ノブレス・オブリージュは斯くありなん 作:パワー系お嬢様
ノブレス・オブリージュ。
ありていに言えば「立場には責任が伴う」、それだけの単純な言葉。
歴史を紐解けば
だが「果たすべき義務」とは何だろうか?
無償の奉仕……確かにそれも1つの義務と言えるだろう、しかしそれはその立場で果たす義務なのだろうか?力ある者がその力をわざわざ封じてまで行う事など只人がやるのと何の違いがあるものか、寧ろこんな所に居るより元の場所に戻ってくれ、なんて言われるのがオチだ。
慈善の施し……これは力ある者だからこそできることだろう、問題はただ施すだけではその先がないという事。ただ施すだけでは施された側はそれからもずっと施しをアテにして生きていく事だって考えられる、そうなれば施しは最早慈善ではなく刷り込み、自分に依存させるための手段に成り下がってしまう。それは最早果たすべき義務ではない、私欲のための薄汚い狼藉だ。
一般的に「ノブレス・オブリージュ」の義務と呼ばれる2つの行動、紐解いてみればどちらも「果たすべき義務」とは程遠い。真のノブレス・オブリージュとは、立場ある者にしかできない果たすべき義務とは?
私は考えた末、ある1つの解を見出した。
「立場ある者」が果たすべき事、それは一重に立場ある者にできて立場ない者にできないこと。されど能無くただ施すのではなく、立場ある者として誇り高くあれるもの。
それは金銭のような目に見えるものではない、かと行って奉仕のような自分が直接動くものでもない。
それは何か?……考えてみれば酷く単純なこと。
「責任」を負う、それが立場ある者にのみ許される誇りある行動である。
立場なき者に責任は負えない、それは代償に払える物が無いからだ。しかし反対に立場ある者は時として責任を負う事を拒む、それはその代償を支払うことを渋るからだ。
……そうとも、「責任」とは、立場なき者程背負おうとしても不可能であり、立場ある者程背負うのを拒む物である。
で、あるのならば。
立場ある者として立場なき者の「責任」を代わりに「背負う」。それこそが立場ある者が本当に果たすべき義務であり、真のノブレス・オブリージュと言えるのではないだろうか。
至ったのは15の時、親や使用人達から「ノブレス・オブリージュ」というものを嫌というほど教えられて育った私という「立場ある者」が幾多の自問自答の果てにたどり着いた結論である。
そうと決まれば話は早い、私は進学してからすぐ学園内における私の「立場」を作った。まあ些か強引な所もあったが最終的には「立場」として認めさせたので問題ないだろう、やってる事は真っ当であるのだから咎められる理由も無いのだし。
とはいえ「立場」があっても「実績」が無いのでは人は集まらない、立場を作った次に私は実績を作るために日夜活動した。この手で駆け回って手に入れた実績は自然と私の元へ同志を集め、私がその同志達の「責任」を私が負う事で後ろ盾となり新たな実績を作る。その繰り返しで私の負うべき責任、そして私に背中を預けてくれる同志達の数も呼吸をするように大きくなった。
気付けば私が現場に出る事もごく僅かになりやる事と言えば自己鍛錬といつも通り同志達の責任を負う事しかなくなってしまった。まあ正確には現場に出ようとすると「団長が出るという事はやれる事は全てやりきってもう打つ手がないという証明になる」と止められてしまうのだが……全く規模を大きくし過ぎるのも考えものである。
……まあ、それはそれとして、だ。
「182、183、184、185……」
陽光差し込む自室にて今日もいつものようにお気に入りの音楽を聞きながら日課の
「198、199、200、201……」
今日は久しぶりに特に用事もなければ何か学園でイベントがあるわけでもない何事もない日だ、せっかくだしこのまま最高記録にチャレンジしてみよう……
「団長、居るか?」
「……ええ、誰も来ないのならと折角なので記録更新を目指そうとしていた所でしたわ」
「それはすまなかった」
「構いませんわ、暇なのに耐えきれなかっただけですもの」
……こういう思考をしてしまうと大体用事がやってくる、口は災いの元……いや、これだと思考は災いの元か。まあどちらでもいい、あくまで自己鍛錬は趣味なのだから。
「入るぞ、いいか?」
「お待ちを、10秒ください」
「わかった」
許可を貰ってすぐハンドスプリングで跳躍し直立、軽くタオルで汗を拭き「団長」の証である真紅のジャケットを身に付ける。
「よろしくてよ?」
「では失礼する」
律儀にドアをゆっくりと開けて入って来たのはかれこれ3年の付き合いであるトリニティ自警団副団長「黒霧トウキ」、いつものように執事服を見事に着こなしている彼女は慣れた手付きで私が汗を拭いたタオルを回収すると何事もないかのように向き直った。
「今日は何かしら、良い知らせであればいいのだけれど」
「伝達事項は2つ。1つ、スズミ達から伝達、最近トリニティ自治区で幅を利かせている闇バイトの元締めの拠点を特定。制圧行動へ移るとのこと」
「分かりました、いつも通り修繕費諸々はこちらから出すので派手に暴れなさいと伝言を」
私の
「了解した。そして2つ目、ティーパーティホスト代理「桐藤ナギサ」より伝言。現在トリニティ自治区を含むキヴォトス全域の混乱、それに伴う治安の悪化について連邦生徒会の対応を求めるべく3日後に正義実現委員会から特使を派遣。同時に自警団からも1人特使を派遣してほしいとのこと」
