不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
サーシャ「ボケーッ。こんなの5回で出来る訳ないやろうが」
シープ「身代わりになる」
サーシャ「なんじゃあこのくそ展開は」
ローン「時間を無限の空間に変換して加速するッ」
ヘル「あのうお茶を一杯飲みませんか?」
サーシャ「そんな時間あるかあ!」
ヘル「あのう思い詰めたら相談しませんか?」
攻略法発見前の、サーシャと愉快な仲間達による壮絶な会話である。
「ッ!?」
「シープお嬢様!?」
最初に出て来た異常事態は、シープが16から8歳程度まで幼くなったこと。
次の変化は、ヘルが16から32まで歳を取ったこと。
「そういうヘルはおとなになってるわ!」
「…大人になった!?」
菓子を食べた分の取り立てと貸し出しだ。
接種したら、抵抗出来ずに魔法の対象になる。
食べた量は関係ない。体内に時魔法の痕跡さえあれば自由に時間という資産は動かせる。
それが基本動作。取り立てれば歳を取り、与えれば若返る。その手取りとして幾らか貰い受ける。お金を運用するように時間を扱う挙動をする『貸与』の時魔法だ。
「時間の貸し出し…ね」
「ご名答です。サーシャ。やはりゼクスとズィーベンを打倒しただけはある」
「…それやったの別の人じゃないかな」
「いえ、あなたがやったのです……そのはずですよね?」
「戦わずに済むなら違うって正直に言うけど?」
「おや、おや?」
(そのふたり誰?お菓子屋さんを打倒なんてした事ないんけど…時間の力を扱えてるんだ。その仲間に時間関係のMM持ちでも居るのかも)
会話が噛み合わない。まるでそこそこの期間の知り合いみたいな反応だ。
ゲームではこんな反応はなかったし、探りを入れたい所だが…ローンは改めて俺たちや周囲を見渡して、それから自分だけ納得したみたいに頷き始めた。
「ふむ…あぁ、なるほど。エルフの差し金ですか。つまり、今は8月ではないのですね。まぁ好都合なので良いでしょう。道すがら殺すなら丁度いい」
「まるで未来から来たみたいに話すね」
(はい確定。4ヶ月後から来てる。今まで通りカマかけて未来の情報抜き出そう)
エルフかぁ…種族じゃないぞ?ゲームでも登場した、他人を時間移動させるMM持ちだ。本名をバックと言う。
リートの周回機能の互換みたいな能力を持っていて、戦闘時にアイテムや装備を過去のセーブデータを参照した物にしたり、様々な進行状況を滅茶苦茶にしてくる奴だった。
一周目だと初めから強い訳じゃないから、禁忌無しだと負けるしかないんだよな。
現実になったら一番対処出来ない相手なんだわ。
「そう言う貴女は相変わらず特異点ですね…この時期から既に通信技術を完成させてたのですか」
「まるで私が時代を変える存在みたいな言い草はやめてよ。まだ魂の周波の発見も、それを人為的に調整する共鳴の魔法も作れてないんだから」
「…貴女は4月のサーシャですよね?ワタクシみたいに移動してませんよね?…やはり、早々に殺すべきか」
(あー…どっちも未来だと出来たのね。魂が出す波…リーロから周波数の概念を聞いた時からあるかなって考えてたけど、コレあったんだ。…さて、ここまでの会話で、コイツは過去に戻る前から私とはあんまり戦ってない。リーロに教えられて避けてたからかな。なら…やる事は変わらないか)
ポンポンポン、
煙と一緒に、ファンシーに飴玉と綿飴が幾つも作られ、上空に投げられる。
投げられた綿飴は上空を漂い、飴玉はその中へと吸い込まれた。
ばさ、
「ではワタクシはこの辺で」
(リーロに聞いた通り飴玉に触れると時間を強制徴収される…建物の中に入って時間を稼ごう)
それと同時に、ローンもその翼で飛び立ち、綿飴の雲の上に行く。
