転生したら秋庭怜子のマネージャーになった件   作:幽玄の鬼

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ごめん元太。俺を許せとは言わない。だが、謝っておく

※さらっと流してますが、怜子様と死神くんのコーラス110番通報はちゃんと描写しています


8:秋庭怜子のマネージャーは、急変する事態に駆け付ける【下】

「……さてと」

 

 宏一が今いる場所は愛車の中だ。

 

 2ドアハーブトップの四人乗りオープンカー。クーペとも言われるアメリカ産のスポーツカー、第5世代シボレー(Chevrolet)カマロ(Camaro)

 

 黒と黄色のストライプ、まるで蜂の如きカラーリングがなされたウィング付きのその車が宏一の愛車なのだ。

 ナンバーは『八王子は0480』。幼馴染になってから初めて知った怜子の誕生日をナンバーにした、宏一の夢の愛車の運転席。ちなみに色が蜂模様な理由は、某実写化された映画に因んだもの。

 

 宏一はエンジンキーを回しACCモードから、車を叩き起こした。

 寝起きのカマロは快調にエンジンの唸りを轟かす。

 

「俺のご主人様を」

 

 ギアを1速に入れ、宏一はアクセルを踏み込む。

 

「迎えに行くか」

 

 サイドブレーキを下ろせば、シボレー・カマロは勢い良く飛び出した。その挙動は、まるで黒い稲妻の如し。

 

 事の発端は、十分前に遡る。

 

 

 

 

 

♪ ♬ ♪ ♬ ♪ ♬

 

 

 

 

 

 コンサート開幕の少し前。

 館内や堂本ホール近辺をくまなく探すが、怜子とコナンの姿を見つけ出すことが出来なかった。

 

「結局、こうなるのか。……先生」

 

 案の定、2人が行方不明になったということは、いよいよ……。

 

 念の為、行方不明かどうか確証を得るために宏一はバルコニー席の一角を訪れていた。

 その一角とは、鈴木財閥関係者用の特別観覧席のこと。

 

「すいません、蘭さん。探偵坊主……失礼、コナンくんはいますか?」

 

 宏一は、なるべく小さな声で尋ねたのだが、蘭は首を横に振る。 

 

「コナンくん、居なくなっちゃったんです」

「あのガキ。ちょっと用事を思い出した、とか言って何処かに行ったっきり、そのまま帰ってきてないのよ」

「そうでしたか」

 

 蘭と園子の発言は、想定通りのもので、だから宏一は冷静に受け止める。

 

 確証は得られた。あとは2人を見つけ出すだけ。

 

 そんな宏一の内心を露知らず、蘭たちの会話を聞いていた子供たちが静かに騒ぎ始める。

 

「あのー、もしかしてコナンくん何かに巻き込まれたんですか?」

 

 とは光彦の発言。コナンのことを案じているのだろう、顔が真っ青だ。

 光彦の左隣に座る元太も心配そうな顔をしている。

 

 だから宏一は、どうにか安心させようと口を開くのだが。

 

「コナンくんなら大丈夫だよ! 歩美、信じてるもん!」

 

 曇りなき眼。確かな信頼を感じさせる瞳。

 宏一がこの子たちなら大丈夫だと、そう確信させるのには充分すぎる要素だった。

 

「だよね、宏一お兄さん!」

 

 宏一を見て、そう元気いっぱいに言う歩美。

 そんな歩美の頭をちょっとだけ宏一は撫でた。

 

「そうですね。僕もそう思います」

 

 えへへと照れ臭そうに笑う歩美の髪の毛の感触を堪能すると、宏一はずっと黙ってる元太の方を見た。

 

「ところで元太くん? でしたよね。彼は何故ずっと黙ったまま何ですか? あんなに元気なわんぱく砂利坊主が」

「元太くん、昨日食べ過ぎで吐いちゃって声出ないんだって」

「……」

「だから声が出ない代わりに、音を出すためリコーダーを持ってきてるんですよ。宏一さん、このことは内緒で」

「……えぇー」

 

 宏一が痛い思いをしてまで、元太の喉が潰れる機会を潰したというのに……流石は元太というべきか。恐るべし、食い意地っぷりだ。

 開いた口がふさがらないとは、まさにこのこと。宏一は、ぶわって溢れた冷や汗を拭い、気を取り直して当初の目的である哀の近くに立つ。

 

「後のことは君に任せることにします」

「あら何で私に頼むの? 博士で良いじゃない」

「君が、僕がこの世界でただ一人愛する人にそっくりだからですよ。優しいところ、立ち振る舞い含めて。だから君になら僕は安心して任せられます」

「そう……勝手に言ってなさい」

 

 そっぽを向いたまま吐き捨てるその仕草まで、玲子にそっくり。

 含み笑いを堪え切れず、しかし宏一は肩で笑いながら、なら勝手に任せますと言いバルコニーを後にするのであった。

 

 

 

 

 愛車である蜂色のシボレー・カマロに乗り込んだ宏一はまず初めに鞄から黒のノートパソコンを取り出した。

 

