白いドレスの少女モドキ   作:外道カヤノ

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 ギ ャ グ 全 開 回

 (日記形式)ないです。


フリークエスト
神村の神殺したち


 

 禁足地より西。実際は西北方向だが、海を渡ったその先に、「カムラの里」がある。

 ニ・スキの認識では「東」と思っていたカムラの里だが、実際は現大陸にあるロックラック地方、その山奥。霊峰が連なり大陸の壁となっているところに、まず「ユクモ村」があり、そのさらに奥の海岸線にカムラの里があるのだ。旅人に扮して行商人に話を聞いた時、ニ・スキはショックを受けて急遽方向転換した。禁足地の東へ向かっていたせいで、旅路が無駄に長くなったのである。

 

 大陸の海岸線を辿っての二人旅。あるズルをして超短期間でカムラの里近辺まで行き、そこからは徒歩で向かった。

 

 道中、マガイマガドと果てしないデスレースを繰り広げたり。オロミドロと一緒に泥風呂で湯治したり。オレイがフルフルに丸呑みにされたり。イソネミクニと英雄の証を歌ったり。タマミツネを見つけてはしゃいだニ・スキがぶっ飛ばされたり。ハチミツを不法入手したオレイがヌシアオアシラにボコボコにされたり。バルファルクにクナファチーズを土産に挨拶しに行ったり……色々とあったが、そこまでの旅路は既に思い出の中である。

 

 ようやく辿り着いた人里。もちろん、人竜の姿のまま受け入れられるとは思っていないので、パーカーや帽子などで角を隠し、翼と尻尾は引っ込めての観光入村となった。

 必要な手続きをとある人物にしなければならないことで、村の奥にある訓練所へと赴く。そこで二人が見たものとは。

 

「いいぞ愛弟子ッ!! 今日も太刀筋が輝いているね!!」

「はいッ! ウツシ教官ッ!! 貴方と共にいる限り、僕はもっと強くなれる!!」

「愛弟子ィィィッ!!」

「ウツシ教官ーーーッ!!」

「うるさっ」*1

 

 寒冷地帯の温暖化を行う男(バカみたいにうるさいの)が二人。片方は片手剣を持った黒い忍装束の男。相手を「愛弟子」と呼び、「教官」と呼ばれている者。もう片方は、青い忍装束に身を包んだ少年だった。背丈は170センチに届くか届かないか程度だが、顔立ちは可憐さ溢れる甘いマスク。黒髪のボブヘアーというのもあって、汗臭いやり取りから聞こえた声が無ければ、女だと間違えていたかもしれない。

 

 ただ、ニ・スキは一方的に彼らのことは知っている。前世──「モンスターハンターライズ」という同世界観の作品──にて、たくさん遊んだからだ。プレイヤーとして彼を。彼を使ってそこのウツシ教官に小タル爆弾で虐待(ご褒美)しまくったからだ。

 

「! やあ、ご客人! カムラの里へようこそ!」

「お初にお目にかかります。ニ・スキです。こちらは妹のオレイです。貴方はウツシ教官、で合っていますでしょうか?」

「うんうん! そう、俺がウツシ教官さ。そしてこちらは我が愛弟子!!」

「うるせ……」*2

「タキギです。「猛き炎」って呼ばれてますけど、どちらでもいいですよ」

 

 「猛き炎」こと、タキギは手を差し伸べる。ニ・スキは笑みを浮かべ、彼の手を取った。

 元はといえ、同じプレイヤー同士。互いに感じ、通じるものがあったのだろう。何故か、見つめ合う時間が長かった。

 

「それで、何故わざわざ訓練所へ?」

「フゲンさんに伺ったところ、「それは「猛き炎」に見せた方がいい」と言われまして。これ、お手紙です」

「僕に? ありがとう、見せて貰うよ」

 

 観光入村した彼女たちだが、訓練所という汗臭い場所に来る理由がない。タキギは渡された手紙を取り、ウツシもそれを読む。しばらくして、手紙を読み終えた二人は、神妙な顔をしつつも、彼女たちを迎えることにした。

 

