「お集まり頂き感謝いたしますわ」
三角初華 、若葉睦、八幡海鈴、祐天寺にゃむの前で、豊川祥子は頭を下げる。
有名人が利用する高級ホテル。その最上階にて、豊川祥子は仲間となる予定の人間を呼び出していた。
にゃむは、その錚々たる面子に舌を巻く。
(金と実力とコネクション……ここで乗れれば間違いなく跳ねる)
「まずは状況を説明しましょう」
祥子は個別に用意した連絡用端末を渡して、スライドを表示させる。
「皆さんにお願いしたいのは商業用バンドの構成員です」
それぞれの担当と役割が表示される。
Projectムジカ
バンド名:Ave Mujica
Gt.&Vo.ドロリス/三角初華
Gt.モーティス/若葉睦
Ba.ティモリス/八幡海鈴
Dr.アモーリス/祐天寺にゃむ
Key.オブリビオニス/豊川祥子
「全ての目的は、立派になること。仮面を被り、しかしそれぞれの個性を活かして盛り上げるコンセプトバンドですわ」
「商業用バンドということは、スポンサーがいますよね? それは?」
「私の豊川グループですわ」
海鈴の質問に、祥子は答える。
「なるほど。自分の会社の広告ということですか。最初からスポンサーがついているなら、あとは実力だけ。スポンサーの為のバンドならば、音楽性の違いによる解散の確率も低い。好条件ですね」
「ええ、そして実際の内容がこれになりますわ」
Ave Mujicaの目玉である演劇についての項目が表示される。
「バンドなのに劇するの?」
にゃむの疑問に、祥子は頷く。
「Ave Mujicaはバンドという側面もありますが、エンターテインメントを重視してますわ。観客を世界観に埋没させ、楽しんでもらう。それがAve Mujicaです」
「なるほどね。活動時期は? 今から練習するにしてもかなりかかると思うけど」
「一年後を予定しておりますわ。練習期間はしっかりと取って、コンディションやカウンセリングなどの福利厚生の充実は約束しましょう」
豊川祥子は堂々と言う。
「金、コネクション、能力。全てが揃ってますわ。やるなら戦争です。覚悟を決めて、覇道を進みます」
「さきちゃん……やっぱり凄い」
「そんなに上手くいくか疑問ですが」
「…………」
初華は目を輝かせ、海鈴は疑問を問いかけ、にゃむは黙って思考を加速させる。
「では聞きます。誰かが自分の代わりにやってくれる。待っていれば、いつかはチャンスが来る」
豊川祥子は、甘えるな、と首を振る。
「自ら動かない限り、そんないつかは絶対に来ない!! 皆さんの人生を、私にください!」
◆
続いて、個人面談が始まった。一番最初に初華が呼び出されて、別室にて祥子と会話をしている。
「二人はどう思う? このバンド」
モーティスは二人に問いかける。
「にゃむ的には大賛成。こんなおいしい話は他に無いね。コネクションもそうだけど、豊川グループの支援っていうのが高ポイント」
「確かに豊川グループがスポンサーにあれば、融通は利くよねぇ。海鈴さんは?」
「私も良い話だと思います。断る理由はありません。逆に聞きますが、若葉さんはどうなんですか?」
「私? 私も参加かな。友達だしね」
「友情ですか、美しいですね」
「ふーん。つまり利害関係じゃないってことだ。それって結構危ういかなーって私は思うよ」
にゃむは目を細めて、言う。
「友達だから。それだけ聞けば確かに綺麗だけど、逆を言えば好きな時にやめれることになる。それはにゃむ的には困る」
「人間関係の拗れでバンドが解散というのはよく聞く話ですし、仕事に私情を持ち込まれるのは確かに困ります」
モーティスは考える。
「んー、まぁ、友情以外にも莫大なお金が手に入るから、やるって面もある」
「お金は大切なモチベーションですね」
扉が開き、初華が帰って来る。
「お帰り〜」
「ただいま、睦ちゃん。次はにゃむちゃんだって」
「はーい」
にゃむが部屋を出ていく。
モーティスは、水が入ったペットボトルを初華に渡す。
「緊張した?」
「うん、すっごく。でも真面目なさきちゃん……綺麗だった。前に会った時より格好良くなって」
「へぇ、昔から知ってるんだ。祥子ちゃんのこと?」
