豊川祥子とモーティスは大・大・大親友   作:あばなたらたやた

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14話:優しさ

 

橋の上で祥子を突き飛ばし、死を止 めた高松燈は、彼女の手を離さなかった。

 

 祥子の憔悴した姿と震える肩を見た燈は、放っておけないと感じた。

 

「え、えっと……家…どこ? ひとりに……しないよ……」

 

たどたどしく問いかける燈に、祥子は虚ろな目で小さく答えた。

 

「屋敷は、あの道を少し……」

 

 彼女の声は弱々しかったが、燈は迷わず祥子の腕を引き、ゆっくりと歩き出した。冷たい夜風の中、二人の足音だけが響いた。

 

 祥子の家に着くと、豪華な門構えに燈は目を丸くしたが、気後れせず中へ入った。

 

 リビングに通され、燈はソファに座るよう促し、祥子を隣に座らせた。彼女の顔はまだ青白く、涙の跡が残っていた。

 

 部屋に静寂が広がる中、燈はぎこちなく口を開いた。彼女は祥子の憔悴した心を少しでも和らげようと、最近のことを話し始めた。

 

「え、えっと……私、最近……MyGOの…ライブ、やった。武道館じゃないけど……小さいとこで……でも、すっごく…楽しかった…」

 

 燈の声はたどたどしかったが、目を輝かせて語る姿に、祥子は小さく首を傾けた。

 

「MyGO……ですの? 貴女のバンドですのね。ライブが楽しかったとは、素敵なことでございますわ」

 

 燈は頷き、勢いづいて続けた。

 

「う、うん……みんなで……練習して……最初、うまくいかなくて……ケンカもしたけど……ステージ立ったら…なんか、繋がってるって……感じたんだ…お客さんの声……聞こえて……泣きそうになった」

 

 その純粋な言葉に、祥子はAve Mujicaの武道館を思い出し、胸が締め付けられた。だが、燈の無垢な喜びがその痛みを少し和らげた。

 

「それは……素晴らしい体験ですわね。私も、かつては、そんな気持ちを……」

 

 声が途切れ、祥子は目を伏せた。燈は慌てて話題を変えた。

 

「あ、あとね…私、石…集めるの好きで……最近、すてきな石…見つけたんだ。川でキラキラしてて…青っぽくて……持ってるだけで落ち着く」

 

 燈はポケットから小さな青い石を取り出し、祥子に見せた。彼女の手の中で石が光を反射し、素朴な美しさを放っていた。

 

 祥子は石を手に取り、じっと見つめた。お嬢様らしい優雅な仕草で、彼女は呟いた。

 

「まあ……愛らしい石ですわね。貴女の言う通り、確かに心が落ち着きますわね。このような小さなものが、貴女にとっての宝物なのですのね」

 

 燈は少し恥ずかしそうに笑った。

 

「う、うん…たいしたもんじゃないけど私には大事で。さきちゃんにも何か、あったら…いいなって……」

 

 その言葉に、祥子は一瞬息を止めた。Ave Mujicaが失われ、世間のバッシングに憔悴した彼女にとって、「大事なもの」などもうないと思っていた。

 

 だが、燈の純粋な眼差しと小さな石が、彼女の心に微かな温かさをもたらした。

 

「私に…何か、ですの? 燈は随分と不思議な方ですわね。こんな私にまで」

 

 涙が溢れそうになり、祥子は目を閉じた。燈は慌てて手を振った。

 

「ち、違うよ。さきちゃん。すごい人だよ。さっき、橋で、つらそうだったけど……まだ、生きてる……それは、強い、と思う」

 

たどたどしい慰めだったが、祥子の胸に深く響いた。

 

 夜が更けるまで、燈は祥子の家に留まった。彼女はMyGO!!!!!の仲間との笑い話や、石を拾った川の風景を語り続けた。

 

 祥子は黙って耳を傾け、時折小さく相槌を打った。憔悴した心はまだ癒えていなかったが、燈のたどたどしい言葉と温もりが、彼女を孤独から少しだけ引き戻した。

 

