TSしたけどバレたくない   作:まよねえず

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バレてはいけない

 りっくんの要望により、家に行くことになった。

 夏休みだしね、外で遊ぶにはちょいと気温が厳しいかもしれないからね、しょうがないね。

 

 ……りっくんの家である。

 高校生で友達になってから、数回ほどはお邪魔になった家である。

 とはいえ、こっちの世界の俺がどうかは知らない。りっくんが日和り過ぎて俺を誘っていないかもしれないし、俺が奥手すぎて家に行ったこともないのかもしれない。

 

 だが、俺が何も知らないイコールりっくんも一緒だ。あいつは俺が男だったと認識している唯一の人間だ。あっちも朝起きたら巻き込まれていたと思うので、この世界の俺については全く知らないはず。

 

 ……なんだ、何も考えることは無かったじゃないか。今回のこのお家デートはただ遊ぶだけだ。

 ただ遊ぶだけ。男同士で。男同士、で。大事なことなので二回言った。

 

 俺の体がりっくんに反応してもそれは俺じゃないから大丈夫だ。決して俺が反応しているんじゃなくて、体が反応しているのだ。

 

 

 今回のデートの第一目標は俺が完璧なまでに女の子だとりっくんに思い知らせることだ。いつか俺が男に戻ってきたときにこの話をしてりっくんの間抜けな顔を馬鹿にするのだ。

 俺がりっくんにバレるのは論外である。バレない上で、女の子だと思い知らせることが重要だ。

 

 準備万全な俺は移動中もずっとこの本を片手にここまで来た。移動には電車を多く使ったので多少の余裕もあったのだ。

 今手の中にあるこの本はブックカバーによりその内容を隠されている。

 しかし、そのブックカバーを取って見ればこうである。

 

 『これであなたも恋愛マスターに?!好きな人を振り向かせる100のヒミツ!』

 

 ……。

 

 ……俺の意思ではないぞ、これは絶対に。持ってきたポーチの隅っこに薄く入っていたのだ。

 俺ではない俺に言っておこう。

 

 

 完璧な女の子やんけ。

 

 

「──着いたぞ」

 

 色々と説明していたら家に着いたようだ。

 ……うん変わりない一軒家、同時にりっくんの家である。

 

「……ほぇ」

 

 なんか間抜けな声が出てしまった。

 りっくんの家の前に着くだけでこれですか。だいぶ重症ですけど大丈夫そうすかね、家入るんですけど。

 

 もうそんな状況になってしまうなら……そ、そんなことやあんなことをするときには、どうなってしまうのだろうか。

 

 

 待て、俺はそんなことをりっくんとする気もない。そこまで考える必要はないはずだ。

 この体に影響されて心まで女の子になってしまうのか?自分が怖くなってきた。

 

 俺は完全に女の子になりたいわけではない。程よくりっくんをいじめたいだけだ。

 

「おけ、入ってどうぞ」

「お、お邪魔します」

「母さんにはもう伝えてるからな。……なんでも夜は他で泊まるとか言ってたんだけどさ」

「え。……そ、それって。その……私と」

「夜までゲームできるな。これで」

 

 ……分かってたしね?りっくんは誠実な男だし、女の子な俺に対してそんな事するわけないって理解してたし。

 りっくんの中ではまだまだ男友達としての認識なのだろうか。

 

 まあ昨日まで実際に男なわけだしおかしくはないが。

 

「……そだね。遅くまでゲームできるね」

「あぁ。……っと、ここが俺の部屋。お菓子とか持ってくるからゆっくりしてて」

「あ、じゃあお願いしようかな」

「はいよ」

 

 りっくんはそういって部屋から出て行った。気の利けるいい友達及び親友である。

 

 ……やべー。やべーよ。りっくんの部屋に入ってしまった。何がやばいって、そりゃ、ね。

 

「……ここがりっくんの部屋」

 

 部屋の中にりっくんの匂いが充満しまくっているんですよ。すぐそばにりっくん成分を感じてしまうのです。

 

 ……早く戻ってきてくれ。このままだとおかしくなってしまいそう。

 あともうちょい頑張れよ俺の心。体なんかに堕とされてたまるかっての。新たな扉を開いてしまいそうだって。

 

