不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
5人目となる最後の攻略キャラのライバルとの遭遇。
目の前にボサボサ頭の海の男が居た。
「テスト2日目は歴史語学属性学の合同授業だ。やる事は即席の魔法開発。指定した条件を満たせる魔法を時間以内に作り、襲いかかってくる変化に耐える必要がある。これまでの歴史を学んでいれば対処法はわかる作りになってるからな。MMの開発経歴、4か国の大規模な内乱、魔物と深淵、歴史で起きた大きな出来事に神様の来歴…全て触りしかやってないが、その分簡単だ。過去の知人なら学んでいけー」
歴史のエイハブ先生、趣味の海賊風の服装が特徴的だ。
でも近づくと海の匂いがするらしいから、昔は船に乗ってるのは間違いないぞ。
「魔法の開発、設計に即席なぞ論外。常にあらゆる状況に対応出来る魔法を事前に作っておくことが至高です」
「しかし時には局所的な対応が必要でもあります。作り方は教えました。教わった事を活かせば時間内に必要な魔法は作れる筈です」
「良いですか?魔法を作るのに天才である必要はない。必要なのは論理的な思考、そして知識です。では各自MMを構えなさい」
貴族っぽい毛先がくるくる回った髪と蓄えたヒゲ。
それは紛れもなく語学のキー先生だ。普通のレイピアを持ってるぞ。
「えーはい、変化させます。ここ室内ですけどね、はい。僕の魔力で満ちてますからね、はい。こう見えて
はいはい言ってるバーコードな頭部が哀愁を誘うけど、前世の俺よりマシだからまだ大丈夫だな。
属性学のコープ先生だ。口調はあれだけど実力は本物だ。なんせ服の上から筋肉が見えている。
「はーい…」「疲れた…」「眠い…」「まだ酔ってる感じがするわ…」
「筋肉痛…」「これで中間テストか…」「きっっつ!」「面白いじゃないか」
「先生がずっと近くに居るならあれは無理か」
(出来なくても死にはしないか…一発勝負で何処まで行けるかな)
ここからは早解きの時間だ。入れ知恵も何も無い。
歴史を出来るだけ覚えて、それに合わせて即席で魔法を作る。
ゲームだとミニゲームラッシュだったが、兎に角頭の回転が必要だった。
ここはもうシンプルにサーシャが頑張るしか無い。
「こっちで優秀だと賞金は勿論魔導書や魔道具だ。基本的に授業を受ける時に役立つもの…どっちかと言えば設備や家具のイメージが近いか?昨日が持ち運びし易かったり消耗品だったりしたが、こっちだと今後ずっと役立つ大きめな物が与えられる。中には選択肢として生き物や飼育環境も与えられるから、地に足ついた物が欲しいなら狙ってこい」
「テストのルールとして他者への妨害は禁ずる。しかし手助けするなら許可しましょう。事前に仲間が欲しいなら、開始前の5分間に作るとよろしい」
「そして変化に耐えられなかった者は脱落する権利がある。なにせこのテストに終わりはない。段々と難易度が上がり、全員脱落するまで継続する」
「各自に渡したこれはボタンを押すと発光する。押せば脱落、その時点で順位が決定。最低5回耐えれば赤点は回避可能だと理解した上で行いましょう」
「はい、分かってる人しかいないと思うけど、失敗しても脱落しようとしなければ次に挑戦可能です、はい。わかる問題が来るまで粘ってね、5回耐えるとかもありだからね。頑張っていきましょう」
「賞金は昨日と同じく最高500万で今回は個人点だけの100点満点だ。自分一人で集中してやるのは全然有りだからな。じゃあ5分間だけ待つから、その間作戦決めろー」
サーシャは腕を組んで悩んでるみたいだけど、今回はそんな事する時間は無いと思うぞ。
「さてどうするか「あの、サーシャさん、私と一緒にやりませんか?」なにっ」
「抜け駆けするな。俺昨日追いかけてたんだけどさ、いやーあれすごかったよ。あの時はごめんな?仲間にならないか?」
「待て待て、一度に押し寄せてもダメだろう。ここは一旦俺の方に避難した方が「!私と一緒にやろー!これでも昨日2層の広範囲の地図書いてたから実力は「そこそこじゃねーか。足引っ張る奴はそういうこと言いがちなんだよ」
「おー…押し寄せる他のクラスの人」
(なんでそんなに…必死な理由が分からない…確かに設備は欲しいけど、みんなはそんなに研究頑張ってたっけ?)