「燈。今日はお付き合いくださり、感謝申し上げますわ」

 

 祥子がそう言うと、燈は照れ笑いを浮かべた。

 

「い、いや。私も……さきちゃんと…話せて……よかった……また……会えるかな……?」

 

 その問いに、祥子は小さく頷いた。

 

「ええ……また会えますわ」

 

 窓の外に朝焼けが差し込む頃、燈は帰路についた。祥子はソファに座ったまま、彼女が残した青い石を手に握りしめた。世間のバッシングは消えないが、この一夜が彼女に小さな希望を灯したのだった

 

 学校へ行くと、入り口で立っていたのは初華だった。彼女の目は心配に満ち、祥子のボロボロの姿を見るなり、涙が滲んだ。

 

「さきちゃん。無理しなくて良いんだよ」

 

 初華の声は優しく、しかし切実だった。解散後、彼女は祥子へのバッシングがエスカレートするニュースを見て、心配でたまらなくなっていた。

 

 Ave Mujicaのメンバーとして、祥子がどれだけ頑張ってきたかを知っているからこそ、彼女を見捨てられなかった。

 

 祥子は初華を見て、気丈に振る舞おうとした。

 

「初華……貴女までお気遣いくださるなんて…私は、なんともございませぬわ。ただ、少し疲れているだけで」

 

 だが、その声は震え、言葉が途切れた。初華は一歩踏み込み、祥子の手をそっと握った。

 

「うそだよ……さきちゃん、ボロボロじゃない。こんな辛いのに、ひとりでいるなんて…私、許せないよ」

 

 初華の温かい手に、祥子の涙が溢れそうになった。

 初華は決意したように言った。

 

「ねえ、祥子ちゃん…私の家に来て。一緒にいてあげるから。ひとりでいさせないよ」

 

 祥子は目を丸くする

 

「貴女のお宅に……ですの? 私にお気遣いは無用ですわ」

 

だが、初華は首を振って遮った。

 

「勿体ないなんて言わないで。さきちゃんは私にとって大事な人だよ。Ave Mujicaがなくなっても、それは変わらないから……」

 

 その言葉に、祥子の心が揺れた。彼女は抵抗する気力を失い、初華に連れられるまま歩みを進めた。

 

 初華の家に着くと、彼女は祥子をリビングに座らせ、そっと隣に腰掛けた。祥子の肩は震え、目には恐怖が宿っていた。

 

「明日が怖いと感じます。バッシングがまた……私を責め立てて…」

 

 その告白に、初華は黙って祥子を抱きしめた。彼女の腕は温かく、優しく、祥子の冷たい身体を包み込んだ。

 

「大丈夫だよ、さきちゃん。私がそばにいるから。もう怖がらなくていい。どんなひどい言葉が来ても、私が守ってあげるから……」

 

 初華の声は柔らかく、安心させる響きに満ちていた。祥子はその腕の中で小さく震え、涙が溢れた。

 

 「初華……貴女は……私に何故そこまで……」

 

初華は微笑みながら答えた。

 

「だって、さきちゃんは私の大切な人だから。今でもそうだよ。ひとりにしないよ……絶対に」

 

 初華の抱擁の中で、祥子は初めて安堵を感じた。世間のバッシングは消えないが、初華の優しさが彼女の憔悴した心に寄り添った。彼女はお嬢様言葉で感謝を呟いた。

 

「初華……貴女の優しさに、感謝しますわ。私、貴女に救われておりますのね」

 

 初華はぎゅっと抱きしめ直し、小さく笑った。

 

「うん……私も、さきちゃんがいてくれて嬉しいよ。一緒にいようね」

 

 その夜、祥子は初華の家で眠りについた。翌日の恐怖はまだ消えなかったが、初華の温もりが彼女に小さな安心を与えていた。ボロボロになった祥子を心配する初華の気持ちが、二人の絆を再び繋いだ瞬間だった

 

 




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