 俺が体と心の中で格闘していると、扉が開きりっくんが帰ってきた。何食わぬ顔である。片手にお菓子でもう片方で扉を開けてきた。

 

 俺の苦労も知らずによくそんな顔ができるな。こちとら朝起きたら女の子で体がお前の事好きになっていたんだよ。

 

 顔を見ていきなりキレそうになったが、ここは完璧でりっくんが好きな女の子だ。しっかりと抑えた。偉い。

 

「持ってきたけど……どうかした?」

「ん?なにか?」

「いやなんか顔赤いし息も少し荒い気がするんだけど」

「き、気の所為じゃない?ほら、少し暑いし」

「……たしかに。ちょっと暑いな。エアコンつけるわ」

「……ありがと」

「はい」

 

 完璧にりっくんを待つ女の子を演じられていたと思ったら、そんな風に見えていたらしい。

 

 安心してほしい。これも作戦の内だ。暑そうに思わせてエアコンをつけさせる。

 実際暑いし死にそうだったから、自分の命を守るための演技だったのだ。

 

 りっくんの持ってきたお菓子を少しずつ頂いていると、部屋の空気も段々と涼しくなってきた。エアコンが効いてきたようだ。

 俺の体も伴うように落ち着いてきた。もう俺は慌てることもないだろう。完璧な状態だ。

 

「いきなりなんだけどさ、瑞希」

「どうしたの?」

「付き合ってくれ」

 

 

 

 

 

 は?

 

 ……あぁ。なるほど、ゲームにってことか。まったく驚かせやがって。無駄に考えてしまった時間を返して欲しいね。

 俺が今日ここへ来たのもりっくんの家でゲームして遊ぶためじゃないか。りっくんもそのはずで俺を家に連れたはずだ。

 

 そうと決まれば話は早いりっくんを俺の完璧なゲームの実力でボコボコにしてあげるだけだ。

 自らボコされにくるなんて物好きなりっくんだ。

 

「……いいよ?」

 

 どうしたりっくん。俺の返事にそんなに固まる事あるか?

 あれ、エアコン効いてたよなこの部屋。りっくん顔とか赤いけど大丈夫か?

 俗に言う熱中症とかそういうのじゃないよね?

 

「い、いいんだな?瑞希」

「……ダメなところあった?」

「だってその……俺と付き合ってくれるんだろ?」

「いいって言ってるじゃん。やりたくないの?」

「やりたく……って、え。マジで?」

 

 実に心外である。りっくんは親友すらも信じられなくなってしまったのだろうか。

 どしたん話聞こか、りっくん。何があったかこの完璧女の子な俺に言ってみ。

 

 騙しまくっているがこれでも親友だからな。いつでも友の相談にはのってあげ──

 

「……っ」

 

 唇が柔らかい何かで押されていた。柔らかい感触が脳へと伝わるのにそう時間はかからなかった。

 目の前には大きくなったりっくんの顔。とっても近い距離に居るためか、りっくんの息遣いの音までもが鮮明に聞こえてくる。

 むしろ、他の音が聞こえないほど、目の前で起きている事を理解することに集中していた。

 

 

 何してくれてんのりっくん?!

 

 慌ててりっくんの肩を掴んで顔の近くから引きはがす。

 ……こんな予定は無かった。いくら女の子ロールが楽しいからと言ってここまでするつもりは無かったのだ。ある程度まで来たら自分からりっくんへ真実を伝えるはずだったのに。

 

 男時代でも守ってきた俺のファーストがこの瞬間取られてしまった。

 

「な、ななななにしてくれてるの?!」

「……ごめん。嫌だった?」

「嫌っていうかその……付き合ってもないのにそういうことは」

「え、さっき付き合い始めたんじゃないの?」

「え?」

「え?」

 

 ……もしかしてだが。『付き合ってくれ』ってゲームじゃなくて真面目な方だったり……?

