白いドレスの少女モドキ   作:外道カヤノ

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本能の疼き

 

 ──期──年 緋の森 ベースキャンプ 荒廃期 曇り

 

 一昨日はやってしまった。

 理由は不明だが、歴戦のレ・ダウに目を付けられ、フィールドワークが中断となった。その際、レ・ダウからあまりにも強い敵意を向けられ、私は力の一部を解放せざるを得なかった。竜乳の操作、おそらく赤龍が使う「龍脈の支配、操作」能力の転化だろうか。それを利用し、私は即席の武器を生み出した。

 記憶の片隅にあった大剣。それを模し、投擲してレ・ダウを絶命させた。

 

 …古い記憶が欠落している。竜都で誕生する前の、この世界を観測者視点で見ていた頃の記憶が薄まっている。かつての自分が何だったのか、この世界とはどういう仕組みだったのか、少しだけ朧気だ。幸いにも、モンスターに関する知識や、竜都で学んだ技術は頭の中にある。これだけは無くしたくない。私が、私である証拠なのだから。

 

 一番の問題は、即席で造った大剣が、何にまつわるものだったのか。これがどうしても思い出せない。忘れてはならない記憶。これだけは理解できる。ただ、そこがどうしても何かに阻害されるように思い出せない。いや、思い出すなと誰かに言われているのか。

 

 ともかく、私はこれでギルドからの監視対象となってしまった。今までそうだったかもしれないが、今後はハンターの目からは逃れられないと言ってもいいだろう。日記はこれまで通り、執筆許可を貰った。ただまあ、見られているだろう。

 恥ずかしいと思うところはあるが、こればかりは仕方がない。

 

 そろそろ今日の出来事を記す。

 今日はエリックさんと共に生物にまつわる講義を受けた。一昨日があんな様子だったために、今日はクナファの部族たちは居ない。ノノちゃんが名残惜しそうにしていたが、豊穣期が来たのもあって、そちらの仕事を優先したようだ。ちゃんと分別できて偉いぞ。

 なので、ナタくんと二人きりの授業だった。

 

 研究者目線で色々質問をしたり、今の植生について聞いてみたりした。これでも造竜部門には入り浸っていた身なので、生物学には少しだけ知識の自負がある。エリックさんは終始興奮しっぱなしで、授業終わりには私をじっくり観察してきた。

 例の竜乳武器を作って欲しいとも言われたので、試しに片手剣を作ってみたところ、エリックさんが真顔になって固まった。ついでに何故かハンターさんも飛び出て最高速で回収された。解せぬ。とはいえ、私が造ったものは、時間経過で気化してしまうのだが。

 

 そういえば、フラッシュが普通の肉に興味を示し始めていた。

 この短期間で、既に原種還りを…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──期──年 緋の森 ベースキャンプ 荒廃期 曇り

 

 森の獣人族、モリバー。

 まるでビーバーとカワウソを足して二で割ったかのような、独特な喋り方をする獣人族だった。若干ラスカルっぽさもある。とてもかわいらしいのだが、コイツらクソ生意気だった。幼児くらいの知性だが、等価交換の概念を理解している。ちょっとした社会性のおかげで話が通じているが、もしそうでなかった場合、野良のチャチャブーやメラルーのように好戦的だったのではないだろうか。そんなレベルで、彼らは我欲が強いというか、クセが強い。

 

 今日はそんな彼らの巣にお邪魔し、色々と話を聞いた。やはりというべきか、彼らは遥か昔からこの地に住んでいるらしい。となると原種還りした造竜を想起させるが、私の知る限りでは獣人種にその手の禁忌を犯した記憶はない。だが、下流市民がこのような獣人とやり取りしていた記憶があるような。無いような。アレでも私は上流民だったので、知りようはないが。

 

 詳しいルーツを聞こうとすると、頼まれごとをされた。歴戦のババコンガとリオレイアが喧嘩しているらしい。歴戦相手に通常のリオレイアが勝てるわけがない、と思ったが、よくよく考えればババコンガは牙獣種。彼のフィールドは地上だけなので、リオレイアに対抗できるとなると、精々糞投げか、地盤返しくらいだろう。

 そのせいで妙に拮抗できているらしく、戦いが長続きして辟易しているようだ。

 