「なるほど……禁足地調査隊のハンター(ギルドナイトの彼)が、そう言うのなら。()()()()()()は把握した。里にこのことを共有するけど、いいかい?」

「! ありがとうございます。情報共有については問題ありません」

「安心してくれ! 久しぶりの客人だからね、()()()()()()()()()()()()()()()()、竜船に乗ったつもりでいてくれ! 君たちのことは、里の守り手としてたっぷりおもてなしするよ」

 

 全てを悟った彼らは、手紙をその場で燃やして塵にする。その上で彼女らを迎えると言い、二人の少女は安堵のため息をついた。

 

「良かった……ようやく、一息つけますね」

「全くだ……貴様の提案で泥風呂に入ってから、ずっと粘土のニオイがする。ちゃんとした湯治がしたいのだが」

「お風呂かい? それなら、集会所に露天温泉がある。ミノトに言って案内してもらうといいよ。というか、泥風呂って……まさかオロミドロと何かあったのかな?」

「はい。色々あって疲れていたんですけど、老齢のオロミドロが巣まで案内してくれまして……」

(竜と通じ合えるとそういうこともできるのか……)

 

 ニ・スキとタキギは会話を挟みつつ、そのまま集会所へ向かうこととなった。その間、なぜかオレイはタキギに怯えるように、ニ・スキの腕を掴んで密着していたのが、ウツシには不思議に思えた。

 

 

 

 

 <><><>

 

 

 

 

 温泉。

 文献によると、遥か太古の時代から湯治の文化はあった。その中でも、自然に湧いた湯をそのまま使う「露天温泉」は、カムラの里より山奥にあるユクモ村が温泉文化を強く広めたと言ってもいいだろう。

 

 疲労を吸い取り、体を温め代謝の上昇を促す。そうして出来上がった体に、一杯のジュースで体を冷却する。すると、力がグィッとみなぎるのだ。

 これがクセになるルーティンで、一度体験したハンターは虜になってしまう。なんなら、これが理由でユクモ村に籍を置いたハンターだっている。ギルドもこの魔の効能を認めており、ハンターでなくともユクモに足を運ぶ者は多いという。

 

 カムラの里でもこの温泉システムは取り入られている。最も、ユクモ村と違って、彼らが提供するのはジュースではなく──「団子」だ。

 

「んむ、ん……ッ!! 美味い!!」

「これは、とても美味しいですね。とてもよく練られていて、味も豊かで飽きない……」

「でしょう? 村一番の自慢の品です。是非とも、他の味のお団子もお召し上がりください」

 

 風呂上がりでホカホカになり、温まり過ぎた体を休めたい。そう思った二人の人竜に提供されたもの。それは「うさ団子」だ。

 カムラ一番の茶屋の娘、ヨモギ*3が作るうさ団子は、カムラの看板娘の一人であるヒノエ*4を団子中毒者にしてしまうほど美味い。丹念に練り込まれた団子餅をベースに、ヨモギがロンディーネ*5経由で世界各地から取り寄せた材料や調味料でフレーバーを作る。さながら前世で言うところの「31」めいた味の多様さだが、これを三つ選んで団子にするのが「うさ団子」の肝である。

 

 ヨモギの試行錯誤と情熱により、どんな組み合わせだろうと美味い、三色団子が出来上がる。好きな味、試したかった味、クセになる味……欲張りに三色合わせた団子を一度食べてしまえば、さらにもう一回とリピートしてしまう。

 ユクモが急冷却によって体を覚ますのならば、カムラは更なる燃料投下で体をキメる。快楽からは、逃れられない!

 

「美味い! 美味い! 美味ッ、ン゛っ!? ん゛ん゛ん゛ーーーーっっっ!!!」

「あら。落ち着いて食べてくださいね。団子は喉に詰まりやすいですから」

 

 そして、団子中毒者に変わってしまった哀れな人竜、オレイは案の定団子を喉に詰まらせた。

 ヒノエともう一人、看板娘のミノト*6はオレイの背中を叩き、様子を鑑みてお茶を差し出した。水で押し込んだ方が早いという判断は同じだったのか、オレイはお茶をグイッと飲み込み、つまりを解消した。

 