ゲーム通りの挙動であり、この後は雲を壊さない限り降りる事はないだろう。
サーシャはそれを見て、直ぐに店の中に戻る事にした。
「店の中に入るよ」
「サーシャ!なにあいつ!これもどるのよね!」
「諦めて」
「うそでしょ…ゆるせない…あいつころしにいくわよ!」
「お嬢様、僕の消えた青年時代はどうしますか。30歳の中年になってしまいましたが」
「ヘル、あなたは…まだカッコいいから年相応に落ちつけばもんだいないわ」
「そんなー」
カラン、カラン、
「いらっしゃー…お客様ー?」
サーシャが『通話』の魔道具を置いて、使う為の準備を整える。
それを困惑しながら見つめる店員と客も気にせずに店の真ん中に向かい、机の下に通信の用意を済ませ、そこに幼くなったシープを押し込んだ。
「シープ、チャンネルはフルにしたからコレで助けを呼んで。サーシャからの伝言、工房街で不自然に雲が避けてる場所で襲われてる、早く助けてくれって」
「分かったわ。あなたがいちばん状況をはあくしてそうだもの」
「助かる。ヘル、ついて来て」
(フル回線ならラジオの機能でカーリー先輩に届く筈…あの人は今日暇だったから多分イケる…これが第一の作戦…をやる事に意味があるからね!次は…)
今回の前倒しに合わせて俺は幾つかの作戦を立てた。
通信機を使った救助要請は第一の作戦だ。
最強のカーリーが来れば全て解決する。しかし今日は休みの日だ。あまり期待はしていない。
そのために立てたのは第二の作戦。サーシャの頭の良さと死に戻りの能力に賭ける。
正直俺は低レベル攻略なんてしたことないから、これ以外思いつかなかった。
サーシャとヘルが外に目を向けると、そこは既に戦場になっていた。
ザガガパリンガガッバキャ!!
「キャー!?」「うわあ!」「壁が!」
外で無数の飴玉が高速で落下し、全ての建物と歩行者にぶつかる。
そこら中に飴玉が転がって、蹴った人を対象に時間を奪おうと待ち構えていた。
ローンの攻撃が始まったようだ。飴玉だから物理的には怖くはないが、触れれば時間を吸われるとなると話は変わる。歩行者は老人に、老朽化したガラスは割れ、腐った木の壁が壊れていく。
「あいつだ!あいつのせいだ!殺せ!」
(飴玉を蹴らない様に…水たまりに落ちてて見ずら…あー…マズい。確か、既に影響を受けた上での攻撃は…)
「いけない!全員攻撃しないで!」
「撃てえ!」
サーシャの声は嗄れた老人の声に掻き消され、数々の魔法が雲を攻撃し始めた。
ただでやられるほど学園は無力ではない。無差別に襲えばそれだけ反撃が返ってくる。
三色の壁が飴玉から彼らを守り、彩り豊かな砲撃が雲を襲う。
鉄すら容易に溶かす火砲、竜すら切り裂く風斬、数えるのも億劫な即席の名剣名槍の射撃。
「よし、倒したぞ!」「ざまーみろ!」「早く戻しなさいよ!」
50人の魔法使いの火力掃討は、お菓子の雲をあっという間に散らしてしまった。
ローンはばさ、ばさ、と羽ばたいて遊泳し、戻せと喚く魔法使い達も気にせずに手の甲にあるツマミを確認する。
「借りた時間は…合計して1500年ですか。流石未来ある若人、持っている時間も多く十分です。早速お菓子屋の開店と行きましょう」
「…ヘル、あの喜んでる50人を一撃で殺す用意を。地面を抉るほどにね?」
「はい、お嬢様」
「事前に言うね。私が指示したから、貴方は悪くない」
「…お嬢様」
ヘルシングはトランプを自分の風に乗せて撒き、彼らの頭上に位置取る。
(確か相手の能力は、時間の貸し借りによる変化と手取り分による特殊なお菓子作り。言い換えれば、老人化、幼体化、特殊攻撃の3つのローテーションだ。全てのタイミングは自分の任意で決定でき、まとめてやる程強力な一撃になる…)
そして今、ローンは1500年分の時間を借りただけの状態だ。
つまり、その半分の725年分誰かに貸し出さないといけない。まとめて一人に渡しても良いし、分散させてもいい。