 しかし困ったことになった。この戦いに対して、ハンターさんではなく私をモリバーらは指名した。監視するので、私が戦わなければ話を聞けないらしい。これにはハンターさんも、アルマさんも困った様子だった。

 こんな話、断ればいいものだ。しかし、研究者として、かつての栄光を知る者として、この地の歴史にまつわる話は聞いておかなければならないと感じている。千年も眠りについた間、何が起きて、何が伝わってきたのか。それを知る権利は私にもある。

 

 うーん困った。とりあえず、今日は保留として明日決断することにした。

 日記を取り上げようとしたモリバーは、竜乳で包んで吊るしておいた。しばらくそのままでいろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──期──年 緋の森 ベースキャンプ 異常気象 大雨

 

 ウズ・トゥナに命を狙われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、ニ・スキはモリバーからの依頼を断った。モンスターを狩る仕事はハンターの仕事であり、そもそもニ・スキはギルドに認可された狩人ではない。

 モリバーからこの千年の歴史について聞くチャンスは、ニ・スキには翼腕が出るほど欲しかった情報だっただろう。得られなかったのは残念なことだが、本人は「そういう時もあります」と首を横に振った。

 

「しかし、ギルドとしてこの事態は放っておけません。近々、大きな気候の変動が見受けられます。その際、ババコンガとリオレイアの行動範囲が変わる可能性があります」

「互いにストレスが溜まった状態ですね。どこかへ発散しに、近場の巣穴を襲うかもしれません」

「そうなると、連鎖的にモンスターの縄張り争いが発生するな」

 

 ハンターとアルマ、ニ・スキは、ベースキャンプでそれぞれ会議を行なっていた。モリバーの住処から帰ってきたところで、一通り森を見回って、それぞれの所感を述べてゆく。

 歴戦ババコンガは広く移動を繰り返しており、リオレイアもまた移動と縄張りの拡大を続けている。遭遇こそしなかったものの、痕跡は余るほど入手したため、いつでも追える状態だ。

 

「はい。ですので、目標二頭の早急な対応を依頼します。モリバーたちからの説得は、私が行います」

「ニ・スキは待機だ。今日は星の隊に、君を預ける」

「分かりました。ご武運を」

 

 今回は、ニ・スキがハンターに付いていくことはなかった。ナタも同様だが、これが普段の姿だ。ハンターとアルマはそれぞれセクレトに騎乗し、湿度の上がった森の中を駆け出した。

 

「それじゃあ、僕は君たちに授業でもしようか。あのハンターのことだ。すぐに終わらせて来ると思うよ」

「エリックさん、よろしくお願いします!」

「今日も面白いお話を聞かせてください」

「君に言われると討論会並の緊張が走るな……」

 

 残ったナタとニ・スキは、エリックの元で授業へ。ベースキャンプの一画を借りて、二人は授業のための書物を持ち出そうとした。その時、

 

「……ん? げっ、大雨だ」

 

 ふと顔を上げたタイミングで、雨音が強まった。流れる水の量が一瞬にして増し、緋色の水面が濁り出す。緋の森特有の大雨が始まったのだ。

 

「降水発生装置が稼働しましたね」

「……あっ、そうか。君はコレについてもよく知ってるんだったね」

「私が担当した部門ではありませんが、ここは大火釜で発生した毒物を浄化する区画でした」

 

 ニ・スキが懐かしげに語った途端、エリックの目が研究者の目になったのを、ナタは見逃さなかった。

 

「毒物を浄化……水道の役目を果たしていたという認識でいいのかな?」

「そうですね。そういった役目を持つ場所ですので、ここがどこよりも命が生い茂る場所になっていたのを見た時は驚きました。いえ、逆でしょうか? 富んだ水に、鉱石由来の毒素、それらが上手く清濁を生み出し、森という環境を作るにまで至ったのでしょうか」

「なるほど! 油涌き谷のパイプが森の方角へ幾つか向かっていたのは見えたけど、それらは毒物を輸送するパイプだったわけだ! ここだけやたら自然に富んでいるのも、君の言う通りならある程度辻褄は合う。綺麗過ぎる水に魚は棲まないからね。リンやカルシウムといった栄養素が幾らでも流れ込んでくるこの森はまさに栄養天国! どうしよう、地質調査をもう一回したい! あっ!? そうか、流れていった水は隔ての砂漠に行くし、同時にあちらでは砂嵐と落雷が発生する。乾いた砂に水はよく染み込むし、その上雷がいっぱい降って電気分解されるから、流れた栄養も毒素もそこで気化する! 気化した金属分子がさらに落雷を誘発させる! 本当の浄化装置はあそこなんだ!」

