ノブレス・オブリージュは斯くありなん   作:パワー系お嬢様

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ノブレス・オブリージュの邂逅

 

 あっという間に時は流れ連邦生徒会への出向と相なった3日後。今日はトウキも別件で忙しいため万一団員達に何かあった場合対応が遅れてしまうが……まあここ数日は目立った問題も起きていないしどうにかなる事だろう、自警団はそこらのチンピラ程度に散らされるようなヤワなものではない。

 

「……」

「あの」

「どうかしましたか、ハスミ副委員長?」

 

連邦生徒会へと向かう列車の中、同じくトリニティからの特使である羽川ハスミに話かけられる。あらかじめ会話のネタはある程度作っておいたが果てさてどう切り出してくるものか。

 

「いえ、移動中で暇だというのは分かるんですが……」

 

「何故ジャグリング……しかも鉄球で?」

「暇つぶしにもなり同時に鍛錬にもなる、これほど効率の良い暇つぶしもありませんわ」

「そ、そうですか……」

 

生憎電車の天井は低いため3ボールが精々だが普段は9ボールでよくやっている、ただ球を投げているように見えてその実反射神経、筋力、柔軟性、集中力を同時に鍛えられるこれ以上ない暇つぶしなのだ。

 

「ハスミさんも一度やってみては如何?思ったより簡単にはいきませんわよ、これは」

「……その鉄球の重さをよく知っている身として遠慮させていただきます」

「あら残念。ツルギ委員長は結構楽しんでおられましたのに」

「えっ」

 

前に一度ツルギに勧めてみたのだが思いの外ハマってくれたようで今でもたまにやっているのを見かける。最も私がいつも使っているこれを貸そうとしたら二つ返事で断られてしまったのだが。……暇つぶし兼鍛錬にはこのくらいの重さが丁度いいだろうに。

 

「……まあ流石にこれを使ってはいませんがね。さて、時にハスミさん」

「はい?」

 

やりながらでも話はできるのでジャグリングを続けたまま今度はこちらから会話を切り出す。

 

「此度のキヴォトス全域における混乱……貴女はどう見ます?」

「どうって……それを確認するために私達は出向したのではありませんか?」

「事前に見解を立てておくのは悪いことではありませんわ。ある程度の予測ができれば対応もある程度組み立てられる、外れたとしてもあくまで仮定は仮定と切り捨てられる。少なくとも悪い事はありません」

「……なるほど」

 

まあこの荒れようを見るに上層部の足並みが揃ってないか責任者が失踪したかだろうか、ただのトラブル程度ではこの規模のトラブルが発生する事は稀である。仮に起こったとしても連邦生徒会の公権力ならば数日程度で対応ができるだろうし……まあそれくらいしか思いつかない。

 

「私の見解は上層部における人事トラブル、ないし責任者の失踪と考えています。それ以外でここまで混乱が長期化する理由というのも思い当たりませんから」

「……私は連邦生徒会とブラックマーケットが癒着しているのではないか、と。そうでなければ此処まで出自不明の兵器類が氾濫することもありません」

 

なるほど、そう来たか。

 

「確かにパニックが起これば火事場泥棒は必ず現れる。そして火事場泥棒が楽をするためにブラックマーケットの兵器は非常に有用である、と。確かに合理的です」

「ええ、ですから……」

「しかしエデン条約を間近に控えた今連邦生徒会がそのような事に手を出す余裕などあるのでしょうか?連邦生徒会長が条約の仲介人となっているのにそれを自ら壊すような愚行を犯すものかと私は少々疑問に思いますわ」

「それは……」

「ええ、「連邦生徒会とブラックマーケットが癒着している」というのは主語が少々大きすぎます。現実的に仮定するなら「混乱に乗じて連邦生徒会の一部がブラックマーケットと提携している」程度かと」

 

私も少し考えはしたが流石に組織ぐるみでやってたらもう少し早くやってる筈である、故に外した。

 

「……少々焦っていたのかもしれませんね、申し訳ありません」

「いえ、気持ちはよく分かりますわ。此方も最近の不良集団には少々手を焼かれていまして……」

 

最近の不良共は大体戦車が標準搭載である。別に相手できない訳ではないのだがとにかくしぶとくて面倒だ、戦車というのは強力な兵器であると同時に強固な城なのだから。

 