「ぷは……何という、何というデザートを用意してくれたのだ……」

「ご馳走様でした。とても美味しかったです」

「ふふっ、ありがとうございます。ヨモギも喜んでくれるでしょう」

 

 ミノトは恭しく礼をする。今のニ・スキたちは、頭の角も尻尾も丸出しの状態であった。それを誰も気に留めず、質問もしないのは、タキギに出した手紙の効果である。

 

 衣服は洗濯中で浴衣を借りており、それぞれ白黒のカラーの浴衣を身に纏っている。ニ・スキは前世知識もあってしっかり着込んでいるが、オレイは雑に羽織っているだけで、ほぼ半裸である。

 

「食事も美味いし、団子も美味い。風呂も気持ち良ければ空気も良い……なんて天国なんだ。これが人が生み出した文明か……」

 

 オレイほど、今このカムラに感動している者はいない。肉や魚を調理し食卓を飾ることも、団子という菓子を作ることも、全て人だからこそ成せる技だ。未だ見知らぬもの、知るべきものが多くない彼女にとって、まさしくここは「天国」であった。

 だからか、満足感が発動して食いまくった彼女は、お腹がヨツミワドウになった状態でぐでんと寝転がった。

 

「ちょっ、オレイ……ね、寝てる……!」

「かなりの量を食べてしまったからでしょう。ぐっすりですね」

「……旅の疲れもあるかもしれません」

 

 にへらと笑みを浮かべ、腹が出ているのも気に留めず寝転がる姿は、とてもあの黒龍の仔とは思えない。しかし、これほどまでに幸せそうな寝顔を初めて見た彼女は、そっと彼女を抱えて宿へと向かった。そこに、ミノトも手を差し伸べて手伝う。

 

「お手伝いします」

「ありがとうございます。ちょうど、聞きたいことがあるのですが」

「はい。何なりと」

「近い日に、ここに大量のモンスターが攻め入りますね?」

 

 集会所を出ると、夕日が差し込み、夜風が吹き始める頃だった。

 涼しい風が火照った体を心地よく冷やす中、指摘されたことにミノトは陰を落とす。

 

「どう知り得たかは、聞かないでおきましょう。ですが、その通りです」

「百竜夜行でしたか……そこに、我々と同じ気配がしました」

「やはりですか……」

 

 『百竜夜行』。カムラの里近辺特有の、大量のモンスターが一斉に里へと攻め入らんとする現象だ。こうした大群の襲撃(スタンピード)現象は、現大陸においても存在はしている。精々起きても半年に一回程度。老山龍(ラオシャンロン)の進行と比べれば、やってくるモンスターも下位レベルのものばかりで脅威度も低い。

 しかしカムラの里が異色なのは、その頻度と、やってくるモンスターにある。

 

「「イブシマキヒコ」という古龍種について、ご存知でしょうか」

「書物で少々は」

「では話が早いですね。かの古龍種がここに接近しているのが確認されました。ですが、ご安心ください。我々とタキギが、全力で撃退します」

 

 カムラの里に来る百竜夜行の頻度は、最短でも一週間に一回である。専用の防衛施設があるとはいえ、そんな頻度で二十体も三十体もの下位上位ごった煮モンスターが集団になって襲いかかるのだ。普通に考えれば、太刀打ちできるはずがない。

 

 だがここは「カムラの里」だ。一般の市民のみならず、十歳ほどの子供ですら、「自分に出来る範囲」で防衛戦に参加する。茶屋のヨモギも、いざとなればヘビィボウガンを担いで戦場に出てくるのだ。

 いやおかしいだろ。というツッコミは尤もである。だが、カムラの里は住民全員がハンター資格所持者レベルの戦場経験者だ。

 

 「猛き炎」に至っては言わずもがなである。古龍種を難なく相手にでき、撃退どころか討伐まで持っていけてしまう、カムラ最高戦力だ。

 ぶっちゃけコイツ一人でも百竜夜行を凌げる。ここは修羅の里なのだ。

 

「そうですか……しかし、イブシマキヒコが来た理由など、お分かりになられますか?」

「…………」

「ミノトさん?」

「その……「古き友人の気配がしていたから挨拶に」、だそうで……」

「まあ」

 