「成程……特使に条件は?」
「ない、団長の判断で最適な人材を派遣してほしいとの事だ」
「分かりましたわ」
正義実現委員会、形はどうあれ私たち自警団と同じようにトリニティの治安を守る同志。各々が己の意思で自由に動ける私達と違って小回りが利かないのがたまに傷ではあるがティーパーティの代行者として外交ではこれ以上ないカードとなる……そしてそのお目付け役として我々自警団が選ばれた、と。
「相手は連邦生徒会、恐らく私達に期待されているのはもしもの時のお目付け役……」
「……私が行くのが手っ取り早いだろうが生憎その日は別件が入ってしまっている、すまない団長」
「構わないわ、しかし所望されている「最適」な人材のハードルが頗る高いのも事実。万が一連邦生徒会であらぬ事が起きれば降りかかる責任は……いや」
「団長?」
……誰を派遣するかの人事権は私にある、派遣した者がやらかした場合の責も全て私が負う。普段ならば気にする事はないと団員の誰かの肩を叩いて送り出す所だが……今回は場所が場所だ。責任を負わなくていいとはいえその重圧は途轍もないものになることだろう……
……で、あるのならば。
「特使は私自ら行きましょう。立場的にも人事的にもこれ以上は望めません」
「私個人としては異論はない……だが、いいのか?もし仮に連邦生徒会とトリニティの間に亀裂が生じるようなら……」
「その時は笑顔で腹を切らせていただきましょう。責任を取るとはそういうものです」
「……そういう物騒な言葉を笑顔で言える人だったな、団長は」
「不条理を笑って流せるくらいの気概がなければ責任を負う立場など座れませんもの、生半可な覚悟で腰を据えてはいませんことよ?」
あっけらかんとした態度で答えればトウキの方もああそうだったな、とでも言いたげな顔で書類の準備を始めた。相変わらず私がどうするかなんて彼女にはお見通しのようだ、軽く礼を言いながら机に備え付けている羽根ペンを抜き手渡された書類に目を通す。
「あら、交通費はティーパーティ持ちなのね」
「今回はいつものようにこちらから干渉しているのではなく彼方から招致された側だからな、其れ相応の待遇だろう」
「いつもは修繕費や交通費を支払っている側なのだから随分と新鮮な気分よ。これじゃあまるで来賓待遇じゃない、車両も個室だし」
「確かに来賓待遇だが……護衛は一切付かない。もし何かトラブルが発生した場合特使のみでどうにかしなければならないということになる」
「あら、それについては心配なんてするまでもないじゃない。まさか貴女が私をか弱い乙女だなんて一瞬でも思った事があるのかしら?」
「いいやない、そもそも私は団長の
「それでよろしい、ただ……もしやりすぎてしまったらその時はごめんなさいね?」
「被害が金だけで済む程度にしてもらえるとありがたい」
「それは心掛けますわ」
とても昼間に世間話のノリで話すようなものではない物騒な話をさらりと2人で流しがら資料を確認し、サインを記入。
「ではトウキ、これをティーパーティに。私は少々荷造りをして来るわ」
「気が早いな、わかった」
「私は常に準備を余裕を持って終わらせておくタイプの人種よ、貴女だってそうでしょう?」
「確かにそうだ……帰って来たら打ち上げでも?」
「流石にこの程度で打ち上げなんてできないわ、団員が大任遂げて帰って来たのならまた考えたのだけれども」
「そうだな……では、行ってくる」
「ええ、書類に不備があったら急いで帰って来てちょうだい」
部屋を出ていくトウキを見送り背筋を伸ばして一旦休憩。数秒程目を閉じたのち深呼吸して椅子から立ち上がり、荷造りをするため倉庫へと赴く。
……正実側の特使。特に大規模なテロなどが予想される訳でもないしハスミ辺りが出向するだろう、気まずい雰囲気にならないよう会話のネタは複数用意しておくか。
「団長」
「あら、何処かしら」
「最後の1枚だ、恐らくはピッタリ重なっていて気づかなかったのだろう」
などと思考を回していると先程送り出したトウキがいつの間に帰還。見逃しにすぐ気づく辺り相変わらず優秀である。
「他に記入漏れはない、サインを」
「ええ、改めてお願いね?」
再び羽根ペンを抜き、書類へサイン。
薊 ライ
再び書類を手渡したトウキを再び見送り今度こそ荷造りへ、思えばD.U.地区に行った事はあっても連邦生徒会へ赴くのは今回が初めてである。
連邦生徒会、このキヴォトスという学園都市で最も重大な責任を負うもの達。彼女らが一体どういった人物なのか……楽しみだ。
「……あ」
……感情のままに拳を握っていたら持ったままの羽根ペンがひしゃげてしまっていた。1本15kgもする特注品なのにまた注文し直しである……ちょうどいい事だし出向ついでに再発注しておこう。
「トリニティ、ゲヘナ、ミレニアム……三大学園揃い踏みとは此度の問題余程大事のようですね?」
「全くこれではおちおちテーブルを囲む事もできませんね。少し暴れて来てもよろしくて?」
「……さて、お手並み拝見と行きましょう、「先生」」
次回「ノブレス・オブリージュの邂逅」
「ああ、今投げたものですか?暇つぶし用の鉄球ですわ」
「……1個辺り約20kgの、という枕詞が入りますが」