「「少々」と言い切る辺り実に貴方らしいですね、ライ団長」

「トリニティ自警団が戦車程度にむざむざ敗走するような者の集まりでない事はハスミ副委員長もよくご存知かと」

「全くです……ある意味でライ団長には感謝していますよ、あれだけの武力を持つ個の集団の手綱を引いてもらっているのですから」

「あら、もしかしたら陰でティーパーティに謀反を起こす準備でもしているかもしれませんわよ?」

「貴方に限ってそんな事はないでしょう」

「少しくらいは乗ってくれてもよかったのにつれない人ね」

「貴方と気安く話せるのはそれこそトウキ副団長くらいしか居ないと思いますが?」

「……もう少し親しみやすさを身に付ける方法でも考えてみますか」

 

これでも関わりやすい性格であるとは自負しているのだがどうにも立場の都合か話しかけてくるのが恐る恐る……なんて生徒が大半なのが実情である。自警団黎明期の伝説がどうのこうのだの言われているが私からすればやる事をやっただけであり少し釈然としない、もう少し気軽に話してくれていいのに……

 

「まあそれはそれ、今考えるべきは連邦生徒会。お目通りは叶ったようですが……どう応対されてもいいように準備はしておくべきですわ」

「ええ、下手に事を荒立てれば責はこちらに……所でライ団長」

「なんでしょう?」

 

 

 

 

「いつまでそれを続けるつもりで?」

「無論電車が目的地に着くまでです。もう少し天井が高ければいつも通り9ボールができたのですが……」

「無茶を仰らないでください」

「……確かにそうですわね、9ボールに必要な天井はもう少しじゃ足りませんわ」

「いやそっちですか」

 

まあいいか、座った状態でやる3ボールもこれはこれで鍛錬になるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて」

 

 気づけば電車を降り遠路はるばる連邦生徒会へ、ただ要件を確認しようとした所「それどころではない」と返され私とハスミはひとまずレセプションルームにて待機を余儀なくされた。流石に特使として派遣された身である故何も成果なしでは帰るわけには行かない、連邦生徒会上層部へのお目通りが叶うまでハスミはテコでも動かない姿勢である……まあ流石にこんな状況で呑気に暇つぶしとジャグリングをする程私も戯けてはいない、果てさてどうしたものか。

 

「にしても偶然とはいえ……」

 

受付に怒りを露わにする生徒。あの校章はミレニアム。

 

待ち受けの椅子に座りながら眼鏡を手入れする生徒。あの腕章は風紀委員会、ゲヘナ。

 

そして私とハスミ、トリニティ。

 

「トリニティ、ゲヘナ、ミレニアム……三大学園揃い踏みとは此度の問題余程大事のようですね?」

「情報部によれば数千に及ぶ学園自治区の全てで何らかの異常や人災が発生しているのだとか。むしろこれだけで済んでいるのが不思議なくらいです」

「私としては思ったより多い方ですわね、わざわざ連邦生徒会に使者を出す自治区など稀も稀でしょう。それこそ三大学園規模の物でなければ、ね」

 

故に今日は私とハスミだけと考えていたのだが……考えることが同じというか、日程が此処まで被るものなのかというべきか。

いずれにせよ成果を出さぬ事には帰れない、とはいえ焦っても良い結果は出ない。

 

「……ま、今は大人しく待つが吉です。何か水分を摂って頭をクリアにするのがよろしいかと、此方で何か奢りましょうか?」

「いえ、流石にそれくらいは」

「ならば結構……おや、意外と行けますわねこのココア。携帯飲料を侮るなかれと言った所でしょうか」

 

別に携帯飲料をコケにしているわけではないがどうもこの缶ココアは品質が良い。帰ったら団員用にカートンで取り寄せてみようか。

 

「しかしこの体たらくではお目通りが叶うまで下手すれば日単位で……おや?」

 

ゴミに出しやすいように飲み終わった缶を手で圧縮している此方へ向かってくる者が1人……先のゲヘナの生徒か。

 

「ごきげんよう、何か私に御用かしら?」

「……トリニティの鮮血の赤(スカーレット)が何故こんな所に?」

 

おや、開幕からぶっ込んでくるな。

 

「連邦生徒会をこんな所呼ばわりは少し無礼かと。そして何故こんな所に居るかという話ですが……お目付け役、とでも言った方がよろしいですかね?」

 

今ハスミは自販機に飲料を買いに行った為不在、特段取り繕う必要もないだろう。

 

「お目付け役……わざわざそれに貴方を当てるほどの事態なのですね、トリニティは」

「少々私を買い被りすぎているのでは?私が此処に居るのは自警団の中から消去法で選んだだけ、それ以外に深い理由もなければ政治的な思惑もありませんことよ。トリニティ自警団が政治的思想とは無縁の存在である事は鮮血の赤(スカーレット)の名を知る貴方ならご存知でしょう?」