 ニ・スキは冷や汗を垂らした。完全に自分とオレイが原因だった。

 ミノトが竜人族特有の「共鳴」でこの声を聴いた時は、同調すらできずに頭を抱えた。そんな理由で来るな。

 

「ならば、協力致します。もてなして頂いた恩もありますから」

「いえ、そういう訳には……はぁ。なるほど、タキギがこうなる予感を呟いていたのが分かりました」

 

 断ればそれを断るという千日手が見えたミノトは、ため息を吐きつつも微笑む。共鳴しやすい竜人族のシンパシーと言うべきか、彼女はニ・スキの強さを一目見た時から把握していた。

 

 「猛き炎」が太陽(恒星)の如き不動かつ唯一無二の輝きを放つなら、彼女は澄み渡った青空のような綺麗さ。

 一見美しいと思える景色なのに、見れば見るほど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。「猛き炎」はアレほど分かりやすいのに、ニ・スキの場合は分からない。

 

 未知数故に強者。仮に弱者であったとしても、それはどの視点から見て弱者と呼ぶべきなのか。ミノトが彼女らを測ることは、できなかった。

 

「戦に出られるのであれば、我々の助けの手が届かないこともあります。承知の上ですね?」

「でなければ、竜なんてやってませんよ」

 

 ──イブシマキヒコが多くのモンスターを連れて襲撃してきたのは、翌日のことだった。

 

 

 

 

 <><><>

 

 

 

 

 黒々とした雲が空を覆い、風が全てを薙ぎ払わんと吹き荒れる。普段なら日の光が真上に昇る頃。しかし今は夜にも等しい暗さで、提灯が無ければ足元が見えないほどの闇に包まれている。

 

 原因は言わずもがな。百竜夜行──それも、ただの有象無象の襲撃ではない──がやってきたからだ。

 数多のモンスターを恐怖で追いやり、逃げ場のない袋小路へ詰め寄らせた原因が、悠々と宙を歩く。

 

 風神龍イブシマキヒコ。カムラ地域固有の古龍種だ。

 

 逆さになって泳ぐ、40メートル越えのタツノオトシゴのような様相。紅碧(べにみどり)色のゴム質な表皮なのもあって、古龍という解釈が無ければ海竜種にも見えただろう。水掻きのある短い手や足には布状の翼膜が垂れ下がっており、自ら発生させている風によってそれは漂っている。

 

 古い同胞。イブシマキヒコが感じ取ったのは、数日前からか。妙に()()()()()()が微かに感じられたことから、イブシマキヒコはいつも通り里へ向かうことにした。ちょっとご挨拶程度に。

 彼の棲家からかつて存在した龍宮跡地(愛の巣)の狭間に、カムラの里があるのが悪い。かといってここ以外を通ろうとすると喧嘩相手(アマツマガツチ)がうるさい。

 

 なので、今はエルガドに遠出中のはずの「猛き炎」が居ない里を通り過ぎようとした。

 が、

 

「客人が来ている間に来ちゃ駄目だろ!!」

「ヴゥゥォォオオオオオオオォォォォォ!!!!」

 

 なんだよもおおおおおおおお!!!! またかよおおおおおおおおおお!!!!

 イブシマキヒコは頭を抱えそうになった。目の前にいるのは「猛き炎」、タキギ。カムラの里において誰よりも太刀を扱え、習熟している彼にかかれば、自身など五分にも満たずに討伐(ころ)される。厄介なことに、最愛の妻(ナルハタタヒメ)とタッグを組んでも、同等のタイムでこちらが負けてしまうことだ。

 そんなバケモノが何故ここに居る! 遠出してたはずだろ!!

