不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
不定期更新です。仕事が忙しいと無かったりします。
それから、倉庫に置かれたまま13年の月日が流れた。
手入れも無いからすっかり錆びちゃったよ。
よし、弁明をさせてくれ。普通に考えて動けない武器が何か出来ると思うか?俺としては、物置にずっと放置されてたのに発狂しなかった精神力を褒めてほしいね。
虫がな?蜘蛛がな?俺に近づくんだよ…感覚なくてもキモいんだよ。こっちは全方位見えるから、余計にキツいんだよ。
ただ、この世界の事は把握出来てたからな。独学だけどMMとして、最低限魔力を動かす感覚は理解できたと思う。10年かけて魔法を理解して、3年かけて杖として魔法を補佐する感覚はなんとなく掴めたんだ。
まぁ、自力で魔法を使うとすると、空気中の魔力と合わせても自分を発光させる事しか出来ないが。でも頑張った方じゃないか?心の整理も付いたし、気合いは十分だ。
(…虫達の動き的に、今は春か〜。そろそろ原作始まるな〜、始まっちゃうな〜…)
原作では、プロローグでヒロインのサーシャの村が燃えるからな。その事を思えば、暇つぶしも兼ねて頑張る事が出来た。
そんな訳で、俺がサーシャのMMになってる時点で原作なんて参考資料にしかならないが、やれる限りの事はしたいと思う。なったからには仕方ないしな。
そんな時だ。
「───ゴハっ!?」
突然、物置小屋を突き破って、誰かが転げて入って来た。
「〜〜〜ッたいなぁ!」
青い長髪、黄金の目、忘れる訳がない。忘れない為に、13年間ずっと記憶を反芻してたんだから。
「…くっははは!!まさか、マジでアレで防げるって思ってたのか?田舎の情報の古さ舐めてたぜ!」
次いで、物置に入ってくるのは、短髪の若い男だ。手には剣型のMMを持っていて、紋章の入った鉄の鎧を着ていた。原作におけるチュートリアル、帝国兵の略奪隊隊長のモブである。
「でぇ?決闘で負けたら…なんだったかなァ?私を好きにしていいとか言ってたよなァ?そうなる覚悟は出来てるかァ?」
「…っさい。私はまだ、負けてない!」
売り言葉に買い言葉。キッとサーシャは睨みつけ、よろめきつつも古典的な木の杖を構えて立ち上がる。
「…はっ、そうかよ。そこまで言うなら、首切りくらいは覚悟しろよっ!」
それを見て男は剣を横振りに宙をなぞる。
軽い、風を切る音もしない、ゆっくりとした動きだった。
ヒュッ、
「…ッア"ア"!!?」
「…お、今日はツイてるわ。喉だけ切るのせーいこう!」
「ア"ア"…ヒュー…」
喉を切られて、彼女は抵抗の手段を失った。
当然だ、MM無しでの無詠唱は高等技術。
物語の始まったばかりの、この時のサーシャには出来ない事だ。
「立てよーォ?お前にはMMの火力が高過ぎるんだが…女を一方的に殴るのは、兵の士気が下がんだからよーッと!」
男がサーシャの手を握り、無理やり立ち上がらせてから殴ると、丁度俺の方に倒れて来た。
「魔法でいちいち詠唱してるすっとろい奴が、思いあがってんじゃねー。その上に水魔法使いとか…自分が弱いって知らねーのは無様なもんだなァ?」
「……ア"ア"」
サーシャは周りにあるものを掴み、立ち上がる。喋れなくても、その闘志の宿った目を見れば、まだ心が折れてないのは明白だった。
そうだ。このくらいでサーシャは諦めない。原作でも、何度も周回し続けて、勝利を掴んだんだから。
「…あー、めんどーなタイプだな。手足の首を切るか?杖も持てなくなりゃ折れるだろ」
男がのんびりとした動きで近づく。彼の中ではもう、戦闘ではなく、戦利品の検分をする時間なのだろう。
(…負けたくない…勝たないとみんなの全部が奪われちゃう)
その時、サーシャの心の声が聞こえて来た。
それもそうだ。サーシャが立ち上がる為に掴んだのは、俺なんだから。
(例えどれだけ苦痛に塗れた道でもいい…)
MMの優秀な機能として、「共鳴反応」と言うのが存在する。
お互いの信条、思考、親密度…兎に角、所有者とMM同士で、そういう気の合う要素がある程、所有者と杖の性能をより高次元な物に高める物だ。
その為、MMを作るときは元から仲の良い相手である程良いのだが…今はそれは良いだろう。
今は、その性質上MM側は所有者の心の声が聞こえる事だけ分かっていれば良い。
(今を乗り越える…力が欲しい!!)
