異世界蛮王、貧弱な身体に転生する〜元凶は前世神官の転校生〜 作:ヘイ
前世の彼は蛮族の王であった。人間のみならず、魔族も獣人族も恐れる怪人。
侵略、支配、セックス。
世界を脅かす大悪として前世では大いに恐れられ、勇者に討たれた。勇者、とは言ったものの神に選ばれての勇者ではない。
井嶋朔斗の前世──ドレッド・レッド──を討ち倒したことでの名声である。
「ぐぬぬぁああああっ!!」
「がんばれー、朔斗」
そして何の天罰か。
ドレッド・レッドの身体は三メートルを超えていたというのに、井嶋朔斗の身長は半分ほどしかない。
筋肉量も見るからに違う。
ドレッドの身体は三メートルの巨体にして体重三百七十キログラムと恐ろしい肉体であったというのに、今は貧弱にも百五十センチメートル三十七キログラムである。
「うぉおおおおお…………!!」
上体起こしが二回以降、全く上がらない。
「気迫は十分なんだけどなぁ」
「死ねぇええええ!! あ、死ぬぅうううう!!」
もはや呪いである。
筋肉がつかないようにと、そう言った呪いをかけられているに違いない。
覚えはあるのだ、彼自身。
前世での横暴が災いしたのかもしれない。
「────か、はっ……く、はぁ。んぐっ」
身体を大の字にして荒い呼吸を繰り返す。
そんな可哀想な存在が井嶋朔斗なのだ。
「う、動けん……一ミリも」
指先すら動かせない。
「助けろ、
自身を見下ろす茶髪、褐色肌の青年を見上げながら声を絞り出す。
「俺を丁寧に立たせてくれ」
「なんで偉そうなんだよ。はあ、仕方なし。よっこいせ、と」
和泉
「キャー!! アンサク! アンサクよ!」
「え、でも今の口ぶりからしてサクアンじゃ」
「バカね、誘い受けよ!」
女子の声に晏悟は困ったと言いたげな顔になる。
「……男の娘は邪道」
朔斗は一人で立てると晏悟から離れようとするも、ふらふらと足元がおぼつかない。晏悟はしっかりと彼を支えなおす。
「クソ! この俺が、この俺が衆道なぞ! そんなクソみたいに非生産的な行為を容認するわけがねぇだろうが! オス犯しても子供は出来ねぇんだよ! メスを犯せ! 孕ませろ!」
一人で立つことはままならないが、口だけは動かせる。
「顔に似合わず、お前の口の悪さは相変わらず最悪レベルだわ」
やれやれ、と呆れたような顔で晏悟は呟いた。
「んだと? 脳みそ腐ってる奴らに文句言って何が悪いんだよ!」
「いやまさしく脳みそは腐ってんだけどな?」
叫ぶその姿はまるで小型犬。弱い犬がよく吠えてるようにしか見えず、見るものが見れば逆に愛らしいと思わせるほどに。
「────身体は貧弱ですが、性根は相変わらずみたいですね」
金のショートヘアの凛とした顔の少女が朔斗と晏悟の前に立った。胸は他の女子と比べても少し大きく、ウエストは細い。身長は朔斗と晏悟の中間辺りだ、
「転校生の……」
「
「えーと、朔斗の知り合い?」
「そうですね。少し因縁がありまして」
蓮華に見つめられるが朔斗には何のことだか全くわからない。
「因縁って……お前何したんだよ」
「いやいや知らねーよ?」
半目を向けてくる晏悟に彼は首を横に振って否定する。
「少し二人で話がしたいのですが」
「え……もしかして。良かったな朔斗」
微笑みを浮かべた晏悟が言う。
「なんだか不愉快な勘違いをされてそうなので訂正します。告白ではないです」
「そうなんだ。とりま、二人でごゆっくり」
晏悟が去った。
「あべっ……!」
朔斗は床に倒れた。
「…………」
「蛮王ドレッド・レッドの姿ですか、これが」
床にうつ伏せに倒れた朔斗を見下ろす。
「俺を見下ろすな!」
「あは、貧弱すぎて哀れさすら感じます」
