白いドレスの少女モドキ   作:外道カヤノ

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 短め


黒に触れ、陰り染まる

 

 ──期──年 油涌き谷 エリア12簡易キャンプ 荒廃期 天候不明

 

 こうなることは薄々予感していた。

 私はベースキャンプに立ち入れなくなり、それに伴って人里の出入りを禁じられた。おかげで、今はモンスターの襲撃が来ても問題ない場所に押し込められて、もう二日ほど経った。

 正しい措置ではあるので、文句は言えない。ただ、娯楽が少ないのがいかんせんストレスだ。

 

 各地の頂点が、私を狙って襲い掛かる。理由はまあ、私が黒龍の因子を継いでいるからだろう。人並みに小さいから殺せると思ったのか、それとも脅威を排除する本能からか、明確に殺意を向けてくる様は、少し恐ろしくも感じる。

 おかげで、油涌き谷の里であるアズズの食事を楽しむ機会が失われた。ハンターさん曰く「あそこは気分屋過ぎるから気にするな」と言われた。何故だろう、とても苦い顔をしていたのは。*1

 

 前世の記憶がついに無くなった。もはや自分が元々何者だったのか、分からない。親の顔も声も、一緒に遊んだ友達のことも、どんな場所に住んでいたのかも、すっかり消えている。唯一覚えていることは、この世界がゲームという、なんだろう。何か、ずっと遊んでいた本?動くもの?そんな、世界の概念にまつわる何かであることだけ。駄目だ。書き出せない。

 不思議と悲しくはなかった。普通はこうであるはずだから。百歩譲って生まれ変わることがあれど、魂が綺麗さっぱり漂白されていないのは、輪廻転生的にはバグに等しい。様々な命からしてみれば、私はずるい命だっただろう。

 ただ、かつてを思い出せなくなったのは、少し嫌だった。

 

 竜都で生きていた頃の記憶はまだハッキリとしているが、逆にぼんやりと私の知らない記憶が混ざり出した。明らかに人間大の視点じゃない目線で、何かを破壊している。ブレスを吐いたり、向かってくるモンスターに噛み付いたり…どう考えても、ゾ・シアの材料となった黒龍の記憶だ。アレは呪われている。なんてことを誰かから聞いたことがある気がする。

 

 造竜は、モンスターの遺体を元に、竜乳で肉体を再現する技術だ。私のように、生きた竜をベースにするやり方もあったが、基本は遺体ベースだ。合成護竜の場合、レ・ダウのような火竜ベースで色々違うモンスターの遺体を組み合わせるパターン。ウズ・トゥナのように賊竜をベースに水を操るモンスターや、水を司る古龍の因子を注入しまくるという手法もある。おそらくここの頂点であろうヌ・エグドラ、外郭の守り手であるジン・ダハドは、何をベースにしていたか。

 …まずい、こっちの記憶も若干曖昧だ。

 

 私は先も述べた通り前者の合成護竜だ。ベースが生きた人間なのが少し違う点だが、それでも基本構造は変わらない。骨格を変えることなく、既存の肉体を変容、あるいは追加してゆくというべきか。私は造竜装置の繭に入っていた時、ゾ・シアの元ネタである黒龍と、他に強いとされていた古龍たちの因子を注入されたはずなのだ。

 

 黒龍、何だったか。もう少し名前があったはずなのに、それが思い出せない。悪夢だの、滅びだの、運命だのが浮かび上がる。そんな名前じゃなかったはずだ。

 

 話を戻すと、私の精神は黒龍に影響されているのだろう。青かったはずの瞳が、今は赤い。瞳孔はこの暗所の中でも縦に割れていて、すっかり竜のソレだ。知らない声がたまに囁いてくるし、寝ようとするとスッと心の中に入り込んで来そうで恐ろしい。

 今は龍灯のブーストで眠気を覚ましているが、中途半端に睡眠欲を残したのが今になって恨めしい。

 

 今、私はハンターさんとアルマさん、ナタくんと一緒に簡易キャンプで生活している。ハンターさんが十二連肉焼きを見せてくれたり、近場の環境生物を一緒に探したりと暇つぶしをしているが、十中八九私を狙うヌ・エグドラが来るタイミングを待っているのだろう。

 

 気が付けば、禁足地となった竜都の名残りを回っている。そんなつもりは無かったのだが、いつの間にかもう三つ目の領域へと歩んでいる。

 私は千年もの間の変遷を知りたくて歩いている。ハンターさんは、そんな私を調査対象として見ていて、付いてきている。ギルドは…いや、アルマさんは私のことを測りかねているのだろう。ナタくんは、私に対する絶対の安全装置だ。あのペンダントさえあれば、私に簡単にトドメをさせる。

 