──当、然!!
俺は原作ゲームを知っている分、主人公であるサーシャの事はよく分かっている。
これは、この世界では…この身体で有れば、アドバンテージになる。
少なくとも、固有魔法以外は有利になる筈だ。
サーシャの魔力が俺に流れ込み、秒針の身体に着いていた鯖が落ちていく。
綺麗になった秒針は、真っ暗な姿を表した。
水魔法にある清浄の特性のお陰だ。…と言っても、魔力を流すだけでこうなるのはサーシャの魔力量の多さも関係するのだが…考える前に、目の前の相手を倒す必要が有るか。
「……ア"ア"?」(今の声は…?)
…声?今喋れたのか?…え、どうやったんだ俺。
「…ッ!?それMMかよ!じゃ脅威だな死ね!」
下側に向けていた剣先を勢い良く振り上げて、そのまま返しで連続で振る。
それだけで、無数の風の刃がサーシャを襲った。
──魔力循環開始
所有者と思考接続完了
魔法陣の記憶模倣…保存完了
容量257/500
→『水球』『水纏』『水放射』『禁忌術式─水─』
詠唱代行詩構築
魔力運用の学習完了…代行開始
平行運用脳同期完了
運動機能補正起動──セットアップ完了
(え、なになになに!?あ、MM!?)
あ、MMのシステム音声だ。初回起動限定で流れる奴じゃん。
ギュルリと回転する水によって風の刃が逸れる。サーシャの頬を軽い切り傷が出来るだけで済んだ。
「ッ!!」
ギュルリ!
(イッタ…勝手に魔法使われた!?)
あれ?後ろに下がろうとしたのに、サーシャの身体を動かせない…?
いや、今は良い。戦闘に集中しないと…。
今、俺の判断で『水球』と『水纏』を併用させて貰った。
魔力を水に変換する魔法と、創り出した水を周囲に漂わせる魔法。
ゲームシステムで言えば、「水球」のスタックを9つ作る魔法と、「水球」を最大36個貯めて、3つ消費して防御する魔法だ。
MM無しに使えば、詠唱に1ターン使ってスタック3つだけだが、サーシャの魔力とMMのスペックを使えば、9つ作った上で壁を円錐形にし、それを回転させて攻撃を逸らす壁にまで性能を上げられる。
本来なら3つで十分なんだが…俺の魔法の使い方が下手くそなせいで9つ使ってギリギリだった。
でも、これなら今みたいな攻撃は防げる。…当然、それは相手も理解した。
「…はっ…はっ」
(よし、一回距離を…)
「…っち、なら大技ァ!」
(え、はや…)
1秒。
僅かそれだけの間で、男の剣に今までよりも多い魔力を剣に宿し、一回転した。
「ハァッ!」
風の魔法の広域攻撃、『大回転』。ゲームでは魔法使いの周囲、8マスの敵に150%の攻撃を行う魔法。
マズッ…!
(マズッ…!)
