不快だと思ったら直ぐに引き返して下さい
ホロウの中とは思えないほど、清々しい風が足下を吹き抜けていく
よう、俺はビリー・キッド。見ての通り戦闘用の機械人だ。
正確には『高知能火力制圧用戦術素体』、ロストテクノロジーで造られたスーパーエリート機械人なのだ!
そんな俺様の今置かれている状況を説明したい所だが、先に俺の過去の話をさせてくれ。
俺は元々『チーム・カリュドーン』の下でチャンピオン…まぁ用心棒みたいなモンをしてた、実はカリュドーンの親父に拾われる前の事はあまり覚えちゃいないんだ。
錆び付いたリボルバーと擦り切れたジャケットだけが俺の全てだった、明確に自我を持ったのは親父に名前と、俺の愛銃を貰った時さ。
遺跡で親父に拾われた俺はそのまま郊外のバーに連れて来られた、名前、素性、目的、色々質問をされたがマトモに答えることなんて出来なかった。
なんにも覚えてないんだからしょうがないよな?
そんな中、バーの中で奇妙なモノを見つけた。擦り切れたビデオテープと埃まみれの再生機器だ、妙に興味を惹かれた俺は親父に許可を取って再生してみると、荒々しいギターと共に誰かの叫び声が響いた。
「立ち上がれ!俺たちの未来は此処に在る!」
それは、俺が魂と呼ぶモノの原型だったんだ。
その時から俺の中で何かが変わった、居ても立っても居られなくなった俺は親父に言ったんだ。
「理由はなんでもいい、あんたの力にならせてくれ」ってな
それまで顔を顰めながらこっちを見ていた親父が急に笑い出しながらこう言ったんだ
「ビリー、ウチに来い」
ってな。
「ビリー?」
俺が聞くと、
「お前の名前だ、無法者ビリー・ザ・キッド。弱気を助け強気を挫く西部の英雄さ」
「助ける…英雄…!」
やりたい事は決まった、あとは進むだけだ
「俺の名前はビリー・キッド!覚えておけよ!」
親父は笑いながらこう言った
「なら、その名前に見合う銃が必要だな」
と言い残して去って行った。
翌朝、俺の目の前に置かれていたのは二丁の輝く銃、今の俺の愛銃だったんだ
カリュドーンに居る時は楽しかった。
何度か死にかけた。ある時はホロウの中でエーテリアスに食われかけ、ある時はライバルのチームに襲われたりもした。
敵の刃が俺を切り裂こうが、腕パーツに歯形が付こうが俺は笑った。
「痛ぇけど、生きてるって感じだぜ!」
血の代わりにオイルが滴る体を動かす。
ピンチが迫るたびにあのテープの声を思い出すんだ、『立ち上がれ』ってな!
やがて噂は広がった、『チームカリュドーンには、最強の機械人が居る』と。
俺の武勇伝はここまでさ、その後カリュドーンは色々あって解散しちまった。義理もあったが優秀な後輩が育ってたから後進のチームには移籍せずに俺は郊外を飛び出して今に至るってやつだ。
今でも偶に手伝いに行くし、円満な別れってヤツだな!
っとと、そんなことは良いんだよ。そろそろ今の話をしよう。
……因果応報って、知ってるか?
