なら、それを飲んだら合唱大会で一位になれるかもしれないね」

「合唱大会?」

 

 歩美の言葉に、玲子は興味を抱く。

 光彦は嬉々として説明を始めた。

 

「ええ。今度クラス対抗の合唱大会があって……そうだ! 僕たちの歌唱指導をしてくれませんか?」

「はぁ?」

「明後日の2時から、学校の音楽室で練習することになってるんです」

 

 歩美、元太が続いてしゃべる。

 

「ピアノは、蘭お姉さんが弾いてくれんたけど」

「歌を教えてくれる奴が問題でさぁ」

 

「こら坊主ども!」

 

 外野から会話を聞いていた園子が、好き放題宣う少年探偵団に対し一喝をする。

 元太のあけすけ過ぎな言葉には、さしもの小五郎も微妙な顔をしていた。

 

「だぁれが問題だってェ?」

 

 腕を組んで青筋を浮かべる園子様に、元太はたじろぎ、愛想笑いで誤魔化そうとした、が園子の雷が落ちる。

 大声で怒る園子を尻目に、蘭が「すみません気にしないでください」と言うが、怜子は小さく息を吐き笑った。

 隣に座る宏一も、園子たちの会話が壺に入ったのか、口に手を当てて笑いを押し殺していた。

 

「合唱って第九じゃないでしょうね? 私、あれ嫌いなのよね」

「大工さんの歌じゃねえぞ、帝丹小の校歌だぞ」

「……え?」

 

 怜子は驚いた顔をした。哀は、目を閉じて腕を組んだまま元太の間違いを指摘する。

 

「第九っていうのは、ベートーヴェンの交響曲第九番のことよ」

「え、そうなの?」

 

 歩美は、きょとんとした顔でそうなの、と呟くが怜子は相手にしなかった。玲子は宏一に話しかけた。

 

「明後日の午後、何もスケジュールなかったわよね?」

 

 宏一はこめかみに手を当てながら、脳内に叩き込み暗記している、頭の中にしか存在しない玲子のスケジュールを思い出していた。

 

「12時まで堂本アカデミーで部屋を借りて個人レッスン、その後はとくに予定は入っていません」

「なら……2時の予定、埋めといて」

「了解しました」

 

 了解したと、そう返事をする宏一。

 怜子は子供たちを優しい目で見てから、そして弦を張り終えた紫音が戻って来るのを確認して、表情を切り替えた。

 

「良いわ。歌唱指導やってあげる。帝丹小OGのよしみでね」

 

 そういった玲子に、蘭と園子は意外そうな顔をする。怜子のとなりでは、宏一が茶目っ気たっぷりな笑顔で自分を親指で、指さしピースサインまで浮かべている。

 自分も帝丹小出身だよ、とアピールしているのだ。

 

「だから今回はもう帰りなさい。邪魔だから」

 

 そう言葉を締めて、みんなを追い出す怜子を見て、宏一は口に手を当て俯いた。その彼の肩は、小刻みに揺れていた。

 

 

 

 

 

♪ ♬ ♪ ♬ ♪ ♬

 

 

 

 

 

 

「歌唱指導引き受けてくれたのは嬉しいですけど……」

「感じ悪いよな、あのおばちゃん」

「うん。……それに隣のお兄さん。なんか、この間テレビでやってた執事さんみたいだった!」

「それは僕もそう思いました! 服もスーツっぽかったですし」

「ひつじってなんだ? モコモコしてる動物のことか?」

 

 しゃべり盛り上がる元太、光彦、歩美のすぐ後ろを歩くのは、哀とコナンの2人だ。そして、哀はぼそりと言った。

 

「典型的な女王様タイプって感じね」

「ああ。ちょっと灰原に似てるよな」

 

 要らないことを口走るコナンを、哀はきつく睨みつける。たまらずコナンは冷や汗を流す。

 その後ろを、蘭と園子が歩き、小五郎はポケットに手を突っ込み興味なさそうに歩いていた。

 

「秋庭さんって、意地悪なのか親切なのか分かんないよねぇ。マネージャーの冬森さんも、マネージャーって感じより、なんか付き人みたいだったし」

「うん。でも、もしかしたら。緊張してる紫音さんに気を使ってみんなを追い出したのかもしれないよ?」

 

 こうしてコナン御一行は、わいわいと談笑をしながら、ホールの外へと出るのであった。

 

(……冬森宏一。彼は一体ーー?)

 

 

 

 

 

♪ ♬ ♪ ♬ ♪ ♬

 

 

 

 

 

 

「なによ? ずっと笑って。堪えきれてないから」

「いやぁ、貴方は相変わらず、人に優しい姿を見せるのを嫌がるなぁ、と」

「あら? なんのことかしら」

「山根さんに気を使ったんですよね。彼女は緊張に弱いだけで非凡な方ですから。彼女が伸び伸びと演奏出来るようにギャラリーを減らしてあげた……違いますか?」

「それを言わないのが華なんじゃないの? ……関係ない人たちにどう思われようが、私は全然気にならないもの」

  

 コナンたちが、預かり知らないところでそういう会話があったとかないとか。

  

「そんなことよりも、本当に余計なことはしないでちょうだい。私に断りなく、私の知らないところでコソコソ動いたら承知しないから」

 

 怜子はとなりに座る宏一の襟首を掴み、顔を近付けた。キリっとした鋭い瞳が、まっすぐ宏一を貫く。

 

「いい? これはお願いじゃなくて、雇い主としてマネージャーに下す命令。余計なことをしない。私に隠れてコソコソ動くのも禁止……返事は?」

 

「……了解しました」

 

 宏一は、短くそう返事をした。

 




怪しい点まとめ
①読唇術を使う
②そもそも会話の内容が物騒
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