どっちが考えた思考なのか、それを問う時間も無く、結果は決まった。
「ア"「─んで杖ェ!」
ゴン…、どさっ…、
落ち切る前の追撃の風撃で、サーシャの腕と共に俺は切り離された。
俺が地面に転がる音と、サーシャの胴体が落ちる音が続いて鳴る。
「ハァ…杖と脳までの魔力経路が、途切れれば、MMが有っても魔法は使えねェ。考えは伝わるらしいけどな。冥土の土産だ。覚えとけ」
(…やっぱり、ダメだったのかな)
本来なら。
「不遇水魔法使いの禁忌術式」、略して「
そのMMの名前を【生刻】
俺…と言うよりリーロという少女、の姉であるリートがMMになった物。
その固有魔法が、時間の逆行。記憶と経験を持って、「セーブ」した地点まで「ロード」する魔法だ。
此処では本来、そのチュートリアル戦闘の時間だった。
挙句にMMを掴んだサーシャが、SRPGとしての動きを把握しながら戦闘に勝利するもの。
一度敗北した戦闘では敵の行動が予告線で現れたり、急所を突きやすくなる説明を含む物だった。
中途半端な知識だけだった。
ただ、知らなかったのだ。此処が現実である影響は、思ったより大きい事だ。
俺はてっきり1ターンは10秒くらいだと思っていた。3秒くらいだった。
チュートリアルでのMMの説明の為に、オート操作してる場面があった。俺もサーシャを、初期位置まで動かそうとしたけど出来なかった。
ゲームだとボタンひとつで魔法を組み合わせたりできた。俺も出来たけど、ゲームよりも弱かった。
(…沢山分かったことがあったけど、もう無駄になっちゃった)
「んじゃ、疾く死ねや」
「ア"…」
サーシャの首が刎ねられる。無念だろうな、俺に【生刻】と同じ固有魔法が有れば…だがアレはMMにする魔法をかける人と、素材になるものの魂や血が関係している。
俺は転生者だ。血こそ【生刻】になる姉と同じだが、魂が絶対違う。
ゲームのシナリオのセリフには、「固有魔法があるなら、基本的に本能で分かるんだよ」と有った。俺には無かった。
例外はパッシブ系や条件による自動発動があるが…期待は出来ないと思う。固有魔法が宿るMMは1%にも満たないらしいから。
…ちくしょう。
切られてるのに未だに俺を掴み続けている腕が、サーシャの悔しさと意志の強さの現れなのだろうに、それに応えられないなんて…。
(…やだなぁ、死にたくない。まだおじいちゃんの遺言を──…)
首を刎ねられて死んだサーシャから目の光が消えた。
───その上に水魔法使いとか…自分が弱いって知らねーのは無様なもんだなァ?」
(…!?首が繋がってる、立ち位置…時間が戻ってる?)
…え、なんだ?今の感覚。魔力がぶわわーって溢れたと思ったら、時間が……しゃあっ時間系の固有魔法!リートと同じ血筋なだけはあるな!勝つぞ〜!
サーシャが俺を掴んで座ってるなら、間違いない。俺を掴んだ時だ。まだ男は油断しているから、考える余裕はある。
(…考えろ。チャンスでしょ?多分、アイツがご高説垂らしてるMMの力だ。回数の制限があるか知らないけど──やり遂げる)
こつ、こつ、こつ、
「お?折れたか?そーそー、大人しくしてりゃ良いんだよ」
男がのんびりと歩く。まだバレてない。
(錆が取れて使い物になるのは3秒、その後直ぐに攻撃される。勝手に魔法を使われると疲れる、それなら……今!)
杖のセットアップが行われて、錆が取れる。
先の方が白くなった秒針が現れた。…巻き戻る前は真っ黒だった筈?
「…ッ!?それMMかよ!じゃ脅威だな死「はぁっ!」─!?」
いや、今は良い。魔法の操作に集中しないと。
『水放射』で水を男の頭にぶつける。目隠し代わりだ。
(──やり易い。やっぱり、私が指示した方が疲れない!…と言うか無詠唱で出来るの超便利!なんでこれを倉庫に仕舞ってたの、おじいちゃん!)
さっきよりも上手く魔力を動かして、サーシャのやりたい事通りに魔法を運用する。
さすが周回前提の主人公だ。最適化の才能がある。
お陰でさっきよりもずっとやり易いし、手伝いって形ならMMの性能もあって上手くやれてる。
「このまま!」
「…ッチ、甘ェんだよ!」
そのまま大きな水球を生成し、その中に閉じ込めようとした所で、剣に魔力が込められた。
ゲームでは水球に閉じ込めるなんて要素は無かったが…ここは現実になった影響だな。
(それはもう見たから…こう!)