 マネージャー業とプライベート兼用のノートパソコンと、もう1台アルバイト用に支給され高性能ハイエンドのが1台――計2台のノートパソコンを所有しているのだが、今回持ち出したのは黒のハイエンドPC――つまりバイト用のパソコン。

 パスワードを素早く入力して画面を立ち上げると、飾りっ気のないホーム画面が映し出される。

 星のアイコンをクリック、パスワードとIDを打ち込むと、堂本ホール近辺のリアルタイム上空映像が画面いっぱいに表示された。

 

 そのまま宏一は、ある数字の羅列を打ち込み――。

 

 

 

 

 

♪ ♬ ♪ ♬ ♪ ♬

 

 

 

 

 

 

 堂本音楽ホールが所在するのは西多摩市の自然豊かな『音楽の森』という自然公園の中。

 堂本ホールが隣接する湖畔から流れる運河の先に浮かぶ小舟の上。

 

 声だけで110番通報をやってのけるという前代未聞の離れ業を披露した怜子とコナンが、小舟の上で揺られていた。

 

 

 見事なハモリを披露した2人の仲は深まっている。

 

 

「あとは警察が来るのを待つだけね」

「……ねぇ。怜子さんと宏一さんってどんな関係なの?」

「どうしたの急に?」

「宏一さんからちらっと話は聞いたけど……普通のマネージャーと歌手って関係には見えないもん。暇を紛らわす雑談だと思ってさ。教えてよ」

 

 いけしゃあしゃあとコナンは踏み込んで来る。

 無邪気さを前面に押し出すクソガキを前に、怜子は深く溜息を吐いた。

 

「私と宏一は小学校からの付き合いなの。小学生の1年の時だったかしら? 音楽の授業があって、私歌を披露したのよ。そしたら」

 

『あなたの歌にほれました! ファンです』

 

 顔を真っ赤にして怜子にそう叫んだ幼い頃の宏一の姿が今でも思い出せる。

 そこからだ。怜子が宏一を子分にして鞄持ちにしたのは。宏一が怜子の鞄持ちとして付き従い始めたのは。

 

「彼、宏一が私のマネージャーになったのは7年前。宏一が私に告白したのが5年前。その時は、私が振ったんだけど……」

 

 ここまで話すと途端に口が重くなる。

 苦虫を噛み潰した様な顔になる怜子。そんな怜子を見て、怜子の様子、声音、表情、全部を見透かすようにじっと見つめながらコナンは怜子の言葉の続きを口にする。

 

「今じゃ怜子さんの方が宏一さんを好きになった」

「……っ!?」

 

 何を馬鹿なことを。勝手に怜子の気持ちを代弁したコナンに文句を言おうと、怜子はコナンを睨むのだが、文句が紡がれることはなかった。

 

 怜子を見るコナンの目があまりに真剣だったからだ。

 真摯に怜子を見つめる瞳は、切実で、されど必死なもので、鬼気迫る哀しさが混じり合う複雑な光を灯していた。

 怜子は諦めたように、コナンの言葉を肯定する。

 

「そうよ。光さんを喪ってもずっと傍にいてくれた宏一が、私の歌を天使の歌声とかって褒めてくれる宏一のことが。ずっとずっと私のことを支えてくれた宏一のことが、……好き」

「だけど……宏一さんは」

 

 コナンは言葉を選びながら口を開こうとしたが、怜子がその先を言わせなかった。

 

「私がきっぱり振った日……いえ、違うわね。私が光さんを紹介してから、宏一から向けられる愛が、感情が敬愛とか崇拝とか、そういうものに変わったわ」

 

 そうしゃべる怜子の横顔は、澄ましたままである。

 だが、ところどころ声が震えているように聞こえるのは、コナンの勘違いなのだろうか。

 

「後悔……してない? 振ったこと。一緒にいるのに、すれ違うって、その。ものすごく辛い日もあるでしょ?」

 

「……確かに今私はとても迷っているわ。私の中に大切な人が2人いる。だけど、どちらもものすごく大切な人だから優劣はつけられない。私は親愛を向けているつもりでも、宏一が私に捧げる愛は敬愛。女王と執事の関係どまり」

 

 だけどね、と怜子は言った。

 その顔は凛々しい。

 

「後悔だけはしてないわ。あの時宏一を振った時、私は宏一のことが好きじゃなかったんだもの。だけど、私は秋庭怜子は冬森宏一のことが好き。宏一が撃たれた時はっきりした、愛してるって。けどそれの何がいけないの?」

 

 夕日を一身に浴びる怜子の横顔はオレンジ色に光輝いていた。

 怜子は、堂々と思いの丈を高説する。ともすれば、歌っている時よりキラキラしている……かもしれない。

 

「光さんのことを生涯愛して、宏一のことも愛する。また私のことを好きにさせたら良いだけの話だもの。恋なんてものは最後の最後に、付き合ったもん勝ちなんだから。……あ、今話したことは宏一には秘密にしといて。私が自分で動かないと意味がないから」

 

 いびつな歪んだ、ひたすらに純粋な恋。

 恋を語らう歌姫(怜子)は、とても美しい。

 

