「なるほど……つまり陣営を分けることで、より意義のある天誅になる、と……」
高札に書かれている内容を要約すれば、次の三つになるだろう。
一、幕府軍と維新軍に分かれて争ってるよ
二、プレイヤーも陣営に参加できるよ
三、幕府軍は刀がもっと強く、維新軍は鉄砲が使えるよ
「私は幕府軍につきます。やはり天誅は刀に限りますよ、御仁は?」
「我は維新軍だ。ふむ、一度名乗ろうか。我は脱法発砲マッポと申す」
「ああ、名は体を表すと……良いですね、鉄砲も。私はアレグロです」
「うむ、フレンド登録を良いだろうか」
そんなこんなで御仁……脱法発砲マッポとフレンド登録を行った。フレンド間ではいつでも
「幕府軍はあちらなので、ここでお別れですねぇ」
「うむ。維新軍は向こうだ。さらばだアレグロ。」
「ええ、壮健でお過ごしください」
互いに背を向け歩くこと三歩。
四歩目は聞こえない。
振り返れば、同様に振り返った脱法発砲マッポ。刀に手をかけたその姿は、紛れもない一人の
『……』
互いに無言。されど思いは伝わる。緩やかに抜かれる互いの刀。共に中段に構え、距離を縮めること三歩。どちらともなく腰を低く沈める。
アレグロは焦っていた。明らかに脱法発砲マッポ……
覚悟を決める。目を見つめたまま、
緩やかに、互いが腰を上げる。臨戦態勢が整う寸前、アレグロは賭けに出た。
息を大きく吸う。それは行儀の良い剣道のような、あまりに大きな隙。それを見逃す筈もなく、
「キイィェェェェ(喉ォォ)!!!!!」
左足を大きく踏み出し、僅かに体の軸をずらすことにより回避。意趣返しの突きは
「意気や良しッ!!」
────穿つ前に、下ろされた腕により軌道が逸れ、腹部に突き刺さる。本能に従い刀を手放して下がれば、数瞬前まで居た場所にあったのは
「天誅ぅぅぅぅ!!!!(何で蹴り出せるんですか!?)」
「天誅ゥッ!!!!!!(お主、剣道の流れを壊しおったな!?)」
「キェェェェ!!!!!(VRで学んだ邪道剣法ですもん!!)」
「ハッ!!!!!!!!(良き天誅力よ!!)」
アレグロは焦燥を深めた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛!!(御仁あなた、リアル警官ですか!?)」
「職務機密天誅ッ!!!」
「よくそのネームで登録しましたねッ!!!」
現代日本で最も武道が重視される職業、警察だろう。確証は無いが、恐らく。
「臆したなッ!!!」
それを逃さず切り捨てんとする
「辞世の句を詠め、介錯いたそう。」
アレグロは諦めた。武士道的に敗北を認めたのである。目を閉じ、静かに息を吐く。
……ふと、音が聞こえた。微かな衣擦れ。一人や二人でない、恐らく五人ほどの衣擦れ。即座に頭が切り替わる。邪道剣法の本領が発揮される。大きく声を上げる。
「ええ、ええ、ええ、負けましょう!良い勝負でした!ええ!ところで落ちている忍刀も回収して良いでしょうか!?」
「見苦しいぞアレグロ!直ちにそこに直れ!」
「しかし、折角
「分からなくはない……が、見苦しさが勝る。潔く散れ!」
「投擲式天誅!!」
無論弾かれる。そのまま斬り捨てられるのを気合で回避。無理な態勢からの回避を咎めんと
「セルフ仇討天誅ァァァァッッ!!!!」
背後から斬られる。そう、先ほど倒した五人によるお礼参りだ。為す術なく瀕死に追い込まれた
「試合は引き分け……で良いですかね?」
「卑怯なッ……!されどそれも天誅力、見事なりッ!」
「高潔な精神凄いですね!?」
「はっはっは、天誅の導きよ。アレグロがただの見苦しい男でなくて安心したというもの!己が斬らんとしたものをあらゆる手段で斬る、それも天誅力よ!……次は容赦なく斬り捨てる、良いな?」
「はい……」
というわけで勝負を引き分けに持ち込み、お礼参り組による介錯の下リスポンとなった。アレグロは清々しい気分である。
《投擲式天誅》
・一般武士が稀に使用する天誅の一つ
・あらゆる投擲攻撃は投擲式天誅と言い張ることが可能
・全ての天誅はゲーム的なシステムではなく、雰囲気で叫ぶものである
・投擲式天誅を叫ぶことで投擲物の飛距離が伸びるとされる