全身が黒く頭部の無い肩幅の広い人型。
胴体の中央に、弱点でありながらデカデカと存在を主張するルビー色のコア。
胸部に顔らしき鳥の頭蓋骨のような、丸にクチバシと目のような2つの空洞の空いた仮面。
第四使徒『サキエル』
無数の戦闘用
有効打を持たないVTOLに変わり、上空の戦闘機から放たれた巡航ミサイルが辛うじてサキエルをのけぞらせるが、体表にわずかに付いた傷もみるみる治っていってしまう。
『S2機関』と命名された無限動力と
『ATフィールド』と命名された不可視のシールド。
現行人類の技術を超越した能力を使徒は誇る。
国連軍の兵士たちに無力感が広がる中、上層部よりNERVとの指揮権交代とエヴァンゲリオンの出撃が通達された。
気休めにしかならないが、国連軍兵士たちの時間稼ぎは完全な無駄ではなかった。
少なくとも市街地ではなく過疎地域で使徒を迎え撃てるのだから。
◇
汎用人型決戦兵器『エヴァンゲリオン』
通常の機械なら行動不能になるほどのダメージを受けても活動できる動作システムの強靭性。
さらには使徒の持つ謎のシールドシステム『ATフィールド』をも搭載し、
通常兵器相手ならほぼ無敵、
使徒に対してもATフィールド同士を中和させることで無効化し効率的にダメージを与えられるため、
既存兵器に対しても絶対的なアドバンテージを持つ。
人類が使徒に対抗しうる唯一の兵器である。
正に『人類の希望』
──。
──なお、その実態は
・操縦できるのはセカンドインパクト以降に産まれた人間、つまり子供だけ。
・人造人間とも称される超巨大な有機パーツの培養が必要になるため、建造・修繕に天文学的数字の費用が必要。
・アンビリカルケーブルというコンセント状の外部電源が無ければ5分で動けなくなる燃費の悪さ。
・パイロットが神経接続の影響でエヴァの受けたダメージを逆にフィードバックしてしまう危険性。
・そもそも鹵獲した使徒を完全に体組成を解明しないままコピーしたためブラックボックスだらけ
といった欠陥だらけの実験兵器であった。
だが、諸々の重大な欠陥を加味してもなお、エヴァンゲリオンの圧倒的な戦闘能力は使徒殲滅には必要であり、
NERVの職員たちは皆、少年少女を戦わせる咎を覚悟して彼らを送り出している。
◇
サキエルが、その名称の元となった天使のような光輪を頭部の上に展開し浮遊する。
『使徒、低空飛行を始めました!』
『移動速度から到達時刻を再計算! 進路予測出ます!』
『シンジ、先回りして叩き落とせ』
「了解」
エヴァ初号機の背部給電ケーブルが外され、瞬時に初号機が走り出す。
『アンビリカルケーブル、パージされました!』
『活動限界時間5分! カウントダウン始めます!』
第一発令所からの指示と地図を頼りにシンジの乗るエヴァ初号機が疾走する。
しなやかな手足の躍動。
陸上選手のような見事な走りで、エヴァ初号機は使徒との距離を急速に埋めていく。
使徒を視認。
『接敵まで10秒!』
エヴァの前腕部の内側に仕込まれた
「射程に入ったら叩き落とす!」
意気込むシンジの前で、
サキエルの飛行には限界があったのか、山間部を抜けて第三新東京市外縁の田舎とも言うべき閑散としたエリアで地面へ降り立った。
そのせいで、わずかに計算が狂う。
具体的にはソニックグレイブの刃を叩きつけるために歩幅を調節していたのがパーになった。
計算して用意していた100%のインパクトは、タイミングがズラされ、足取りが乱れた。
「このくらい!」
初号機はジャンプすることで足取りを立て直す。
右足跳び
左足跳び
両足を揃えて着地し、ホッケー選手のように滑りながらソニックグレイブを振りかぶる。
道路がメキメキと禿げ、土砂を巻き上げる。
初号機が野球選手のような豪快なスイングで繰り出したソニックグレイブはサキエルの急所であるコアを斬撃軌道のど真ん中に捉えていた。
パキィィィン