「あの、授業は……」

 

 いつも通り様子がおかしくなったエリックに、ナタはため息をついた。そんな彼の肩に手を置いたのは、オリヴィアだった。まるで覚悟を決めたかのような顔つきに、思わずナタに緊張が走る。

 

「任せておけ……ふんッ!!」

「あぼァーッ!!」

 

 エリックは、オリヴィアの熱烈なビンタにより撃沈した。

 ナタはため息をついた。

 

「目先が見えなくなるほど興奮してどうする。それで、以前の調査で見たかったものを見逃したんだろう?」

「うっ、ぐ……ご、ごめんよオリヴィア。それはそれとして、ハンターのパワーでビンタはやめて……」

 

 回転しながら倒れたからか、ビクビクと震えて立ち上がれないエリック。オリヴィアは「やり過ぎたか」と呟きつつも、代わりにエリックがいた席に座った。

 

「ニ・スキも、あまり調子に乗らせないでくれ……いや、無理を言った。すまない」

「フフッ、構いませんよ。私も研究者の一人でしたので、あのように興奮する気持ちは分かります」

「あぁ。けど、それが悪いものじゃないのは確かだ。これが危険と隣り合わせでなければ…………ニ・スキ?」

 

 ふと、ニ・スキが顔をベースキャンプ入り口の方へ向けた。突然、何かを見つけたかのように。しかし入り口から、何か目立つものは見えない。辺りを歩く人々と、補給チームのアイルー。空のテントに、作業中のジェマ。いつも通りの光景だ。

 だが、赤色になった彼女の瞳が細まったのを見て、オリヴィアは得物に手をかけた。

 

「……何か来るのか」

「来ます。大雨と共に、彼が」

「彼? ……いや、まさかッ! 全員警戒!!」

 

 符号のようなやり取り。それで全てを察したオリヴィアが叫んだタイミングで、来た。

 

 雨音の全てが滝と化し、水流の量が増す。辺りが揺れ始め、ガタガタと木箱や設備が軋む音が響く。

 このベースキャンプは、程よい広さを持った天然の洞窟。入り口もセクレトがギリギリ通り抜けられる程度で、長くベースキャンプを置いたためか、「そこには(ハンター)がいる」という脅威を感じ取って、モンスターは近付こうとしない。

 

 しかし、今日は違った。

 二重ドアのように設けられた狭い入り口から、ソレは顔を覗かせた。細く小さな竜の顔。しかしその図体は、頭の十倍以上はある。丸く、とてつもなく肉厚な、四つ足の海竜種。紅色の鱗肌に、青色の斑点模様。図体を隠すように広げるヴェールは美しく、しかしそれを込みにしても「巨大」であることは隠せない。

 

 緋の森の頂点(ヌシ)、ウズ・トゥナは、遥か遠方にいるはずのニ・スキに目を向けていた。

 

「ッ!」

「な、待てッ!?」

 

 ここに自身がいれば、ベースキャンプが破壊される。瞬時にそれを悟ったニ・スキは、地面を両翼腕で蹴り上げ、そのまま翼を広げて入り口を潜り抜けた。

 オリヴィアの制止の手が伸び、肉を啄んでいたフラッシュが顔を向けた時には、既にニ・スキはウズ・トゥナの背中を通り過ぎていた。

 

 ウズ・トゥナの狙いが彼方へと行く。彼はそれを見ていたようで、ベースキャンプから翻し、彼女を追って重い肉体を動かす。それだけで水流が変わり、激しさが遠のいてゆく。まるで彼がこの大雨を降らせているかのように思えたが、今ギルドはそれどころではなかった。

 

「あの馬鹿者……ッ! ナタ、私が許可する! ペンダントを持って続け!」

「!? ……分かりました。ジェマさん!」

「嘘でしょ、マジでやんの……! 五秒待って!」

「エリックも来い! お前の知見が必要になるかもしれん!」

「っ、勿論!」

 