 

「たとえエルガドに居たとしても、僕はすぐに駆けつけることができる。そうじゃなきゃ「猛き炎」なんてやってられないからね」

「ヴヴゥッ!!」

 

 残念ながらイブシマキヒコに黒龍のような言葉を発する器用さは無い。咆哮【大】が虚しく響くだけである。

 タキギは待っていたと言わんばかりに咆哮を太刀でガードし、カウンターからの頭部に斬りつけを行い、太刀に錬気(ゲージ)を溜める。

 

「ミノトから聞いたよ。挨拶しにきたってことくらい。今回は本人から申し出があったらいいけど、今度からちゃんと確認取って来るんだ!」

 

 嘘つけ確認取っても許可下りても殺しに来るだろ。

 しれっと頭を削り斬ったタキギは、太刀を収め、背中を向けて走り出す。向かう先は、地盤を加工して建てられた、からくり仕掛けの昇降口(エレベーター)

 

 そこから出てくるものは、バリスタだったり、大砲だったり、ガトリング砲台だったり、レーザー砲台だったり、ヘビィボウガンを抱えた幼女だったり、デバフをかけてくる犬を連れたショタだったり、太刀の一撃で全部台無しにしてくるオッサンだったり、連れてきたモンスターを全員「猛き炎」に操られる状態にさせてくるヤバい男だったり……絶対にロクなことがない。

 

 イブシマキヒコはタキギの背中に向けて空弾を放つ。しかし、タキギはそれを振り向くことなく跳んで回避し、木製の開閉口にある札を引っ張る。すると、カチカチカチカチと音を鳴らしてそれは開き──イブシマキヒコは目を剥いた。

 

「ニ・スキさん、やっちゃっていいよ!」

「かしこまりました。オレイ」

「いいぞ! 飯の恩だ。存分に返してやる!!」

 

 少女だ。姉妹なのだろうか、背丈が少し高い白い少女と、小さな黒い少女がいる。浴衣姿の彼女たちには角があり、翼があり、尻尾が生えている。まるで竜と人が合体したかのような彼女たちは、こちらに対して好戦的だ。

 まさかと思ったがそのまさか。感じ取った気配とは、まさに彼女のこと。しかし幼いとはいえ、姿を変えているとはいえ──その正体が黒龍など聞いていない。

 

「こぉ────ッッッ!!」

 

 黒い少女の口から、火が吐き出される。幼い体躯に見合わず、進路を埋め尽くすほどの赤い地獄の炎が、イブシマキヒコを蒸し焼きにせんと襲いかかる。流石に喰らいたくないと判断してか、イブシマキヒコは纏う風の量を増し、空中へ回避しようとした。

 

 だが、ここでイブシマキヒコが少しでもブレスから距離を取っていれば、このような結果にはならなかっただろう。

 

「あっ」

「なんか、火移ってない?」

 

 体のあちこちにある風袋(ふうたい)と呼ばれる器官。それによってイブシマキヒコは、風力だけで宙に浮くことができる。身に纏う攻撃に転用することができるのも、ソレのおかげだ。

 しかし、風とは空気。空気とは、酸素を含むものだ。

 

 曇天の中の空気は湿っているとはいえ、大量の酸素を含んだ空気をイブシマキヒコは纏う。そこに攫われた炎は、導火線のように()()()沿()()()()()()()()

 それが黒龍が吐き出した、黒龍固有のエネルギーも含んだ、万物すら耐え難い地獄の炎であれば──

 

「ウヴォ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛アアァ゛アアァァァッッ!?!?!?」

 

 ──自爆。炎を吸い込んでしまった彼は、もう逃げられない。

 イブシマキヒコが循環する風が、全て炎に変わり、全身を地獄で包んでしまう。風袋()の中に炎ができ、体内の管は火を循環し続ける。消そうにも消すことができず、もがけばもがくほど火は体を内側から燻してゆく。

 

「──っぷぅ……ふふん。どうだ! これほど焼き尽くせば「オレイ、まだブレスを」え?」

「え???」

「相手は古龍種です。この程度で死ぬわけがないでしょう。しかもこの種は繁殖が確認されているので、ちゃんと倒さなければ次は親子一緒で来るかもしれません」

「え、え? ニ・スキ、私もうエネルギーが「やってください」はい……」

 

 タキギは引いた。彼女の言うことには一理あるが、やっていることはほぼオーバーキルである。

 燃え盛るイブシマキヒコにさらに燃料を追加するように、脂汗を垂らしながらもオレイはブレスを再度吐き出す。その時、ニ・スキはオレイの口元に右手をかざし、ブレスを手で受け止め始めた。

 