お金だと思うぞ。
記憶が消えた分欲しい物を正直に言える状態で、賞金って餌をぶら下げられたんだ。
ゲームだと大体円と同じ価値だったし、サーシャは昨日クラス分の報告作成で目立ってたからな。
水魔法でも遊泳まで一人で行った奴は確保したいに決まってるんだわ。
本当、サーシャのMMになっただけなのに、ゲームだと見れない光景ばかりだ。
人に囲まれて出られなくなっていた時、ダルクが腕力で囲んだ人を押し除けて進んで来た。
「お前ら全員後ろに下がれ。先ずはチームを作りたいかを聞いてからだろ」
「お、ダルクじゃん」
「大丈夫かサーシャ。食べられてたりはしてないか?背が低いから遠目だと食われてるみたいだったぞ」
「グールに囲まれてる訳じゃ無いから大丈夫。時間しか食われてないよ」
「ダルクもチームのお誘い?」
「いーや、単なる助け舟だよ。いるか?」
「お願い。今日は同じクラスの人と組みたかったからそこまで運んでよ」
「分かった。少し触るぞ」
「お、お?おー!力持ちだね」
(おー、あっさり私を持ち上げた。しかもこの感じ、MMの肉体強化無しでだ。やっぱりちゃんと食べられてる人は違うなー。肉の厚みが、安心感が違うね)
さっとサーシャの姿勢を横にして、あっという間にダルクはお姫様抱っこでサーシャを人垣から救出した。
逃げた場所はAクラスが集まる場所、会話している様子から既にある程度固まったようだ。
「ここら辺だな」
「ありがとう、助かったよ。…うーん、もうグループ出来ちゃってるな」
「みたいだな。…サーシャは誰と組みたかったんだ?」
「同じクラスのまだ関われてない人達かな。私って授業が終わったら直ぐ帰ってるから、この機に知り合いを増やしたかったんだよね」
「なるほど、それなら羊の娘の方に混ざるのは無しか。俺と組むのは?」
「そっちはもう4人でグループ作り終わってるじゃん。多過ぎても問題あるから遠慮しとくね」
(…うん、探そうとしてないのは一人でやろうとしてる人だし、そこにがっついてもって感じだな。…いやでもやりようはあるか)
「うん、良い感じの人を見つけたし私はそろそろ行くよ」
「そうか、試験頑張れよ」
そうしてサーシャがダルクの元から離れようとした時、きらりと胸元の白い宝玉が光を反射した。
同時に脳内のタスクの隅っこに書いてあった事を思い出して、サーシャが足を止める。
ずっと前から渡したい物があるのを思い出したからだ。
「どうした戻って来て」
「はい、最近渡そうと思ってた奴。MMとの会話はまだ出来てないけど、その研究途中の成果だよ」
「これは…」
じゃらら、とサーシャが付けている宝玉よりも小さくなった宝玉のペンダントを取り出すと、ダルクは顔をピクリと反応させつつ受け取る。
サーシャの
試作品を作った直後から隙間時間で制作し、今日の朝に完成した物だ。
「ダルクも一緒に作ってたからね。ギリギリテストの開始には間に合わなかったけど、それでもあると無いとじゃ全然違うから。給金代わりだと思って遠慮なく使ってね」
「俺はあんまり役に立ってなかったが…そうだな、有り難く受け取ろう」
「そんなこと…」
「後1分!準備は万全にしてこそ一流、悔いは残さないように」
(おっと…先生の言うとおりだね、言うだけあって立ち去ろう)
「…ダルクの良いところは冷静に観察し、沢山の情報を抜き取る事。研究だといつもそれで助かってたよ。だから自信持って。君は、君が思うよりもずっと優秀なんだから」
サーシャはそれだけ言うと、その場から離れていった。
目指すのは一匹狼のような雰囲気を持って立っている一人の少女。
さらりとした金色の髪と緑の眼を持った、ある攻略対象でライバルになる女の子だ。
どうしてその攻略対象より先にライバルの方に向かっちゃうんだ。