 オリヴィアは即座に自身のセクレトを呼び、ナタはペンダントの預け先であるジェマの元へ。エリックも、流石の事態なだけあってか、おふざけを抜きに外出の準備をし始める。

 真っ先に飛び出したのは、ナタも一緒に乗せた、オリヴィアのセクレト。追うべき対象はウズ・トゥナ──ではなく、ニ・スキだった。

 

「緊急用の信号弾を飛ばせ! それだけで鳥の隊が戻る!」

「了解です!」

 

 つい先ほどまで見えていたはずのウズ・トゥナが、セクレトで追っても追いつけない程に加速している。上流に逆らって走れるのは、やはり海竜種にしてヌシのウズ・トゥナに分があるらしい。それでも背中を追うオリヴィアは、ナタに指示しつつも状況を整理する。

 

(三日前だったか。ニ・スキが歴戦のヌシに狙いを付けられたというのは。今回も同じだ。あのウズ・トゥナ、老齢の個体だな)

 

 ウズ・トゥナが向かう先は、緋の森の堰堤(えんてい)だった。そこは彼の棲家でもあり、竜都時代に建築されたであろうダムがある場所だ。ダムの上を登れば、彼女が言っていた降水発生装置も見える。

 

 ようやく追いついた時には、ダムの下方、堰堤を見上げれる広いエリアに辿り着いた。ニ・スキはその奥で、何かを持ってウズ・トゥナを待ち構えていた。

 

「ヴォオオァァァァァッッ!!」

「……あれは」

「オリヴィア! ようやく追いつき、ってスラッシュアックス!?」

 

 ニ・スキが持っていたのは、おそらく竜乳で形成したであろう武器。身の丈より長い、アシンメトリーな両刃の斧。片刃はそのまま斧だが、もう片方はまるで大剣の如き形状の刀身。間にビンを挟んだ、特殊な変形機構を持つソレは、木こりの斧と狩人の剣を組み合わせた、浪漫溢れる(よくおもいついた)狩猟武器だ。

 

 名をスラッシュアックス。剣斧(けんふ)とも呼ばれるもの。

 

 フラッシュに乗って追いついたエリックは目を剥いた。アレは、ガンランスやチャージアックス、穿龍棍(せんりゅうこん)*1と同じく特殊な機構を持つ武器だ。その構造、原理は、今でこそ改修を重ねられ量産が利く設計となったが、それでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが、その欠点をニ・スキはとある方法で解決していた。

 それは竜だからこそ、否、模造とはいえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言わざるを得ない。

 透過した胸部から見えていた、超小型龍灯。それは今、彼女の胸部には無く──竜乳で造られた黒龍の剣斧の、ビンが埋め込まれている位置にあった。

 

「ウッソォーーーーッ!?!?」

「龍灯を移した……!?」

 

 戦いが始まった。

 傷にまみれた、老齢のウズ・トゥナがノーモーションで飛び上がる。見た目からして重過ぎる巨体がふわりと浮き、回転しながらもニ・スキを潰さんと迫る。しかし、剣斧を前にそれは悪手だった。

 

「せぁッ!!」

「──!?!?」

 

 ニ・スキは回避を取らず、合わせるようにその場で剣斧をかち上げる。垂直に上げられた斧は、ウズ・トゥナの首元をガチィンッ!! と音を鳴らして砕き、その攻撃を相殺する。

 空中で体勢を崩され、慣性を失って垂直落下するウズ・トゥナ。そこに竜乳の糸を引き、剣形態へ変形させながら駆け寄ったニ・スキは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()思い切りウズ・トゥナの頭部へぶつけた。

 

「ヴゥゥゥッ!!!!」

「流石に硬いですね」

 

 頭部への攻撃は直撃した。しかし、ウズ・トゥナはその程度で倒れることなく、肉厚な前足でニ・スキをスタンプする。レ・ダウに比べれば遅い攻撃。ニ・スキは軽々とそれを避けるが、今度は別の前足で、その後は自ら転がってすり潰さんと迫る。

 

 フルリリーススラッシュ。本来、モンスターからエネルギーを吸ってビンを活性化させ、剣にビンで還元したエネルギーを纏わせ一気に解放する必殺技だ。しかし、龍灯という、ほっといてもエネルギーが勝手に生み出されるソレを搭載した剣斧は、なんと常にビンも剣も斧も活性化(ゲージ満タン)状態になる。

 