「ちょっ、大丈夫なのそれ!?」

「大丈夫です……よし、やっぱりエネルギー操作はできる」

 

 ニ・スキは元々、超小型龍灯という無限のエネルギー供給装置が心臓代わりに存在していた。しかし今はそれは無く、しっかりと竜の心臓が体内に存在している。おかげで無限にエネルギーは供給できなくなり、一般的な竜種と同じ生き方と──なっていない。

 失われてもなお、エネルギーを消費して竜乳を生成することは可能で、ニ・スキという存在を築き上げた古龍たちの権能も、まだ彼女の手中に残っている。

 

 手のひらに集められるは、ブレスから吸い上げた、()()()()()()()()()。それらはオレイの鼻先で収束されていき、オレンジ色の輝きが青色に、白色にと眩い光を放ちながら圧縮されてゆく。

 もしこの場に「新大陸の青い星」が居れば、即座に逃げ出しただろう。目を覆いたくなるほどの恒星の如き輝きは、かの赤龍の固有必殺技を彷彿とさせた。

 

 ──ギルドは赤龍が放つこの事象(奥義)を、「王の雫」と呼ぶ。

 

「──げぼっ! ごぼぇっ……はー……はー」

「はい、よくできました。後は」

 

 絶対にヤバい。初見でも分かる「死」を見たタキギは、モドリ玉を使って即離脱した。対し、イブシマキヒコは逃げられない。ついに浮遊を保てなくなり、燃えたまま地に墜ちる。逃げたい。逃げたいのに、逃げられない。

 目の前で王の雫を片手に歩いてくる少女から、逃れられない。

 

「かぷ、んっ」

 

 ニ・スキが口の中から、白い粘液を王の雫に垂らす。覆うように垂らしたそれを伸ばし、手のひらで成形し──それはスラッシュアックスの形状を取る。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。極光の刀身を両手にした彼女は、そのままイブシマキヒコの頭部へ向かって走りだし、振り放つ!

 

「ふゥ──んッ!!」

 

 刹那──超新星爆発が起きた。

 

 

 

 

 <><><>

 

 

 

 

 数日後。

 カムラの里は、しばらく平穏な日々が続いた。百竜夜行の兆候はしばらく無く、周辺でモンスターの被害が出ることも無かった。あたたかな風が吹き、穏やかな自然がつられて揺れる。桜吹雪に飾られた、美しい風景が広がっていた。

 

 里にある田んぼで、カムラの住民に混じって、二人の人竜が田植えをしている光景もまた、美しい風景なのだろう。

 

「何故……何故私がこのような泥くさい仕事を……」

「いいじゃないですか、田植え。懐かしくて好きですよ」

「ほら、もっと手を動かしてくださいね。まだまだ残ってますよ~」

 

 百竜夜行の防衛クエスト失敗。

 その知らせは里中に届き、しかし現場を見た住民たちは揃って「あぁ……」と納得した。

 

「貴様があんな大技を使わなければ防衛設備も壊さずに済んだのだ!! というか九割貴様のせいではないか! 私は納得していないぞ!!」

「そう言われましても……アレを作るにはオレイのブレスが必要でしたし。残りの一割貴方のせいじゃないですか」

「オーバーキルだオーバーキル! やり過ぎ良くない!」

「お二人とも、進捗はどうですか?」

「「ごめんなさい……」」

 

 失敗の原因は、ニ・スキが最後に放ったフルリリーススラッシュのせいだった。王の雫というエリア全体即死攻撃を放ったことで、イブシマキヒコはほんのちょっと残骸を残して消滅。しかしそれ以外の、防衛設備や地形といったものにもダメージが入ってしまい……特に防衛設備は王の雫に耐えられず全て崩壊した。要である大門も含めてだ。

 

 分かりやすく王の雫なんてものを使ったので、イブシマキヒコではなくニ・スキのせいだと即座に判明した。そんなものがあったら真っ先に「猛き炎」か他の古龍が使っているからである。

 里の長フゲン*7から下されたのは、「修理の手伝い」と「数日間の里の奉仕活動」だった。

 