甲高い音と共に、サキエルと初号機の間にオレンジ色の干渉縞が走った。
「ATフィールド!」
『流石の使徒もエヴァの攻撃は恐ろしいようね』
赤城リツコ博士の言うように、国連軍の攻撃はほとんどATフィールドを使わずにフィジカルで受けていたサキエルだが、ここで明確に初号機の攻撃に対してATフィールドを使用した。
それだけの威力と敵意をサキエルは感じ取っていた。
弾かれたソニックグレイブの反動を片手持ちにする事で受け流し、その余った反動を利用したハイキックがサキエルの顔面を狙う。
当然というべきか、再びATフィールドで弾かれる。
ズン
と弾かれた足で地面を踏み締めた初号機に、腕部エネルギーパイルを繰り出すためにサキエルが手を伸ばす。
しかしソニックグレイブを弾かれた反動を蹴りに変え、さらにサキエルに防御させた事で反動を消費し切った初号機。
槍を既に地面に突き立て、無手になり身軽になった初号機は、突き出されたサキエルの掌底を避けると同時に逆に腕を掴んだ。
「取った!」
すぐさまサキエルの背後に回り、肘と肩の関節を極めながら腕を折る圧をかけ、サキエルを振り回して山へ投げつける。
山を背に転んだサキエルへ、肩のウェポンラックからプログレッシブナイフを取り出した初号機が迫る。
瞬間
サキエルの仮面が光る。
サキエルの仮面の穴、
目のような部位から
下手な銃弾よりよっぽど速い不可視の光弾。
エヴァ初号機の前で炸裂し、紫色の爆炎が十字架をかたどった。
エヴァ初号機の前に現れたオレンジ色の干渉縞が、初号機のATフィールドがサキエルのビームを防御したのを表している。
だが、ATフィールドは壁ではなくエヴァの持つシールド。
ソレ故に強い衝撃によって初号機が吹き飛ばされてしまう。
空中で一回転し、地面に指とナイフを突き立て、前傾姿勢で衝撃に耐える。それでも衝撃を殺しきれず、地面をえぐりながら滑る初号機。
「キャアァァァァァ!!」
その足元に小さく少女の悲鳴が響いた。
◇
第一発令所で伊吹マヤの顔が青ざめた。
「エヴァ初号機の足元に生体反応!」
「……ッ、構わん。コラテラルダメージだ」
「ですが、対象はセカンドチルドレン『惣流・アスカ・ラングレー』です!」
マヤの叫ぶような報告に、流石のゲンドウ司令と冬月副司令も動揺が走る。
「なに!?」
「……なぜエヴァパイロットが孤立している。護衛はどうした」
「転属前後の休暇で、葛城三佐と合流する予定だったと記録されています」
「葛城三佐はどうした」
「(貸し1つよミサト)。おそらく、
「……分かった」
「誰もシェルターに連れていかなかったのか?」
「外人だろ? 日本人には無理な話だぜ」
「平時では人道第一主義を謳いながら緊急時には自分本位。正に日本人の国民性だな」
「責任追及は後だ。2号機パイロットの保護を最優先とする。まだパイロットを犠牲にするような危機的状況ではない」
◇
サキエルと初号機が睨み合っている。
さっきまでの殺気は鳴りをひそめ、初号機は一転守りの体勢。
『シンジ、足元の2号機パイロットを守れ、
「了解」
初号機が全力で展開したATフィールドは道路を裂くほどの斥力を発していて、可視化された虹色の干渉縞がサキエルと初号機を隔てている。
サキエルと初号機の静かな睨み合い。
「先に喧嘩を売ったこっちが悪いけど、今は攻撃しないでよ……っ」
ソレがフラグとなったのか、サキエルの仮面が再び光る。
ATフィールドの上で光弾が炸裂し、高層ビルを一撃で爆散させる威力が初号機を打つ。
「ぐぅ!!」
地面に食い込むように展開し、更にあらかじめ倒れる壁を支えるように両手を突き出した耐衝撃姿勢をとっていたおかげで、サキエルのプロトンビームの2発目は殆ど後退せずに受けることができた。
このままじゃジリ貧だ……
エヴァの戦闘稼働出力の限界時間は5分。
移動に1分、戦闘に1分
それだけなのに、あと3分も無いじゃないか!