 私が人か、竜なのか。もうその結論は出ている。ハンターは、そのギリギリの時まで、待ってくれると言った。

 だからせめて、時が来るまで、私は知りたいことを知る。

 本当なら、私なんて存在しなかったはずなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒龍ミラボレアス。

 その名を知る者は、滅多にいない。何せ、ギルド上層部のみが知る歴史的事実であり、信じ難い「悪夢」そのもの。伝説とも、御伽噺ともされた存在でありながら、何故こうまで記録が存在するのか。

 

 シュレイド。知る人ぞ知る、一千年前まで栄えていたとされる人の都。大量の兵器を生み出し、竜に対して絶対の防衛力を誇った、古の王国の名だ。

 それがたった一夜にして滅び、その滅びを齎した存在こそが、「黒龍」である。

 

 どうして滅んだのか。何故消えなければならなかったのか。理由ごと燃やし尽くされたシュレイドは、名前と城の跡地だけを残して、以降は人々の記憶から消えていった。

 だが、黒龍が齎した恐怖は消えなかった。詳細は分からずとも爪痕はあり、伝承や童歌が戒めとして人々の遺伝子に刻み込まれた。

 

 ──最初の英雄が、ミラボレアスを討つまでは。

 

「今では結構情報が多いんです。ここ数年ほどは、黒龍を討ち倒したハンターが、指で数える程ですが多く輩出されましたから」

「ココット村の英雄、だったか」

「はい。その後はポッケ村からも出ましたね。あそこが、一番黒龍の伝承について詳しかったようですが……」

 

 キャンプのすぐ側。焚火いらずの淡い光が照らす洞窟の中で、アルマが語るのは二十年前ほどの歴史だ。

 今より遥か昔。狩猟武器も今より少なく、まだ狩りの技術が発展していなかった頃のこと。当時、ミラボレアスを討った英雄(ハンター)が現れたことで、狩猟技術にブレイクスルーが訪れた。

 

 大剣を携えたハンターは、討ち取った黒龍を証として自身の武器に、防具に変えた。悪夢を振り払い、それを纏ったハンターは、故郷のココット村で、ハンターが集まる街で、世界で、それはもう持て囃された。

 

 ──「塔」と呼ばれる秘境に赴き、その後消息不明となるまでは。

 

「黒龍、紅龍、そして祖龍──一律して「ミラボレアス」()()()()モンスターを討ったハンターたちは、大半が呪われました」

「のろ……ッ!?」

「はい。ファンタジーやオカルトとかではなく、呪いは()()()()。当時それに携わった加工屋や、素材鑑定を行ったギルドの方々も、口を揃えて言っていたんです。「呪詛(怨念)が籠っている」と。そして、ミラボレアスの素材で造った武具を装備した方々は、呪われました」

 

 ──祖龍を討ったハンターは、未だ現役である。ハンターになって十年経った今でもなお、()()()()()()()姿()()()()

 

 ──紅龍を討ったハンターは、突如全身におぞましいほどの火傷痕を残し、絶命した。当時の彼は、狩人の引退を考えていたところだった。

 

 ──もう一人、黒龍を討ったハンターもいた。しかし今は行方不明。ただ、直前までその者を見ていた村人は、「黒龍になった」という意味不明な言葉を残していた。

 

 ──祖龍を討ったとある新米上がりのハンターは、今では立派なベテランハンターだ。しかし、まるで囚人のようにあらゆるG級モンスターを狩り続けており、討伐数のトータルが明らかに異常な数値を見せているという。狩りが休まる日はなく、モンスターも休まる日はない。破滅へ向かっているのを理解していても、村々を守るために破滅せざるを得ない。

 

 ──つい最近では、新大陸の「青い星」が黒龍を討伐した。彼女もまた、英雄になぞらえるように黒龍の装備を纏ったが、今は呪いらしき兆候は見えない。しかし、「いずれ避けられない運命にぶつかる」と、彼女はそう呟いていた。

 

「「青い星」……あぁ、私の師匠か」

「先生の?」

「私も、新大陸の調査隊の一員として、上陸作戦に赴いたことがある。その時一番強かったハンターが、師匠だった」

 

 私の知る限りの、最強の弓使いだった。

 そう語るハンターの顔は、綻んでいた。

 

「そうだったんですか!?」

「アルマは知らなかったか。私も推薦組だったとはいえ、ハンターとしては木端だったよ。運悪くバディだった編纂者が途中でリタイアしてしまってね、手持ち無沙汰になった私は、師匠の元で技術を学ばせてもらったんだ」

 

 話が逸れたな、とハンターは座り直す。

 

「んんっ……黒龍の呪いは、必ず何かしらの災いを齎します。同一存在とされる祖龍や、紅龍については黒龍より情報が少なく不明ですが、伝承から見てもそういった「呪い」があるのは確かです」

