豊川祥子とモーティスは大・大・大親友   作:あばなたらたやた

1 / 19
一話:豊川祥子は砕けない

 

 

 若葉睦は二重人格である。

 幼く、引っ込み思案な睦。

 社交的で、行動的なモーティス。

 

 役割分担をした結果、ギターを弾いたり専門的なスキルを必要とする場合は睦が主人格となり、逆に柔軟性が必要だったり、コミュケーションをするならばモーティスが表へ出ることになった。

 

 そして、現在進行系で問題だったのは、モーティスの幼馴染である豊川祥子である。

 

 なんと彼女の父親が詐欺に遭い、一族と会社から破門。

 

 祥子は酒浸りになった父親を支える必要が出てきた。

 

 となると、趣味で楽しくやっていたバンドのCRYCHICを抜けて、新しく商業的なバンドへ転向することになるが、CRYCHICは祥子が始めたバンドだったので、リーダーの祥子が抜ければ自然と空中分解するのは当然の流れとなる。

 

 結果、バンドメンバーだった友人達とも大きな溝ができてしまった。

 

「不幸の玉突き事故だよね、正直。あり得ないくらい連鎖しててため息でちゃう。そうは思わない? 祥子ちゃん 」

「それで、どうするんですの? 貴方は」

「何が?」

「貴方も好きにして良いんですのよ。無理に私と付き合って、新しいバンドをやる必要はありません」

「祥子ちゃんさぁ」

 

 モーティスは、指で机を叩きながら、呆れた顔で言う。

 

「余裕ないんだから、頼りなよ。私を」

 

 そのまま、モーティスは言う。

 

「幼馴染で、ずっと迷惑かけられても一緒にいたのは、私が祥子ちゃんのことを好きだからだし、それを選んだのは私だよ」

 

 睦とモーティス。

 二人が選んで、豊川祥子と共にいる。

 そこに打算や目的は存在しない。

 一緒にいたいから、一緒にいる。迷惑をかけたり、迷惑をかけられたりするだろう。しかしその上で、若葉睦とモーティスは、豊川祥子と一緒にいると叫ぶのだ。

 

「迷惑かけなよ、私に」

 

 面と向かって言うのは恥ずかしい。けれど言わなければならない。友達だから、一緒にいる、と。

 好きだから、一緒にいると。

 共に苦楽を歩みたい、そう言わねば伝わらない。

 

「なんで」

「なに?」

「なんで、そこまで私を助けてくれますの?」

「友達だから」

 

 当たり前のことだ。

 多くの人は、重い、と言うかもしれない。普通は支えきれないと言うかもしれない。だけど、モーティスにとって、手を差し伸べてくれたのは豊川祥子の方なのだ。

 

 幼い頃からの付き合いで、引っ込み思案だったり、外交的だったりする若葉睦とモーティスのことを、両方とも知ったうえで、友人としていてくれた。

 

 ならばこそ、彼女の気持ちを裏切るわけにはいかない。

 祥子が困っているなら、助けになる。

 それが、モーティスと睦の素直な気持ちだった。

 

「ありがとう、モーティス。睦」

 

 友情は守られた。しかし生活面で苦しいのは課題として残っていた。

 いくらモーティスの母親が有名な芸能人でお金があるといっても、祥子と父親二人を養う余裕はない。

 

 お金は無限ではない。自分たちで稼ぐまで、どうにか時間稼ぎをする必要があった。

 

 そこで頼りなるのが国の支援制度や、身内である豊川グループなのだが……。

 

「お祖父さんに頭を下げるのは無理なの?」

「……自分たちと暮らせ、と言うに決まってますわ」

「国の支援制度の方で当面の生活はなんとかなる。けどあくまで最低限の生活。先がない」

「…………」

「完全に助けになるんじゃなくて、お金を借りるのはどうかな? 独り立ちできるようになったら、お金を返す、そうすれば自分の人生を生きられる」

「そう……ですわね。そう、ですが」

 

 言い淀む祥子を見て、モーティスは首を傾げる。

 

「…………」

「事情があるなら言って」

「家を出ていく、と言ってしまいましたわ」

「だから?」

「ええっ?」

「頭を下げて、私は間違っていました。お金が必要です。独り立ちできるまで貸してくだい、って頼めば良いだけじゃない」

「でも……お父様を見放せって言われたら……」

 

 できない理由を挙げる祥子を、モーティスは観察する。

 

 酒浸りお父様を見過ごせない。その為にはお金が必要である。そのお金を手に入れるためには豊川グループの力が必要であるが、その豊川グループは祥子お父様のお父様を見放せ、と言うだろう。

 

 なるほど、確かにそれは問題だ。しかしそれは祥子の問題ではない。

 

 彼女一人だけならば、それこそ豊川グループの庇護を受けられる。お父様を見放せば、全て終わる話だ。

 

(ああ、なるほど。そういう感じね)

 

 酒浸りになっているお父様の弱さや醜さを実感し、更にCRYCHICが解散するなど、自分が散々な状況になってしまって、辛いのだ。

 

 助けてほしい、と思ってしまっているから、お父様を見捨てれば助けると言われてしまえば、そちらに流れていきそうで怖い。

 

 だから動くことができない。

 

