いろいろあってりっくんとデート(仮)をすることになったわけだが、これはデートと呼べるのだろうか。俺は元男だし、りっくんから見たら友達を名乗る女の子と一緒に遊んでいるわけだ。
じゃあデートか。問題ないね。
あくまでも俺の考えだから、間違っているかもしれないが、りっくんは今の俺の事を知らないはずだ。俺が女だということも知らなかったからそう思う。
つまり女の俺を知らないと言い換えることも出来る。
それは俺もそうなのだが、この状況は利用できる。ある程度女の子ロールが剥がれてしまっても疑われることはないはずだ。
「りっくんどこ行くの?私聞いてないんだけど」
「えーまあ……決めてないな」
「……」
「そこらへん適当に歩いてたら何かあるだろ」
しっかりと対策はしてある。りっくんとのトーク画面を何度見直したことか。やけにハートの絵文字が多いのが気になったが、過ぎたことはしょうがない。
今回遊ぶことになったのは、りっくんが遊びに誘ってきたからだ。内容は教えられていなくただ遊ぼうの一言だった。
一体何を考えていたのだろうと思ったら、まさかの計画なしだ。それでこそりっくん。変わらない。
「……瑞希が可愛い」
「え」
「……あ。いや別になんか意図があったとかそういうわけじゃ──」
「ほんと?」
「……まあ」
……気味が悪い。元男が可愛いとか言われて嬉しがるわけないだろ。こいつも何無意識に言ってんだよ。
あとなんだよ。なんで俺は確認を取ったんだ?取る意味がないのだが。これがいわゆる好奇心とかいうやつだろうか。
いやいや、そんな好奇心いらないんですけれども。
俺はまだ男だし。この先いつか戻るつもりなんだ。可愛いじゃなくて格好いいと言ってくれ。
「大丈夫か?熱でもあるんじゃ?」
「別に……」
謎の熱を逃すかのように、自販機で買ったお茶を首筋に押し付けた。
……冷た。これで少しは冷静になれたはずだ。
いや何やってんだ俺!?ラノベによく出てくるツンデレヒロインかて。
と、まあいろいろと気づいたんだが。
……もしかして俺りっくんに惹かれているのか?異性として。
体が女になると心もつられてしまうのだろうか。
しかし、俺の心はまだまだ男であるし、りっくんに対してなにも思わない。
けれど女の子な俺はりっくんの事が好きだったはずだ。
服を着れたように体が覚えてしまっているのだろう。だからこそりっくんと一緒に居ると謎の感情が出てきてしまっているのだろう。
ふむ。体はりっくんに完全攻略済。この世界のりっくんは俺を攻略していたと。想像できないなこれ。
ぜひ幸せになって欲しいものである。中身が俺じゃなかったらの話だがな。
体は堕ちていても心は全然男だし堕ちるわけないからな。りっくんと付き合うとかないぜ、ないない。あくまでも友達だ。
そうだ、考えてみれば今までの謎の行動や言動はこの体の所為だったのだ。
……思った以上に厄介そうだ。なんか無意識に言葉が出てしまうし、りっくんの前で何を口走るか分からない、怖い。
「……」
「……」
会話が途切れた。おかしいな、普段りっくんとの会話が途切れることは無いのに。
まあ理由ははっきりと分かり過ぎてるんだが。確実にこの体の所為だろう。
……さてはりっくん女の子と何を話したらよいのか分からないということだな?
女子たちにモテモテだが、浮ついた話の一つも聞かないことを思い出した。
まったく誠実な男だ。しっかりと距離感というものを知っている。
何ていうことを言っているが……俺も今女の子なんだよなぁ。
女の子って何話すんですかねぇ?恋バナとかですか?