やっぱり短いよ!!
内蔵バッテリーの乏しさが大きな足枷となっていた。
第3新東京市の防衛設備のミサイルや火砲がサキエルを狙うが、その程度の豆鉄砲では気を引くことすらできない。
初号機との近接戦が自分にとって分が悪いと学習したサキエルのプロトンビームが初号機のATフィールドを叩く、叩く、叩く。
ATフィールドの強度は足りている。
だが打開策が無い。
ジェットアローンの救援は本当に間に合うのか?
シンジの中で焦燥感が募る。
いざという時は、──いや、敵前でエヴァを無防備にできない。僕が足元の人を守れるのはあと1分、ソレを過ぎれば自分とエヴァを守るために撤退しなければならない。
足元の少女は何かの板をかざして建物の基礎の根本にしゃがんでいる。
少女の生き残る努力が見える。
だが、いくらなんでも40mを超える怪獣同士の戦闘の中では、象のタップダンスの下のアリも同然。その生命は風前の灯だ。
──分かってる。
ヒーローだなんだって威張ったところで、本当に全員の生命を助けることなんて無理なんだって。
でも、それでも!
せめて見える範囲の人は助けたい!!
だから!!
────
──
刹那
碇シンジの脳裏を過ぎるのは、初めてエヴァに乗った時の記憶。
父さんとエヴァの訓練を始めたばかりの小学生の頃の僕が、一緒にエヴァ初号機を見上げている。
──シンジ、初号機の中にはユイがいる──
「母さんが、エヴァの中にいるの?」
父さんの顔を見ると、父さんは困ったように笑っていた。
──ああ。正直に言えば、私はユイが何を考えているのか分からなかった──
──だが、ユイはあえて初号機の中に留まっている。それはきっと、お前のためなんだろう──
────
──
腕部コントローラーを握る腕に力が入る。
穏和が取り柄の碇シンジの表情に激情が乗る。
「母さん……力を貸して……ッ!」
ガコン!
シンジの言葉に呼応するように
エントリープラグはエヴァの心臓部であるコアに近ければ近いほど、精神汚染の危険性の増加と引き換えに、神経接続が密接になり、実質的な出力指数であるシンクロ率が向上しやすくなる。
落下するジェットコースターのような浮遊感の中、シンジに絡みつく何かの思念。
精神汚染、或いは融合への誘い。
しかして、その真相は──
「自分でやれってこと? ──もう、父さんも母さんも、もう少し僕に優しくてもいいと思うんだけど」
シンジの乗るエントリープラグは、観測限界値ギリギリのプラグ深度-100でピタリと止まった。
エヴァと深く繋がったシンジの視界がパッとクリアになった。
エントリープラグの全天周モニターを超えて、エヴァの見る景色が直接シンジの脳へ映し出されたのだ。
それと同時に、初号機のツインアイが輝いた。
ウオォォォォォォォン
エヴァ初号機の顎部が開口し、雄叫びを上げた。
◇
NERV第一発令所に高シンクロ率の
「初号機シンクロ率100%!!」
オペレーターの言葉。
脳波コントロールという謎の多い制御システムでは不可能とされていた理論上最大出力に発令所内の人員がどよめく。
「これは……暴走……?」
「プラグ深度とシンクロ率に変動はあるかしら?」
「ありません、どちらもジャスト100から全く変動していません」
「そう……。これはユイさんからのメッセージでしょうか、碇司令?」
「おそらくな」
「ユイくんは何と?」
「『シンジに任せろ』そんな所だろう」
