豊川祥子とモーティスは大・大・大親友   作:あばなたらたやた

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17話:幸せ

 

ある日、祥子が初華と睦を呼び出した。彼女の表情はいつもより少し真剣で、二人は何事かと首をかしげながら近づいた。

 

「二人に伝えたいことがあります」

 

祥子が切り出すと、初華が目をキラキラさせながら即座に反応した。

 

「えっ、祥ちゃんがそんな顔するなんて珍しい」

 

一方、睦は静かに祥子の顔を見つめ、短くつぶやく。

 

「……何?」

 

 祥子は少し照れたように笑ってから、深呼吸して言った。

 

「実は、私、一人暮らししようと思っているんです。でも、家賃とか生活費考えると、ちょっとキツイなっていますの。それで……二人も一緒に住みませんか?」

 

初華が驚いたように声を上げた。

 

「ええっ!? 同棲!? 祥ちゃん、私たちと一緒に暮らしたいってこと!?」

「ええ、そう。初華の明るさとか、睦の落ち着きとか、私にはないものを持ってるでしょう。一緒にいたら楽しいと感じました」

 

 祥子がそう言うと、初華は嬉しそうに手を叩いた。

 

「やったぁ! 私、賛成! 毎日祥ちゃんと睦ちゃんといられるなんて夢みたい!」

 

 睦は少し考え込むように黙っていたが、やがて小さくうなずいた。

 

「……悪くない。静かなら」

「静かって……睦ちゃん、私がうるさいって言いたいのかなぁ!?」

 

 初華が睦に絡むと、祥子が笑いながら仲裁に入った。

 

「まあまあ、初華が元気すぎるのはいつものことですわ。睦はそれに慣れてるでしょう?」

「……慣れた」

 

 睦が淡々と返すと、初華が「ひどいよぉ!」と大げさに肩を落とした。

 

「で、どうしますの? 本気で考えてくださる?」

 

 祥子が改めて尋ねると、初華が即答した。

 

「もちろんだよ。もう引っ越しの荷物考え始めてるもん! 祥子ちゃんの料理食べられるかな?」

 

「料理は……まあ、頑張りますわ。睦は?」

 

 祥子が睦に視線を向けると、彼女は少し口角を上げて言った。

 

「……私も。いいと思う」

 

 その日から、三人の同棲計画が動き出した。祥子が不動産屋に連絡を入れ、初華が「三人でソファに座って映画見ようね!」と夢を語り、睦が「部屋に観葉植物置きたい」と静かに希望を述べる。

 

 きっかけは祥子の誘いだったが、三人それぞれが新しい生活に期待を膨らませていた。

 

「ねえ、祥ちゃん。これって運命だよね?」

 

 初華が笑顔で言うと、祥子は少し照れながら答えた。

 

「運命かどうかは分からないけど……まあ、悪くないよね」

「……うん。楽しみ」

 

 同棲生活が始まって数日。リビングのテーブルに座った祥子が、メモ帳を手に二人を見た。

 

「ねえ、そろそろ日用品が足りなくなってきたよ。トイレットペーパーとか洗剤とか……買いに行かない?」

 

 初華がソファから飛び起きて目を輝かせた。

 

「えっ、お買い物!? やっと三人でお出かけできる! ねえ、ついでに可愛い雑貨とか見てもいいかな?」

「……必要最低限でいい」

 

 睦が静かにそう言うと、初華がむくれた顔で反論した。

 

「睦ちゃん、いつもそれ! 生活に彩りって大事だと思うよ?」

「彩りは……植物で十分」

 

 睦が冷静に返すと、祥子が笑いながら間に入った。

 

「まあまあ、二人とも。とりあえずスーパー行って、必要なもの揃えますわ。初華の雑貨はその後でよろしいですわね?」

「うん。祥子ちゃんがそう言うなら我慢する」

 

 初華がニコッと笑う一方、睦は「……我慢しなくていい」と小さくつぶやいた。

 

 スーパーに着くと、三人はカートを押しながら売り場を回り始めた。祥子がメモを見ながら指示を出す。

 

「洗剤はこっちの棚だね。どれがいいかな?」

「ねえ、これ可愛いパッケージ! 花の香りだって!」

 

 初華がピンク色のボトルを手に取ると、睦が隣で別のボトルをじっと見つめて言った。

 

「……こっち。無香料。安い」

「えーっ! 睦ちゃん、無香料って味気ないよ! 生活に癒しが欲しいよね、さきちゃん?」

 

 初華が祥子に助けを求めると、祥子は困ったように笑った。

 

「うーん、そうですわねぇ。確かに癒しも大事ですが……睦の言う通り、コスパも考えたいですわ。半々で両方買う?」

「……賢い」

 

 睦が小さくうなずき、初華も「まあ、それならいいか!」と納得した。次にトイレットペーパーのコーナーへ。祥子が棚を見上げてつぶやく。

 