「すごいよアレ!! 常にエネルギー満タンだから、必要なのは変形機構だけでいい! ぶっちゃけ変形機構だけは単純構造だ。元研究者で技術者な彼女なら簡単に構造は理解できる。だけどビンに関しては流石に無知のはず。だけどそうか! 永久機関が備わっているなら、管理なんてものがそもそも要らないんだ!! ヴェルナーが見たらたまげるよこれェ!!」

「馬鹿言ってる場合か! 止め……いや、クソッ!」

 

 回避を重ねて後退したニ・スキは、次に繰り出された噛みつきに対して、剣形態でガード、即座にカウンターで回転斬りを放つ。それに怯んだウズ・トゥナへ、慣性に従い回転したまま斧形態へ。肉を断たんと、腹部の歴戦傷へ刃を突き刺した。だが、それを待っていたかのように、ウズ・トゥナは胴体を風船のように膨らませ、ボディプレスを放った。ニ・スキはこれを剣斧を手放すことで回避。糸を引いた竜乳で引っ張り、回収しつつ再度対面する。

 

 これを見ているオリヴィアは、介入のタイミングを完全に見失った。互いに隙がない。ウズ・トゥナは歴戦個体なだけあって見るからに動きが違い、ニ・スキはというと謎に戦い慣れている。()()()()()()()()()()()()()()()全く不明だが、動きは明らかに熟練のハンター。

 まるで、()を彷彿とさせるような。

 

 その一方で、ナタはある違和感に気付いた。

 

(──どうして、ニ・スキさんは()()()使()()()()()()()()()?)

 

 ナタは短い間だったが、ハンターよりもニ・スキと接していたと言えるだろう。同い年とは言い難くも、それでも容姿は同じ子供。ニ・スキ側から色々聞かれることもあって、彼は普通に彼女と心を通わせていた。

 そのおかげか、彼女の人なりはなんとなく理解していた。

 

 古代の研究者にして技術者。龍灯の原理を理解しており、それを実行に移せるほどの権力を持った、若き少女。何故ゾ・シアと融合をしたのかと聞けば、すんなりと「こうなりたかった」と答えて、ナタは彼女は自身の夢のためなら、何も惜しまない人間なのだな、と思った。

 

 しかし、そうとなれば一つ疑問が浮かび上がる。せっかく彼女の言う「最強のドラゴン」になり得たのに、何故わざわざ人が使うものにこだわっているのか。今のような極限状態なら、想像以上に屈強な力を使える翼腕や、封印したとはいえブレスや、火球など、竜らしいやり方で対抗できるはず。

 

 ハッキリ言って、自身より遥かに頭が回るはずの彼女が、今更竜であることを縛って戦う理由がわからない。

 

 わからないからこそ、ナタは見つめた。

 観察し、調査する。彼女の行動、思考、指先一つの動作まで、しっかりと。

 

(監視対象になったから控えている? 違う。ニ・スキさんはそれ以前からやらかしていたし、元からそうなることを見越してた気がする。だったら最初から、今のように慎ましく戦うこともできたはずだ……)

 

 ウズ・トゥナが攻撃すれば、ニ・スキはそれを弾くか避ける。弾いた場合、ニ・スキの容赦ない攻撃がウズ・トゥナに突き刺さり、しかしウズ・トゥナは怯むことなく反撃を行う。そのループは、確かに自分が憧れる先生(ハンター)の動きそのもの。敵の攻撃をいなし、自身の優位性を保ちながらダメージを一方的に与える姿は、理想的(お手本のよう)な戦い方だろう。

 

 その身に、龍属性を彷彿とさせる稲妻を纏いながら。

 ニ・スキの変色した赤い瞳が、ウズ・トゥナの歴戦傷を捉える。

 

 ウズ・トゥナは、自身の体力が限界に近いことを察していた。普段の彼なら、ここで身を引いただろう。負ける時は撤退する。モンスターでありながら、そういう判断を下せたからこそ、彼は歴戦の個体へ至ったのだから。

 しかし、目の前の相手を前に、退くことは不可能。何故なら、継がれた遺伝子にある黒い記憶が、「逃すな」と囁くからだ。

 

 対するニ・スキは、ウズ・トゥナがそろそろ瀕死であることを悟っていた。ならば罠と麻酔玉を、と思って竜乳のドレスを弄るが、そんなものは無かったと冷や汗を垂らす。仕方がないので、ここで狩ることを決めた。