サーシャはその子の隣に立つと、さささっと試験の準備を終わらせて神経を集中させた。
(距離感は…最初の問題の予想が正しければ…ここは向こうから話しかけさせるのが一番良いかな)
「……………」
「……………」
「…なぜ隣に来るんですか。他のスペースのある場所に行ってください」
「あはぁ、ごめんなさい?直ぐに脱落しそうな人は眼に入らなかった物ですから」
相手の眉がピクリと動き、顰めた顔になる。
大丈夫か?初手で反感を買うとか度胸試しにも限度があるぞ。
「…傲慢ですね。いいでしょう。昨日は目立ってましたが、今に出来ない事があると思い知らせてあげます。昨日みたいな運よく良い物を拾えるとは思わないでください」
「残念ながらその程度で私は揺るぎませんよ。実力に偶然なんて挟まらないので」
「そうですか」
(自分に自信があり、自分のペースで進めていくタイプ。人に関心はあまり向けない。なので最初は興味を引かせるのがベスト。手っ取り早いのは、自己目標に私の名前を加えること…見た感じそんな所かな)
大正解だ。
彼女、リサ・フォン・ハートは今は忘れているが、王国の第一継承者の許嫁だ。
その固有魔法は命魔法。杖の一振りで黄金の豊穣を齎す魔法の持ち主であり、ゲームだと来年に死ぬ事になっている。
秘匿された王族の正妻になる予定の人物と来れば、本来なら隣に立つだけで処刑されるレベルだ。
友達とか作った事ないし、大人しか居ない環境で育ったせいか性格に癖があるぞ。
「では、テストを始めます」
「私も同意見です」
全生徒が一斉にMMを起動し、魔法を創り出す準備を整えた。
「神歴902年に帝国で起きた4つ目の氾濫は?」
「5、4、3…」
「お、それから火球を光に特化させれば…」「俺なら魔力放つだけで良いか」「土が降りの奴じゃん…」
「周囲の反応からして光らせればいいのか?」「魔力を圧縮すれば…」「瞬間的に光らせるのが適切だった筈…」
「まだ簡単ですね」
「………」
(空飛ぶゴブリン、ハーピィの原点となる魔物。弱点は目潰しによる方向感覚の喪失。制作するべきは光る魔法…は水魔法だと出来ない…周りが光らせるんですから、それを乱反射させる方向で…)
「0」
ゥゥウウーーー…ウウゥン…
『きゃーー!?』『助けてくれー!』
コープ先生とキー先生が幻影と共に周囲に満ちた魔力を変形させ、周囲を帝都にして、更にゴブリンっぽい塊を創り出した。逃げ惑う帝国の人々も居るぞ。
同時に発動された幻影を敢えてレジストせずに受け入れると、氾濫に襲われてる帝都と、ゴブリンっぽい塊にしっかりした皮が見えてくる。見た所近くに居るのだけで16体は居る。
「光源石!」
「魔法未満の反射光」
(ただ『水球』の反射率を上げて周囲の光を反射させただけ。実践だと使い物にならないテクだね)
遠くの生徒が出した光はゴブリンに効かなかったが、リサの出した光とサーシャが反射させたものは近くのゴブリンを落とす事が出来た。
近くのゴブリンを全て叩き落とすと、脱落用のボタンの裏に緑色で1と表示された。どうやら計測はこれでやるらしい。
(なるほど、出題の共同攻略は5m以内の生徒同士で共有されるのか。遠くの生徒の魔法は無効になるが、自分の魔力を介せば利用可能…ここら辺を見抜くのもテストの一環か)
「かの英雄バースト・ハートの英雄譚4章13節」
「5、4、3…」
「なんだっけ…」「海のどっかだ」「時間稼ぎか討伐中くらいだよな」
「全部で24節…戦闘開始くらいかな」「海の化物…錆が弱点だっけ」「つまり鉄の剣だ!」
「錆びた鉄の鎖があれば…」
「………」
(例によって水魔法だと無理…いや、そう言えば血は鉄が含まれてた筈…確かこの時相当な数の人が死んでる筈、その血を含んだ水球なら…)
「0」
バゴォーン!!