「祥子ちゃんの優先順位は、何?」

「優先順位……そう……ですわね」

「因みに私の優先順は、祥子ちゃん、睦ちゃん、金だよ。わかりやすいね」

「まず、お父様」

「お父様を助けるのには何が必要?」

「お金ですわ」

「お金を稼ぐには、何をする?」

「バイト……」

「でも、バイトでは状況の維持にはなっても、解決にはならない」

「解決するには、強くて大きな資金源……国や組織の支援が必要ですわ」

「そして、組織の支援ならば豊川グループがある」

「でも、お祖父様はお父様を見捨てているから不可能」

「ならば発想を変えてみよう」

 

 モーティスは言う。

 

「お父様を助ける、のではなく、自分で生きてもらうには、どうすれば良い?」

「……それはっ! 今の状況では無理ですわ……不可能です」

「今は、ね。お母さんがいなくなり、詐欺に遭って、一族から破門される。しかし逆を言えば、それだけなんだよ。祥子ちゃん」

 

 それだけ、と言い切るモーティスに、祥子は反射的に苛立ちを覚えて睨見つける。

 

「借金があるわけでもなく、国の支援制度も行き届いているから、お父さんが一人で生きていくのには何も問題はない。祥子ちゃんが助ける必要は、そもそもないんだよ。というより、もう助け終わったという方が正確かな」

「どういう……ことですの?」

「国の支援制度の活用をするのに必要な書類と申請を終わらせた。その時点で、もう祥子ちゃんができることはない、そう言ってるの」

 

 豊川祥子が、お金を稼いで、お父さんのために使用する。

 それは、必要ないし、責任もない。だってそれをやる必要があるのは国であり、組織だ。

 

 未成年の祥子が背負う必要は全くないし、周囲の大人達はそれを理解しているだろう。だからこそ、お父さんから引き離して、自分達と過ごすように言ったのだ。

 

 子供に罪はないし、罪を犯したのならばそれは大人の責任だ。そして罪が分からない子供は国が保護して、教育する。それが国家の役目であり、先人達が残してきて、今に続く、人間のである。

 

「子どもが親のために尽くすなんて、あったらおかしいんだよ」

「ですが、それならば! 私は一体何のために! お父様を助けようとしたのは間違いだとでも仰るつもり!?」

「社会からすれば、その通り。だけど、守りたかったのは心でしょう。祥子ちゃん」

 

 上司に怒られても、家族のために頑張っていた姿は、何よりも尊いと感じた。

 

 お母さんが死んだとき、それでも諦めず、子供の前では涙を見せずに前を向いた父親を尊敬した。

 

「……真面目で誠実で努力家なお父様さんに戻ってきて欲しい」

 

 知らずに、祥子は涙を流していた。顔を俯かせると、雫がポロポロと机に染みていく。

 ならば、とモーティスは言う。

 

「貴方が、活躍する姿をお父さん見せれば良い。貴方の娘はこれだけ凄いから、お父さんも頑張って、と勇気を与えられるように、立派になれば良い」

「……!」

「今のお父さんに尽くすのではなく、成長する姿を見せることで、奮い立ってもらう。その為に、人気バンドになる。それを豊川グループに支援してもらう。それなら、誰も文句は言わないし、言えない」

 

 モーティスは、手を差し伸べる。

 

「一緒に、バンドをやろう」

 

 その日、祥子は豊川グループの邸宅へ戻った。隣にはモーティスも一緒だった。

 豊川のお祖父さんは、安心したように、しかし重々しく言う。

 

「ようやく戻ったか。やはり無理だっただろう。家に戻るのだな?」

「はい、お祖父様。しかしお父様を見捨てたわけではありません」

「どういうことだ」

「私、バンドをやります。そして大きな人気と共に、立派な存在になります。性格も、能力も、立ち振舞も、全て」

 

 そして。

 

「それを見たお父様が、頑張ろう、と思えるほど立派な人間になります。お母様とお父様は立派な人間だと告げるために!」

 

 だから。

 

「私に力を貸してください! 教育をしてください! お金をしてください! 支援をしてください! 大きな責任と、大きな期待が寄せられることでしょう!」

 

 しかし。

 

「それでも、豊川祥子は! モーティスと睦と共に! 前へ進みます!」

 

 少しの沈黙のあと、豊川グループのお祖父は、ゆっくりとモーティスと若葉睦を見た。

 

「君が、彼女を焚きつきたのか?」

 

 その言葉の真意を掴めぬまま、しかし強く握る祥子のために、モーティスは堂々と言う。

 

「はい。私は祥子ちゃんの友達です。だから一緒に頑張ります」

「モーティスというのは?」

「私の名前です」

 

 それに、豊川のお祖父は少しだけ目を瞑る。

 

「良い友達を持ったようだな、祥子」

「はい、お祖父様。大切な友達です」

「そうか……わかった。お前の申し手を受けよう。だが、手は抜かんぞ」

「はい、お祖父様」

「言葉ではなく行動で示すことだ。信頼してくれる友人を裏切るなよ」

 

 話し合いが終わると、祥子はモーティスに向き直り、頭を下げる。

 

「貴女には苦労をかけますわ」

「いいよ」




高評価・感想お願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。