寿命の伸び方は若返りだ。胎児まで戻せばそれだけで死ぬ。
「『
だけならどれだけ楽だったか。
「今、赤子くらいに戻った段階で切り刻んで殺して」
「はぁ!」
(…お、石レンガの道が…あー、セメントがね?これはいけませんねっと…)
マイナスまで行くことで発動する、眷属化。
この魔法に寄って胎児から更に戻ると、戻った時間の分だけ改めて歳を取り、飴玉に触れる時の年齢に達すると老化を停止。
MMの持ち主に忠実なお菓子の兵士として生まれ変わる。
そうなったら詰みだ。お菓子の兵士はローンと同じく『貸与』の時魔法を扱える。
一人でも放っておけば加速的に増加し、莫大な被害を与えられる対国魔法。
使えば最後、MMの所有者にも止められないお菓子の祝祭だ。
「…良くやった。兵士になったら深淵の最下層の魔物と同じくらいの強さになる。この無防備になる瞬間が唯一の隙だった」
「……勿体なきお言葉です」
(今だけは好都合な勘違いだ。お嬢様と勘違いされてなければこんな命令、聞きたくもないよね。…思い詰めた顔だ。全部終わったらフォローしないと)
だからこそ初手で防がなければならない。
空中を漂うトランプから風の刃が飛び交い、赤子になった魔法使い達を斬り殺す。
不意打ちだったからだろう。撃たれなかった人達もまとめて死んだがしょうがない。
ヘルシングの広域攻撃は無差別な代わりに高火力だ。老人化して弱体化した魔法使いなら、不意打ち分も合わさって殺せる。
「あらら、当然防がれますよね」
「そろそろ降りてきたら?着地狩りしてあげるから」
「そんなに魔力を広げて、罠のおつもりで?甘えた考えは改めましょう。菓子の時間、開店です」
ローンはそれを見て、肩をすくめてから、次の魔法を使う為に地面を殴る。
ドゴン!
「なっ!?」
殴った地面が砕けて、その下に有った下水道にその身を落とした。
翼が多い分、出てくるのには苦労する。それも含めて有利な構図になったな。
「ふぅ…ヘル、沈ませ続けて殺して」
「…え、あ、はい!……え、なんでこうなったのですか?」
「雨上がりだから水たまりは沢山ある。なら、その中に私の魔力の水が有ったら罠を疑うよね?」
(やっぱり固有魔法は発動に一動作使っちゃうんだ。ツマミを回す、魔法名を言う、地面を殴る…強いんだろうけど、略奪兵よりやり易いな。事前に知ってればこうして防げるんだから)
やった事は単純だ。事前に水浸しの中にムラッけのある魔力を広げ、罠を疑わせた。
魔力視をしてなければただの水とサーシャの魔力から作った水は見分けがつかないが、していればそこに罠を疑う。
「未来から私を殺しにくる程警戒してる。今の私がどれだけの力量かも分からない程度には無知。なら、その心境を利用しない手はないよね」
(警戒させる為に鋭い意見は出した。失敗したら死んでやり直すつもりだったけど、一発で成功して良かった…)
話してる間にも、ヘルシングはローンを完全には沈まない程度に攻撃し続けている。
下水道に流されたらマズいからな。向こうが諦めない程度に希望を見せなきゃだ。
エグいけど有効な戦術だな。
「後は簡単なトリックだよ。飴玉が一番当たったのは地面。レンガは良くても、セメントは違うよね。スカスカなレンガ道は空を飛んでる貴方と違って、地面の上に立つ私たちには一目瞭然だった」
「そういえばそうですね…それだけですか?」
「飴玉は水に溶ける物。地面に転がって蹴った人の時間を奪う罠になってたから、私の水に溶かして地面に染み込ませた。罠の排除と地面の効率的な老朽化、一石二鳥だ」
(私の水なら体温までなら調整は効く。水流でその場でクルクル飴玉を回せば効率的に溶かせるし、下水道までの道を作るのは結構簡単だった)
「──バカを言うなぁ!!」
