不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
おや、十二話のつもりが三十二話になりましたね。
休日、それは学生にとって待ちに待った、はしゃげる日。
初めての休日こそ研究に費やしてしまったが、シープが望む物全てを買ってくれるとくれば承諾しない手はない。
サーシャは俺と風呂敷を片手に、約束の地へと赴いた訳だ。
ざぁーー…、
「雨ぇ…」
(私は水魔法だから濡れても問題ないけど、プレゼントが濡れないように気を使うからテンションは下がる…そして周りの人が持ってるやつ何?今の私みたいに水魔法で天蓋作る魔道具?)
傘だよ。魔道具ですらないよ。
村だと笠しか無かったけど、王都だとメジャーな物っぽいよ。
そういえば俺は仮にもリーロであり、王都住まいではあるんだが、こういう生活様式とかは全然知らないんだよな。
知ってるのは馬車で運搬する事と、動物には竜牛とかいう生き物が居ることだけだ。
やっぱあそこで死ぬべきじゃ無かったんじゃないか?俺は。
一応俺ことリーロもゲームで登場したキャラではあるからなー…敵だったけど。
仮にリートの姉があそこに入ってたら大分不味いんだけど、確認は難しいし…今日も気にせずにMMとして見守ろうか。
「…お、いたいた。お待たせー」
「遅いわ、これからはもう少し早くなさい」
「お嬢様方、一緒に出れば良かったと思いますよ」
「ヘル、後方待機。…気を付けるよ。それで、今日は何処から回る?」
「重いものは後にするとして…先ずは腹ごなしね。時間が経てば止むそうですし、少し時間を置きましょう」
「食堂やってなかったもんねー。朝ごはん、食べに行こっか」
一緒に歩こうとした時、シープが水溜りで滑って宙に浮いた。
ガッ、
ヘルシングがすぐさま傘を捨てて抱え、ずぶ濡れに転ぶのを回避する。
「お嬢様方、足下にはお気を付けを」
「ヘル、良くやったわね」
「シープお嬢様の滑り芸には慣れましたので」
「芸じゃないわよおバカさん」
(…今日のシープは機嫌が良いなぁ。いつもよりお嬢様らしいや)
シープはゲームでも機嫌の良さでツンデレ口調とお嬢様口調を行き来するからな。
向こうも楽しみにしてくれてたって事だから、喜ばしいことだ。
そう話している間に、一瞬で3人は学園の入り口広場から工房街に辿り着いた。
ブッ…、
「お…転移門を通った時の感覚だ。王都の中に工房街がある訳じゃないんだね」
「知らないの?貴族と庶民で住む地域を区切ることはあれど、工房街は深淵の中にある街。区切りが見えないけど、転移門がないと来れない場所よ」
「へぇ、転移門って門がなくても作れるんだね」
「王国の貴族、その固有魔法よ?代々増やされた物だけど、世代によって細かい条件は変わるわ」
(固有魔法かぁ…確か、無から始まる火から水に渡る系列とは別のもの。火と同じ位に居る、別の属性系列だっけ。珍しい上に其々の挙動が違うから、詳しい事はみんな知らないんだよね)
無から始まった火から連なる四属性。それに帰属する光、雷、木、氷といった属性群。
そこから外れた物は基本、固有の属性、固有魔法として扱われている。
基本的にひとつで一族しか持ってないような物だし、意識して"覚醒"の過程を挟まないと扱えない物が多い。
四属性も一応は覚醒の段階は有るんだが、簡単な上に周りに使う人が多く、幼い頃に自然とやり方を教わって無自覚に出来ちゃうことが大半だ。
自転車の乗り方みたいな物だな。固有魔法は扱うのが一輪車だから余計難しいらしい。
…っと攻略サイトには書いてあった。
「固有魔法…詳しくは知らないなぁ。例えばどんなのがあるの?」
「え?そうねぇ…有名なのは転移門を作っていた貴族の転魔法、時間を操ると言われる時魔法、契約を必ず守らせる証魔法よ。証魔法以外の使い手はもう消えたみたいだけど、全員強かったらしいわ」
「なんで消えちゃったの?まだ歴史の授業ではやってない範囲だけど…知ってる?」
「ヘル、やってしまいなさい」
「知らないならそう仰って下さい。では僕の方から、MMが登場してきたからですよ」
「最初に歴史の授業でやってた事じゃん。まだ解説されてないことがあったの?」
(MMの完成から今に至るまでを簡潔にやったとはいえ、結構大事そうな部分なのに…)
別に歴史の先生が言い忘れた事ではないぞ?