 

 アルマはチラリと簡易キャンプに目を向ける。ハンターも、ナタも、その中で眠る少女の姿を見た。

 ゾ・シアは新大陸の赤龍をベースに、黒龍の因子を多めに、その他禁忌級の古龍の因子を混ぜ込んだ、究極の造竜である。まさに、そのゾ・シアと融合したニ・スキがそう言ったのだ。因子だけとはいえ、黒龍という災いを自ら取り込んだ彼女は、案の定その影響を受けていた。

 

 今の彼女は、一部分が炭化したかのように、黒色に変色していた。純白の髪はメッシュを入れたかのように黒くなり、腕はグローブを付けた風に見えるほど真っ黒だ。相変わらず透過した胸元には小さな龍灯が見えるが、その龍灯に、何か赤黒い管のようなものが絡みついている。

 活性化状態になった時のゾ・シアの姿と、今の彼女はとても似ている。

 

「……私の見解ですが、黒龍の因子を直に吸収している彼女は、呪いの影響を強く受けていると思います」

 

 厄介なことに、その呪いがどのような災いを齎すのかは不明ということだろう。呪いにもばらつきがあり、一重に全て同じレベルの災いと言えないものも多い。

 分からないのだ。何が起きるのか。手遅れになってしまわないか。

 

「「ギルド」としては、彼女はすぐに討伐すべきだと判断するでしょう。彼女に訪れる呪いがどのような効果を齎すのか……あるいは、彼女()呪いを振り撒くのか、不明瞭だからです」

「……アルマとしては、どう思う」

「討伐したくはありません。ニ・スキさんは、私からすればまだ人です」

 

 キッパリと告げた彼女に、ハンターも同意見だと頷く。ナタは言わずもがなだった。

 何せ、彼女は今も戦っているように思えたからだ。

 

「うなされているな……」

「手を繋いであげたりは、できないのでしょうか」

「それは、ごめんなさい。急に竜の力で握られたりしたら、私たちではどうしようも……」

「……そう、ですね。すみません、無茶を言って」

「いえ、大丈夫ですよ。きっと、ニ・スキさんにもナタの優しさは伝わっています」

 

 苦しげな寝顔には脂汗が浮かんでおり、毛布を引き千切りそうな強さで握りしめている。唸り声もどこか竜に似ていて、今のニ・スキは機嫌の悪いモンスターにも見えた。

 

「ところでアルマ。さっきの話はナタに聞かせても良かったのか?」

「…………ギルド的には、アウトですね」

「えっ、ちょ」

「けど大丈夫です。ナタは既に、同じレベルで秘匿すべき事項に触れた後ですから。私が許可します」

「ギルドは!? ギルド的にはどうなの!?」

「ナタ、こういうのは黙っていれば問題ないさ。黙っていればな」

「大人の闇だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──期──年 氷壁の断崖 エリア20簡易キャンプ 異常気象 吹雪

 

 何も覚えていない。ここに来るまで、何も思い出せない。

 

 頭の中がうるさい。龍灯を壊せ、ハンターを殺せと言ってくる。

 

 駄目だ。龍灯はもうこの地の生態系の一つなんだ。

 

 ハンターさんは、殺せない。そもそも勝てなかったはずだろう。

 

 なのに、いけしゃあしゃあと…

 

 壊させはしない。私の命に代えてでも。

 

 アレは、私の、かつての私たちの

 

 

 

 

 

(文字になっていない線ばかりが続いている)

 

*1
マキの顔が浮かんだ者だけハジケ石を投げなさい




「ニ・スキ」
 居るだけで歴戦ヌシを呼び寄せるので隔離された。そろそろ手に負えなくなるかもしれない。

「ハンター」
 常に準備万端の状態。

「アルマ」
 既に討伐命令を下せる状態。

「ナタ」
 ペンダントを持って待機中。




「ヌ・エグドラ」
 ナレすら無く死。
 おそらくヤマツカミベースでオストガロアとゴグマジオスなどの、火属性古龍ごちゃ混ぜのロマン型護(タコ)。閉所やパイプ間を移動しやすい軟体動物を採用したか。専用の蛸壺もあってかわいいね。

「ココット村のハンター」
 最初の英雄。白いドレスの少女に見初められた。

「ポッケ村のハンター」
 呪縛に囚われ、今も村の英雄でいる。

「ベルナ村のハンター」
 一生狩りから逃れられなくなった。鏖魔の座がハンターに譲られている。

「新大陸の青い星」
 弓使いのバケモン。まだ呪いは出ていないが、地啼龍も赤龍も黒龍もシバいておいて何もないは絶対に無理がある。

「猛き炎」
 多分コイツは黒龍シバいても呪い弾くどころかそれを利用する。登場無し
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