辻斬りオンラインの一般武士   作:石油のせ

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天誅に・正道なしと・人の言う

「なるほど……つまり陣営を分けることで、より意義のある天誅になる、と……」

 

 高札に書かれている内容を要約すれば、次の三つになるだろう。

 

 一、幕府軍と維新軍に分かれて争ってるよ

 二、プレイヤーも陣営に参加できるよ

 三、幕府軍は刀がもっと強く、維新軍は鉄砲が使えるよ

 

「私は幕府軍につきます。やはり天誅は刀に限りますよ、御仁は?」

「我は維新軍だ。ふむ、一度名乗ろうか。我は脱法発砲マッポと申す」

「ああ、名は体を表すと……良いですね、鉄砲も。私はアレグロです」

「うむ、フレンド登録を良いだろうか」

 

 そんなこんなで御仁……脱法発砲マッポとフレンド登録を行った。フレンド間ではいつでも果たし状(メッセージ)を送ることが可能である。フレンド欄に燦然と輝く脱法発砲マッポの文字は、随分と幕末的だ。

 

「幕府軍はあちらなので、ここでお別れですねぇ」

「うむ。維新軍は向こうだ。さらばだアレグロ。」

「ええ、壮健でお過ごしください」

 

 互いに背を向け歩くこと三歩。

 四歩目は聞こえない。

 振り返れば、同様に振り返った脱法発砲マッポ。刀に手をかけたその姿は、紛れもない一人の(とも)である。

 

『……』

 

 互いに無言。されど思いは伝わる。緩やかに抜かれる互いの刀。共に中段に構え、距離を縮めること三歩。どちらともなく腰を低く沈める。蹲踞(そんきょ)。必殺の間合いを僅かに外れたその距離で、アレグロは(とも)と相対する。

 

 アレグロは焦っていた。明らかに脱法発砲マッポ……(とも)の動きは洗練されている。確実にアレグロより数段は強い、なんなら目を逸らせばその瞬間に斬られると直感していた。当人は天誅力などと吹かしていたが、鍛えられた剣筋は並みの努力で至る境地では無い。逃走の二文字が頭を過ぎる。勝てぬ勝負は愚かだと理性が告げる。されど、人類が飼いならした獣性が、アレグロの内で叫ぶのだ。敵から奪えと、己が生命を刻み付けよと。

 覚悟を決める。目を見つめたまま、(とも)の全体へと視野を広げる。

 緩やかに、互いが腰を上げる。臨戦態勢が整う寸前、アレグロは賭けに出た。

 

 息を大きく吸う。それは行儀の良い剣道のような、あまりに大きな隙。それを見逃す筈もなく、(とも)が無言のままに刺突を繰り出す。剣先など認識したとて間に合わない鋭い動作、されど狙いは読める。

 

「キイィェェェェ(喉ォォ)!!!!!」

 

 左足を大きく踏み出し、僅かに体の軸をずらすことにより回避。意趣返しの突きは(とも)の胸へと吸い込まれるように進み、そのまま心臓を

 

「意気や良しッ!!」

 

 ────穿つ前に、下ろされた腕により軌道が逸れ、腹部に突き刺さる。本能に従い刀を手放して下がれば、数瞬前まで居た場所にあったのは(とも)の脚。蹴りである。予想外の足技に困惑しつつも、本能が無意識に天誅をキメる。

 

「天誅ぅぅぅぅ!!!!(何で蹴り出せるんですか!?)」

「天誅ゥッ!!!!!!(お主、剣道の流れを壊しおったな!?)」

「キェェェェ!!!!!(VRで学んだ邪道剣法ですもん!!)」

「ハッ!!!!!!!!(良き天誅力よ!!)」

 

 アレグロは焦燥を深めた。(とも)は確実に剣道だけでない謎武術を持っている。今、柄で殴打する姿勢を見せた(とも)が修めるのは体術か、それとも古流剣法か何かか。いや、恐らくは……

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛!!(御仁あなた、リアル警官ですか!?)」

「職務機密天誅ッ!!!」

「よくそのネームで登録しましたねッ!!!」

 

 現代日本で最も武道が重視される職業、警察だろう。確証は無いが、恐らく。

 (とも)が剣道として()ろうしていたに過ぎないことが分かった以上、先ほどと同じ賭けをすればお陀仏だ。なんなら今、タイマンで切り結べているのが奇跡に近い。先の腹部への負傷が僅かなりとも効いているのだろう。そう考えたところでアレグロは気付く。先ほど離した刀が、(とも)の後方に落ちている。あれを使えば勝ちの目が拾える、そう判断して一旦距離を取ろうと後ろに跳んだ瞬間、背を何かに打ち付けた。

 

「臆したなッ!!!」

 

 それを逃さず切り捨てんとする(とも)。咄嗟に体を捻るも、右肩を大きく切られる。背後の物体が高札だったことを悟る。次の横薙ぎの刃を転びながら横にかわす。首に刃先が突きつけられる。

 

「辞世の句を詠め、介錯いたそう。」

 

 アレグロは諦めた。武士道的に敗北を認めたのである。目を閉じ、静かに息を吐く。

 ……ふと、音が聞こえた。微かな衣擦れ。一人や二人でない、恐らく五人ほどの衣擦れ。即座に頭が切り替わる。邪道剣法の本領が発揮される。大きく声を上げる。

 

「ええ、ええ、ええ、負けましょう!良い勝負でした!ええ!ところで落ちている忍刀も回収して良いでしょうか!?」

「見苦しいぞアレグロ!直ちにそこに直れ!」

「しかし、折角(とも)に傷をつけた逸品ではないですか!」

「分からなくはない……が、見苦しさが勝る。潔く散れ!」

 

 (とも)が冷静を欠いていることを理解する。アレグロとてやりたくて斯様な見苦しい真似をしているわけではない。が、一矢報いる為である。情けなさは邪道剣法で捨てたのだ。最後の仕上げに出る。メニューを操作して手に持ったのは初級忍刀(短)。この短刀、初期の短刀とは違い攻撃が可能である。(とも)の顔を狙う。

 

「投擲式天誅!!」

 

 無論弾かれる。そのまま斬り捨てられるのを気合で回避。無理な態勢からの回避を咎めんと(とも)は刀を振り上げ、

 

「セルフ仇討天誅ァァァァッッ!!!!」

 

 背後から斬られる。そう、先ほど倒した五人によるお礼参りだ。為す術なく瀕死に追い込まれた(とも)に対してアレグロは煽りカスの笑顔で声を掛ける。

 

「試合は引き分け……で良いですかね?」

「卑怯なッ……!されどそれも天誅力、見事なりッ!」

「高潔な精神凄いですね!?」

「はっはっは、天誅の導きよ。アレグロがただの見苦しい男でなくて安心したというもの!己が斬らんとしたものをあらゆる手段で斬る、それも天誅力よ!……次は容赦なく斬り捨てる、良いな?」

「はい……」

 

 というわけで勝負を引き分けに持ち込み、お礼参り組による介錯の下リスポンとなった。アレグロは清々しい気分である。




《投擲式天誅》
・一般武士が稀に使用する天誅の一つ
・あらゆる投擲攻撃は投擲式天誅と言い張ることが可能
・全ての天誅はゲーム的なシステムではなく、雰囲気で叫ぶものである
・投擲式天誅を叫ぶことで投擲物の飛距離が伸びるとされる
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