「うん。夏になると別荘で良く一緒に遊んだんだよ。天真爛漫で太陽みたいで。久しぶりに連絡くれたけど、全く変わってない。いや、変わってるんだけど、前よりもっと光り輝いてる」
「太陽かぁ」
その日が陰ったことを初華は知っているんだろうか。
少しだけモーティスは疑問に思うが、最近まで連絡を取っていなかったということは、頼ることはあんまりない。
祥子にとって、初華はその程度の関係ということなのだろう。
「そういえば、初華ちゃんは面接では何を話したの?」
「私はsumimiってアイドルユニットをやっているんだけど、そっちとの掛け持ちは大丈夫か、みたいな話かな」
「掛け持ちは大変だ。体調管理とか平気そう?」
「少し怖いっていうのが正直なところあるけど、頼られたからには応えたい」
「お二人は豊川さんの個人的な友人なのですね」
海鈴の言葉に、初華は笑顔で応える。
「そうなるかな。といっても睦ちゃんのことはあまり知らないんだけどね」
「私も初華さんのことを知らない。ここらへんの接点は全くないよね」
「そうだね、さきちゃんからは全く。睦ちゃんはさきちゃんとどういう関係なの?」
初華の問いかけに、モーティスは悩む。
「幼馴染かな。良くも悪くも長い付き合い。前のバンドも一緒だったし」
「CRYCHICだっけ?」
「知ってたんだ。そうそう。楽しかったけど、ちょっと事情があって辞めることになってね」
モーティスが言葉を濁すと、初華も海鈴も首を傾げる。
「それでAve Mujicaを?」
「趣味から商業バンド……ということは家関係ですか。スポンサーもついてますし」
「そうだね、そういう感じ。お金持ちの家はしがらみがあるみたいで大変だよ」
モーティスは、やれやれ、首を振る。
「お互いに気持ち良い距離感でやっていきたいから、根掘り葉掘り聞くのも憚れるし」
「聞いてしまえば良いのでは? 嫌なら嫌だ、と言うでしょうし」
「そこは察してあげようよ」
「言葉に出して言った方が分かりやすくて良いと思いますが」
モーティスと初華は顔を見合わせる。
「オーケー、そういう感じね」
「まさに危険な話題だ」
「? なんです?」
「海鈴ちゃんは伝え方が直接的だと思って。それだと誤解はされなくても、コミュケーションは難儀してそうって思った」
「そうですか?」
「目的を遂行するビジネスライクの関係なら良いかとしれないけど、対等な親しい友達って少ないんじゃない?」
「…………」
「睦ちゃん」
「ごめん、ごめんごめん!」
初華が責めるような口調でモーティスの名前を呼ぶ。モーティスは頭を下げながら必死で謝った。
「別にそれが悪いってわけじゃないよ。いないなら作れば良い。それができるのが人間なんだから」
「……! では睦さん。私と友達になりましょう」
「え、あ、うん。良いよ。よろしくね?」
「よろしくお願いします」
にゃむが戻ってきて、今度はモーティスが別室に呼ばれる。部屋には祥子が座っていて、モーティスも椅子に座る。
「どう? 皆さんは。モーティスの印象はどんな感じですの?」
「うん、良いと思うよ。特に初華は最高だね」
「最高?」
「自分の認めた相手から尽くされたことがないタイプは、ちゃんと与えてあげれば良い関係を築けると思うよ」
「貴方の言っている意味がわかりませんわ」
「外から見れば分かりやすいけど、初華ちゃんって祥子ちゃんのこと好きでしょ」
その言葉に、祥子は目を見開く。
「祥子ちゃんはそんな余裕はないと思うから、私が上手く誘導する。だから初華ちゃんのことを気にかけてあげてよ。ちゃんと相手を見て、気持ちを伝えてあげて」
「わかりましたわ……でも珍しいですわね。モーティスがそこまで言うなんて。意外ですわ」
「ああ、うん。だって、味方になってくれると思うもん。味方は多い方が、良いからね」
「そういう損得勘定で人付き合いをするのはどうかと思うけど……でも上手くできているのが不思議ですわ」
「はは、そうかな。でも、祥子ちゃんはもっと相手の話を聞いて、何を感じているのか考えたほうが良いと思うな。その行動力は美点だけど、長所なんてものはあればあるほど良いから」
「気をつけますわ。他に話したいことはない? モーティス」
「うん、ないよ」
「じゃあ次は海鈴さんを呼んできて」
「了解」