 ちょうど時期が合ってか、うさ団子の材料となるもち米の、田植えの手伝いをするニ・スキとオレイ。うさ団子のためならばと、ヒノエも一緒に手伝っており、少女三人がせっせと畑仕事をする光景は、とてもかわいらしいものだろう。

 なお、実体はヒノエに殺生与奪の権利を握られているものとする。うさ団子のこととなれば、彼女は黒龍紅龍祖龍を前にしても喧嘩を売れる女性である。

 

「しかし、このような小さな芽が、あのうさ団子の素になるなど……不思議なものなのだな」

 

 龍の手で握る、ひと株の稲の苗。オレイは、点々を植え付けた苗を見て思う。今でこそ人の背丈となってしまったが、かつての姿であれば、目線を合わせることすら不可能だった、小さな命だ。

 

「オレイさん、この世にはその苗よりも小さな命だってあるんですよ」

「これよりも?」

「微生物、というものになります。目に見えないほど小さくて、けれど想像以上に沢山います。今いる田んぼの中にも、空気中にも、どこにだっているんです」

 

 思わず泥に浸かった脚や、辺りを見回すオレイ。ニ・スキとヒノエは、そんな彼女の姿に、思わず笑みがこぼれた。

 

「ほ、本当にいるのか? 全く見えないが」

「いますよ。なんだったら、その微生物を利用して作る食材や調味料だってあります。そういえば、カムラの里では納豆や醤油は作られないんですか?」

「醤油ならちょうど工房があります。納豆は、かつて寒冷群島にあった村が作っていましたね。今では製法だけ残っているのですが……」

 

 博識な彼女たちの会話に混ざれず、オレイはただ手に持つ苗を見つめる。これほど小さなものが、他にも小さなものに支えられている。

 竜都に置き換えれば、どのような仕組みだったのだろうか。

 その時破壊できなかったものは、一体どのような小さな命に支えられていたのか。

 

 彼女は作業に戻りながら、考え続けた。

 

 

 

 

 

 <><><>

 

 

 

 

 

 日が過ぎるのも早く、防衛設備の修繕も奉仕活動も、刑期満了ということで、二人は解放されることとなった。

 すっかり里に馴染んでしまった彼女たちだったが、借りていた浴衣を返し、海岸線にあるオトモ広場にて皆とお別れとなった。

 

「また来てくれー!」

「ファンゴの世話、滅茶苦茶助かったぞ!」

「今度はあたしんところの料理も食っていきなよ~!」

「土産は持ったな!?」

「向こうのハンターさんにもよろしくと言っといてくれー!」

 

 住民総出。本来、オトモとガルクたちの憩いの場だったところに、ぎっちりと人々が詰まっている。それほど、ニ・スキとオレイはどっぷりと里を歩き回った証拠でもある。

 里長のフゲンとウツシは、その光景に思わず笑ってしまった。あの禁忌の存在が、ここまで愛される存在になろうとは、ギルドは全く考えたこともなかっただろう。

 

「お別れだね。ニ・スキ、オレイ」

「はい。今までありがとうございました。私たちは、次の目的地へ向かおうと思います」

「どこか聞いても?」

「私の、いえ、先人たちのルーツ……「新大陸」へ」

 

 タキギもまた、ヒノエとミノトを連れ、二人の別れに立ち会っていた。新大陸。聞いたことはあるものの、生涯行くことは無いだろうと思っていた場所。そこへ旅できるのか、という羨ましさに憧れながら、タキギはニ・スキの頭を撫でた。

 

「もし道に迷ったら、ここに帰ってきてもいいよ。もう僕たちにとっては、君は里に欠かせない人だからね」

「ふふっ、ありがとうございます。その時は、是非とも」

「あぁ。旅の幸運を祈るよ」

 

 オレイはというと、村の子供たちに囲まれていた。といっても女子多めの姦しい集まりだったため、イオリ*8は少し遠目で見ていたが。

 

「オレイちゃん! またうさ団子食べに来てね!」

「一ヶ月後にあなた方が植えた稲が育ちます*9ので、よければその時にでも」

「収穫の時期が楽しみですね。一緒に作ったうさ団子……♡」

「お、おぉ……」

 