「りっくんはさ……好きな人とか居るの?」
最後の方がなんとか絞り出した声のように聞こえるが、気のせいだろう。そのはず。
りっくんは俺の方をチラっと目を向けて答えてくれた。
「……特に?」
言葉を聞いて安心した。
りっくんには今好きな人は居ないんだ。ん?なんかムカつくなそれ。
「でも強いて言うなら──」
「……言うなら?」
「──瑞希、かな」
「ふぇ」
な、なないきなりなんてことを言うんだこいつは。冗談にもほどがあるだろ。だめだ、鳥肌が立ってきた。
顔が赤くなっているのが自覚できる。なんでこいつにこんな思いさせられなきゃいけないんだよ。
隣を歩く顔を見てみれば澄ましていて余裕飄々に見える。
俺だけこんな思いしてるの嫌なんだが。りっくんの言葉に一人だけ取り乱しているなんて、りっくんに気があるように見えてしまうだろうが。
りっくんに気があるとかそんなわけないだろう。……体?いやいや、今は心の話だ。俺は堕ちない、男なんかにそれもこいつに堕ちるなんか御免である。
「……」
「……」
どうしよう。話しかけたらさらに気まずくなってしまった。気の利かない男はモテないぞりっくん。
こんなことになるなら恋バナなんかするんじゃなかった。激しく後悔した。
やっぱり無難に天気デッキでも使った方が良かったのだろうか。いやそんなの『会話に困ってます』と言っているようなものだけれども。
「……何顔赤くなってんのさ。冗談に決まってんじゃん」
「……」
むかつく。なんだこいつ。なんでこんな奴の言葉に感情が動かされるのだろうか。ひとまず冗談発言は撤回してもらいたいところである。
りっくん、世の中には言ったらダメな冗談もあるんだぞ。
「お腹空いたしファミレスでも行かない?」
「……私はそれでいいけど」
「おっけ。じゃあ決まりだな」
先ほどまでの事を何もなかったかのようにファミレスを提案してきたことを見ると、りっくんからすれば本当に冗談だったんだなと分かる。
分かってたけどね?りっくんが女の子相手に素直に気持ちを伝えることは無いはずだからね?
……いや何も思ってないけどね。
そんな一人茶番をしていたら、目的のお店へ着くことが出来た。店員のいらっしゃいませを受け流し、りっくんと席に着いた。
ところで普通、女の子だったら何を頼むべきなのだろうか。
しまった俺としたことが、事前のリサーチを忘れてしまっていたのだ。
流石にいつもの調子で、『ハンバーグ、ご飯大盛』なんていうとバレてしまう可能性大である。
食べる女の子も居るだろうけど、何しろこの見た目だ。疑問を持たれるかもしれない。そもそも食べきれるかも怪しいのだ。
「……パスタで」
これは逃げではない。戦略だ。安定を取るべきということでパスタになるのだ。
俺が悩んでいる間りっくんは堂々とハンバーグを頼んでいた。
……くそ、俺だって食べたかったよハンバーグ。
待て、貰えばよいのではないか?パスタ一口あげるからハンバーグ一口くれ。
なんという名案だろうか。別に男同士だし、何も気にしないでいいはず。
決定である。自分の頭に感謝しておこう。
「こちらハンバーグとパスタになります。ごゆっくりしていってください」
「ありがとうございます」
りっくんと世間話をしていると少しで料理が運ばれてきた。
いただきますとりっくんと合わせて、料理に手を付けた。
おいしい。いつもあまり食べないパスタだからか、余計に味の意識をしてしまう。
ふむふむ……これから頼むときはハンバーグかパスタかで悩んでしまいそうだ。
横目でちらりとりっくんを見る。
目が合った。
……なんでこっち見てるんですかね。
「……」
「……」
「……一口交換する?ハンバーグ食べてみたかったし」
「え、あ……あぁ。そうする、か?」
「うん」
自分の皿から一口分をとりわけ、そのままりっくんの口の前に差し出した。
……これ、俗に言う『あーん』とかいうやつでは?
いや、違いますけど。
決して意識していませんけどね。
だからさ、りっくん落ち着こうよ。顔赤くしないでよ。こっちまで恥ずかしくなってきたじゃん。
周りから見たらどう思うかなんて明白じゃん。
女の子が男の子へ自分の使っていたフォークであーんをしている。
爆発しろと言いたい。……俺とりっくんじゃなかったらな。
「……早く食べてよ。いらないの?」
「い、頂きます」
「……おいしい?」
「……はい」
「……あーん」
「?」
「一口あげたんだから頂戴よ」
何口走ってんだ俺?さっき体験したばっかじゃないか、あーんは恥ずかしいって。
それを知ってなんで俺は自分から食べる側になってしまっているんだ。
りっくんは俺の言葉に納得して、箸でハンバーグを切り分けている。
それを俺の口の前に運んできた。
顔が赤くなるのを感じる。
……と、友達だし?親友だし別にこれぐらいあってもいいもんな。何もおかしなことは無いじゃないか。
「……おいしい」
「だろ?」
覚悟を決めて食べてみると、いつもの味がした。うん、変わらないじゃないか。
あんなに恥ずかしがる必要なんかなかったのだ。あそこまで恥ずかしがる方が恥ずかしいまであったぞこれ。
まあ……まだ顔が赤いのは何故なんだろうな?