 

 ベースキャンプに被害が出ないよう飛び出したら、かつての合成護竜が生き物の姿で襲いかかってきたのだ。ある種の懐かしさを感じつつも、彼こそがこの森の頂点(ヌシ)だと把握する。やはり、エリアの支配権を与えた合成護竜は、軒並み生物化しているらしい。

 

「……私の部門ではありませんでしたが、ここで貴方を手向けましょう」

 

 彼はもう長くはない。それに、向けられる怨嗟もあって当然のものだと、ニ・スキは感じた。だからこそ人の手で。竜の力は極力使わず、人の力で弔うことこそが、自身の役目であると。

 そのために武器を造り戦っていた。しかし、

 

(──疼く)

 

 ピリピリと肌に走る稲妻。湧き出てくるのは破壊衝動。全てを蹂躙し、燃やし尽くし、矮小なる者共に力を指し示せ。龍であるならば、真に頂点とは誰かを理解(わか)らせ──

 

(やかましいッ!!)

 

 疼く黒き脈動を、理性で押し潰す。

 次の攻撃は、おそらくカウンターは効かない。純粋な力勝負、鍔迫り合いとなるだろう。ピリピリがビリビリに変わるほど強く、赤い稲妻を纏ったニ・スキは、剣斧を剣形態へと変え、その場で強引にエネルギーを操作し大剣へと変質させる。

 

 龍にはならない。なってもいいが、今は違う。

 

「グルル……グルアァ゛ァァッ!!」

 

「やかましいと、言っているッ!!」

 

 鉄砲水の如き水流に身を乗せ、全速力で突撃、噛み千切らんと迫るウズ・トゥナ。ニ・スキは大剣をギリギリまで構え、鍔迫り合いを狙った──その時、

 

「ガッ!?!?」

 

 ウズ・トゥナの顔面に、ハジケ石が直撃した。

 

「!?」

 

 何事かと、石が飛んだ方角を見れば、それは跳んで来た。

 ダメージが蓄積した頭部にスリンガー弾をぶつけられ、軌道がニ・スキの横を逸れるウズ・トゥナ。そこにアジャラカンの素材で鍛えられた「赫炎護剣スヴィンダ」を突き立て、特有の爆発を起こしてトドメを刺す。

 

 軽やかに、それでいて重過ぎる一撃を放った男──ハンターは、武器を構えたままニ・スキと対面した。

 

「……説明はしてくれるんだろう?」

 

 今まさに迎え撃たんと大剣を構えていた少女は、ウズ・トゥナに向けた目をそのまま、ハンターに向けていた。

*1
フロンティア限定武器カテゴリ。見た目は二対のトンファーだが、実際はパイルバンカー。





「ニ・スキ」
 そろそろ黒龍の因子が芽生え始めたため、可能な限り人間性を保つ努力中。

「ハンター」
 監視と調査を続行中。目を離した隙に暴れそうになっていたため、警戒度上昇。

「アルマ」
 戦ってほしくなかったのに戦ってて頭を抱える。

「ナタ」
 じっくり見た。

「オリヴィア」
 実力不足を実感するハンター。力量を見極めれる分、よくいる猪突猛進なハンターよりは強い。

「エリック」
 興奮が止まらない生物研究者。




「ウズ・トゥナ」
 ドスジャグラスにネロミェールの因子を与え続けたらどうなっちゃうんだろ〜! で生まれた護竜が生物化した。歴戦の猛者だったが、ハンターの前では無力。

「フラッシュ」
 ミルクも良いけど肉と野菜も良いな……

「モリバーたち」
 黒くて、白い、ものもの! あなたは、つわものです。ハンターさんに、頼る。しない! シャバダイ、自分で稼ぐ! なさい!



 各地の頂点は、ゾ・シアみたくかつて合成護竜だったものたちが、生物化したものだと考えております。それぞれ由来の言語は違いますが、言葉の組み合わせ方がどれも似ているため、造竜っぽさを感じさせます。古龍らしい権能も持ち合わせてそうですしね。

 とはいえ、まだ追加ストーリーやDLCといった掘り下げがない状態での考察ですので、あくまで本作品でのみそういう感じになってるという風に受け取ってください。

 追記
 やろうと思ってた展開を直前で変えたため、文章の一部を変更
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