 囲まれることも、温かな言葉に包まれることも、慣れていない彼女は辟易する。それが悪いことではないのは分かっているものの、落ち着けない空気感と感情に、されるがままだ。

 

 別れを惜しむ時間は既に無く、出発の時刻となった。鉄と木材を組み合わせた小舟にオレイが乗り、そこに荷物や沢山貰ったお土産を固定する。少女二人がこの小さな舟で海の旅を……ということはなく、ニ・スキだけが小舟の外に残った。

 衣服を脱ぎ、オレイに預けながら、小舟を牽いて海に足を浸ける。

 

「では皆さん! またお会いしましょう!」

 

 これからする()()を、カムラの里には見逃して貰うよう、手紙には言いつけていた。しかし、手紙を見ずとも、彼らはこのことを一時の幻と思うだろう。

 

 現大陸においても、ここカムラにおいても、そういった「人が竜になる」というネタの伝承は存在している。龍に見染められた。あるいは龍に呪われたなど、様々なシチュエーションによって作られた伝承は、この瞬間を見るまではフィクションだと思っていただろう。

 

 白い人肌が鱗と羽根に覆われ、臀部にかけて骨格が変わり、翼を広げながら体積を大きくしてゆく。二足歩行から四足歩行へ。体は二十メートル程と巨大になり、鼻を尖らせモンスターらしい姿カタチへと変わってゆく。

 

 澄み渡る空のように、青みがかった透明な翼。長い髪の毛で顔を覆う、両角が折れた古龍。そこに黒い脈動は無く、しかし祖たる龍のような純白さは無い。冥灯を彷彿とさせる、まだ色彩を知らない幼い青色を纏った、少女の龍は船出を知らせる汽笛のように、咆哮を轟かせた。

 

 その咆哮は、不思議にも耳を塞ぐ必要がないほど透き通っており、美しい歌声のようでもあり──

 

 

 

 ──気が付けば、彼女は小舟を掴んで空を飛び立ち、海の向こうへと消え去っていた。

 

 

*1
温かい目ニ・スキ

*2
ストレスMAXオレイ

*3
緑色の装束の少女。十歳ほどの可愛らしい女の子なのだが、串を使った忍術の超人。なんだその団子作りは

*4
巫女風の竜人族の女性。妹のミノトがいる。美人さん

*5
カムラの里で交易を行っているギルドの女性。なお「王国」の産業スパイなのだがバレバレな上に自分から正体をバラした。良い人

*6
ヒノエの妹である竜人族。美人さん

*7
太刀使いの老父。五十年前の百竜夜行を経験済みのベテランハンターでもある

*8
オトモ広場の雇用斡旋窓口の少年。オトモガルク担当。鍛治師のおじいちゃんがいる。

*9
モンハン世界の植生は成長がバチクソ早い。現実の地球より自然に溢れ、エネルギーが多様なためか





「ニ・スキ」
 ドラゴンモード可能。古龍種が持つ災害において、彼女の分類は人類社会への「浸透」。

「オレイ」
 ドラゴンモード不可能。団子に今後の人生を買収される。

「タキギ」
 猛き炎。拙作のキャラとは別人過ぎるので、ラノベ版の名前は不採用。
 相手によってコミュ方法を変えられるタイプ。なのでモンスターに対しても最適な戦い方ができる。翔蟲は労基に報告してもいい。
 モンハン界のラインハルト

「ヒノエ&ミノト」
 黒龍を飯で堕とした英雄。

「ヨモギ」
 黒龍を団子中毒者にした影の功労者。

「イオリ」
 流石におねロリ空間に割り込むのは無理だった模様。一番ドラゴン化に驚いた男の子。

「ウツシ教官」
 愛弟子ィィィィィ!!!!
 実は裏で里外へ情報を持ち出そうとした奴を処理していた。ウツシ教官は三人くらいいる

「里長フゲン」
 里の情報統制役。あんなんギルドにバカ正直に報告できるか。

「ロンディーネ」
 今回不在。ちょうどエルガドで姉妹水要らずの時間を過ごしていた。



「イブシマキヒコ」
 王の雫とか聞いてない。

「ナルハタタヒメ」
 後で猛き炎がシバいた。



 次回があるとすると新大陸の回。
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