「それは確かに……しかし意外です」

「何が?」

「こう言う場に出てくるのであれば貴方ではなく副団長かと思っていました。わざわざトップが現場に出てくる程自警団という組織は矮小ではない筈と」

「消去法と言ったでしょう?生憎トウキは本日外せない別件のため不在、他の人材も出払っているか代表者という責任に耐えられるかという者が殆ど、故最適な人材として私が私を選びました。他に質問は?」

「いえ、確認したかっただけです、失礼しました」

「ええ、そちらも忙しいようで」

 

……さて、そこそこ時間が経ったが未だに進捗はなし。こういう時こそ落ち着いて、と言い続けるのにもそろそろ無理が出てくる。かと言って現状をどうにかする手段は持ち得ず、どうしたものか……ん?

 

「エレベーターの開閉音……ふむ」

 

どうも上の方にも動きがあったらしい。物音聞こえたエレベーターに視線を移してみればそこから出てきたのは資料で確認した主席行政官と見慣れぬ大人、そして予定調和と言わんばかりに我先とその2人に群がる生徒3人。お目付け役として止めるべき所ではあるのだろうが……考えてみれば情報を聞き出す絶好の機会でもある。少し聞き耳を立てるとしよう。

 

「……連邦生徒会長……正直に……行方不明……」

 

ふむ、どうやら仮説は正しかったらしい。今回の騒動は連邦生徒会長の失踪による行政の混乱、なるほど長期化する訳である。ただでさえ1責任者が失踪した時の対応は面倒極まるのにその失踪者がトップとなればこうなるのも無理はない。

 

「こちらの……先生として……連邦生徒会長が特別に指名した……」

 

そして行政官の隣に居たのは先生、それも失踪した連邦生徒会長が直々に指名した人間、と。教職としての先生なら形だけだが今まで居ない事もなかった、だがそもそも先生という立場の人間を何のために連邦生徒会長は指名したのだろうか?もう少し聞いてみるか。

 

「先生は元々……ある部活の担当顧問として……」

 

「連邦捜査部シャーレ……超法規的機関……」

 

……超法規的機関、と。つまりあの先生が顧問を務める「シャーレ」なる部活は他でもない連邦生徒会長の指示の元D.U.地区はおろかあらゆる自治区において自由な行動が認可されているということ、とんでもない話もあったものである。

ある種失踪した連邦生徒会長の代理とも言える存在。あの人間はその重圧に耐え、責任を背負える者なのだろうか?……いけないな、元々そんな予定で来た訳ではなかったのにあの人に興味が湧いてきた。

 

「キヴォトスの正常化のために……」

 

……おや、ハスミ達を引き連れて何処へ行くのやら。突っかからなかったせいで私には声がかからなかったようだが……流石にそろそろお目付け役として声をかけておこう、ついでにあの人とも接触できる。

 

「お待ちを」

「貴方は?」

「そこのトリニティ生の連れですわ。彼女を連れて何処かへ行くというのなら場所くらい聞かせてもらえると此方としては助かるのですが」

「……此処から30kmほど離れたD.U.外郭地区です。もし暇だというのであれば貴方も来られますか?」

 

目が笑っていない、なるほど尋常な事態ではなさそうだ。推定最重要人物である先生を何処かへ案内するというのならわざわざハスミ達を連れていく理由がない、そしてハスミ達に飽き足らず私にまで声を……

 

ああなるほど。

 

荒事か。

 

「では喜んで。どうにも愉快な遠足になりそうですことね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……で、案の定。

 

「全くこれではおちおちテーブルを囲むこともできませんね」

「言ってる場合!?そもそもなんで私がっ、痛っ!?」

 

 案内された場所に居たのは不良を通り越して暴徒と化した生徒達、遠目で見やれば戦車のような物も見える。全く毎度の事だが何処から仕入れてるんだか。

……さて、周囲には理解が追いついて居ない様子のミレニアム生徒と臨戦体勢のゲヘナ生徒とハスミ、そして妙に落ち着いた様子の先生。

 

良い(ベネ)。やはり連邦生徒会長直々の指名という事で只者ではない「立場ある者」の風格を感じる、俄然興味が湧いてきた。

 

「……さて、先で少し暴れて来てもよろしくて?」

「いいけど……大丈夫なの?」

「ええ、淑女といえど柔な鍛え方はしておりませんことよ?」

 

であれば次の段階、此方からアプローチをかけて見る。私が暴れると聞いたゲヘナの生徒とハスミが動揺しているがまあさしたる問題でもあるまい。

 

「それでは許可も頂いた事ですし……」

 