 つまりは俺の勘違いってことですか。

 何してんの俺。りっくんの事だからその線は無いと考えていたらまさかのその線だったという。

 

 今からでも遅くない。すぐに訂正を行うべきだ。俺の名誉とりっくんの名誉のためにも。

 あなたがキスした相手は中身男ですよなんて言われたら傷つくだなんて明白だろう。

 

 己のためにもりっくんのためにも今起きたことは二人の間の記憶から消去していかなければ。

 

「りっくん……付き合うって、てっきりゲームにだと思って……」

「……俺の言葉足らずだった」

「わ、私は大丈夫だからさ、さっきの事は忘れてゲームでもしようよ」

 

 自責の念にでも駆られたのかりっくんがひどく落ち込んでしまったので励ましのためにも俺の方からゲームに誘った。

 

 

「瑞希」

 

 うわどっかで見た展開。

 

「瑞希の事が好きだ。付き合ってください」

 

 こいつはちょろいのだろうか?

 りっくん視点だと昨日まで男だった親友を好きになってるんだよ?俺が女の子ロールしてから初日だよ?

 ラノベヒロインも驚きの即堕ち。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

 ……現実逃避はやめよう。目の前のこの告白に返事をするべきだろう。

 りっくんも勇気を出して告白をしてきたのだろうし、その思いを簡単にポイするのはやはり違う気がする。

 

「わ」

「……」

「私も……考えさせてください」

「そっか……」

 

 

 ……あっぶね。体につられて私も好きとか言ってしまうところだった。よく抑えた俺の心よ。

 そのまま言っていたらりっくんの彼女メス堕ち確定ルートに堕ちていたところだ。

 

 よし。俺は言うべきことは言ったぞ。

 

 帰るか。

 

 今更遊びとかなんだとか言ってられるかっての。

 

「ごめんりっくん!私帰るねっ」

「え──」

「じゃあまたね!」

 

 りっくんの制止する声が聞こえたが、無視して家を出て家路についた。

 

 帰った理由は二つ。

 

 こんな顔りっくんに見せたらなんて勘違いするか分かったもんじゃないしね。いくら俺の意思ではないと言っても、最終的にどう捉えるかはりっくん次第だ。

 

 それに。

 

 

 あの場一緒に居たら私自身何を口走ってしまうのか分からなかったからだ。

 

 

「あら、おかえりなさい」

「うん、ただいま」

「今日彼の家に泊まらなかったの?」

「……うるさい」

「振られでもしたの?」

「別にそういうんじゃないけど」

 

 りっくんの家から無事にマイホームへと帰ることが出来た。実家のような安心感だ。まあ実家だしそうなんだけど。

 母さんからの質問攻めをなんとか受け流し、さっさと自分の部屋へと向かった。

 

「……」

 

 俺はこのままで本当に良いのだろうか。

 りっくんに本当の事も伝えていない。それにりっくんが好きになったのは女の子の俺であって、もともと男な俺ではない。

 

 うっ、二人に対しての罪悪感が。騙しているりっくんと体を使ってしまっているこの世界の俺。

 

 ……この後お風呂イベントもあるんだぜ?よし、できるだけ体は見ないようにして洗おう。

 ごめん、俺。

 

 ……ふぅ。さて、俺はりっくんに対してどのように接すればよいのだろうか。

 どうするか?少し早いがさっさと伝えるべきだろうか。

 

 こんなことになるなら最初から伝えておくべきだったか?

 りっくんはもう俺に告白をしているし、今言ったて『お前俺の事騙してたん?』とか言って怒られて最悪縁を切られてしまうかもしれない。

 

 それは流石の俺でも嫌だ。高校で唯一の友達で親友だぞ。居なくなってしまったらまたぼっち街道まっしぐらになってしまう。

 

 

 完璧なはずの俺だったが、始めからミスっていたのだ。最初に伝えておけばりっくんは俺を勘違いしなく、告白することもなかったのではないか。

 そうだったら、最低でも縁を切られるわけでもなく、はははと笑ってこの状況を一緒に楽しめていたのだろうか。

 

「……っ」

 

 俺がりっくんに今好きと伝えてしまえば、快く受け入れてくれるだろう。

 しかしそのりっくんが見ているのは女の子の俺だ。俺であって俺でない存在。

 

 なら。

 

 やっぱりバレないようにしよう。

 

 それならりっくんはこれからもずっと一緒に居てくれるはずだから。




堕ちたな(確信)
りっくん視点に需要はあるのだろか。
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