◇
……何事もなくお食事イベントを越えることが出来た。なんという達成感だろうか。
ふっふっふ。今考えてみれば、あのすべての行動がりっくんに俺を完璧な女の子だと思わせるための行動だったのだよ。この言葉に嘘はないね。
ところで、そんな俺の話題の渦中に居るりっくんだが。
クラスの女子たちと俺の目の前で話していた。
「陸君も偶然だね、こんなとこで会うなんて」
「そうだよ、今日はなんでここに来たの?」
「ん、いやアイツと遊ぶ約束があってというか、いま遊んでいる最中というか」
ちょっと前後の話をすると、俺がお花を摘みに行くとか、まあトイレに行ってた。
あ、勿論見たさ。犯罪でもなんでもないし、今は俺の体だし。……何も無かったね。
そんなこんなで凹んでいたわけだが、戻ってくるとりっくんが女子たちと話していた。
さらに傷つきそうである。俺が苦労している間お前は女子たちと話していたんだな。それは良かったね。さぞ幸せであっただろう。
だが残念。お前の幸せはそうそう長くは続かないものだ。いや、俺が続かせない。
「陸君いつも一緒に居るもんね?告白はどっちからしたの?」
「え、別に彼女っていうわけじゃ……そもそもアイツおと──……いやでも今は違うし」
「まだ恋人同士じゃないの?!あんなにクラスでずっとイチャイチャしていたっていうのに?」
はい、傷つきました。そっかぁ、こっちの世界の俺はりっくんとずっと一緒に居たから、そんな風に思われていたんだな。
元男の俺がただただ可哀想であるが、一番はりっくんである。
昨日まで男だった親友が朝起きたら女の子になっていて、そんな親友と自分でカップル扱いされている。
もし自分の身に降りかかっていたら発狂モノである。そこまではいかなくとも部屋に引きこもるレベルだ。
「……ところで今から買い物に行くんだけどさ、陸君も来てくれない?私たちだって女だけは寂しいっていうか」
「ね、来てくれると嬉しいかも」
「……アイツとの約束もあるしここは──」
「あっ!りっくんお待たせ!ごめんちょっと遅れちゃって……あれ?笹森さんと川端さん?今りっくんと何を話してたの?」
「えっいや別に何もないよ!ね?」
「う、うん。二人のデートの邪魔はしないから、ごゆっくり」
二人して何かそんなに焦る要素がどこにあったのだろうか。用事があったのならりっくんなんかと話している暇はないだろうに。
それにしてもデート、かぁ。やっぱり周りから見るとそう見えるのか。
……いくら周りがそう思ってても俺にとってはデート(仮)である。まだまだ男同士の遊びの延長だ。
ここまでお食事イベント等を経て来たわけだが、未だりっくんにはバレる気配がない。これは俺の女の子ロールが完璧と言っても過言ではないだろう。
もしかしたらりっくんが鈍感なだけかもしれないがな。
「瑞希?」
「ん、何?」
「あのさ、やっぱり外暑いし……俺の家来ない?」
「うん」
うん。
うん?
うん?!
なんで反射的に返事をしてしまったんだ。確かに外は暑いし涼しい場所に行きたいとも思っていたけれど、まさかのりっくんのお家ですか。
つまり?外出デートがお家デートにレベルアップしてしまったのか。
ふっふっふ、臨むところだ。いいだろう、真正面から女の子ロールをぶつけてやろうではないか。
大丈夫だ、問題ない。俺の女の子ロールは完璧なはずだからな。
りっくんの家。
──好きな人の、おうち。
おいちょ待てや、なんだ今の感情。決して俺の本心じゃないからな。女の子になって一日目で速攻メス堕ちなんてたまったもんじゃないね。
今のは体。そう、完堕ちしている体が悪かった。
……はぁ。この先が不安である。
何かの間違いで、体が暴走しないかとても心配である。
ましてやお家デートだ。好きな人の家に行くとかどうなるかなんて分かりきったものだろう。
「りっくん!早く行こ?」
「あ、はい」
……はぁ。
体は女の子だし大丈夫やろ理論。