ジャケットの内ポケットに1個だけ入れていた鉄球を取り出し左足を踏み出す。

 

「……ボール?」

「開戦の狼煙と……」

 

大きく振りかぶり……

 

「行きましょうか!」

 

投擲、放たれた鉄球は巨大な風切り音を立てながら不良集団の中央へと真っ直ぐ伸び。

 

 

これまた轟音と共に道路中央部に陣取っていた彼女らを盛大に吹き飛ばした。

 

「……いつみても、馬鹿げた威力ですね」

「な、何あれ……何をどうしたらあんな速度で……」

「噂には聞いていましたが……」

 

三者三様の反応を聞き流しながら先生に目を向ければ同じように動揺こそすれど取り乱す様子もなく、鉄球が放たれた先から目を逸らすことはなかった。

 

尚良し(ヴァ・ベネ)。「立場ある者」の余裕……ああ、もしかして、もしかするかもしれない。

 

「……ねえ、えっと……」

「ライ、と。そうお呼びください」

「ライ、今投げたのって……」

「ああ、今投げたものですか?暇つぶし用の鉄球ですわ」

 

無論ただの鉄球であればあそこまで破壊力がある訳もない。

 

「……1個辺り約20kgの、という枕詞が入りますが」

「にじゅっ……!?」

 

破壊力とはそれ即ち密度×体積×速度。私用に特注で作らせたあの鉄球だからこそのこの威力である。まあこう使う目的で作った訳ではないのだが……

 

「……そういうわけで狼煙も派手に打ち上げたことですし、宣言通り派手に暴れて来ますわ」

「分かった、できれば指示に従って欲しい所だったけど……」

「おっと、口に出た言葉を今更飲み込むのはナンセンスですことよ?貴方の立場は文字通り逸脱したものである以上余計に、です」

「うん、だから存分に暴れて来て。私は私で彼女達と一緒に戦うから……まあ、銃を持って戦えはしないからできることをやれるだけ、だけどね」

「……」

「ライ?」

 

 

 

素晴らしい(ベニッシモ)

 

ああ、この人は立場ある者としてのあり方を完璧に理解している。尊敬すべき、そして敬愛すべきお方。

で、あるのなら、あるのならば……!

 

 

「いえ、なんでもありませんわ。それでは先に待っています」

 

言うが早いが助走を付けて走り出し、走りざまにクレーターを作った鉄球を回収して前へ前へと加速する。

 

「借りますわよ」

 

ついでに吹き飛ばした不良生徒から銃を拝借して装填、都合悪く今日整備に出していた愛銃の代わりとする。別に銃がなくたっていいのだがそれはそれで加減が利きにくくなるため自らに課す安全装置(セーフティ)としての銃だ。どうせ矯正局送りなのだから返す必要もないだろう、まあ弁償を要求されたら新品を送りつけてやるくらいのことはしてやるが。

 

「な、なんだよこいつ!?」

「弾が当たらない!?なんで!?」

 

放たれた弾の軌道までは流石に見切れないが銃口から弾道の予測をする程度ならできる、であればあらかじめ当たらないように姿勢を変えるなど容易なこと。

 

「ごめん遊ばせ!」

「ギャっ!?」

 

「先」で派手に暴れて来ると言ったのだから此処らの雑兵に用はない。バク宙で此方へ銃口を向ける生徒に飛び込み着地のタイミングで肩を踏み抜いて再跳躍、軽く前方の集団を飛び越えて奥へ奥へと歩を進める。

 

「さて、この辺りまで来ればあの方の戦い方の邪魔にはならないでしょうか?」

「前の奴らはどうした!?」

「それがあいつ、前の奴らを飛び越えてぇ!?」

 

観戦の邪魔になりそうな生徒達を一蹴し、一度歩を止めて後方を見やる。幾ら敬愛すべき方とはいえその戦い方が悲惨な物であれば流石に評価を改める、しかしあれだけ「ノブレス・オブリージュ」を体現しているのであれば此方の期待を裏切らないで欲しい所……まあ、勝手な期待ではあるのだが。

 

「……さて、お手並み拝見と行きましょう、「先生」」

 

増援として駆けつけた追加の不良生徒達を片手間で相手しながら、私は独りごちた。





「災厄の狐……これまた大物が出て来ましたわね」

「古来より戦車の攻略法は確立されているのですよ?」

「……ライ団長が銃を持って戦うということは紛れもない「手加減」の証です」

次回「ノブレス・オブリージュの戦い」


「……良い(ベネ)非常に良い(ディ・モールト・ベネ)

「……私薊ライは、貴方という人間が非常に気になっております」


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