ローンが下水道と地上までの落とし穴で風の刃を防ぎながら叫ぶ。
何か気に入らない事があったらしい。
「私の!私の時間だぞ!老朽化すれば私のツマミに反映される!その分の時間はどこにやった!」
「使い切った」
「バカな!?このMM以外で誰が使えると言う!!」
「一つ言っておこうか?──
「会いたかったわ、リーロ?」
──私のMMは未来視だ。時間関係なんだから、適当に遠くの未来を見るのに使ったに決まってるでしょ?」
(リーロのことまで言ったら知らない奴来てMM奪われて殺されかけた…まぁ、死に戻りの補充に使えたから使っただけだけど。百年で1回分、同じ時間関係なら上書き出来る余地もある。最初の4回で『貸与』の上書きを覚えて、後は地面の時間を奪い続けながら試行回数に物を言わせてクリア…疲れたよもう)
そう、俺たちがやった第二の作戦。それは、貸与の時間を奪う特性を逆に利用して、無限に死に戻って攻略する作戦だ。
俺は時魔法の固有魔法が使えるMMだからな。地下室の時よりも上書き出来る余地はある。
最初の4回で成功した後はフルチャージ。ずっと真っ黒な秒針のまま攻略し続けてたって訳だ。
本当に長く苦しい戦いだった…。
「…それが、特異点たる原因か」
「失礼だね、結構頑張ってるんだよ?知ってるだけでなんでも作れる訳でも無いし」
(そんなもんないよ。自力で開発してるだけだよ。60回も死んだんだからお前は強いよ。でも『貸与』の魔法はリーロによく馴染んだからお前の負けだよ)
あ、上書きしたからって覚えられる訳じゃ無いぞ?出来たのは『貸与』の時間の抜き取り操作とチャージだけ。
手取り分の使い方は知らないし、飴玉が作れないから魔法を使うための始点が無い。
だが、時魔法の使い方は随分と上手くなった自信がある。
再開時点を死亡から5分前までの間なら自由に決められる様になったしな。
「まぁ、兎に角お前は詰みだ。長いこと痛ぶったおかげで援軍も来た」
「──襲われてるって聞いて来てみれば…随分と余裕そうだな?」
「カーリー先輩、後輩が頑張ったんですからそう言わないで。死んで無いならセーフです」
「……それはどっちがだ?」
(さーてと、最後の仕上げだ)
「覚醒も本気も実力も出させずに殺してください。時間の加速なんてされたらカーリー先輩でも勝てませんから」
「……よし、本気で斬っておこう」
こうして、早過ぎるボス戦はクリアした。
最後だけ見ると随分とスッキリした物だ。
シープが出て来るとどうやっても死んだり、未来への質問失敗で何回も死んだり、菓子兵を誕生させちゃったり……俺が使ったからか、老朽化自体が巻き戻っても戻らないのを逆に利用して脆くしまくったりもした。
「それにしても…「終わりの時計塔」ねぇ?」
(情報は随分と集まった。王国を滅ぼし神の時代に終わりを告げる者…12人の幹部全員が時魔法のMMを持った組織…ドライ…ローンはその兵糧担当だった。きっと此処で潰せたのは良いことの筈だ)
今回は相性の良さも相まって討伐出来たが、今後はそう簡単にはいかないだろう。
なにより、未来のローンは倒せたが、今現在のローンは倒せてないのだ。
このまま現在のローンに干渉しなければ同じ結末になるだろうが…ローンのお菓子の卸先でこんな騒ぎをした時点でそう上手くは行かないだろう。
そんな不安を募らせつつサーシャと一緒に嬲り殺しになってるローンを見守っていると。
ぽつ、ぽつ、
「…雨か」
雨雲がまた覆い初めた。程なくして大雨になるだろう。
「私はただ魔法の研究さえ出来れば良かったんだけど…変なのに巻き込まれたかな」
水球の形をカエルに変える手遊びをしつつ、サーシャも将来への不満を募らせた。
「
ある者は願いました。
ある者は選びました。
ある者は直しました。
ある者達は時間こそが解決策だと理解しました。