「クソが! 突くんじゃねぇ!」
しゃがみ込んだ蓮華は右手の人差し指で朔斗の頭を突く。
「ああっ! 前世の力がありさえすればぁ!」
「ぷふっ……ドンマイです」
鼻で笑う。なんと屈辱的なことか。歯軋りをするも、今の朔斗には目の前の少女に勝てるビジョンが思い浮かばない。
「残念ですね、ドレッド・レッド」
「なんなんだ、手前はよぉ!」
「今世では水上蓮華。前世の名は……ミナ・カレン」
「誰だよ!」
「おや、覚えてませんか。あなたの治める国にいたんですがね」
「居たか?」
「まあ……あなたが死ぬ三日前に潜入したので」
悔しげに唇を結び、拳を握りしめながら呟く。
「勇者にいいとこ取りされた気分です」
「なんつぅ逆恨みだ」
「なんで殺されてるんですか。殺されるなら私に殺されてくださいよ。あなたを殺せば私の生活は完璧に安泰だったんです。あなたにかけられた懸賞金で老後も問題なかったというのに」
「馬鹿野郎! いくら俺でも死ぬタイミング選べる訳ねぇだろうが! てか、俺だってもっと色々やるつもりだったわ!」
世界制服だとか。
「なので、ストレス発散に付き合ってもらいます」
「あ?」
「生涯をかけて、あなたでストレス発散します。これが一番良心が痛みません」
「俺の人権はどこへ?」
「そのためにあなたを転生させたんです。そして私もここに生まれたんです」
「お前、神官じゃねぇだろ。どう考えても呪術使ってる方だろ」
魔法も超能力も存在しない。
「可愛がってあげますよ、朔斗くん」
フィジカルのない朔斗にとって、彼女は大魔王である。
「ざっけんな。ベッドでヒィヒィ言わせてやるわ、クソメスが」
それでも彼は吐く。
床に身体を投げ出したまま。
「なら」
「ぐえっ!」
うつ伏せのままの朔斗の上に蓮華は座る。
「ここから起き上がれないと」
結果として、蓮華が上から退くまで朔斗は身体を起こすことはできなかった。
* * * *
「痛づっ!?」
「大丈夫か?」
「あの、クソメスが……!」
筋肉が痛んでいる。
三日が経とうとしているのに治まるところを知らない。腕の力だけで身体を起こそうとしたのが祟ったのだろう。それもこれも全て、あの蓮華という女のせいである。
「飯だ、飯」
こう言う時は食欲を満たして、感情を抑えるのだ。朔斗は弁当を取り出し、晏悟と昼食にしようとする。
「晏悟くん、私も一緒していいですか?」
「あ、蓮華ちゃん。いいよ。オレは可愛い子大歓迎だから」
「嬉しいです〜」
笑顔の晏悟とは対照的に、朔斗の表情は「なんでくるんだよ」と言いたげなものであった。
「あれ? 朔斗くんはそれだけですか? そんなんじゃ大きくなれませんよ〜? 豪快に肉を頬張らないと」
「い、胃もたれすんだろうが!」
前世の姿を知っている蓮華からすれば爆笑ものである。ここが学校でさえなければ腹を抱えて笑い転げていたであろう。
「ぷぷっ……」
「おい、手前……マジで殺すぞ」
友人の晏悟も「それで少食だったのか……」と納得している様子だ。
「あれ、ベッドで泣かせるのでは? そうやって短絡的に脅迫しちゃうんですか? 殺しちゃうんですか?」
「……ぎぎぎっ」
会話を聞いている晏悟は困惑していた。まさか、ここまで煽るような少女がいるとは思ってもいなかったのだ。
「いや、どう言う関係よ?」
晏悟の疑問に蓮華は答える。
「朔斗くんはサンドバッグです」
「違げーよ! クソメスが!」
朔斗は即座に否定。
「手前は俺の奴隷だ」
唇を尖らせた。
「おや、上下関係を分からせないとですか」
「おい、やめろ! このクソ馬鹿力が! 頭割れる! 頭、がぁああああああ!!?」
蓮華の右手のアイアンクローが朔斗の頭を襲った。