この世界だとMMにしたら固有魔法が誰でも使える杖になるって情報は、割と御法度な知識だから知られてないだけだ。
これを聞き出すには、サーシャとシープでどっちか判別が付いてないままに好感度を上げなければならない。
今回は誤魔化して話さないだろうけど、そのうち話されると良いな。
俺がポロッと言っちゃう前にさ。
「MMは魔法を使う為の杖にする魔法になったもの全般を指す言葉ですが、どうやら初期のMMは生きたまま杖になっていたそうです」
「今も生きてるじゃん。たまーに会話だってしてるよ?」
「それは特殊例です。水属性は居ても水魔法使いは少ないことを自覚してください」
(なんなら研究の時に『通話』の魔法に至るキッカケになったし。周波数とか何食べてたら思いつくのやら…スケート滑ってるからかな?)
前世があるからだよ。
「そうではなく、
「歴史の授業で習ったこととは違う…合ってるか。授業で習った時よりも昔の話なんだね?」
「その通りでございます、お嬢様」
(…そりゃあ、初めから人を杖にしようと考えるより、身体の一部を杖にしようと考えるのが自然…自然か?どうなったらそんな事になるんだろ)
「そもそも、杖とは魔法を使う為の補佐の役割しか有りません。狙いを付ける、詠唱を短くする、威力を上げる…MMはその完成系ですが、そうなるまで全ての国で開発争いが起きてました」
「それは聞いたね。杖にする素材への依存を克服した商国、杖だけで魔法を扱えるようにした帝国、魂を使う事で出力を上げた神国、それら全てを纏め完成度を高めた王国…に住んでた魔法使い」
「当時は学園も無かったみたいですし、大霊書庫もある一族の個人管理でした。王国も知らない筒抜けにする書庫…王国もびっくりしたでしょうね。気付いたら世間にこの完成された魔法が広まってたんですから」
(ヘルも普通に頭良い方では有るんだよね…普段からは想像出来ないけど、こうして自習もしっかりしてるんだから)
商国が杖にする媒体に依存しない公式に辿り着き、帝国が使い手に依存しない構築に辿り着き、神国が何処にでもある素材で大幅な増強に成功し、それら全てを纏めた結果、魔法をかけるだけで素晴らしい魔法の杖になる魔法が完成されちゃったのは酷い連鎖だと思う。
そんな感じで盛り上がりつつ、排水もしっかり計算されたレンガの道を進み、こぢんまりとした「シュガートラップ」という店に入る。
「盛り上がってるところ悪いけれど、到着よ」
カラン、カラン、
店の扉を開ける拍子に鈴が鳴る。こういう現代っぽい要素があると、一瞬前世に帰って来れたと錯覚しそうになるんだよね。
店の中もオシャレなカフェって感じだし、長ったらしい呪文みたいな商品名とか特にそう感じる。
「いらっしゃいませー」
「学生3人でお願いするわ。朝に相応しい食事を作ってちょうだい」
「おすすめモーニング3セット了解でーす。あちらの空いてるお席にどうぞー」
「さ、行きましょ。オススメの席を教えてあげる」
「…あ、うん」
(あ、手慣れてる…!さっきまで静かだったシープが大人に見える!私が研究してる間に、街の歩き方を完全にマスターしたんだ!)