「独断専行ではないか?」
「構わない。元々、緊急時の判断の主体はパイロットにある。ジェットアローンの到着もギリギリだった。シンジが待てないのも仕方あるまい」
「勝てるか?」
机に両肘を立てて腕を組んだゲンドウが不敵な笑みを浮かべる。
「当然だ。シンジは私とユイの息子だ」
◇
初号機が突進する。
サキエルの仮面が輝きプロトンビームが放たれる。
だが
初号機が展開したATフィールドが
ボールを受けたサッカーのゴールネットのように光弾を包んでたわんだATフィールドを持つようにして、
初号機はサキエルにプロトンビームを逆に叩き込んだ。
『凄い……っ!』
NERV職員たちが息を呑む。
プロトンビームを纏った掌底を胸部に喰らったサキエルが気持ち良いほどに吹っ飛ばされ、山中のど真ん中へ落ちる。
「ここなら!!」
初号機が大きく跳躍し、サキエルの真上を取る。
ソニックグレイブは両腕に搭載されている。
空中で初号機が左腕のソニックグレイブを取り出す。
ウォォォォォォォォ!!
「このぉぉぉぉぉぉぉ!!」
サキエルの上部にオレンジ色の干渉縞。
ATフィールドが展開されている。
初号機の持つソニックグレイブの切先に虹色の輝き。
刃に収束されたATフィールド。
落下と同時にソニックグレイブが振り下ろされる。
ズガンッ!!
ATフィールドを貫徹し、ソニックグレイブはサキエルのコアを一撃で粉砕した。
パシャ
破壊と同時に破裂したサキエルのコアだった赤い液体が初号機の顔を濡らした。
◇
駅の中に動く人影。
掲示板代わりのホワイトボードを盾にして、切り傷、すり傷だらけになりながらも重傷を負わずに済んだ惣流・アスカ・ラングレーが顔を上げる。
巨大なエヴァ初号機の機影は、遠くの山の中からでもその特徴的なツノが見えた。
オォォォォォ──ン
勝鬨を上げるエヴァの咆哮はアスカの耳にまで届いていた。
「アレが……NERV本部のエヴァ。──なかなかやるじゃない」
口ではまだ見たことのない同僚を讃えながら少女の心中は穏やかではない。
なんであそこにいるのがアタシじゃないのよ……ッ!!
運用実験機である初号機が使徒を倒した。
対して、正規実用型の──本物のエヴァである2号機のパイロットである自分はマヌケにもくだらない事で死にかけているこの落差。
運命のイタズラとはいえ、無様を晒した自分自身への失望が少女の心を蝕む。
「こんなの偶然よ……。正々堂々やればアタシが一番なんだから……ッ」
悔しさを押し殺した少女の声が、虚しく半壊した駅構内にこだました。
『前腕部格納・ソニックグレイブ(高周波ブレード付き伸縮槍)』
プログレッシブナイフと同じ、高周波ブレードの刃を持つ槍(薙刀)
ナイフに比べて棒の部分が伸びる分、近接戦の間合いを取れ、両手で扱えることで威力にも優れる。
*アニメ第9話、イスラフェル戦でチラッと出た伸びる棒。
アニメ版ではビームグレイブと言う名称で2本の槍の間に挟んだ相手をビームで両断する謎武器だったが、本作ではエヴァの前腕部に仕込まれている基本兵装の1つ。
*アニメ版は後半まで有能なのに1話コッキリの武装が多い
裏話
本当はアスカを乗せて…とかやるつもりでしたが、そんなヒマ無かったのでシンジくんがそのまま倒しちゃいました。
流石は無敵のシンジ様
たぶん今の段階で0.8ゼルエルぐらいある
*ストックは無いです
つまりこのままエタる可能性もあります
本当に申し訳ない