『くっ!どうにか奴を仕留めなければ…!』
時間になって使われた幻影を受け入れて見えたのは、巨大な蛸に絡まれてる船。
既に何人もその蛸足で捕らえられており、隣には味方として英雄バースト・ハートの幻影が無数の剣を侍らせて立っていた。
「錆鉄の拘束!」
「弱点は眉間、目と目の少し上、怯ませた隙に刺してください」
『了承した!』
(そんなまだるっこしいことしなくても、拘束に合わせて怯ませるだけで良い。それで動かない時間が増えれば、英雄なら討伐出来る)
リサの拘束の魔法に合わせて水球を眼に当てて怯ませると、鎖はより深く蛸を抑えつけた。
それは英雄と相対するには致命的な隙となる。剣が眉間に飛来して、一撃で海の怪物は討伐された。
(ここまで開発と言うより、既存の魔法の弄っただけだな…)
「あれ、カウントされてない?」「なんでだ?」「拘束したのに…」
「問題は最速回答から10秒までに解かないと失敗扱いになるぞー。「大霊書庫」の有光層、王国関係の本を見つけろ」
「3、2、1、0」
ガチャ、ガチャ、
見渡す限りの本棚の壁、首が痛くなるほど見上げても先が見えない積まれた本。
ゆっくり探すのは、後ろから迫る真っ黒な鎧を着た騎士が許さないだろう。
「考える暇が…兎に角探さないと」
「見つけたよ。王国の有名なパン屋のレシピ本」
(歴史の先生が好きだって言ってた店…ミルクパンが美味しいらしいし、今度行ってみたいな)
そこ多分リーロとして死ぬ前に行こうとしてた店だな…行ったら身体を借りて俺も食べてみるか。
幻影が解かれ、また先生達の姿が見える。
「お、俺の話良く聞いてた奴がいたな。次は何年か前に騒がれた元貴族のタイム家の暗殺だ」
──世界を切り替える
「3、2、1、0」
ゴーン、ゴーン…、ヒュン、
見覚えしかない、リーロとなった俺が死ぬ光景。本来なら犯人を見つけるのが出題なのだろう。
だが、例え幻影でしかないとしても、これだけは阻止したかった。
『お姉ちゃん危ない!』
挙句突き飛ばされた少女がいて、突き飛ばした少女もいた。
年を取った俺の脳が、身体を勝手に動かす程脳裏に刻まれた光景だ。
カーン!
其処に突き刺す時計塔の秒針を、全く同じ秒針で弾き飛ばす。
時計塔の上を確認して、予想通り11の数字が描かれた仮面を付けた人物が立っていた。
終わりの時計塔、組織の名前をエルフとした、人間の女だ。
「…あれが私を殺したのか」
「その秒針…関係者ですか」
「当事者だよ。今まさに突き刺されようとした女の子だ」
「…何を言って」
『あ、あの!』
声がする方を向くと、姉にわちゃわちゃと身体を触られてる
…やっぱり幻影か。俺ならこんな反応はしない。もっとしっかり言う。
それでも膝を曲げて、幼い幻影と眼を合わせた。
「なに?もう少ししたら私は引っ込むんだけど」
『ありがとうございます!おかげで助かりました!』
「……案外再現度高いね。よし、死に様をテストに使われるのは許してやる。お姉ちゃんと楽しく過ごすんだぞ、
『うん!』
姉と妹、両方の頭を撫でてから立ち上がって背を向けた。
まぁ数分だけ使った身体だし、俺が文句を言うのは違うのかも知れない。
「…生きてたらそうしてみたかったな」
にしても……数分でも愛着は湧くもんなんだな。なんとなくこんな幻影を見せられた嫌悪感があるんだから驚きだ。
──世界を切り替える
「気まず過ぎるでしょ」
(……先生の発言からして結構有名なんだね、タイム家のリーロちゃん。…あの仮面、11番か。覚えておこう)
「…戻りましたか」
「なに、心配してくれるの?」
「不愉快ですが実力は確かな様ですし、不本意でもカウント上協力して突破した判定である以上、多少は気を使いますよ」
「なんだ、一人で居る割には人付き合いを分かってるね。それならここから本格的に協力してみる?」
「そんな事考える暇はないでしょう。10秒経ちました」
「今回は全員速いな、もう5回目だ。これが終わったら複数同時に出すからな。次は商国の深淵で最初に見つかった魔物だ」
「3、2、1、0」
ギャオオーーッ!!!
「…はは」
即座に周りを確認する余裕は消えた。
魔力や体力に余裕はある。昨日と違ってまだ5分も経っていない。
しかし危機に連続で遭遇するというのは、思った以上に心の余裕を使うみたいだった。
見上げる程の真っ赤に燃えたぎる竜、気付けば馬の上に乗り、10の魔法使い達の幻影が味方として俺達と共に竜と相対していた。
「…これをすぐに攻略できますか?」
「当時と違って逆鱗が弱点だと知っている。代わりにそっちは土、私は水。当時の双子の探窟家は火属性、火力が足りないなりの作戦はある。指示に従ってくれる?」
「良いでしょう。代わりに失敗したら二度と従いません」
「上等、3秒で終わらせる」
「神歴」
神が生まれてから、1000年の時が経って今となりました。
未だ神は近いまま、全てが始まったばかりで幼いです。
魔物は未だ増え、人は未だ生き物に成りきれず、世界はその身を広がる半ばで、星と呼ぶには大陸が一つだけ。
だからこそ、この暦は世界が定まった時に終わるのです。