豊川祥子とモーティスは大・大・大親友   作:あばなたらたやた

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三話:公園

 

 連絡はすぐに取れて、すぐに会うことになった。

 待ち合わせの公園は、薄暗く、不気味な雰囲気があった。

 豊川祥子、長崎そよ、モーティスの三人が揃い、息が詰まるような状況の中、モーティスはヘラヘラと笑いながら、言う。

 

「じゃあ、揃ったし。話を進めようか!」

「今日は会ってくれてありがとう。祥ちゃん」

「用件は?」

 

 祥子は冷たい声色で言う。それに気圧されたようにバックの肩紐を掴む。しかし、言葉を発する。

 

「春日影、本当はやるつもりなかったの。本当に一曲だけのつもりで……私もやりたくなかった。でも演奏が始まっちゃって。ごめんね。祥ちゃんのこと傷つけたよね」

 

 祥子は静かにそよを見つめていた。

 

「私たちの大事な曲を勝手に演奏するなんて……本当にごめんなさい」

「演奏ならご自由にどうぞ。お好きになさって。今更、所有権を主張する気はありません」

 

 そよの喉から、息を呑む音が鳴った。彼女は、全身から熱が冷めていく感覚に襲われる。

 

「え?」

「他にご用件は?」

「お好きにって……どうして? 怒ってるんだよね? 私達の大切な曲を勝手に演奏したから」

「いえ、特には。悲しかったのは事実ですし、大切な曲なのも事実です。しかし怒ることはあり得ませんわ」

 

 断言する強い口調に、そよは今度こそ戸惑った。

 

「いつまでも過去にしがみついて、みっともないですわね。今ある次のバンドを直視しなさい」

「どうして? どうしてそんなこと言うの? 毎日一緒で、楽しくて、あんなに幸せだったのに。バンドは運命共同体だって、そう言ったのは祥ちゃんじゃない」

「運命共同体。確かに私はそう言いました。だから、もう終わりでしてよ。二度目はない。続きはない。私達は終わったのです」

「でも……違う、そんなこと!」

「ならば、今やっているバンドは何ですの? 終わったから、新しく始めるのではなくて?」

 

 そよは首を振る。

 

「違う、あのバンドは……! 偽物で! また元のみんなに戻るために!」

「用が終われば使い捨てる。そんなことを平然と行う人間の言葉を、どう信用しろと?」

 

 どうあがいても詰んでいた。

 そもそも祥子にはCRYCHICに戻る必要性も、感情的な理由も存在していなかった。だからこそ、長崎そよの欺瞞を暴いていく。

 冷徹なほどに淡々と。

 

「楽しかった。美しい思い出だった。それは否定するつもりはありません。むしろ肯定しましょう。あの時間は幸せだった。永遠に続けば良いと思うほどに」

「なら……!」

「でも、変わらないものはありませんわ。終わりは唐突で、私達を飲み込んでいく。だから、次の幸せを見つける必要があるのです」

「次……? 次なんて……嫌よ! 私は! 昔のCRYCHICが良い、昔のままが! どうして、そんなに、冷静でいられるの?」

「CRYCHICを始めたのは私です。だから、私の手で終わらせました」

 

 ひたすら淡々と、機械のように、告げる。だけどそれとは裏腹に、長崎そよは強い衝動に突き動かされて、言葉を叫ぶ。

 

「終わってない!! 終わってなんかいない!! 私はCRYCHICの為に頑張ってきた!」

「誰もそんなこと頼んでいませんわ」

「は……」

「CRYCHICは終わり、それぞれ次の未来へ進む時です」

「待ってよ、待ってよ、そんな風に、終わったみたいに言わないで!」

「終わりましたわ」

 

 縋るように伸ばされる手を、祥子は冷酷に払う。しかし、そよはそれを強引に掴み、胸元に引き寄せる。あまりに強い力で、祥子は顔を顰める。

 

「どうしたら、戻れるの? 私にできるなら何でもするから!!」

「…………」

 

 あまりにも強い妄執。

 執着。

 幸せだった。

 楽しかった。

 ああ、嬉しかったのだ。それほどまで想っていることに。だからこそ吹っ切れて幸せになってほしいし、今更自分たちに出る幕はないと感じる。

 

 何故ならば、既に新しいバンドがあるからだ。過去の人間が割り込んで、踏み潰して、それで一体誰が幸せになるというのだ。

 

 過去を忘れるのも良いだろうし、割り切って進むのもよいだろう。しかし過去に浸り続けるのは良くない。それでは誰も幸せにならない。

 

 みんなが、それぞれ可能性があるんだ。だから、強い口調で言わなければならない。

 

『貴方とはもうやれない』と。

 

 一緒に過ごすことはできないと伝えないといけない。だけど……だけど……それが祥子にはできなかった。

 

「そよ……貴方は抱え込み過ぎるんですの。みんなの為、みんなの為、と自分を殺しているうちに、本心が分からなくなってますわ」

「祥ちゃ……ん?」

「まずは自分の本心を見つめること。誰かのため、ではなく、自分がどうしたいか、それを考えなさい。それが分かったら、言葉を選んで伝えてみてください」

 

 祥子は、そよの頭を撫でる。そよはそれはとても幸せそうな顔で、気持ち良さそうで。

 だけど時間は残酷にやってくる。

 

「祥子ちゃん。もう行かないと」

「そうですわね、睦」

 

 睦/モーティスは言う。

 

「折り合いをつけるのには時間が必要だと思う。でも、今のバンドを精一杯やってみてほしい。昔が忘れられなくても、今が大切になるように」

「そよ、後ろだけを見ないで前を向くのですわ」

「いや……行かないで。もっと一緒にいて。もっと一緒に話たい。もっと一緒に過ごしていたい。もっと一緒に笑って……お願い」

 

 祥子は振り返り、言う。

 

「さようなら。そよ。貴方と共にあれたこと、それは幸せな時間でしたわ」

 

 そよは叫ぶ。

 喉が裂けてしまうのではないかと錯覚するほどに。

 祥子は左腕を右手で握りしめながら、暗い顔で歩いていく。モーティスはそれを見て、ため息をつく。

 

「痛かたったら、痛いって良いなよ。やせ我慢」

「これは私が負わなければならない痛みですわ。これは、逃げてはいけない」

「そう。でも私もその責任の一端はあるし、私の前で泣いても良いよ。共犯者だもん」

「モーティス……貴方も変な人ですわね。普通は、こんな嫌な女は見捨てるのが道理でしょう」

「変なのはお互い様でしょ。全く。主人公が戦っている中で、観戦しながら解説する役にはなりたくない」

「本当に……モーティスは変な子ですわ」

 

 祥子は、モーティスの肩に頭を乗せる。

 

「少し、泣きますわ」

「うん。ちゃんと見ててあげる」

 

 モーティスは豊川祥子の心の悲鳴を聞きながら、どうしてこんなに世の中はうまくいかないのだろう、とぼんやり考える。

 

(神様がいるなら、もっと優しくしてくれてもいいのに)

 




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