「12ロールでこの値段か……悪くないね」

「ねえ、ちょっと待って。これ、ふわふわタイプだって。絶対こっちの方が幸せになれるよ」

 

 初華が興奮気味に言うと、睦が淡々と反論した。

 

「……普通のでいい。すぐなくなる」

「睦ちゃん、贅沢を知らないと人生損するよ?」

「贅沢より……実用性」

 

 二人の言い合いを聞きながら、祥子がカートに普通のトイレットペーパーを入れつつ言った。

 

「はいはい、今回は実用性でいきますわ。初華、次はふわふわタイプにしますから」

「祥ちゃん、約束だよ!?」

 

 初華が指を立てて念押しすると、睦が「……次は私が選ぶ」と静かに付け加えた。

 

 買い物を終え、レジに向かう三人。袋詰めをしながら初華が楽しそうに言った。

 

「ねえ、こういう普通の買い物も三人だと楽しいね。 また来ようよ」

「うん、そうだね。毎日じゃないけど、たまにはいいかも」

 

 祥子が微笑むと、睦が荷物を持ちながら小さくつぶやいた。

 

「……悪くない」

 

 スーパーからの帰り道、夕陽がオレンジ色に染まる中、三人は買い物袋を手に歩いていた。初華が突然立ち止まり、袋を胸に抱えて深呼吸した。

 

「ねえ、ちょっと待って。この瞬間……ほんとに幸せだよ。」

 

 祥子が振り返り、少し驚いたように尋ねた。

 

「初華、どうしたんですの? 何かあった?」

「ううん、特別なことじゃないよ。ただ……三人でこうやって買い物して、一緒に帰るのって、なんか胸が温かくなるっていうか」

 

 初華の声はいつもより柔らかく、目を細めて夕陽を見つめた。睦が静かに荷物を持ち直し、短くつぶやく。

「……普通」

「普通じゃないよ、睦ちゃん。私にとってはね」

 

 初華が小さく笑うと、その表情に一瞬だけ影が差した。 彼女は歩きながら、ゆっくりと話し始めた。

 

「私さ、昔は一人で買い物してたんだ。一人暮らししてた頃、洗剤とかトイレットペーパーとか選ぶのって、ただの作業だった。でも今は違うよ。祥子ちゃんが『これでいいよね』って決めてくれたり、睦ちゃんが『安い方がいい』って冷静に言ってくれたり……それが私には宝物みたいに感じるの」

 

 祥子が足を止めて、優しく尋ねた。

 

「初華、そんな風に思ってたですわね。私、ただ現実的に選んでるだけですが……そういってもらえて嬉しいですわ」

「うん、祥ちゃんのそういうとこが大好きだよ。私ってさ、テンション高いってよく言われるけど、実は寂しがり屋なとこもあるから」

 

 初華が照れ笑いを浮かべると、睦が静かに目を向けた。

 

 声が少し震えると、祥子がそっと初華の肩に手を置いた。

 

「初華、泣かなくていいよ。私も、屋敷暮らししてた時より今の方が楽しい。初華の明るさのおかげですわ」

「ほんと!? 祥子ちゃんにそう言われると、余計幸せになっちゃう!」

 

 初華が目を拭いながら笑うと、睦が小さく呟いた。

 

「……私も。一人より、いい」

 

 初華はその言葉に目を丸くし、睦を見つめた。

 

「睦ちゃん……それ、本気で言ってる?」

「……うん。うるさいけど、嫌いじゃない」

 

 睦が珍しく口角を上げると、初華が一気に感情を爆発させた。

 

「やばい、睦ちゃんにそんなこと言われたら、私ほんとに泣いちゃう。 だってさ、私、ずっと誰かと一緒にいたいって思ってたんだ。一人だと寂しくて、でも一人でいるしかなくて……でも今は、祥子ちゃんと睦ちゃんがいてくれる。それがどれだけ幸せか、分かって欲しいよ」

 

 夕陽が三人の影を長く伸ばす中、祥子が穏やかに言った。

 

「分かりますわ、初華。私だって、二人といるから毎日が楽しい。家族みたいな」

「家族……うん、そうだよ!  私たち、最高の三人家族だよ!」

 

 初華が涙をこらえながら笑うと、睦が静かに付け加えた。

 

「……悪くない。家族でも。」

「睦ちゃんまで! もう、幸せすぎて胸いっぱいだよ!」

 

 初華は袋をぎゅっと握り、夕陽に向かって叫んだ。

 

「この幸せ、ずっと続いて欲しい! 私、二人と一緒にいられるなら、なんでも頑張れる」

 

 その時、リムジンが停止して、窓が開く。

 豊川祥子のお祖父ちゃんだ。

 

「初音、帰りなさい。お前は此処にいるべき人間ではない」

 

 雨が降る。

 冷たい雨が降り注ぐ。

 告げられた言葉に、三人は凍りついた。




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