そこはかとなくシープからキラキラとしたものを感じつつ、シープが歴史があんまり詳しくないことを誤魔化されたままサーシャは席に着いた。
魔法の講釈はしっかり聞いちゃうタイプはこういう時弱いな。
「それで、街を軽く歩いてみてどう?興味のある店は見つかった?」
「ヘルの話を聞いてて全然だった」
「正直に答えたサーシャにはここの割引券をあげましょう」
「わーい。見てなかったけどすごい手慣れてるシープを見て驚きはしたかな」
「手元に大量の貨幣が有ったもの。それなら買い物の一つや二つはしてみたくなるでしょ?」
「わお、無一文な私と大違いだ。それがキッカケ?」
「おかげで自分でも何か商売をしてみたくなって、そこに貴女の『通信』の話が来たって訳」
「取り敢えず相互に連絡出来る魔道具にはしてみたからあげるね。中継機を使えば幾ら離れてても連絡出来るよ」
「ふーん…今後私の商会だけで販売してもいいならスポンサーになるけどどう?」
「返事は変わらないよ。スポンサーなしでおっけー」
「お嬢様方、話題の同時進行を控えるように言いましたが、だからと言って飛ばし飛ばしに会話するのも控えてください」
「通じてるから」「良いじゃない」
「他の人との会話が苦手になっちゃいますよ。面倒くさがらずに丁寧にしてください」
(結局この魔法じゃ安全なMMとの会話は難しそうだし、研究室に塩漬けするよりはシープの助けにした方が良いってだけなんだけど…なにをそんなに気にしてるんだろ)
通信網の土台として完璧な物が出てきたからだよ。
『通信』の魔法から更に魔道具としての設計図と実物用意して、更に無線と有線とチャンネルを組み合わせて、ガラケー並みの通信機にしたのには驚いたぞ。
しかも俺の発言からタイプライターみたいなのも作ってメール機能も再現してるし。
ゲームでポンポン新しい魔法を研究して開発してたのが現実のものになると、こんなにも恐ろしい天才になるんだなって驚いてるよ。
「むぅ…どうしてもと言うなら仲良くしてくれれば良いかな。友達にあげるからしっかり仕上げたけど、コレは本来の研究目標を達成出来ない副産物だし」
「だからって手紙を作った側から相手の手元に作れる魔道具を作るのはどうなのよ。話し合えもするし、…魔道具なのに土や水の属性すら感じないわ」
「そりゃあ、出来る限り魔法を使わずに成立させたからね。魔法陣だけ見ても再現は出来ないよ」
「………幾つ発想を変えればこんなの思いつくのかしら」
(MMとの会話は兎も角、『通信』の魔法単体でより効率の良い形を目指すとこうなるっていうか…失敗して『憑依』する度に魔法や魔力とは関係ない物理法則を置いていくから…折角だから検証しつつ活用してたらこんな事に…)
この世界の法則と合ってるか分からないなら、サーシャに合ってるか確かめさせれば良いって気付いたからな。
サーシャに聞いたり寝れないからって考えてたら思いついた事なんだけど、この世界の人達って出来ないことは最初に魔法で解決しようとするんだよ。
そりゃあ生地を作って動物を飼って家を建てるくらいはやるけど、そこから先は魔法の領分と考えてそうなんだよな。馬車の構造も木魔法で繋ぎ目を接続したり、火魔法で滑り易くしたり…万能の手段ってのも考えものだよな。
「お待たせしました。紅茶にサラダにチーズとハムとゆで卵のサンドイッチ、デザートは虹の砂糖菓子をご用意しました」
「ありがとう。神に感謝していただきます…うまっ」
料理が運ばれて、サーシャは早速手を付けた。デザートは最後に回してくれよ?