ーーーーーーーーーーーーーー
ホロウの空気は重く、金属と埃の匂いが混じり合っていた。
薄暗い路地の中に響くのは、ビリーのブーツがコンクリートを叩く音と、彼の愛銃の軽やかな回転音だけだ。ついでにビリーの小さな悲鳴もね。
「プロキシ、無事か?」
「うん、なんとかね…それよりもあれは?」
ライトが自分の安否を確かめる
ついさっきまでビリー、ライトと三人でホロウの探索をしていたのだが、ひらけた場所に出た途端、複数の銃声と共に飛来した銃弾を喰らいかけ慌てて路地に逃げ込んで来たのだ。
今はビリーが応戦しているが、さっきから響いている悲鳴から察するに、もうそろそろこちらに逃げて来るだろうか。
「見た感じ人型のエーテリアスみたいだけど、あんなの今まで見た事ないよ」
「プロキシ、調査員がホロウの中で死んだ友人を見たという噂を知っているか?」
悪ノリしがちなライトがまた冗談をと思ったが、直ぐに考えを改めた
そういえば前にもこんなことがあった気がするような…
「…まさか」
「気付いたか?」
路地の中に響く音、自分たちの話声に加え、ビリーの足音、銃声音が…
『ドッペルゲンガー』
彼らはホロウの中で活動した人間の記憶を読み取ることが可能。
体表を覆う特殊なエーテルにより自在に姿を変えることが出来る。
彼らの擬態は真に近付いており、それにより
「俺の責任だ。やつの模倣が本物なら、あれはまさしく」
空間がねじ切れるような銃声と共に、赤いマフラーがたなびき、感情を感じさせない双眸が金色に光る
「最強だ」
戦闘が始まってから何分経ったんだ?
建物の影で深呼吸を一つ(肺は無いけど、癖ってやつさ)、心を落ち着ける
ライトは店長を連れて安全な所に行っちまった。
『戦いを見て分かった、あれは本物じゃない』
だってよ!意味分かんねえ!
俺1人で十分だって言われちまったから、先輩としては胸を張って足止めするしかねえよな?
おっと、そんな事考えてる場合じゃなかったな。
相手はひらけた道路の一本道を悠々と歩いている。両手には双銃『スターライト・ナイト』を持ち、俺の姿を少しでも視認した瞬間にそれが火を噴くのだろう。
まさか昔の自分と戦うことになるとは思わなかったが、所詮はエーテリアスってこった
愛銃の使い方が全然なっちゃいないし、動きもお粗末さ。
場所こそ相手のホームグラウンドだがそんなのは関係ねえ
こういう時こそ思い出すんだ。スターライトの輝きを。
もう一度深呼吸をひとつ、建物の影から飛び出す
「さあ!アクション開始だ!」
相手がこちらに気付いた瞬間、お互いの銃が火を噴いた。相手の弾が俺様の胴に命中したが、厚い装甲のお陰で難なく弾けた。最近オイルをケチって良いパーツにしたのが功を奏したな!
こちらの弾丸も相手に命中したが、距離が開いているせいかあまり効果が無いみたいだ。
走りながら双銃を連射する。エーテリアスの右肩に二発命中させ、その動きを一瞬止めた。
だが相手の左手がこちらに向くのが見える
距離が詰まった状態でさすがに装甲がイカれちまうかもな、だが
「距離が近いならこっちのもんだ!」
走った勢いのまま跳躍し、空中で体を回転させる。ドン!と破裂するような音がした
勢いよく、鉄の杭を壁に打ち込むような、瞬間的な響きが三度、四度。
愛銃『スターライト・ナイト』の弾丸が雨の如く相手に飛来する。
立て続けにダメージを負ったエーテリアスは堪らず膝を付いた。
しかし着地と同時に俺の頭を銃弾が掠める
「うおっと!まだ戦えるのか?…だけど、もう弾切れみたいだな!」
相手はまだ戦う気の様だが、決着は着いたな
「映画じゃよくあるシーンだろ?正義のヒーローが絶体絶命から逆転するヤツだ!」
相手の頭に狙いを定め、撃鉄を上げる。
だが生憎、主人公は俺なんだ。なぜなら
「俺の名前はビリー・キッド、冥土の土産に覚えておきな」
スターライトをこよなく愛する西部の英雄、ビリー・キッド。それが俺さ!
……………
ホロウに静寂が舞い戻る、俺はクルクルと銃を回し、ホルスターに納める。
「完璧なフィナーレだぜ!観客が居たら拍手喝采だな!」
昔の俺はもう居ない、あのテープと銃声が俺をスターシップ・レンジャーに導いたんだ。
でも今の俺が笑って戦うたびにどこかで昔の俺が囁くんだ。
『立ち上がれ!俺たちの未来は此処に在る!』
ところで、店長達はどこ行った?