「けど、コナンくんも人の恋路を聞いてる場合かしら?」

「え? なんのこと?」

「蘭お姉さん……だっけ? ピアノ弾いてた娘、あの子が好きなんでしょ?」

 

 恍けるコナンだったが、蘭の名前が飛び出てきてコナンはギョッとした。

 

「な、ななななんで……そ、そう思うの?」

 

 露骨に挙動不審に陥るコナン。瞬きが露骨に増えて、挙動不審のお手本の様だ。

 そんな若いコナンを見て、怜子はクスリと笑う。

 

「あら? 探偵さんみたいなことはするくせに、恋愛ではまだまだお子ちゃまなのね?」

 

 ドSモードになった怜子は、それはもう素敵な笑顔で、遥か年下のコナンをイビる。

 

「何年、女をやってると思ってるの? それくらい丸わかりよ。図星なんでしょ、小さな探偵くん」

 

 怜子の厳しい追及。早々にコナンは降参をする。

 

「うん。僕は、俺は蘭のことが、好き」

「そう。良いと思うなぁ、年の差。好きになった相手がたまたま年上なだけだもの。お姉さん応援するわよ」

「ありがとう……でいいのかな?」

「お互い頑張りましょうね。恋愛」

「……うっ、うん」

 

 頷いてからコナンは頬を赤に染め上げる。

 その姿でさえ、もう虐めたくて堪らなくなるのだが、怜子は荒ぶる心を鎮めて、コナンを別件で問い質す。

 

「それはそうと、……コナンくん。私たちのこと、犯人だと疑ってるでしょう? とくに宏一のことを」

「……うん。――っ!? どうして!?」

 

 上の空になっていたコナンは一度空返事をして、直ぐに正気に戻り、声を乱す。

 しかし、取り乱すコナンを他所に、怜子は淡々と指摘を始めた。

 

「あれだけ露骨に嗅ぎ回ってたら気付くわよ。私の部屋を不躾に見たり、事情聴取をコソコソ盗み聞きしたり」

「気付いてたんだ? 聞き耳立ててたの」

「当たり前でしょ。私も、それこそ宏一も耳は良いの。変な足音がパタパタと――嫌でも気付くわ」

「ごめんなさい」

 

 謝るコナンに対し、怜子は求めてるのは謝罪じゃないと返した。

 

「別に謝って欲しい訳じゃなくて、コソコソ動くならもっとちゃんとしなさいってこと。じゃないと、案外簡単にバレるわよ?」

 

 まさか盗み聞きの指南をされるとは思っておらずコナンは、あはははと乾いた笑みを浮かべる。だがコナンは、その後直ぐに怜子の指摘を否定するのであった。

 

「昨日までは怜子さんたち、とくに宏一さんのことが怪しいと思ってた。正直今でも宏一さんはむちゃくちゃ怪しいよ? だって銃持ってるし……だけど今は犯人じゃないって知ってる」

 

 その決め手となったのが写真だ。

 怜子の部屋にあった写真と、堂本邸にあった写真。

 2枚の写真と、高木刑事が記す相馬光の生年月日が、宏一が一連の事件の犯人であることを否定する。

 

「昨日の夜、小五郎のおっちゃんのへっぽこ推理に付き合わされて、見ちゃったんだ。堂本さんの若い頃の写真。そこに写ってたんだ。3年前に亡くなった相馬光さんにそっくりな男の人が……」

 

「雑談は充分みたいね」

 

 まだまだ続くコナンの推理を怜子はぶった切る。

 目を閉じ耳を澄ませる怜子は、気付いたのだ。

 

「え?」

「私のマネージャーよ。本当は駄目なのに、宏一ってば私の命を辿って来たみたい」

 

 そう言って怜子は、自身の胸に手を当てた。

 

 怜子が手で押さえる場所には小さな手術痕がある。かつてある物を埋めた箇所。今なお、怜子の生体に流れる電流を糧に動き続けるある物が眠る場所。それは、宏一とお揃いであり、怜子と宏一の断ち切れない絆を象徴するモノ。

 

 米花町市民にとって、詩は嗜み。怜子もその例に漏れずに、自身の心臓が停まると動かなくなるそれを『命』と表現したのである。 

 

 

 どこからともなく、重厚なマフラーの音が聞こえてくる。

 

 体感にしてわずか数秒。

 遠くから重低の排気音を轟かせながら、あっという間に近付いてきたそれは運河の堤防のほど近くに、盛大にスキール音を響かせながら急停車する。その排気音、スキール音ともに怜子にとっては聞き慣れた音。

 

 そして――。

 

「大丈夫ですかー! 秋庭さん! 坊主ー!」

 

 秋庭怜子のマネージャー、冬森宏一は警察より早く、飼い主の元へと駆けつけた。




ちなみにですが、宏一の蜂模様カマロは特別仕様となっており、防弾ガラス・防弾ボディ・防弾タイヤの以上3点が充実した完全防弾車となっています。
なので米花町を走行中に唐突に狙撃されても、突然銃撃戦に巻き込まれても安心安全。だから安心して米花町の夜の街を走行できます
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