「ヘル、見た感想をよこしなさい」
シープが設計図を見ながら眉を顰め、ヘルシングにも見せて感想を求める。
自分だけでは理解できないと見切りを付けたようだ。
「…うわ、すごいですね。魔法をかける物自体の構造で文字を…うわ、うわー…錬金の素材と設計図で一瞬で同じ物が作れる性質を利用した、かなり複雑な構造ですよ」
「そうよね、私は使い方まで見て目が痛くなったわ」
「送受信と入力は魔法を使って、情報を渡す過程は魔法無しでやってるよ」
「ヘル、良い感じに例えなさい」
「お金を置いたら実物を取り寄せられるメニューリストです」
「超ヤバい奇跡を魔法で再現したのね?」
「そのメニューリストの作り方を無償でプレゼントされました。当然置かれたお金は我々の物です」
「感覚では分かってたけど、具体的な凄さを改めて実感して来たわ」
「あ、それ良いね。リストとコレを渡して通信販売だ。チャンネルも用意したから、特定のチャンネルで時間を知らせたりとか、昨日起きたことを知らせたりとか、夢があるよね」
「サラッとコレを使った情報屋のやり方を言うのね。もう貴女の一日中の発言を集めるだけでお金になりそうな気がして来たわ」
(そうかな。このくらいなら誰でも思いつくんじゃない?少なくともダルク達は似たような感じだったし。よし、デザートだ。カラフルで美味しそうだなぁ)
そもそも属性に寄らない、全ての属性で出来そうな魔力の性質だけでの開発だからな。
出発地点からして違う以上、今までとは変わった物が作られる。
俺はもうゲーム展開が当てにならない覚悟は済ませてるからな。ここまで来たらとことん前提を崩壊させてやろう。
──
「それじゃあ、デザートは食べないで出よっか」
「え、なんでよ。ここはお菓子が一番美味しいのよ?」
「そうですよ。一回食べれば病みつきになりますよ?」
「だからだよ。ほら2人とも行こう、サンドイッチはもう食べたから良いでしょ?」
「えぇ?…もう、仕方ないわね」
「…くっ!お嬢様がそうするのでしたら、僕も従いましょう」
だってこの店、「菓子の時間」の店だもの。
さっさとこんな麻薬売りの店からはおさらばだよ!
サーシャ、楽しみにしていたのだろうけど、一度でも食べるとずっとそれを求めてしまう毒を混ぜたお菓子はダメなんだ。
依存性のある、食べるとその日は普段の1.1倍早くなる魔法のお菓子。
時間の魔法で作られた、魔法のお菓子だ。罠だから食べない方がいい。
食べ続けた末期には老人になっちゃうからね!
カラン、カラン、
「お邪魔しました!」
会計済ませてから2人を引き連れて出る。食べなければ良いんだから、すぐに帰れば問題ない。
相手するには何もかも足りてないからな。今日の所は穏便に離れて買い物をしよう。
「──おやおや、急に覚えのある気配を感じたので急いでみれば…いつぞやの踊っていた方ではないですか」
大きな3対の翼が、雲を貫いて世界に降り立った。
貫かれた雲が拡散し、ここだけ雨が止んで日差しが射す。
ほら、こんなにも実力が上なんだから、その上で罠にかかるのはダメなんだよ。
でもどう答えるのが正解か分からないんだよね。どうすれば見逃されるんだろ。
「ご機嫌麗しゅう。またお会い出来て光栄ですが…ワタクシのお菓子はお食べにならないので?」
「甘い毒は遠慮したいタチでして」
「なるほど…なるほどナルホド成程!」
…行けたかな?ダメかな。
ダメだな戦闘準備しなきゃだ。
良いかいサーシャ、相手の固有魔法は───
──
(…突破口は分かったけどさぁ!キラーパスが過ぎるよ!)
秒針を構えて、それでただならぬ空気を察したシープ達も其々のMMを取り出す。
ヘルはトランプを、シープは付け角の山羊の頭角を表して、戦場に立つことを決めた。
ローンが右手の甲を撫でるとレンジのつまみのような物が現れる。
それは、その身体がMMと一体化していることを示していた。
「遠慮なさらずご賞味くだされや」
時間の貸し出しが始まる。
「時魔法」
神様が世界に動きを与える為に、最初の一歩として時属性の魂を作りました。
時間を作り出して役目を終えた魂は、生き物として世界に混ざりました。
そうして産まれた時の歯車の一族は、貴族の中で最初にMMにされました。
生き残った歯車は、後ひとりだけです。