「うおっ!?」
地面に潜り込ませた水球から、水が勢い良く噴射して姿勢を崩す。
『水放射』は、『水生成』で作った水球を勢い良く発射する魔法だ。
ゲームシステムだと、相手を1ターン怯ませる効果があるが、ダメージはない。
まぁ、そもそも初期のサーシャはダメージを与えられる魔法が禁忌の奴しか無いんだけど…。
それにはサーシャがMMを使えば、魔法を並行に使えるって事に気付かないと無理だ。
ゲームだと、大儀式魔法に分類される魔法は、MMであっても多少の時間がかかる。
そして禁忌の魔法は大儀式の魔法だ。使えば一発で戦闘を終わらせられて、チュートリアルだとそれを唱えて終わる。
少なくとも、チュートリアルその1はそれでクリア出来た。
「あーくそ、戦い慣れてるか!なら…」
風を纏い、男はこの場から離脱した。
『瞬足』、ゲームだと移動にターンを消費しなくなる魔法だ。
なるほど、コレは速いな。
でもゲームと違う動きなんだよね。
(…あ、待て!…ってこの槍軽っ!…一歩の距離が長い!私の身体能力が上がってるんだ!)
そりゃあ、自動機能として運動に補助入ってるからな。
システム音声も運動補正とか言ってたし、そう言う事じゃないか?
そうして、武器として意識が覚醒してから、初めての外に出た。
幾つかの家と、畑。木々に囲まれた森の中にある村。
村の両端には道が有って、片方には30人程の兵士が待機していた。
住民は家の中に籠って、こちらの様子を窺っている様だな。
「おめーら!コイツ元王国軍だったわ!囲んで倒すぞ!」
今の攻防で、サーシャがある程度やるタイプだと理解したのだろう。
男は物置きから出て、村の外で待機している兵士に声をかけた。
「あ、決闘ってやつやめるんですか。せっかく賭けてたのに」
「バッキャロ、あんな古い見た目して俺が負けるかよ。アイツMM隠し持ってたんだわ」
「まじで?なら一般兵並として、賭けが読めなくなりますね」
「バッカ!それでも水魔法オンリーに負けるかよ!MMがあってようやく嫌がらせ出来るだけだぜ?生活魔法は大人しくすっこんでろって話よ」
「逃げた奴がなんか言ってら」
「チンケなプライドより上玉な女ですぅ、手伝ったら使わせてやりますぅ」
「お、マジすか。手伝います」
(…クソどもめ)
さっきまで全力で殺しに来てた癖して、味方にはあくまでも女目的だと言うとか…見栄っ張りというか、ゲームの敵である帝国らしいというか…微兵された連中はこんな物か。
ゲームでも傭兵や微兵で構築した軍隊の治安は悪くなるし、略奪隊に向いた性格で固めるとなるとこんなもんだな。
「じゃ、射的ゲーム始めまーす!殺したら罰で、手足の首を一番切った奴が優勝でーす!」
じり…、
(…遊ばれてるのは分かってましたけど、同じ武器を持ったから余計に実力差が分かるなぁ。村長が呼んだ救援は間に合うまで、一人で…いや、やる!)
サーシャは先の方が白くなった秒針を握り直し、槍っぽく構えた。
少しでも襲いかかるまでの時間を減らす為のハッタリかな。
「テメェら、やれ!」
チュートリアルその2だ。
ゲームだと隊長を殺して大半が逃げた中、襲いかかってきた10人の集団との戦いだったが…倒すのがもたついたせいで、隊長が生き残ってしまった。
…全力でサポートするぞ!いけーっ!
「アーリー帝国」
勇者が居た時代、人々は「神の果実」を我が物にする為に争ってました。
勇者が人々の争いを止めると、神様が褒美に果実を食べさせて、勇者を不老不死にしました。
長く生きた勇者は、生きるのに疲れて、その身を大樹に変えました。
今は勇者の子孫が、大きな樹に見守られつつ、帝国を治めています。